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第一節

「誕生日パーティーをしよう!」の言葉を耳にしたシネラリアが表情を強張らせたのは、誕生日翌日の日盛りに差し掛かる頃合いだった。

 既に昼食の時間である為か空席が目立ち、給仕役も全員厨房裏で待機している甘味屋の円卓がひとつ。ちょうどシネラリアの向かいに座る発言の主、チームリーダのトルテが、そのあどけなさの残る美貌を最大限に発揮した柔和な笑顔を浮かべている。"紅顔の美少年"とは彼のような存在を指すのだろう。それでいてシネラリアより年上だというのだから驚きである。だからと言って、精神年齢まであどけなくしているのはいかがなものか。もっとチーム最年長者に相応しい発言をして欲しい。

「あの、リーダー。18歳にもなって誕生日パーティを開くって、中々しないと思いますよ?」と、固まっているシネラリアに代わって口を挟んだのは、彼女の右隣に座る少年、ヴァニラだった。「16歳の誕生日にパーティなんてありませんでしたし、そもそも誕生日をパーティとして祝ってもらったのって、多分6歳とかその辺りが最後だと思います」

 16歳のくだりは必要だったのかと、助け舟を出してもらったことには感謝しながら、シネラリアは横目でヴァニラを見る。とてもチームの最年少とは思えない顔つきをしている。苦労の跡が見て取れる、老け顔である。そう見える理由には、彼が魔法使いであることも多大に影響しているだろう。もちろんその若さでそれだけの魔法を行使した跡が表れているというのは評価に値するし、それを抜きにしても渋味のある容貌は中々シネラリアの好みであると思う。それと、男はズルいな、とも。

「つーかよ、大将だって誕生日はみんなで過ごすより、彼女と二人で過ごしたいんじゃねぇの?」

「いや、そんなことないけど?」

「嘘だろ、おい。その感性は分かんねぇわ」

 ヴァニラの助け舟に同乗したものの沈没したのは、シネラリアの左隣に座る男性。チームにおける攻撃の要、双剣使いのナパージュだった。今日は伊達眼鏡をかけているので、午後からのデートの相手は雑貨屋の娘なのだろう。相も変わらず女の敵であり、そして使えない。シネラリアは内心で、彼への評価点にマイナスを加えた。

「じゃあ、何か? 大将は誕生日に、彼女と二人で過ごさずにパーティしてたってのか?」

「前回はキルシュがどうしても2人が良いって言うから、2人きりでパーティしたよ。大勢でパーティしたほうが楽しいと思うんだけどなあ」

「嬢ちゃんも苦労してんなあ」と、ナパージュはここにいないチームの盾役、キルシュに同情の色を示しつつ、トルテへの説得を続ける。「つまりだな、シネラリアにもそういう、2人きりでパーティしたい相手がいるんじゃないのかって話だよ」

 なあ、とナパージュがシネラリアに目配せをする。そうなの? とトルテは小首を傾げてシネラリアを見る。ヴァニラは無言で、ちらちらとシネラリアを横目で見る。さて困ったことになったぞ、とシネラリアは眉をひそめる。

 誕生日を一緒に過ごしたい相手なんていない。いや一緒に過ごせるものなら過ごしてみたい相手は何人かいるし何だったらヴァニラと遺跡以外で一夜を共にするのは結構魅力的だけどチーム内恋愛なんてこじれた時が面倒だしそもそもヴァニラが首を縦に振らないでしょなんて少し夢を視た後で現実を直視したシネラリアは、目の前の問題を見据えた。ここで「いない」と言ってしまえば、トルテは何が何でもパーティを開催しようとするだろう。彼はそういう性格だ。ならばここでの回答はひとつしかない。

「いるに決まってるじゃん。恥ずかしいんだから、こういうこと言わせないでよね」

 見栄を張る。これ以外にシネラリアが取れる選択はなかった。

「あー、そういうことなんだね。キルシュも頑固だったし、女の子ってそういうものなのかな? 僕はみんなでパーティしたいけどなあ。ねぇ、ナパージュ?」

「大将と一緒にしないでくれ。俺も女の子と二人で過ごしてぇよ。なあ、シネラリア? 今度彼女さん紹介してくれよ」

「彼女じゃなくて彼氏ね? 今度間違えたらその髪燃やすよ?」

 いや、正確には彼氏ですらない架空の相手なわけだが、それでも腹が立つものは腹が立つ。最終的に助けて貰ったことには感謝するが、私を男扱いするような発言は許せない。やっぱりナパージュは使えないんだな、とシネラリアは急に頭を抑え始めたナパージュの評価点にマイナスを加えた。

「まあ、でも。そういうことなら、今日はもう解散したほうが良いのでは? シネラリアさんにも準備があると思いますし」

「そうだよね。うん、ごめんねシネラリア。長々と引き止めちゃって。一年に一度しかない誕生日、彼氏くんと楽しんできてね」

 ヴァニラの気を利かせたのか真面目なのか分からない発言に対してチームリーダのトルテが同意したことで、その日のチームミーティングは終了したのだった。

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