第一話 蒼い空 秋の雲
濃い霧が立ち込めている。
彼は、一歩一歩足を進めるが、土を踏む感触がない――
――始めから道などないのかもしれない。
「ねぇ」
後ろから、声をかけられた。
「本当にいくの?」
「・・・・・・心配してくれているの?」
「ッ!――誰がッ!!」
彼は、微笑を浮かべてまた歩き出した。
「いらっしゃいませ、どのような御薬をお探しですか?」
狭い店に入ると、いきなり10才ぐらいの男の子が、茶色の髪の毛を揺らして現れた。
着ている白衣は、明らかにサイズが合っていない。
胸には、名札をつけていて、信じたくないが認めなくてはならない現実を見た。
「蒼月双葉/店員」
明らかに、親のお手伝いにしか見えない少年は
「あの・・・正社員ですか?」
「社員?・・・ここは会社じゃないですよ?」
アルバイトではなく、店員だった。
「ですよね・・・。あの『白鴉』って言う薬を買いに来たんですけど・・・」
双葉は、存在しない薬の名に、一寸も驚かずに微笑み、
「あぁ、じゃぁ奥へどうぞ。ご案内します」
店の奥へと、手を引いて行った。
奥の部屋と言っても、店の奥にあるレジの後ろの小さな部屋だった。
双葉は、その部屋に合ったパイプ椅子に座らせて、
「じゃぁ、店長を呼んできますね」
部屋を出た。
壁が白くてとても綺麗な部屋だった。
しかし、右端にある机の上は書類が山積みになっていて、非常に汚かった。
しばらく、手遊びをしていると、店長なる者が部屋に入ってきた。
「お待たせしましたー」
屈託のない、素敵な笑顔で参上したのは、
「・・・同じ年?」
すなわち、中学生にしか見えなかった。
白衣の下には、黒いベストの下にワイシャツを着ていた。
どこにでもいる、中学生のようだ。
胸に『薬屋政秋/店長』と書かれた名札のついた白衣を脱ぐと、それを書類の陰になっていた、椅子に掛けた。
「残念でしたー、薬屋の店長が、中学生と同じ年のはずがないしいねー」
「そうですよねぇ・・・」
政秋は、微笑むとパイプ椅子に座り
「っで、僕に何をして欲しいのかな?」
いきなり、本題に入った。
「・・・・・・ハイ、あの・・・この店の近くにある、坂上中学校って知ってますか?」
「知ってるよ」
「・・・僕は、その学校の風紀委員なんですけど・・・それで、この間階段で転んで怪我をした人がいるんです・・・それも何人も」
「ふぅん。で?」
政秋は、さして興味が無いのか。いつの間にかルービックキューブを回していた。
「・・・はい、学校には7不思議があるんです。それで、そのひとつが『断罪の階段』」
「ふぅん」
「転んで怪我をした人は、全員その断罪の階段で怪我をしたんです」
「すっごい、偶然?」
「いいえ、過去にも何人もあの階段で足を滑らして、怪我・・・亡くなってしまった人も」
「・・・・・・っで、僕に何をしろと?」
興味が無いのを通り越して、もはや不機嫌そうだった。
「・・・あの、その『呪い』とかなら、僕達にはどうしようもないし・・・その・・・」
政秋は、完成したルービックキューブを膝の上におく。
「『呪い』を払えと・・・」
「・・・そうです」
政秋は、ため息をつくと口を開いた。
「じゃぁ、まずはその階段を見てみよう・・・そうだな、次の土曜日。明日にでも学校を案内してくれると助かるんだけど・・・頼まれてくれる?」
「・・・はい」
政秋は、微笑むと立ち上がり。
「ありがとう・・・じゃぁ、明日」
「ありがとうございました」