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披露目の儀の前日、もう日が落ち辺りが闇に包まれた頃、神のお告げを聞くために王の側近であるオズワルド・ローレンスは、従者を連れ神殿への道を急いでいた


オズワルドの役目は、巫女が神から告げられた王族の結婚相手の名を書いたものを受け取り、それを王に渡すことだ


しかし、そんな大役を持つ彼には、いまやそんな相手の名前など意味を成さなかった。なぜなら、どんな相手だろうと自分の息子であるグレオを正式な相手として捏造しようとしているからだ


この国では神のお告げによって下級層の民が国王にもなれる。実質、先々代の国王は、下級層の民の出だった


そんな馬鹿げたことがあってたまるかとオズワルドは思っていた。教育もなっていない、下卑た人間以下の者に王族を汚されたくないという考えを持っている、差別主義者だったのだ


そしてついに神殿までたどり着いたオズワルドは、連れてきた従者二人のうち一人を外に立たせ、もう一人を連れ神殿の奥へ足を運んだ


「ご機嫌いかがかね、巫女殿」


オズワルドはそう言いながら、目の前に居る若き国巫女であるセレナエに挨拶する。すると、今まで瞑想していたセレナエは目を開けた


「お久しぶりでございます、ローレンス様。例の、神のお告げをご所望でございますか?」


目を開けたセレナエは、オズワルドの傍で留まっている従者を目にして少し驚いたようだが、あくまでも冷静を装い、オズワルドにそう挨拶し返す


「それ以外に私が来るわけがないだろう。私は神など信じないのだ、巫女殿のように祈りを捧げるなどあほらしい・・・・」


オズワルドはセレナエの言葉を聴いて嘲け笑い、そう言葉を口にした


セレナエはその言葉に対し、ただ静かに


「ここはエドナ神様を奉る聖域、エドナ神様といえどそんなことを申されればお怒りになります。口は災いの元にございますよ」


そう言い放つ。しかしオズワルドは、知らんな、と一言だけ口にしてふんっと鼻を鳴らした


セレナエはしょうがなく、オズワルドに一枚の羊皮紙を差し出す


「これが今朝、エドナ神より告げられた、ドロテア王女のご結婚相手でございます」


そうセレナエが告げると、オズワルドはぞんざいにその羊皮紙をセレナエから奪い取る


そして、羊皮紙に綴られた可憐な文字で示されたその名前にオズワルドは頭に血が上った


なぜならば、その羊皮紙には『クラウス・ブロイアー』と書かれていたからである


よりにもよって、自分が敵対している相手が選ばれたことに憤慨したオズワルドは、羊皮紙を近くにあった蝋燭の火で焼いてしまったのだ


「な、何をなさいますか・・・!」


これには今まで冷静に対処していたセレナエも驚いて止めに入る。が、しかし、その前にそばで控えていた従者に剣を突きつけられ、その場に静止した


「動くな、動けば巫女殿のその首が一瞬にして飛ぶぞ」


セレナエはその言葉を聞いて、緊張のためかゴクリと喉を鳴らした


「ローレンス様、いったい何が目的なのですか・・・!」


身動きのできないセレナエは、せめてもと言葉で対抗しようと、そうオズワルドに訊いた


しかしその言葉を無視するかのように、不敵に笑ったオズワルドは


「巫女殿はただ私の言うことを聞けばよいのだ。なに、簡単なことだ、巫女様の手を煩わせたくはないのでな。今すぐ相手の名を、わが息子であるグレオに変え、私に差し出すのだ」


そう言って新しい羊皮紙を自分の懐から出したのだ。これにはセレナエも怒りを覚えたが、今の現状を考えるとそう容易くいいえと言える状況でないことは分かっていたため、差し出された羊皮紙を受け取り、インクの置いてある机へ向かい淡々とグレオの名を書いた


書き終えた羊皮紙をオズワルドに渡せば、念のためにと念入りにオズワルドに検分され、満足げなその表情を見てまた怒りの炎をたぎらせた


「では、失礼するぞ。――あ、そうだ。このことを誰かに告げ口しようと動けば・・・・ここの警備をしている者たちが速やかに巫女殿の命を消し去ってくれようぞ・・・?」


しかし、去り際のその声に、セレナエは自分の背筋に冷や汗が伝い、自分はとんでもないことをしてしまったと、罪の意識にさいなまれる羽目になるのであった

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