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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第二十三話 『変化』

 二一二三年十月二十七日火曜日、午前八時〇分。昨日、ワタシが引き起こしたクラスメイト大量虐殺事件から一日が経過した。今日、ワタシは死体を見つけることができなかった、カナイズミ、ヒサバ、ミズシナ、キマタ、タイヨウロウの五人とその他四人の行方を探すため、学校に来ていた。


 学校に着くと、突然校門に立っていた教職員に引き止められ、学年とクラスを聞かれた。面倒臭かったのでその場で射殺してやろうかと思ったけどそんなことはせず、正直に答えると、そのまま第二職員室に連れて行かれた。そして、第二職員室の中にいたタイヨウロウの前に立たされた。


 タイヨウロウは第二職員室で簡易の机の前に座っており、真剣そうな表情をしていた。しかし、別の教職員によって第二職員室に連れてこられたワタシの姿を見ると、急に表情が変わり明るくなった。ワタシも、そんなタイヨウロウに対応するように、満面の笑顔で返した。


「あ、天王野さん! よかった……無事だったんですね」

「……? ……何かあったんですかぁ?」

「ええ、まあ……あら……? その左目の眼帯、どうされたんですか?」

「……ああ、これですかぁ? ……家にいるときに階段から落ちて、手すりに顔をぶつけて、抉れましたぁ」

「だ、大丈夫なんですか……? 抉れたって、そんな――」

「……別に、ワタシは大丈夫ですよぉ? ……目が一つなくなっただけですし、そこまで不便ではないですからぁ」

「そ、そうですか……」


 さすがに、『透明人間にバールを投げられて、左目が取れました』なんてことは言えないので、テキトウに嘘をついておく。ワタシは平気だと言っているにも関わらず、タイヨウロウはワタシの台詞を聞くと顔を曇らせ、やけに心配そうな表情を見せてくる。


 しかし、余談ばかりで時間を使うのも勿体ないと思ったのだろう。急に、タイヨウロウはそんな暗い雰囲気から一転し、今度は真剣な雰囲気でワタシに話しかけてくる。ワタシも、そんなタイヨウロウに対応するように、真剣な表情で返した。


「お友だちのみなさんから、昨日のことを聞いていませんか?」

「……昨日のこと、ですかぁ?」

「実は昨日、本校校舎内で大規模なテロ行為があったんです」

「……そうだったんですかぁ? ……今どき、そんなことが起きるなんて、学校のセキュリティ能力の低さに驚きですねぇ」

「あはは……セキュリティについてはまた今度……それで話を戻しますが、その犯人は単独犯だったのか複数犯だったのかは分かりません。ただ、その犯人は校舎内の連絡機器を全て破壊し、コンピューターに特殊な信号を送って、全ての教室を密室状態にしました。その際、第一職員室にいた教職員一名を殺害し、その後、天王野さんが所属しているクラスである二年四組に爆弾を投げ込み、クラスメイトの大半を殺害しました」

「……え……それは、残虐なテロですねぇ」

「ええ。悲惨で、残酷な事件です。それで、昨日学校をお休みしていてそんな酷い目に合わなかった天王野さんにそのことをお話ししようと思い、こうして第二職員室に来てもらったというわけです」

「……そうだったんですかぁ。……どうも、ありがとうございますぅ」


 昨日、ワタシはクラスメイトの大半、数えた限りでは十七人を殺害した。ワタシの本来の目的は、担任教師であるタイヨウロウと、友だちグループのメンバーであるカナイズミ、ヒサバ、ミズシナ、キマタを殺害すること。


 しかし、なぜかこいつらは全員生き残り、どうでもいいやつらばかりを殺害するはめになった。お陰様で、こんなことになってしまっている。動きにくいとしか言いようのない、居心地の悪い世界に成り果ててしまった元々、こんな世界は滅びればいいと思っていたけど、その思いはより一層強くなったように思える。


 天王野葵聖が二年四組の中で唯一欠席した日、大規模なテロ行為が行われ、教職員一名と二年四組の生徒十七人が死亡した。そして、それまでにも、何者かによって四人の生徒が殺害されている。


 これだけのことがあったのだから、学校側が何も対策を講じないとは思えない。現に、昨日欠席したワタシはこうして、普段は使用されない第二職員室に呼び出されている。


 職員室はともかくとして、二年四組の教室はそれはそれは酷い有様であると同時に、ワタシにとっては非常に楽しい空間でもある。おそらく、この感覚を理解できない大人たちはその二つの教室を使用できないと決めつけ、本来果たすべき業務を執行する部屋を別に移したのだろう。


 ワタシは、タイヨウロウには最後に聞いておかないといけないことがあると思い、心配している風にしながら、続けて話しかけた。


「……えっと、それで、みんなは――」

「あ、そうでしたね。言い忘れるところでした。そのとき教室にいた私と天王野さんのお友だち四人、そして他の生徒四人だけは逃げることができて、こうして何とか生き延びています」

「……本当ですかぁ? ……それはよかったですぅ」

「生き延びることができたのは私を含めてたったの九人ですが、逆にいえば、これだけの人数は生き延びることができたのですから、不幸中の幸いというべきでしょう。ただ、昨日の事件で十七人もの生徒がいなくなってしまったというのは、私にとってもみなさんにとってもつらい出来事だということには変わりありません。天王野さんも最初は困惑するかもしれませんが、実際に現場にいたみなさんに会ったら、何か声をかけてあげてください」

「……はーい」


 めんどくさ。誰がするか、そんなこと。


「あ、もう一つ言い忘れるところでした」

「……?」

「もう気がついているかもしれませんが、昨日の事件を受けて、普段使われていた第一職員室と二年四組の教室はしばらくの間、閉鎖することになりました。その代わり、教職員は全員この第二職員室に移り、天王野さんたち二年四組の生徒は北館一階の空き教室で授業を受けることになります」

「……へぇー」

「また、昨日の事件でショックを受けてしまった生徒も多くいますし、保護者の方々の抗議もあり、本日からしばらくの間は学校を休んでも欠席扱いにはならなくなりました。これは、授業は行いますが、傷ついた心のケアも大切だという校長先生の判断です。決してずる休みしてもいいということではないので、できる限り授業に参加してもらったほうがいいでしょう。あと、詳しいことは教室で話しますので、今はこれくらいだけ簡単に説明しておくことにします」

「……お気遣い、どーもぉ」


 やはり、ワタシの想像以上に状況は複雑化してしまっている。クラスメイト十七人を殺害できたとはいえ、その成果と状況的代償が見合っていない。


 二つの教室が使用不可能となり、それぞれの教室の代わりに別の教室で本来果たすべき業務が行われる。また、よく分からない理由で自由登校になっているから、必然的に学校にいる生徒の数は少なくなり、目撃者が少なくなるとはいえ、殺人をするための的と身を隠すための盾が少なくなってしまっている。


 さらに、思いのほか学校は昨日のテロ行為への対抗策を模索しているように見えるから、おそらく、もう透明な強化ガラスの設定を変更できるパスワードは使用できない。もしくは、使用してしまったら足がついてしまい、ワタシが犯人なのだということが判明する。


 ひとまず、登校後すぐにするつもりだった、ワタシが殺害し損ねた九人の生存を確認することができた。どうやって生き残ったのか、どうして他のクラスメイトを助けられなかったのか、そういうことを聞くと、ワタシが今日始めて事件のことを知ったのではないということが判明してしまう。だから、それを聞くことはできない。


 だったら、とりあえず、最大の不穏因子から順番に消去していこう。


「……先生っ!」

「え? あ、天王野さん? そんな急に、どうされたんですか?」


 何の前触れなく、ワタシはタイヨウロウに抱きついた。別に、抱きついたときにナイフを刺そうだとか、特殊拳銃を発砲しようだなんて思っていない。そんな芸術性のない殺人には意味がないし、そもそも、人間が多い職員室でそんなことはできない。


 ワタシはタイヨウロウに抱きつくなり、その胸に顔をうずめた。そして、小刻みに体を震わせ、怯えているような、怖がっているような様子を見せる。その後、タイヨウロウがワタシのことを心配して声をかけてきたとき、瞳をうるうるさせて涙を堪えているような表情を見せた。


「……ワタシ、今の話聞いていて、少し怖くなってしまいましたぁ……」

「天王野さん……」

「……だって……これまでだって、ジビキとミョウガとカイホコが酷い死に方をしたじゃないですかぁ……。……だから、次はワタシなんじゃないかって、不安で、不安でぇ……。……昨日も、そんなことを考えていると頭が痛くなったり、吐き気がしてきたりぃ……」

「だ、大丈夫ですよ! 今頃、警察の方々が犯人探しをしてくれているはずです! ですから、不安になるのも分かりますが、お友だちと一緒に助け合ってください!」

「……せ、先生……」


 タイヨウロウの台詞の後、ワタシは大粒の涙を流しながら、再びタイヨウロウの体に抱きついた。タイヨウロウは、そんなワタシの髪を優しく撫で始めた。


 触るな。汚れる。正直いって、こんな演技は二度とごめんだ。誰が好き好んでこんなことをするか。クソが。


「今の天王野さんの台詞で一つ思い出したのですが……」

「……え?」

「実は昨日、天王野さん同様に学校を欠席した生徒がもう一人いるんです。それに、今日も今のところはまだ登校していません」

「……それって、誰なんですかぁ?」

「……土館誓許さんです」

「……!」

「土曜日、火狭さんが土館さんと二人でお買い物に行ったという話は聞いているのですが、それを最後に、土館さんの行方は分からなくなっています。まあ、今日でまだ二日目ですから、それほど気にする必要もないとは思うのですが、最近のこともありますからね……」


 なるほど。ワタシがわざわざ聞くまでもなく、タイヨウロウが勝手に答えてくれて助かった。


 日曜日、ワタシはツチダテを殺害し、その後現れた透明人間も殺害した。そのとき、なぜかヒサバとミズシナが殺人現場である地下室に姿を現したけど、特に何かをすることなく、立ち去っていった。


 これらの事実はまだ知られていない。確かに、ツチダテの死体が出ていないのだから、生死の判断ができなくても当然だ。だから、世間ではツチダテは行方不明になっているとして処理されているのだということが、今のタイヨウロウの台詞から分かる。


 さて、ある程度の情報が集まったところで、そろそろ本筋に入るとしよう。


「……せ、先生……。……ワタシ、怖いですぅ……」

「もう……天王野さんの気持ちも分かりますけど、高校生なんですから、そんなに泣かないの。今は私がついていますから、安心してください」

「……それじゃあ、一つだけお願い事してもいいですかぁ?」

「……? はい、何でしょうか?」

「……ワタシ、無くし物しちゃって困ってるんですぅ。……たぶん、体育の授業で学校の奥にある倉庫に行ったときに無くしたと思うんですけど、一人じゃ怖くて行けなくてぇ……」

「あ、そうなんですか? その無くし物というのは、何ですか?」

「……えっと、髪飾りですぅ」

「そういえば、今日は髪に付けているリボンの長さが短めですもんね。スペアみたいなものですか」


 あー、違う違う。義理の父親とかいうクソジジイに引き千切られて、それを縫い直したから短くなっただけだよ。馬鹿か。というか、先週の木曜日からずっとこうだっただろうが。気がついてなかったのかよ。


「それなら、今から探しに行きましょうか。天王野さんの髪飾りならすぐに見つかりそうですし、授業まではまだ時間があります。急いで倉庫に向かって探せば、一時間目の授業にも間に合うでしょう。それに、天王野さんだって、昼休みはお友だちと一緒にお弁当を食べたいでしょうし」

「……本当ですかぁ? ……ありがとうございますぅ」


 こうして、ワタシは学校の奥にある倉庫にタイヨウロウを連れて行くことに成功した。タイヨウロウはただ純粋に、傷付いた心を持っている教え子の探し物を手伝うというだけの善意でワタシの誘いに乗ってくれたんだろうけど、そこでどうなるのかはまったく想像もできていないことだろう。


 タイヨウロウだけは、今すぐにでも殺害しておきたい。ワタシは、昨日からずっとそう思っていた。これから先、タイヨウロウをいつまでも生かしておくと、ワタシの行動に大きな制限がかかってしまう。いや、妨害だとかそういうレベルを超え、行動できなくなってしまう。それほどまでに、タイヨウロウの存在は大きい。なぜなら……、


 タイヨウロウこそが、昨日、ワタシが仕掛けておいた二重ロックを解除し、クラスメイト八人を逃がした張本人だからだ。

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