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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第二十四話 『轢殺』

 学校の奥にある倉庫。ここは普段は使われることがないが、体育の授業の際に何か準備するものがあるとき、それを取りにくることがある。また、倉庫の近くには簡易的なごみ処理装置もあり、掃除の際に出たごみを捨てるときもここまで来る必要がある。


 ただ、今回に限ってはそのどちらにも当てはまらない。ワタシは、タイヨウロウをここまで誘導することに成功し、その後ろについてきていた。一応、名目としてはワタシの髪飾りを探すということになっているけど、あいにくワタシは探し物なんてしていない。


 タイヨウロウが、倉庫の入り口のドアに取り付けられているパネルに暗証番号を入力していく。すると、倉庫のドアが開かれ、薄暗い内装がワタシの目に映る。それほど広いわけではないけど、狭いわけでもない。でも、倉庫の近くは人通りが少なくて、大声を出しても誰も気がつけない。ワタシにとって最適な場所であるといえるだろう。


 倉庫の入り口のドアが開いた後、タイヨウロウは一瞬だけワタシのほうを見て、倉庫の中へと入っていった。一方のワタシは、タイヨウロウがこちらを見ておらず、薄暗い倉庫の中に入ったとき、鞄からバールを一本取り出した。


「えーっと……それで、天王野さん。髪飾りをなくしたというのは、体育の何の授業のときの話ですか? それが分かれば――」


 タイヨウロウは薄暗い倉庫の中で電気を点けることもせず、ワタシに背を向けた状態で話しかけてくる。しかし、ワタシはそんなタイヨウロウに構うことなく、その背後からバールを力づくで振り下ろした。


 あえて、後頭部を狙ったりはしない。当たり所が悪ければ、そのまま殺害してしまう可能性があるから。だから、首の後ろ部分、背骨の付近を狙う。ここなら、うっかり骨を折ったとしても死に至る可能性は低くなるし、何度か殴りつけておけば気絶させることができる。


「……ぁ……がっ……何を……」


 ワタシが振り下ろしたバールが首元に命中したタイヨウロウから、うめき声のような、苦しみもがく声が聞こえてくる。ワタシはそんなタイヨウロウの姿を見ながら、ただただ『タノシイ』と思いつつ、何度も何度もバールで殴りつける。


 五回ほど殴ったとき、ようやく気絶してくれたのか、タイヨウロウの動きがなくなった。声が聞こえなくなり、抵抗しなくなった。一瞬だけ、やり過ぎて殺害してしまったのかと焦ったけど、確認してみたら気絶しただけなのだということが分かった。


 タイヨウロウが気絶した後、ワタシは倉庫の入り口を閉め、意識がないタイヨウロウの体を倉庫の奥にある床に寝かせた。そして、これから起こる、楽しい楽しい殺戮ショーのための準備を始める。


 本来、女子高校生が持っている鞄からは出てこないようなものが次々と出てくる。その中には、タブレットなどの必要不可欠なものは入っておらず、代わりにバールをはじめとした大量の凶器が入っている。持ち歩く際にガチャガチャと音を立てないように歩くのが大変だ。


 それから五分後、ようやく準備が終わったとき、不意にタイヨウロウの目が覚めたらしく、床の上で横になりながら声を発し始めた。


「……う……あれ……? ここは……それに、体が動かない……」

「……あ、起きましたかぁ? ……先生?」

「あ、天王野さん……? これは、いったい――」

「……見ての通りの状況ですよぉ? ……さっき、ワタシは背後から先生を殴りつけて気絶させましたぁ。……それで、強力な接着剤を塗った床の上に寝かせたというわけですぅ」


 別に、わざわざこんな回りくどい方法でタイヨウロウを縛り付ける必要はない。ただ、それだと面白くない。だから、ワタシはあえて接着剤でタイヨウロウの動きを拘束することにした。


 いくらその接着剤が服にしかついていないとはいえ、全身の身動きがとれなくなっている以上、簡単に抜け出すことは不可能。それでも、服を破るつもりで力を込めれば抜け出すことはできるけど、それには時間がかかるし、女性であるタイヨウロウならなおさらだ。


 念のため、タイヨウロウの体を縛り付けるような形でベルトを巻いているから、そこまで気にすることもでない。接着剤とベルト、どちらのほうが拘束力が高いのかは知らないけど、どちらも重要だからいいということにしておこう。


 ワタシの台詞を聞いたタイヨウロウは、床に拘束された状態のままワタシのほうを睨みつけてくる。でも、今のタイヨウロウは身動きが取れなくなっていて、大声を出しても誰も気がつけないから、まったく怖くなかった。すると、タイヨウロウがワタシに聞いてくる。


「何で、こんなことを……」

「……『何で』? ……それはもちろん、オマエから情報を聞き出すためだよ。……タイヨウロウ」

「そういえば、喋り方が……」

「……何? ……今頃気がついたの? 教師という職業についておきながら、教え子の様子の変化にすら気がつけないとか、現代の教育環境は終わっているんじゃないの?」

「……っ」

「……まあ、昨日はクラスメイトを大量に殺害できて、気分がよくなっていたから、あんな喋り方をしていたけど、どうだった? ……普段は『先生』なんて呼ばれていないのに今日は呼ばれて、普段は助けを求められたりしないのに今日は求められて。……そのときの気分はどうだった? ……そして、裏切られたことについて気分はどう?」

「やはり、天王野さんがみなさんを……」

「……あれぇ? ……もしかして、先生は気がついていたんですかぁ? ……もちろん、そのことは誰にも言っていませんよねぇ? ……もし、『誰かに言った』とかほざくようなら、ぶっ殺しますよぉ?」

「まさか本当にそうだったなんて思っていなかったから、言えるわけないですよ……私がもっと早くに気がついていれば、あの子たちは……」

「……黙れ偽善者」


 さて、そろそろ本題に入るとしよう。今回、ワタシがタイヨウロウを倉庫に誘導し、気絶させ、床に拘束したのには理由がある。それは、ワタシが圧倒的優位に立つことでタイヨウロウから情報を聞き出し、用済みになったタイヨウロウを処分しやすくするため。


 ワタシはタイヨウロウの台詞を一瞥した後、そのまま続ける。


「……今から、ワタシがする質問に答えろ。……答えなかったり、嘘を言ったら、この場でオマエを殺害する」

「くっ……」


 タイヨウロウは、ワタシが殺人を躊躇わないということを察したのか、そんな風に後悔しているような声を漏らした。ワタシは、すぐに質問に入る。


「……昨日、ワタシが教室を密室状態にしたとき、二重ロックを解除して教室のドアを開けたり、カナイズミたち八人を逃がしたのは、オマエか?」

「はい、その通りです。天王野さんが犯人だということに気がついたのはもう少し後ですが、そうしたのは私です」


 昨日、ワタシは友だちグループを含めたクラスメイト二十五人とタイヨウロウを殺害するため、全ての教室を密室状態にし、二年四組の教室に毒ガスを発生させる容器を投げ入れた。また、カナイズミが内側からパスワードを上書きしてワタシの作戦が破られると思い、ワタシは二重で不規則な鍵をかけておいた。


 それなのに、何者かによってその二重ロックさえも破らてしまった。透明な強化ガラスを真っ白にしていたのに再び透明に戻され、開くはずのない教室のドアは開いた。咄嗟に爆弾を投げ込むことによって教室の外に逃げ出そうとした者を殺害することはできたものの、最終的に本命である五人には逃げられてしまった。


 このとき、ワタシには誰がそんなことをしたのかが分からなかった。有力候補のカナイズミには不自然な行動は見られず、同様にして友だちグループのメンバーにもおかしなところはなかった。


 それに、クラスメイトにはプログラマーやハッカーなどのコンピューターに強い者はいなかったはず。そもそも、クラスメイトは誰一人としてPICを触ったり、教室に入ってすぐのところにあるパネルに触れている者はいなかった。


 だったら、誰がワタシが仕掛けた二重ロックを破り、クラスメイトたちを誘導したのか。これらの情報だけなら、分かるはずがない。ワタシも、最初はそう思っていた。でも、これらの情報をよく見てみると、少しずつその解答を導き出すことができる。


 てっきり、ワタシは友だちグループのメンバーやクラスメイトたちが何かをしたのかと思いこんでいた。だから、壁に隠れながら、教室中をくまなく見回し、クラスメイトたち全員の動向を伺っていた。しかし、ワタシのその予想は外れており、実際にはまったく異なるところで動きがあった。


 それこそが、タイヨウロウの存在。ワタシは友だちグループのメンバーやクラスメイトたちにばかり注意を向けており、タイヨウロウのことをすっかり忘れていた。おそらく、ワタシが教室を見回しているとき、タイヨウロウは机の影に隠れるなどしながら、パスワードを解いていたのだろう。


 そして、ワタシが仕掛けた二重ロックを破り、透明な強化ガラスの設定を戻し、教室のドアを開き、クラスメイト八人を避難させることに成功した。


 確か、透明な強化ガラスが多く設置されている学校で働いている教職員は、透明な強化ガラスの設定を変更できるパスワードを知っていたはず。それに、以前からタイヨウロウはPICをはじめとしたコンピューターに詳しいことで有名だ。だから、これくらいのこと、できなくてもおかしくない。


 自分の脳内で考えをまとめた後、ワタシはタイヨウロウを見下ろすような形で眺める。思いのほかすんなりと答えてくれたから、面倒な行動に出る必要もなくなった。


 あとは、殺すか。


「……ありがとうございます、先生。……これでもう、ワタシが先生に聞きたいことは分かりましたぁ」

「そ、そうですか。それでは、すぐにこのベルトと接着剤を――」

「……は? ……何、寝ぼけたこと言ってるの?」

「わ、私は天王野さんの質問に正直に答えましたよね? だったら、約束は果たされたはず――」

「……まさか、このワタシが、自分の犯行を邪魔した挙句、ワタシが犯人だということに気がついていて、こんなことまでしたやつのことを生かしておくとでも思った?」

「え……?」

「……頭の中、お花畑過ぎるんだよ。……ばーか」


 唖然とするタイヨウロウのことを嘲笑うかのようにそう言った後、ワタシは倉庫の中で見つけておいた古いタイプのローラーを引きずり、それをタイヨウロウの足元に運んだ。そして、鞄の中からいくつか仕掛けになるものを取り出していき、そのローラーが時間の経過とともに少しずつ移動するような状態を作り出した。


 この古いタイプのローラー、どういう用途だったのかは分からないけど、こんなものが体育の授業で使われていただなんて、戦争前の日本はどんな状態だったんだろう。まあ、理由は知らないけどこんなところに都合よく置いてあるんだから、使わない手はないでしょ。


「そ、それをどうするつもりですか……?」

「……見て分からない? ……一応、タイマーは五分に設定しておくか。……これから、オマエは五分間に渡ってこのローラーに轢き殺されることになる。……それに、頭からじゃなくて足から発進させるから、すぐには死ねない。……痛いぞぉ~苦しいぞぉ~。……アハハハハハハハハ!!」

「ひっ……」


 直後、ワタシがローラーに触れると、そのローラーはゆっくりと前へ進んでいく。五分間じっくり時間をかけて、タイヨウロウの体がグチャグチャのミンチ状態になるまですり潰し、ただの赤い跡にしかならないように殺害する。


 すると、ローラーは早くもタイヨウロウの足を踏み潰し始めたらしく、ビチビチブチブチと肉がすり潰され、骨が砕かれていく生々しい音とともに、倉庫内にタイヨウロウの悲鳴が響き渡る。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!!! 止めて! 今すぐ止めてええええ!!」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 タイヨウロウの悲鳴が聞こえ、肉が押し潰されたことによって辺りに大量の血液が飛び散る。その様子を見ながら、心底楽しくなったワタシは狂ったように笑う。


 自分は安全地帯にいるにも関わらず、目の前では一人の人間が死を目前としてもがき苦しんでいる。昨日も似たような感情を得たけど、やはりこの状況は最高だ。


 その後しばらくの間、ワタシはローラーに轢かれているタイヨウロウの姿を観察していた。たぶん、腹部辺りまできたら内臓が破裂したり、出血多量で死亡すると思うから、それまでは待っておこう。そんな気持ちだった。


 しかし、ローラーがタイヨウロウの膝くらいの位置まできたとき、突如としてタイヨウロウの様子が豹変した。何がどうしてそうなったのかは分からないし、理由を聞こうとも思わない。おそらく、あまりの激痛と目前まで迫っている死の恐怖から気が狂ったから、そうなったのだろう。


「アハ……アハハハハハハハハ!!」

「……?」

「私を殺したところで、お前たちの境遇は何一つとして変わらない! お前たちは、永遠に、この絶対に抜け出すことのできない世界で殺し合うしかない! プロジェクトなんて、最初から果たせるようなものじゃないんだよ! お前たちは一生、この無限の牢獄の中で何度も何度も何度も何度も苦しんで苦しんで苦しんで苦しんで、最後には絶望する! そんな結末しか待っていないんだよ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」


 いったい、タイヨウロウは何のことを言っているのだろう。考えられる限りのことは考えたものの、その解答は出ない。まあでも、どうせこれは断末魔の叫びのようなものだから、そこまで気にする必要もないだろう。ワタシはそう結論づけて、ローラーに轢かれていくタイヨウロウの姿を眺めていた。


 そして、ついにローラーがタイヨウロウの腸や胃辺りまできたとき、それまで以上の大きさのタイヨウロウの悲鳴が倉庫内に響き渡った。その後、タイヨウロウは二度と声を発することはなくなり、目を見開いたまま無抵抗でローラーに押し潰されていった。


 ローラーを発進させてから五分後、倉庫の中に残っているのはワタシと、その目の前の床に広がる真っ赤な跡のみ。その赤は大量の血液によるもので、うっすらと人影のようにも見える。ただ、ローラーによって押し潰されたため厚さはほとんどなく、内臓は潰れ、もはや人の形ではなくなっている。


 ワタシはその惨状を見届けた後、片付けもせずに、教室へと向かった。

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