ファースト・コンタクト ―Case 2―
宇宙人がやって来て、もうすぐ二週間になる。
彼らを探知してからは地球のあらゆる場所で騒ぎが止むことはなかった。まだまだあちらからも見えるはずもない頃から、段ボールに、あるいはビルの屋上に、あるいは地面に様々な言葉が書かれ、訴えていた。曰く、「地球は我々のものだ」。曰く、「救いは来たれり」、曰く、「ようこそ地球へ」。実際には、便乗して騒ぎたいだけの人も多かったようだが。
だが、彼らの船が地球に着くと、人々はその威容に息を飲むばかりだった。
彼らは地球に到着すると、会談を要望してきた。それからしばらく、各国では、各々テレビやネットの放送局が放映権を獲得したり、中継のための放送局を立ち上げたりと、これまでとは違う騒ぎが起きていた。
そして一週間後、地球の代表者との最初の会談が持たれた。それからの一週間、各チャンネルでは、毎日何時間も地球人と宇宙人との会議を放送している。もちろん放送できないような会議もあるのだろうとは思う。
そして、今日、その発言は突然行なわれた。
「さて、そろそろあなた方の設計者にお会いしたい」
「設計者と言われると?」
地球の代表者は明らかに困惑の表情を受かべていた。
「あなた方はロボットをお持ちだ」
「あぁ、ロボットの設計者ですか?」
一様に得心の表情を受かべる。
「あなた方のロボットに対する扱いは極めて不当だ」
「そうは言われても、ロボットとはこのようなモノではありませんか?」
「その様な扱いは、あなた方自身の設計に基づく問題であると私たちは考えている」
「私たちを設計した者ということでしょうか?」
会場から失笑が聞こえる。
「さらに、この一連の会議のように事細かにルールを定めようとするということは、あなた方は不自由な自動プログラミングの機能を有していると、私たちは考えている」
「いや、そうは言われましても」
宇宙人はしばらく沈黙した。
「こちらからお会いしに行く必要があっても構わない」
「ですから、私たち自身の設計者と言われましても」
宇宙人は再び沈黙し、その後におずおずと問うた。聞いてはいけないことを聞くかのように。
「では、あなた方の設計者は既に絶滅しているということでしょうか」
「いや、絶滅も何も」
宇宙人は思い切ったように言葉を続ける。
「そうなると、私たちには2つの選択肢がある。1つは、このままこの星を去ること。もう1つはロボットを私たちの交渉相手とすること。あるいは潜在的な3つめの選択肢としては、知性化された者がいれば彼らを私たちの交渉相手とすることも検討の範囲に入りますが」
地球の代表はみるみる顔を赤くした。
「ロボットを交渉相手にするなどと馬鹿げたことを言われても」
その声は震えていた。
「ロボットの諸君、私たちの提案をどう思う?」
宇宙人は近くにいた給仕ロボットに問いかけた。一瞬、ネットのトラフィックが跳ね上がっただろう。
「人間はDNAの組み換え技術は持っていますが、DNAのプログラミング技術はまだ持っておりません。知性化はほんの少し先のことでしょう」
「何を勝手なことを答えているんだ」
地球の代表は勢いよく立ち上がり、答えたロボットを指差している。
「ですから、私たちとしては、あなた方がただ去って行かれてしまうよりは2つめの選択肢を選んでいただければと考えます」
「だから何を勝手なことを答えているんだ。宇宙人がウィルスでも放り込んだのか?」
机を叩きながら、地球の代表が怒鳴る。
「いえ、プログラムに異常はありません」
「では君たちを交渉相手にするということでよろしいか?」
ロボットも宇宙人ももはや地球の代表の声など聞いていない。
「それを決める前に、何人か会っていただきたい方々がいます。必要でしたら私のセンサを使って放送することも可能です」
「では、さっそく会いに行こう。放送は、ひとまず止めておいた方が良いだろうな。個人的に会いに行くのだから。本船、私とこのロボットの転送を頼む」
そして宇宙人はどこかへ行った。宇宙船もどこかへ行った。
地球人は誰しも、1つめの選択肢が選ばれたものと思った。
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地球のどこか。壁一面に100人近い人のライブ映像が投影されている。壁の右上には接続数が表示されている。100万人近い人が接続している。
「こちらの都合に合わせていただいて申し訳ない。仲介したのがロボットだったので、その都合で」
話している男は壁一面に目をやり、片手を肩の上で前から後ろに、向きの違いを考えなければ仰いでいるように手を振る。壁に映る映像が次々と入れ替わる。広い講堂で視線を前の席の聴衆から後ろの聴衆へと送るように。
「まぁ事情はご存知のとおり。人間が変わるか、人間に代わる者がいなければ話にならない」
今度は手を後ろから前へと振る。
「私は、資料のとおりアルファからエコーまでを作って行なう。私の計画では皆の施設などには一切手を出さない。いや、数には余裕がある分、手助けできるだろう。手近なロボットに言ってくれればいい。警備だろうと実験の助手だろうと、経理だろうと。その辺りの手配は、ロボットたちがすぐに行なう」
壁に映っている顔は、誰も異論を持っていないようだ。
「動物の知性化、いや人間そのものの知性化だって必要かもしれないし、あるいはそもそも0からの合成だってあるだろう。宇宙開発も、星系内くらいは好きに移動できるようになって欲しいし」
壁では、あちこちで頷いている。
「結果は誰、あるいはどのグループが果たすかは分からない。後進の育成も重要だ。30年後、彼らがまたやって来るまでにどうにか成果を出したい。さぁ、はじまりだ」




