第二話 白い朝 蒼い薄明
「ただいまー」
家には誰も居ない。
徹は、玄関の電気もつけずに靴を脱ぎすてた。
電話がなっている。
正直うるさい・・・。
でも、
「ハイもしもし・・・」
出てやる。
「もしもしぃ?薬屋薬店の薬屋ですが・・・忘れ物はありませんか?」
「・・・・・・」
澄んだ、高めの声の少年だった。
薬屋薬店とは、近所の商店街にある薬店の名前で。向かいにできた「マシモトツヨシ」のせいで、客が減った店である。
徹は、今日その店を訪れた・・・。
制服のズボンには、店の住所と「白鴉」と書かれたメモ用紙が、綺麗に折りたたまれて、入っているのを、左手で確認すると・・・。
「ケータイ・・・忘れてたよ、徹君?」
「――ッ!?僕、名前言いましたっけ・・・あっケータイか・・・ども」
「其れはいいんだけど・・・」
何がいいと言うだ。
「明日の約束だけど、待ち合わせ時間と場所を決めるのを忘れていたよね」
「あ」
・・・・・・。
「っで、明日の午後1時に坂上中の校門前でどう?」
「・・・大丈夫です」
「わかった、このケータイはそのときに返すね」
「はい」
「じゃぁ」
電話が切れた。
――本当は、うそだと思っていた。
「妖怪や、悪魔を祓ってくれる薬店」
店に入ったときも、まだ信じきれていなかった。
何しろ、情報源が記憶という、とても信用できないものだったから。
記憶――其れはいつの間にかあった、自らの記憶だった。
土曜日。
徹が、学校に着くと茶髪の少女――否、少年が校門の柵の上にしゃがんでいた。
「危ないです」
「大丈夫だよきっと」
笑顔で言うと、右手を柵において飛び降りた。
「おはよう」
「おはようございます」
「・・・・・ご機嫌右斜め下?もしくは上・・・左でも然り?」
「・・・とりあえず、服はそのままでいいので、シャツは仕舞って下さい。僕も一応風紀委員なんで」
「Va bene」
言葉の意味はわからないが、シャツはしまってくれた。
「いきましょう」
「武器はなんか持ってたほうが良いかな?」
「いらないと思います・・・とりあえず、風紀委員には殺傷能力のない武器の携帯を義務付けられていますが・・・」
「ふぅん、じゃぁ、ゴム弾なら、銃でもいいのかな?」
「だめです、とりあえず日本国憲法ぐらい守ってください」
「誰も、持ってるなんて言ってないけどね」
「・・・・・・行きましょう・・・政秋さん」
徹は、政秋を連れて学校に入った筈だった・・・。が、
「ケータイ・・・いらないの?」
「あ」
・・・・・・。
忘れていた。
「物忘れもほどほどに」
ポスターのような、笑顔で言われた。
いっそ、写真でとって校内ポスt――。
「今、変なこと考えてなかった?」
「いえ・・・そんなことないです」
「僕のケータイのアドレスと番号を勝手に登録しといたから」
「え・・・へ・・えっとその・・・あれ?」
「やっぱり、変なこと考えてたんだ」
違う・・・きっと違う、急に話題が変わったから云々・・・。
しかし、実際に考えていたのだから、反論の仕様がない。
「行きましょう」
「だね」
断罪の階段というのは、北校舎の三階にある階段のことだった。
もともとは、どこにでも有りそうな怪談として、有名だった。
――この階段は、普段は12段なのに、夜になると13段に増えると。
「特に、妖気および霊気などは見当たらないけど・・・」
――そして、その階段では・・・
「でも・・・不思議だね。事件が起こるのは、いつもここなんでしょ?」
「ハイ」
――罪を犯した者が裁かれると・・・。