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淡く碧に  作者: ふみ
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算盤と序章

京都きっての質屋、大野屋の主人は、その朝早くに目が覚めた。

番台の方で物音がしたのである。

こっそり壁から顔を出して、番台の様子を伺った。


物音の正体は確かに人であったが、素性は彼が当初予想していた類の物とは明らかに違った。


その者は上がり框に腰を下ろし、手元を盛んに動かしている。


主人は胸が詰まる思いでその場を離れた。


とてもではないがもう一度眠る気にはなれず、縁側に出た。


そして、昨夜の会話を反芻してみる。


「旦那様、こないだ言うてた養子の話ですけど」


床に入るなり妻はそう口火を切った。


「その話はまだどうにもできひん言うたやろ」

「そやかてあの子はもう17ですよ。もう家のことも考えてもらわんと。それやのにあの子はいつまでたっても」

「肝心の力量がどうにもならへんのやからしかたないやろ」

「そやさかい養子を」


その時、襖の向こうでカタン、と音がして、夫婦は顔を見合わせた。

それからは二人とも口を閉ざしたまま、気まずさを残した夜が更けた。


兼ねてより夫婦の懸念は息子に空気を介して伝わっているはずだった。

大店の跡取りが商売にからっきしでは話にならない。

しかしその言葉を目の当たりにしたのは昨日が初めてだったはずだ。


悪い子ではない、と主人は思う。

昔から主人の後をついて回る可愛い子だった。

今だって主人は彼をとても愛おしんでいる。


だからこそ彼、健真が、番台で1人算盤を弾く姿は見るに耐えなかった。

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