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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第二十八話 『接近』

 二一二三年十月二十八日水曜日、今日は第四水曜日なので天候は雨。放課後、ワタシは人工樹林で一人、キマタのことを待っていた。目的は当然、キマタを殺害すること。


 昨日、ワタシは登校後にタイヨウロウ、昼休みにヒサバとミズシナを殺害した。タイヨウロウは倉庫の中にあったローラーで磨り潰して轢殺し、ヒサバはエネルギー変換装置で燃やし尽くして焚殺し、ミズシナには目の前でヒサバを殺害した後、特殊拳銃で頭部を爆破して殺害した。


 もちろん、ワタシだってそんな死体なんて触りたくない(ヒサバの場合は死体すら残っていないわけだけど)。以前カナイズミに手配してもらった警察官五人に片付けてもらう手もあったけど、さすがに表向きの用事を提示できな状態で警察が学校に入ってくるというのは不審に思われると考え、とりあえず死体はそのまま放置させてもらった。


 そのせいだと思う。いや、教職員であるタイヨウロウが行方不明になり、生徒であるヒサバとミズシナが行方不明になったのだから当然のことなのだろうか。次にワタシが学校の奥にある倉庫を訪れたときは、立ち入り禁止になっていた。


 しかも、PICに連動してパスワード式に立ち入り禁止にされているわけではなく、その手前にどこから持ってきたのか机や椅子が大量に置かれていて、電子的ではなく物理的に道を閉ざされてしまい、どうすることもできなくなってしまった。


 時間をかければ侵入することもできるとは思うけど、そこまでする必要はない。それに、そんなことをするのには大きなリスクを伴う。机や椅子を移動させているときに誰かに見つかってしまえば厄介なことになるし、もしかすると何か罠を張られている可能性もある。


 やはり、自分のクラスの教室を爆破して大量虐殺を行った次の日に、学校の敷地内で三人も殺害したのは間違いだったのかもしれない。思い返してみれば、三人を殺害しているときのワタシは殺人が楽しくて楽しくて仕方がなかった。だから、考えなしに、時と場合を考えずに学校の敷地内で三人も殺害してしまった。


 教室が爆破された次の日に教職員一人と生徒二人が行方不明になったのなら、当然誰かが異変に気がつく。たぶん、ワタシも事件に関係ない人物だったのならそう感じるはずだ。だから、誰かが行方不明になった三人を探し、二人の死体を見つけたのだと思う。


 おそらく、その『誰か』はカナイズミやキマタだと思う。いや、それ以外には考えられない。昨日ワタシが脅したからなのか、今日は他のクラスメイトは学校に来ていなかったし、何でなのか教職員たちからは恐れを感じられなかったから。呑気なものだ。


 というわけで、今回は学校の奥にあったとはいえ学校の敷地内などの比較的人の目に付きやすい場所ではなく、基本的に誰も入ってこない人工樹林で殺人を企てようというわけだ。幸いなことにも、今日の天候は雨だから、背後から近づいて殺人しやすい。


 とはいっても、カナイズミに『放課後、話がある』と言っても用事があるようなことを言われて断られてしまった。だから、まずはキマタを殺害して、その死体を見せびらかせて、カナイズミをおびき出そうというわけ。


 これまでにワタシが殺害してきたのは、ミョウガ、カイホコ、ミズシナ、ヒサバ、タイヨウロウ、義理の家族七人、クラスメイト十七人、組織の人間一人、教職員一人。友だちグループのメンバーとタイヨウロウを十人換算すると、その合計は七六人。


 もちろん、ツチダテと例の透明人間の死体は都合上例の電話相手の女性には送れないので、これには含まれていない。また、ヒサバの死体は残っていないので、殺害中の録画映像を送っておいた。


 また、今日のうちにカナイズミとキマタを殺害し、合計百人分の人間を殺害するという目的を達成するには、あと四人殺害しないといけない。そのため、昨日の夜のうちに数合わせとして組織の人間を四人殺害しておいた。


 これで、ワタシがあと殺害しないといけないのは二十人分。つまり、十人換算にできるカナイズミとキマタを殺害すれば、ワタシの長い長い殺人生活はようやく終わりを迎えることになる。


 ここまで来るのに長かった。何度も大怪我を負ったし、何度も死にかけた。ワタシ自身の精神は根本的な部分から狂気に染まった。大勢の人間を殺害してきた。友だちもクラスメイトも知り合いもたくさん失った。どうでもいいやつらだったとはいえ、いなくなればいなくなったで寂しいものだ。


 でも、それも今日で終わる。今日、カナイズミとキマタを殺害して、ワタシは例の電話相手の女性に願い事を叶えてもらう。ワタシの願い事。つまり、『みんなを生き返らせる』という願い。願い事が一度だけで、その使用回数を増やせないのなら、一度に全員を生き返らせてもらえばいい。そういう考えだ。


 ワタシの本当の家族、友だち、その他大勢のどうでもいいようなやつら。その全員を生き返らせる。ワタシは義理の家族から開放され、本当の家族と一緒に暮らせる。学校では友だちと一緒に話したり遊んだりできる。そんな未来が待っている。きっと――。


 だから、今は、カナイズミと、キマタを、殺害、する。ワタシは、悪く、ない。どうせ、みんな、生き返る、から。


「……あ」


 ワタシは、一瞬たりとも降り止む気配を見せない雨の中、人工樹林にある草むらの陰に隠れている。すると、不意に一つの人影が人工樹林の入り口部分に見えた。ワタシはなるべく物音を立てないように草むらの中を進み、その人影に近づく。


 その人影の正体は、キマタだ。放課後、ワタシに呼び出された後、家に帰ることなくそのまま来たのだろう。ついでにカナイズミも連れてきてくれたらよかったけど、さすがにそこまで思い通りには進まない。キマタは一人で人工樹林の中を歩いていく。


 一応、人工樹林のどこに来てほしいのかをキマタのPICに送ってある。もちろん、ワタシはそこにはおらず、ただ単純に人工樹林の奥まで来てもらうためだけのもの。せっかく人工樹林まで呼び出したのに、街路で殺害しては意味がないから。


 今日の殺人は、誰にも見つからない人工樹林の奥深くで行ってこそ意味を成す。まあ、何にしても、最終的には全員生き返るんだから、関係ないかもしれないけど。できる限り一般人に死体を見せたくはない。大事になるかもしれないし、みんなが生き返った後に問題になるかもしれないから。


 約一分後、ようやくキマタの後ろにある人工樹木に隠れることができた。雨が降っていて足音は聞こえず、空は曇っていて暗く視界が悪いからなのか、キマタは後ろに隠れているワタシに気づいてはいないようだ。


 ワタシは制服に忍ばせてあった特殊拳銃を構え、その照準をキマタの頭部に合わせる。一撃でキマタの頭部を爆破させ、殺害できるように。……いや、それだと少しまずいか。


 ワタシがカナイズミよりも先にキマタを殺害しようとしているのは、ワタシの誘いに乗らなかったカナイズミを誘い出すためにキマタの死体を見せようとしているから。つまり、キマタの頭部がない死体を見せても効果は薄れてしまう。


 そこまで考えたワタシは特殊拳銃の照準を少し下げ、キマタの背中部分に狙いを定めた。これなら、胴体が真っ二つになるけど頭部はなくならないから、カナイズミにキマタの死体の写真を送りつけても効果が薄れることはないだろう。


 数秒後、ワタシは特殊拳銃の引き金を引いた。しかし――、


「……え……」


 ワタシが特殊拳銃の引き金を引いた瞬間、それまでは規則的な動きをしていたキマタの体が右方向に傾き、代わりにその先にあった人工樹木が木っ端微塵になった。また、キマタは気がついていないはずなのに、隠れているワタシがいる方向をにらみ付けていた。


 人工樹木が内側から爆破されたことで、その外側にあった幹に相当する部分が地面に倒れ、地響きのようなものが発生する。切り株のように根元から先をごっそり失った人工樹木は内部にある空気清浄機の部分を大きく露出している。


 人工樹木のことはどうでもいい。ワタシは確かにキマタの背中に照準を合わせた。そして、それまでワタシはキマタに存在を気がつかれていなかったはず。それなのに、なぜキマタは特殊拳銃を避けることができた? しかも、ワタシが引き金を引いた瞬間に避けたということは、ワタシが隠れて狙っていることに元から気がついていたことなのか?


 ワタシには分からなかった。どうしてキマタは特殊拳銃の射撃を避けることができたのか。でも、それ以上、ワタシに思考時間は与えられなかった。


「……っ!?」


 キマタは、特殊拳銃の射撃を避け、草むらに隠れているワタシのことをにらみ付けていた。しかし、何の前触れもなく、物凄い速さでワタシがいる方向に向かって走ってくる。キマタの視線は一直線にワタシが隠れている方向に向けられており、その右手には一本のナイフが握られている。


 もうカナイズミを誘き出すためにキマタの頭部を残した状態で殺害するとか関係ない。ワタシは後退しながら、特に照準を定めることもなくキマタに向かって何度も何度も特殊拳銃の引き金を引いた。しかし、半分くらいはまるで別の場所を爆破させ、もう半分くらいは照準は合っていたものの避けられてしまう。


 何が起きている。何で、キマタはワタシが隠れている場所をすぐに発見することができて、しかも、特殊拳銃の射撃を避けることができている。何かがおかしい。どれだけ引き金を引いても掠り傷一つ負わせられない状況で、ワタシはそう直感した。


 いや、これはもしかして、ワタシの不注意が原因だろうか。いや、警戒しなさすぎたのが原因か。これまで、ワタシは基本的に不審な言動をとった人物から順番に殺害していった。でも、キマタには目立った言動はなく、むしろ意識の外にあるような感じだった。


 もし、ワタシの意識の外にあるときに、キマタが何らかの重要な行動を起こしていたらどうする。ワタシに対抗する術を考え出して、計画を立てて、殺害しようとしていたらどうする。


 そうでないと説明がつかない。今日は雨が降っていてこんなにうるさいのに、こんなに視界が悪いのに、草むらに隠れているワタシの存在に気がつくには。避けられるはずがない特殊拳銃から避け、一直線にワタシのことを追いかけるには。


「……がっ……はっ……!」


 何度も何度も特殊拳銃の引き金を引き、ときにはありったけのナイフを投げたりもしたが、キマタはその全てを避け、走る速度を落とすことなくジリジリと詰め寄ってくる。そして、ついにワタシはキマタに肩を掴まれ、勢いよく地面に押し倒された。その際、手に持っていた特殊拳銃は草むらの中に消えていき、持ってきたナイフは全て使い切ってしまっていた。


 汗なのか雨水なのか、全身がぐっしょりと濡れていて気持ちが悪い。キマタに両腕両足を拘束され、身動きがとれない。ワタシもキマタも完全に息が上がっている状態で、数十秒間、雨の音だけが辺りに響き渡る。


 そして、不意にキマタがワタシの上に乗りながら、話しかけてくる。


「天王野……お前が、みんなを殺したのか?」

「……、」

「お前が冥加を、水科を、火狭を、土館を、海鉾を、仮暮先生やクラスメイトまで殺したのか?」

「……、」

「俺だって、途中から何かがおかしいとは思っていた。俺の周りで次々と殺人事件が起きて、現代では考えられないテロ行為が行われて、行方不明者も出て。みんなとの話し合いで天王野が怪しいということも分かっていた」

「……、」

「だから、俺はもっと早くに手を打つべきだった。冥加や海鉾が殺されたときに気がつくべきだった。そのときに手を打っていれば、仮暮先生、クラスメイトのみんな、土館、水科、そして火狭を救えたかもしれない」

「……、」

「俺はお前のことを許すことはできない。俺の……俺の友だちを、親友を、火狭を殺したお前を……!」


 そう言った後、キマタは右手に持っていたナイフを勢いよくワタシに振り下ろした。しかし、そのナイフはワタシの胸に突き刺さる直前、動きを止めた。


「遷杜様。少しお待ち下さい」


 ふと顔を上げてみるとそこには、雨に打たれたからなのか髪が濡れて髪型が崩れている、カナイズミの姿があった。

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