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淡く碧に  作者: ふみ
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朝露と序章

風が違うな。


どこか青臭さの取れた、化粧をした女のような空気の中を、淳之介は伸びをして歩いた。


まだ彼はそこにいるには不相応なほどの若造で、通りすがる人々はそれぞれに淳之介に興味の目を向けた。


なるほど、風が違う。


淳之介は再び思った。


ここに一歩入った時から雲の上を歩くような感覚がした。



「どうや、初めての島原は」


目の前を歩く呉服屋の主人が言う。


「新鮮です」


何の躊躇いも恥じらいもなくそう言い放つ淳之介に、主人は苦笑した。


「まあ朝から来たかて何も分からへんわな」


「遊女の着物の仕立てはいつからうちでやってるんですか」


「先代からや」


「あの一代で店を大きくしたという?どうしてまた遊女の着物なんか」


「まあいろいろあったんや」


言葉を濁す主人は、中でも一番大きな見世の裏口の戸を叩いた。


まだ道に生えている草に露が乗っているほどの時間帯、戸を叩く音は思いがけず響く。

淳之介は今になって先程の会話の声量を省みた。


そのうち戸が開いて女将らしき風貌の女が顔を出した。

主人と女は顔馴染みのようで、親しげに話をしている。


淳之介はその間悪びれもなく少し開いた戸の隙間から中を伺ってみた。

長身の彼の視線は女将の頭上をいともたやすく這う。


「……淳之介」


主人のたしなめ声が聞こえ、再び女将に興味を移すと、淳之介を値踏みするかのような女将の視線に絡まった。


「新しい奉公人の淳之介どす」


主人の声に軽く頭を下げる。


「えらい大きなお人やねえ」


よそよそしい返礼の代わりと、舐め回すような目つきをそこにいる間中感じていた。

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