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第二節

「確かに助かりはしたけどさあ」と、真昼を目前にし日差しが強くなってきた大通りを歩くシネラリアは手元で携帯式情報端末を弄りながら独り言ちる。「全く、余計な事をしてくれたよ」

 じゃあこの後デートだからと言い残し、一足早く喫茶店を出た彼は、端末に表示されている店名のリストを眺めながら考え込む。

 午前中の打ち合わせに出た後は、誕生日サービスが効くスイーツ店を巡り、自分へのプレゼントとして財布を新調する。それが本来の計画であった。しかし、その計画を実施するわけにはいかない。万が一、独りでスイーツを食べているところを目撃されてしまったら、「彼氏はどうしたの?」と余計な詮索をされてしまうに違いない。財布を購入する場面であっても、同様の結果になるだろう。

 キルシュが体調を崩している為に可能性としては低いが、それでも危険は排するべきだ。嘘を吐いたことに対して後ろめたい気持ちもあるし、何より好意として提案したパーティを無碍にされたと知ったリーダの顔を想像したくない。

「げに厄介なのは悪意ではなく善意、かあ」

 悪い相手ではないのだと、理解はしている。そう思っていたのなら、一年近くチームとして活動していない。軽薄で女好きで何故女性から好意を抱かれるのか理解できないけど実際に八股やつまたぐらいかけている女の敵であるナパージュに対しても、それは同じだ。悪い相手ではない。むしろ好ましい。彼氏としてはありえないけど。

 それでも遺跡探索シゴトとプライベートを分けたいと考えるのは、私の我侭なのだろうか。シネラリアは端末の遠見魔法を解除しながら考え込む。さすがにパーティはないにせよ、チームの面々で一日遊ぶというのは、好ましくない誕生日の過ごし方なのかどうか。……やっぱりありえない。シネラリアは苦笑した。

 チームの中には、遺跡探索の後に酒盛りをするのが常なところや、遺跡探索の無い日にも行動を共にするところもあると聞く。極端なところでは、プライベートが楽し過ぎて遺跡探索に出なくなるチームまであるとか。

 さすがにそんな極端なチームはそうそう無いらしいが、話に聞く限り遺跡探索後の酒盛り程度はどこのチームでも盛んに行われているそうだ。むしろ遺跡探索後は成果物をリーダに預けて即解散、配分は後日リーダによる鑑定が終わってからという自分たちのチームの方が少数なのだとも。

「うん、改めて冷静に分析するとリスクしかない」

 チームリーダが夜逃げしたらどうするんだとか、成果物を懐に入れたらどうするんだとか、偽りの鑑定結果を伝えられたらどうするんだとか、問題点は山程ある。

 それでもチームとして成立しているのは、リーダであるトルテの人柄のお陰だろう。彼なら私たちを裏切りはしないと、そんな安心感を抱かせてくれる。他のメンバーが離れないのも、そんなチームの雰囲気が気に入っているからじゃないかと予想できる。

 だからこそもっと仲良くなると言うか、雰囲気をより良いものとする為にプライベートでも遊んでみるべきなんだろうか。でもそれをしないのがチームの良いところみたいな点もあるし、そもそもみんなの趣味が分かんないから遊ぶと言っても何をするべきなのか。パーティ? いやいや、それは無い無い。唯一判明している趣味はナパージュのナンパだけど、それをチーム全員で行うのも何かが違う。変な噂が立ちそうだ。

 そんな思索に耽りながら歩いていたのが原因だろう。端末に目を落としながら真っ直ぐ彼の方へと走り寄る少年の姿に、シネラリアは直前まで気づけなかった。彼が気づくのとほとんど同時に、両者が衝突する。体格の関係から、少年だけが弾き飛ばされ、尻餅を着く形となった。

「あっ、ごめんなさい」とシネラリアが頭を下げて謝れば。

「こちらこそすみません」と言い残し、俊敏な動作で立ち上がった少年は脇目も振らずに走り去る。

 そんな少年の後姿を見送りながら、やっちゃったなあ、これも歳を重ねたってことなのかなと、シネラリアは数秒前まで財布が収められていたジャケットのポケットをさすりながら、溜息を吐いた。


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