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「よき日和にも見舞われ、平和なこの日にわが愛娘であるドロテアの結婚相手を公表できることを、わが国の神であるエドナ神に感謝の意を示したい」
城の前の広場に、何万と集まった民衆や家臣の前で、自分の主であるアレクシス国王が声を張り上げて言葉を発する。もうすぐ齢50にもなろうとしているお方だが、まだまだ現役のようだ
目線を目の前にいらっしゃる国王からドロテア様に移せば、退屈そうな、そしてどこか物憂げな表情をした顔に、俺はなんとも言えなくなる
ドロテア様は、少し我が侭で言うことを聞いてくださらないことがあるけれど、国や民のことを考える想いだけは人一倍強い。頭も賢いお方だから、きっとどんな人がご結婚相手になろうとも正しい道へ導いてくださるに違いない
心配はない、はずなのに、俺の心は晴れないままモヤモヤとしたものが渦巻いて離れてくれないのだ
俺はこの感情を消すために、自分の腰に帯刀している愛剣の柄を強く握り、心を静めることに専念した
「では、発表する。わが娘ドロテア第一王女の栄光ある結婚相手は・・・・」
ついにその言葉を国王が口にすると、ざわついていたその場がシーンと静まり返り、聞こえるのはささやかな風の音だけになった。そして
「オズワルド・ローレンス卿の第一子、グレオ・ローレンスだ」
そう、国王が名を呼んだ。その瞬間、会場は歓声と拍手の波に包まれることとなった
まさか、あのローレンス卿の一人息子だとは・・・・いや、これも神が定めた運命、何かしらお考えがあるのだろう・・・。俺はそんな思いのままローレンス卿の方へ視線を向けた
立ち上がり、笑顔で民衆に手を振る息子グレオの傍らで、親であるローレンス卿はしてやったりとでも言うような笑みでこちらを意味深に見ていた
俺が何だというのか、俺はよく分からないまま、視線を、椅子から立ち上がるドロテア様へ向け、民衆の拍手喝采を真似て、己の手で拍手をした
グレオはそれを浴びつつ、悲しげな顔をしているドロテア様の隣まで悠々と歩いてくる
父親であるローレンス卿に似たその目でドロテア様を見ているところを見たとき、私の心の中でふつふつと怒りが湧き上がってきた。
が、しかし、どうしてそんな気持ちになるのか、今の自分自身に聞いても分からないものなのだろうと思い、しょうがなく胸のうちに秘めるしかなかったのだった