プロローグ
著者の Jupi・mama (ジュピ・ママ)です。
今日 (2015.5.01) から、第二作目の小説を投稿します……と。
その後、加筆訂正を何度繰り返したことやら……です。
少しは読みやすくなったのだろうか。
すでに、2018年の5月に入りました。
よろしくお願いいたします。
☆ ★ ☆ (1)
『早く目覚めて、両手首のブレスを軽く二回触れ合わせて、そうすれば意味が分かるから、早くブレスを二回触れ合わせて』
と、女性の声でこの言葉が頭の中で響く。
私が目覚めると自分の体は横たわっている。
右手を下にして手首の上に頭が乗っている。
左手が目の前にあり、その手が紐のついた袋の上にある。
私は薄手の紺色のウインドブレーカーを着て黒色のジーンズを履き、足元には白いスニーカーを見てしまう。
「ここはどこなの?」
と、自分でそう言いながら上体を起こし、座ったままで辺りを見回す。
私は柔らかい地面の上に座っている。
私の左右には少し小道が続いているように見える。
私の目の前と左右だけは空間になっている。
小道から少し引っ込んだような場所にいるようだ。
後ろには樹がありその樹の根元にいるみたいだ。
早くブレスを二回触れ合わせてと聞こえたが、自分の両手首に幅が一センチほどで肌の色より濃い色のブレスに気付き、よく見ると濃い黄色味を帯びた黄土色をしている。
二回触れ合わせる、と私は座ったまま独り言のように呟き、左手の上に右手を乗せるように二回触れ合わせた。
『ご主人様、何かご用でしょうか』
と、女性の声が頭の中で聞こえるようだ。
「あなたは誰なの? さっき私に話しかけた人なの?」
と、左右を見たけど誰もいない。
『私はあなた様のソードです』
と、さっきの声の響きと同じ女性の声がまた聞こえる。
「ソードって何なの?」
『立ち上がって両手のブレスを三回触れ合わせてください』
「今度は……三回なのね」
と、言われたとおりに立ち上がり三回触れ合わせる。
すると驚いたことに、私の正面に柄が上になり彼女の言葉どおりのソードと思われる物が縦に現れ、柄が向こう側に倒れ、両刃のない幅広のロングソードみたいに変化し、空中に浮く。
『早くその袋を持ってこの上に座ってください。早く』
と、女性の声の響きでそう言ったので、足元の袋を素早く右手でつかみ、このソードの上にまたがる。
私は早くという言葉に反応して考える時間などなく、私が座るのを確認したかのごとく、このソードは素早く真上に上昇し、私の足が宙ぶらりんになりとても驚く。
すると、左下の方から徐々に異様な音と声が近づいてくるので、私はその音を確認しようと頭だけ動かし下をのぞき込むと、右手に長い剣を持った男がひとりずつ、周りを確認しているかのように、合わせて三人の男が私の真下を通り過ぎる。
私はこのソードをよく見ると、柄の根本の部分が自転車のハンドルのように水平に少し左右に伸びているので、急いでそれを両手でしっかりと握ると、このソードは少し右側に移動し、彼らを追いかけるように前に進む。
私は振り落とされないように前かがみになって座り、自転車のペダルがないだけで、その体勢で前方や左右をよく見ると、樹の枝や葉が邪魔して地面はよく見えないが、前方に先ほどの三人とは違う人間が走っているのに気づく。
「向こうで誰かが走っているの。下の三人が追っているのね。あの人を早く助けるから」
『分かりました。そちらへ移動します』
「あの人の前に私を降ろして、これに二人乗っても平気なの?」
『大丈夫です』
と、そう返事をしてくれた彼女の単調な声の響きは、私には感情が込められていないような気がする。
このソードは木々の合間をぬうように、私を振り落とすこともなく進み、真上から右斜めに横切るように先ほどの三人を追い抜き、その人も三人の男も曲がりくねった小道をずっと走っているようだ。
その人間に近づいてみると子供のようで、この状況がどういう意味をかもし出しているのか理解できないけど、追われている子供を助けるのは当然のことだと思い、私の言葉に彼女も同期してくれたごとく近づく。
突然その子供は立ち止まり左右を見渡し、右側にある大きな樹の根元の裏に回り込んだのが見えると、このソードは上方から同じように裏側に回り込み、その子供の前に降り立とうとしている。
その子供は座り込み胸で大きく呼吸をしていることに気づき、彼は右手首の上にある服で自分の額の汗を拭いているようだ。
私が彼の目の前に上方から現れたとき、彼の目は見開きその動作は一瞬止まり、足のかかと両手を使い体を横の方にずらしながら、彼の瞳は私を見つめているが立ち上がって逃げようとはしない。
私は何も言わずこのソードの上に座ったままで、右側に体を伸ばすようにその子供の左腕を鷲づかみにして立ち上がらせ、彼をつかんだときは私の顔を見ているようだが、前向きに引っ張り込んだので彼の顔は見えずに座らせると、彼は意識をなくしたようにぐったりと後ろに倒れ込み、私が両手でしっかりと抱きかかえると同時に、このソードはまた真上に上昇し、彼らの視界から私たちを隠してくれるように、この樹の中ほどに潜り込む。
私が下を見ると、三人の男たちの動きがこの樹のそばで止まるのが葉の合間を通して見え、ひとりの男が地面で聞き耳をしているような気がして、彼が右手を回してこの辺りを探せ、と言っているような雰囲気にも感じとれ、風が吹いて木の葉がこすれる音が強く、彼らが何を話しているのかこの位置ではっきりと聞こえず、私の視界から彼らの姿が消える。
このソードは、彼らから私たちの姿を隠してくれるかのごとく、来た道を逆戻りするかのように音もなく静かに進み、この子供はこの場所から突然消えてしまったようになる。
このソードはどこへ行くのか知らないが、私たちを乗せてゆっくり移動しながら、中には背丈が低い木や高い樹があるようだけど、樹の先端すれすれに水平移動をし、その障害物を避けるかのように、緩いカーブをつけながら進んでいった。
☆ ★ ☆ (2)
どれほど進んだのだろうか。私は両手で彼を抱きかかえこの上に座っていることに限界を感じている。
「聞こえているの? どこか地面に降ろして」と私は自分の周りを確認してそう言うと、『分かりました』と彼女はそう答えてくれる。
今までの水平移動が垂直移動に変わって下に近づくと、前方に川があるのに気づくけど、川の左右は岩がごつごつしてこの子を下に降ろすスペースがない。
「向こうに洞窟みたいな場所があるからその中に入ってくれる」と私の視線がその洞窟のある場所を確認してからそう言うと、『分かりました。どちらの方角ですか』とそう聞かれたので、「右斜め前です」と私は両手で抱きかかえた子供を落とさないように、自分の体勢も崩さないように気をつけながら、右斜めに視線を向けてそう言う。
『進行方向の右ですか』
「そうです」
『言葉でその方角を伝えてください』
と、彼女がそう言うので、私の言葉でその洞窟まで誘導したような形になる。
その洞窟に入ることができても彼女はその空間に少し留まってから、私の言葉通りに地面に降り、砂地があるので彼をその上に引きずり降ろすと、彼を抱きかかえている腕や手が限界を超えたみたいで、彼を横に寝かせ終わると何だか腕がぷるぷると痙攣をしているので、私もその場に一緒に座り込んでしまう。
彼女が『ブレスを一回触れ合わせて、すぐ二回触れ合わせてください』と言うので、私は座ったまま言われたとおりにブレスを一回触れ合わせると、目の前に存在しているソードが消えたので、驚いてすぐ二回触れ合わせる。
すると、彼女がまた話しかけてくれ、『左右のブレスを二回触れ合わせると二人で話せます』と言い、『三回触れ合わせるとソードが現れ乗ることができます』と聞き、『一回触れ合わせると現れたソードが消えます』と説明してくれた。
この洞窟は入り口近くから砂場になり、天井も周りもごつごつとした岩のようで空間的には広くはなく、聞こえる音は水が流れる音階だけだ。
しばらく休憩をしながらこの現状をいろいろと考え込み、この女性の声に名前をつけると話しやすいと思い、「あなたの名前をソーシャルと呼ぶことにします」と伝えると、ソーシャルから『あなたの名前はリリアです』と言われた。
☆ ★ ☆
彼が眠っているので上からかける物が欲しいな、と毛布を想像してぼそりと言葉として呟くと、私が右手で持っている袋が突然膨らんでくるので、ビックリしてその袋を投げ捨てたけど、その袋は動き出すこともなくその場でじっとしている。
この袋の膨らみがこれ以上大きくならないような気がするので、私は立ちあがり体を後ろに引きながらも、右手の人差し指で上からツンツンと触ってみると柔らかい。
上部にある紐を恐る恐る緩めて中を開けてみると、その袋から何も飛び出すこともなく、私の視線は茶色の物体を確認し、袋の底の角の部分を両手で持ち逆さまにすると、中から茶色い物体がポロッと下に落ち、地面にぶつかるとパラッと開く。
それを持ち上げてみると、子供用みたいな縦長の毛布であり、茶色い生地の中に白い星が描かれているけど、私はこの毛布を子供の上にそっと掛けてあげる。
しばらくして、もう一度毛布がほしいと先ほどみたいに言葉で呟くと、またこの袋が膨らんできたが今度は驚かずに、その膨らみが終了したと思ったのでこの袋の口を開けてみると、今度は緑色の格子模様の毛布が入っているので、また、広げてそっと子供の上にかける。
私がこの袋に何か言葉をかけると、この袋の中から言葉通りの物を取り出せることに気づくけど、私がなぜその言葉を知っているのか、なぜこの袋を持っているのかも不思議だが、それよりも、なぜ私がここにいるのかが、よりいっそう不思議に感じてしまい、このミステリーバッグにも名前をつけて『ミーバ』と呼ぶことにする。
☆ ★ ☆ (3)
意識を失ったように爆睡している彼が目覚めたので名前を聞いてみると『ケルトン』と教えてくれ、彼は自分の布団の中に入った途端に分からなくなり、気付くと三人の男のそばで眠っていたそうで、目覚めたときに、三人の男は自分を殺せ、と命令されていたのか分からないが、誰が自分を殺すのかと喧嘩をしているようで、とても怖かったと教えてくれた。
だから、寝たふりをして薄目を開けて隙をつき、彼らとは反対方向に一気に走って逃げたとも話してくれ、樹の裏側に回り込んだときは、もう走るのは限界だと思っていたので、助けてくれたお礼を何度も言われた。
私がいろいろな話しをしていると、十歳で南の城の王子だと話すけど意味が分からずに、どこかの城の王子様なのだと思い少し驚くが、彼の話し方からしてこの言葉は間違いないような気がして、子供なのに自分のことを『わたし』というし、会話をしていてもどことなく品があるのだ。
小さいときから身辺警護は厳重にされていたそうで、いつ何が起こっても自分で考えなさいと教えられていたと話し、彼は礼儀正しい少年で、最初のころは南の城の王子と言ったことが理解できるような言動ではあったが、その後は城のことを何も話さなさずに、このソードと会話ができると説明すると、ソードの存在は分かるけど、会話は聞こえないので理解できないと言われた。
この『ミーバ』の中に入る大きさの物だと、私の意識として口から言葉を伝えると、この袋の中から色んな物を取り出すことができるが、私はケルトンに見つからないように、この袋から生活に必要な着る物や密閉された缶詰やレトルト食品を取りだしているが、彼はそのことを見て見ぬ振りをしているような気がした。
私たちは偶然にも出会ってしまい、二人で生きていかなくてはいけないし、滝の近くではあるが別の洞窟に住居を構え直し、二人で一緒に暮らしていたが、彼は私のソードの存在を知ってからか、目の前にある物に対しては何も言わない。
私が話さないから聞かないのだろうかと思い、子供なりに聞いてはいけないと思っているのだろうか、などと考えながらも、指してやることもなく暇なので、私たちはこのソードにひとりで乗ったり二人で乗ったりと、ずっと乗る練習をしていた。
日中はこの『ミーバ』をいつも袋に入れて背負い、寝るときでもそばに置いて肌身離さず大事にしているが、今ではこの『ミーバ』の違和感はもう何もないというよりも、これがないと、ここでは生きていけないと思った。
☆ ★ ☆
いつだったか、ソーシャルが『ミーバ』の中にブレスとネックレスが二組ずつ入っているので、一つは私の首に、もう一つはケルトンの首にかけてください、と言ったので、私は言われた通りにした。
このブレスは幅が一センチほどで厚みが五ミリほどだが、このネックレスは頭からすっぽり入るほど長くて、直径が一センチほどの太い紐状になりブレスよりも明るい黄土色だった。
☆ ★ ☆
またしばらくすると、彼女が彼の左手にブレスを着けてください、と言ったので、ケルトンの左手にブレスを着けようとすると不思議なことに、私が最初にネックレスと一緒に見たブレスは輪になっていたけど、いざ彼の手に着けようと思い取りだしたときには切れ込みがあり、彼女の言ったとおりに切れ込みの左右を合わせるとくっついたので、二人で驚いてしまった。
私のブレスもつなぎ目がなく少し余裕がありくるくると回るけど、私の両手首から外れないようで、金属というよりもシリコンで作られているような感じで、少しだけ柔らかかった。
ここにいる間は、ほかの人間と出会うこともなく、時がだけが過ぎ去ったようだ。
第一回目を読んでいただき、ありがとうございました。