『ゴードン』との最初の出会い (3)
☆ ★ ☆ (7)
「ゴードン、ケルトンが話した袋は作れますか」
と、私が彼に体ごと向きを変えてそう尋ねると、彼の視線はまだケルトンを追っているようで、少しの間、彼の視線はケルトンの姿が見えなくなった空中を見ているようだ。
「俺の山の家に行けば道具も材料もあるからすぐに作れると思うが、今年の冬はもう行くつもりがない。かごだったらあるが何とか考えよう。俺の部屋は続き部屋になり隣は仕事部屋にしたからな。一通りの道具と材料はあるが、屋敷に着く前に方法を考えよう」
と、彼の視線と思考が私に戻ったようで、彼のパラダイムが脳みその需要と供給のバランスを取り戻したのだろうか。
「なるほど、道具と材料が必要なのですね。暗くなりソードで移動すれば人間には見つからないと思います。お屋敷から山の家へ行く方向は分かりますか」
「最初は大きな道に沿って行けばいいと思うが、道なりに進んだ方がよさそうだな」
『すごいわね。今年は私の赤い実がたくさん必要になるわね』
と、リズもそう言って会話に参加してくれる。
「ほんとうだな。三人で運べるようになればお得意様を増やさなくてはいけない。今年は忙しくなりそうだな。二人のお陰でここに何度も来られそうな気がする」
と、彼はそう言いながら、自分の右手首を左手で触っているが、それからネックレスに右手を伸ばしたけど、彼の心の中にはまだブレスが存在しているみたいで、彼の意識の中には私に対する警戒心が外れたようだとも思える。
『ほんとうですね。今度から私の話しもたくさん聞けるわね。二人のことは風の音で少ししか知らなかったけど、あそこの滝の近くにも私の仲間がいるから、あなたたちのことは伝えておくからね』
と、リズがそう言ったから、私たちの存在は少なからず知っているのだ。
滝の近くの大きな樹の根本に降りたって見たことがあり、リズの樹のよりは二回りも小さいような気がしたけど、滝の近くではどーーんと構えられた存在で、その枝ぶりの中でも休憩もしたこともあった。
「ありがとうございます。私はリズの仲間とお話しができるのでしょうか」
と、私はその可能性が高いような気がしてそう尋ねてしまう。
『それも分からないけど、リリアが話しかけてみると聞こえるかもしれないわね。あそこの滝の裏側に入ったことがあるの?』
「えっ、ありません。道があるのですか」
と、私はリズの突然の言葉に驚いてそう尋ねる。
『道というよりも古くからの言い伝えがあるそうよ。その仲間が詳しく知っていると思います。後からそのことも風の音で知らせるからね。ゴードンと会話ができるようになったお礼よ。リリア、ほんとうにありがとうございました』
と、リズにお礼を言われたけど、言い伝えとは何だろうか。
「こちらこそありがとうございます。たぶんあの大きな樹だと思います。もしそうだとすれば、リズのように名前を付けてもいいのですか?」
と、私がもし話せるのなら、名前があると話しやすいと思いそう尋ねることにする。
『そうすれば喜ぶと思います。ゴードンが私に名前を付けてくれたように、西の森にいる仲間にも私が名前を付けました。『赤い実のボブ』と呼ぶことにしたのよ。私と同じで赤い実がたくさんなるのよね』
と、リズはそう教えてくれたから、そういうことも考えられるのだ、と私は不思議な気持ちになる。
「なるほどな。リリア、今度は俺をそれに乗せてくれ。赤い実のボブとも話しをしてみたいぞ。俺を西の森に連れていってくれないか」
と、彼は真剣そうに私を見てからそう言うので、何だか私も連れていってあげたいような気持ちになる。
「分かりました。私も話してみたいです。話しは変わりますが、ケルトンのことでお話しがあります。彼は私の弟ではありません。彼は南の城の王子だと言っています。彼は私に多くを語りません。ゴードン、そこの王子様が行方不明になったとか噂は聞きませんでしたか」
と、私はケルトンが話したことは嘘ではないと思いそう尋ねる。
「俺は滅多に城の近くには行かないからな。その噂は聞いたことがないけどな」
と、彼はそう言ったけど、私が彼の目を見ていると、彼の上下のまぶたが一瞬見開くのに気づく。
『ずいぶん前に、私の仲間から風の音で聞いたことがあるけどほんとうだったのね』
「彼の話したことは真実なのですね。私たちは出会ってからずっと滝の近くにいるので、南の城のことは知りませんでした。彼はとても礼儀正しい少年です。私のソードにひとりで乗っても上手です。今度は自分のソードあるのですぐに乗りこなせると思います。私はソーシャルと名付けましたが、私との会話はケルトンには聞こえないそうです」
と、私はゴードンを見ながらそう説明するが、太いリズの樹を左手に感じながら、私の視界にも入っている。
「俺も少ししか話さなかったが、その辺のガキとは違うと思ったからな。だからさっきはブレスを譲ってもいいと直感したが、ほんとうにケルトンという名前なのかな?」
「ブレスはありがとうございました。私も彼の名前は違うような気がします。ケルトンがそう言ったのでそれで通します。彼に剣の使い方を学んでほしいです。私が最初に見た三人の男は剣を持っていました。ケルトンを追いかけていた男たちです。私たちはゴードンのお屋敷に行ってもよろしいのですか?」
と、私は少しの間でもいいから、城の近くに行きたいと思いそう尋ねる。
彼を利用するつもりはないけど、ずっとここにはいられないし、向こうに行けば何とかなると思い、私の正直な気持ちを話して理解してもらいたい。
「屋敷も少しずつ作り直したからできたてだ。二人は俺の孫として屋敷に住むのはどうだろうか? 俺だって今年の冬から初めて長期に住むことになる。俺は孫がいてもおかしくない歳だ。俺の家族として住むのはどうだ?」
と、彼が信じられないような提案をしてくれるので驚くけど、彼の方からチャンスが与えられたようだ。
『家族として住むことは賛成ね。ケルトンの将来が楽しみね』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
と、私はそう言ってしまったが、この機会を逃さないように、とさっきから私の心が叫んでいる。よかった。
『ソーシャル、この話しはどう思う?』
『リリアが考えてください。私はリリアの考えに従います』
『ここにはずっとはいられない。そうするからね』
「俺が剣の使い方を教えてもいいが、小さい時から剣を練習していると思うぞ。それを見極めて誰か探してもいいが……リリアはどう思う?」
と、彼がそう尋ねるので、ケルトンの話しは信じてもらえるのだろうか。
「私もゴードンの意見に賛成です。ケルトンの動きはとてもいいです。礼儀正しいし理解力もあると思います。でも……私たちは何も持ってないです。ソードを利用して何か仕事見つけます」
「俺の仕事を手伝ってくれるならそれくらいは面倒をみるぞ。何も心配はいらない。俺はリズのお陰で金持ちになったからな」
「……ありがとうございます。私がたくさんお手伝いをしますからよろしくお願いします」
『二人で赤い実を運んでくれればゴードンもここまで来なくてもいいのね。私たちはいつでも話せるようになったし、大変な思いもしなくて助かるわね』
と、リズの話す言葉は距離的なことを話しているのだろうか。体力的なことを話しているのだろうか。その言葉の意味が私には理解できない。
「ありがとうございます。私はどうして彼がこういう状況になったのか理由を探りたいと思います。それが先決だと思います」
『そうね、それは大事ことよね。彼はまだ子供だから意味が理解できてないでしょうね』
「子供の成長は早いからな。城の中と着る物が違えば分からないと思う。城壁の外にいても誰も気づかないと思うぞ。市場に出かけても周りの連中には疑われないような気がするが、顔が似ていると思っても直接手出しはしないだろう。あとを追ってくるかもしれないが、俺の周りで孫だと言えばリリアの存在もあるし、周りで調べても疑いが晴れるような気がするが」
と、彼がそこまで言ってくれるので、私はその言葉を信じて彼のお屋敷にお邪魔させてもらうことにする。
「分かりました。よろしくお願いします。明日は太陽が昇るのと同時にここに来てお手伝いしますから」
「そりゃ助かるな。俺も歳だからたくさん拾っていると腰が痛くなる。途中で休憩もするがずっと座りっぱなしだと屋敷が近くなるころには毎回疲れてしまう。そのことも考えて赤い実を馬車に積むからな。ほんとうに助かるよ」
と、彼がそう言ってくれて精神的に胸をなでおろし、これを運ぶことを手伝えば、私たちは彼の屋敷に行けそうだ。
「私たちはソードに乗り馬車を追います。人通りが多くなれば歩きますから」
と、私は隠れるのではなく、離れて後ろを歩く方がいいと思いそう言う。
「その方がいいな。これは以外に重いから馬も疲れてしまう。馬車みたいにはたくさんは運べないと思うが方法を考えよう。二人に出会ったから俺の人生も楽しみができた。リズとも話しができるようになったし二人に感謝しているぞ」
と、彼の顔は笑みを少し浮かべて感謝の言葉も使ってくれたから、私は嬉しさとホッとした気持ちになったけど、もう一つ残っているブレスをケルトンの右手に付けると、さっきみたいにソードが出るのだろうかと思ってしまう。
「そう言っていただきありがとうございます。ケルトンのことをよろしくお願いします」
と、自分のことよりも彼のことをお願いしたくてそう言う。
『私の声が人間に聞こえるなんて、何だか今でも信じられないわね。二人のことはゴードンの孫として、遠くの仲間に風の音で伝えるからね』
と、リズが嬉しそうな声の響きでそう言ってくれたから、今までリズに話したゴードンの言葉は私には分からないが、彼の性格をリズはよく理解していると思うので、二人がそう言ってくれること感謝したい。
「はい。今日はほんとうにありがとうございました。私たちはそろそろ帰ります。ケルトンを呼び戻しますから少しお待ちください」
「分かった。俺はリズと暗くなるまで話すよ。明日はよろしくな」
と、そう言った彼の顔は笑みを含んで目尻がよけいに下がったような気がして、彼を信じてしばらくお世話になろうと思う。
『ゴードン、今日はたくさん話せるわね』
「ほんとうだな、リズ。俺も楽しみが増えた」
五回目を読んでいただき、ありがとうございました。