別世界のふたり
日が高くなってから健真はいつものように外に出た。
自分のこういうところが両親の苦悩の種であることは分かっているが、家にいて無能さを見せつけられることを逃避することで、自分を守っていることを分かってほしかった。
けれど、家から離れたところで、目がいくのは通りに並ぶ店の番台で客をさばく商人だった。
はあ、とため息をこぼす。
豪商の息子に生まれたからと言って、なんでもかんでも引き継がれちゃ面白くない。
そういう神様のいたずらなのだろうか。
昔からちやほやされてきた。それはすべて生まれ持ったこの容貌のせいだった。
街を歩けば、十人の女子が十人とも振り返るような健真の容姿は、商人には必要ない。
今では、釣り銭の勘定すらまともにできないうつけだと、使用人の間で囁かれている。知っている。
なぜ、神様はたったひとつ、自分が一番ほしいものを与えてくれなかったのか。
健真はまた、ため息をついた。
「旦那ー。これはどこへの仕立て物ですか」
ある呉服屋から若い声が聞こえて、気になって覗くようにして歩くと、健真と同じくらいの年頃の男が、忙しそうに歩き回っていた。
思わず立ち止まってしまった。
「――ああ、それは今日行ったとこや」
奥の方から主人の声が聞こえた。
「えッ、島原ですか」
島原。京一番の遊郭。
「ばか、声が大きい。うちがそこに仕立て屋として雇ってもろとるんは極秘なんやで」
「はあ、すいません」
京都訛りのない、薄っぺらい謝罪の声と同時に、健真はまた歩き出した。