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とても自然豊かな地に、アレアドナ王国と呼ばれる国があった
この国では、結婚相手をエドナ神という王国で古くから崇められている神のお告げによって決められていた
王族も例外ではなく、その神のお告げによって一族を、そして国全体を繁栄させていった
今年も、国王の一人娘であるドロテアの17歳の誕生日と共にお告げが告げられることとなった。しかし、これがこの国を混乱へ導くとは、誰も思っていなかったのである
「ドロテア様ー?!」「ドロテア姫ー?」「ドロテア王女ー?!」
庭の茂みに身を潜めれば、近くをメイドの3人がそう叫びながら通過していく。私は元息を潜め、3人がどこかへ行くのを待った
「ふふっ、マリアたちも鈍いなぁ・・・・」
小さい声で呟けば、ガサッと音を立ててお父様直属の近衛騎士隊長である、クラウス・ブロイアーが私が隠れていた茂みの上から私を見つけてしまった
メイドの中では比較的身長の低いマリアたちには見つからないが、近衛騎士のなかで一番身長の高い大男のクラウスには私が茂みに隠れているのなんて、バレバレなのである
「ドロテア様・・・いい加減自室へお戻りください。今度のお披露目の儀でドロテア様がお召しになられるドレスをあと1週間もないのに仕上げる職人の身にもなってください・・・!」
クラウスが疲れ果てたようにため息をつきながら、私にいつものごとく説教をしだす。私はそれに反発して
「だって、ちょっとでも身動きしたら『姫様?動いたらサイズが狂ってしまいますわ?窮屈なドレスはお気に召さないでしょう?』なんて言われるのよ?もう、最近クラウスの言い方がお爺さんみたいで困っちゃう・・・・!」
そう挑発してみる。すると、年のことを気にしているクラウスは案の定ムッとして
「ドロテア様・・・、私はまだ30でございます・・・!おじいさんといわれるほど年を召してはおりません・・・・・!!!」
興奮しながら私にそう叫んできたのだ。近くで言われた私は耳を塞ぎつつ
「そ、それにあのドレスを縫ってしまえば、私はその一ヵ月後に結婚式を挙げなきゃいけないのよ?クラウスは私が見ず知らずの人間と結婚してもいいの?!」
その叫びに負けないぐらい大きな声でそう告げた。すると、さっきの興奮を持ち越していた所為なのか
「嫌に決まっているじゃないですか・・・!」
そう叫んだ。しかし、その後すぐにあ!言ってしまった!というような顔をしたのだ。
「そ、それは、どういう・・・・」
私が真っ赤になってそう聞けば、クラウスは茂みを越えてきて私の足元に跪いた。そして
「私は・・・・姫様を幼少の頃より主である王様の命で護衛を任せられておりました。それ故に、少々ご無礼ではありますが・・・家族のような愛着を持っているのです。ですから、私が姫様を手放すような気持ちで居るのです。そんなの、嫌に決まっているでしょう・・・」
そう、忠誠を誓う騎士の如く私に告げてきたのだ
ちょっと期待してしまった私が居たのだけれど、こんなことを言ってしまえばたぶん・・・お父様もクラウスも困ってしまうに違いない。いや、国中のすべての人たちが困ってしまう
私はそんな気持ちを押し込めて
「まったく、クラウスも心配性ね」
と、まだ跪いてやさしく微笑んでくれているクラウスに語りかけるのだった