表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
73/210

第十三話 『条件』

 まさか、ミズシナがバイトをしたいと言ってくるとは思いもしなかった。しかも、もうすでに死亡しているワタシの義理の両親が元々統率していた組織を選択するということも驚きであり、そんなことはまるで予測していなかった。


 ワタシはこの二日くらいの間、ヒサバとミズシナの様子がどこかおかしいと感じており、その行動が見えないということも関係して、他の人たちに比べれば警戒していた。でも、それらは全てワタシの杞憂だったのだろう。


 ヒサバとミズシナがこそこそと話していたのは、ヒサバの誕生日プレゼントは何がいいかとか、その日はどうするかなどの相談だったのだろう。友だちが何人も殺害された後でそんな話を他人に聞かれると不謹慎だと思われるから、あえて二人は他人に聞こえないようにそうしていた。


 そして、さっきミズシナがワタシにバイトをしたいと頼んだときも、ミズシナからはワタシを陥れようとする気配は感じられず、ただ純粋にヒサバにプレゼントを買うためのお金が欲しくてバイトをしたいという気持ちだけが感じられた。


 これらのことによって、ヒサバとミズシナはワタシに敵対する存在ではないということが発覚した。ワタシからでは見えなかった二人の行動も、ミズシナがバイトをしたいと言ってきたことによって解決され、それと同時にヒサバとミズシナへの容疑も晴れた。


 とりあえず、これ以降はヒサバとミズシナが何か特殊な行動をしてくる可能性も考慮しつつ、カナイズミやツチダテやキマタよりは警戒を解いておこう。さすがのワタシも四六時中いつでもどこでも気を張り詰めているのは疲れるし、ミズシナがバイトに来たときくらいは緩めても構わないはず。


 ワタシの計画に時間制限はない。確かに、この間立てた計画では一週間から二週間くらいで例の電話相手の女性からの依頼を達成できるけど、それほど焦る必要もない。いや、というよりはむしろ、無理に焦ってミスをするよりも、ゆっくりとノーミスで事を進めるほうが大事。


 昨日だって、ミョウガを呼んで話しをしようと思っただけだったのに、ミョウガから返り討ちを食らった。その結果、ミョウガに目をつけられたと感じたワタシはその場でジビキの復讐を果たした。計画では、もうしばらくミョウガのことは泳がせて、充分に情報を得られてから殺害するつもりだったのに。


 まあ、後悔してもしかたがない。大怪我はしたものの、逆に殺害されなかっただけマシだったというべきだろう。もし、ワタシが特殊拳銃の照準を外してミョウガが生存していた場合、ワタシはもうこの世にはいなかっただろうから。


 さて、現在のワタシの状況分析が大方終了したところで、そろそろ次の行動へと移ろう。さっきミズシナのバイトの件を承認したときは念のためいつでも計画が変更できるように『両親に頼んでみる』と言っておいたけど、その必要もなさそうなので、今からミズシナに連絡しようというわけ。


 PICを操作して、ミズシナに電話をかける。数回の呼び出し音の後、PICの立体映像上にミズシナとその背景が映し出され、通話が始まる。


「……ミズシナ、今少しいい?」

『うん、大丈夫だよ。たぶん、僕がバイトをしたいって言った件についての連絡だよね? どうだった?』

「……勘がいい」

『それほどでも』

「……つい何日か前に急に組織をやめた人がいたみたいで、丁度人手不足だったみたい。……だから、大した仕事は任せられないけど、来れるのなら明日から来てほしいって」

『あ、本当に? 良かったー。もし断られたらどうしようかと思って、今も心臓バクバクだったんだよー』

「……そう」


 やはり、今映像通話をしている限りでも、ミズシナに不審な動きは見られず、奇妙な雰囲気も感じられない。これは、本当に誰がどう見てもいつも通りのミズシナだ。それ以外の何者でもない。


 でも、少しは警戒すると決めたのだから、念のため釘を刺しておこう。それにもし、この忠告をミズシナが受け入れないのであれば、ミズシナのことは改めて敵対する存在なのだと認識せざるをえなくなる。


 ホッと胸を撫で下ろすかのように安堵の溜め息をついているミズシナ。そんなミズシナの様子は数秒間眺めた後、ワタシは不意にミズシナに話しかけた。


「……でも、ミズシナをバイトとしてうちで雇いにあたって、いくつかの条件がある」

『条件? どんな?』

「……まず最初に労働時間。……うちは元々、何時から働いて何時で終わるのかがあまり決まっていない。……仮にも特殊な分野を研究するところだから、どうしても夜明けまで作業をしていたり、逆に昼間は何もしていなかったりする」

『なるほど』

「……でも、ミズシナはワタシ同様に学生だし、あまり帰りが遅いとヒサバに心配されるだろうから、労働時間を決めておこうと思う。……日によって多少は前後すると思うけど、学校に行かない日は午前十時から午後六時くらいで、学校がある日は午後五時から午後九時に設定しておく」

『うん、分かった。僕は雇ってもらう側だから、そういうことは連絡さえしてくれれば葵聖ちゃんのほうで勝手に決めてもらって構わないよ』


 ワタシの台詞に対してそう返事をするミズシナ。でも、実際のところワタシは、ミズシナの学校だとかヒサバだとかそういうことに心配してそんな条件を加えたわけではなく、全てはワタシの計画成功のためでしかなかった。


 朝早いの時間帯や夜遅い時間帯はワタシ自身の体の動きが鈍くなるということもあり、もし突然攻撃されたら返り討ちにできない可能性がある。だから、ミズシナは昼間の時間、もしくは放課後の時間にしか働かせない。それに、朝早い時間はその日の計画を立てて再確認したいし、夜遅い時間は次の日の計画の準備をする必要がある。


 もちろん、この二つの理由以外にも色々と細かい理由はあるけど、一部理由になっていないものもあるので、省略。何はともあれ、ミズシナはワタシからの条件を簡単に呑んでくれたので、ワタシは次の条件提示へと移ることにした。


「……次に二つ目は、仕事をしているときはサボらずに、基本的に何か指示があるまで仕事場にいてもらいたいということ」

『うん? いや、一応僕から雇ってほしいと言ったわけだし、サボったりするのは失礼だと思うからしないけど……。それに、仕事をサボったら、その分だけ給料が減りそうだし』

「……ミズシナなら大丈夫だろうけど、ときどきそういうやつもいるから念のため。……あと、うちの組織の仕事場はうちの家と隣接しているから、家には上がってこないで」

『あー……それは大丈夫。僕だってそれくらいの常識は持ち合わせているからね』


 少し警戒し過ぎただろうか。ミズシナは特に気にしていないみたいだったけど、ワタシは自分の台詞を言った後、やけにもどかしい気持ちになった。でも、そんな気持ちも、数秒後にはなくなっていたけど。


 当然のことながら、今ワタシが言ったこともミズシナ自身を心配したわけではなく、ワタシ自身のためにほかならない。全てはワタシの計画のため、ワタシ自身のため。


 『仕事をサボるな』というのは、ミズシナに他のこと、具体的にはワタシを陥れようとする考えをさせないため。とはいっても、どちらかというとこれはもう一つの忠告のためのカモフラージュの役割のほうが大きい。


 その『家に上がってくるな』というのは、この約束が破られてしまえばワタシの計画が大きく崩れることに繋がるから。ワタシの家の中の一室は一面真っ赤に染まっておりいまだに七つの悲惨な状態の死体が転がっている。


 自分で片付けはしたくないし、カナイズミに派遣した警察官五人には他の仕事をさせているから、このまま放置せざるをえない。だから、絶対にミズシナを家に上げるわけにはいかない。別に、家に入られてすぐに発見されるとも思わないけど、その可能性がある以上、警戒するに越したことはない。


 というか、よく考えてみれば、今回のミズシナのバイト承認はワタシにとって多くの危険因子を生むだけで、特にメリットがないような気がする。もちろん、ミズシナのバイトを承認しなかった場合に生まれる危険因子を排除しただけでも充分だけど、少し考えが浅はかだったかもしれない。


 こんなワタシでも、ミズシナの境遇を思って同情してしまったというのか。だから、自分のメリットデメリットを深く考えもしないで、気がつけばミズシナのバイトを承認してしまっている。今さら断るわけにもいかないし。


 とりあえず、一応伝えたいことは全て伝えられたので、そろそろ電話を切ろうかと思ったとき、不意にミズシナがワタシに話しかけてくる。


『あ、そうだ、葵聖ちゃん』

「……何?」

『葵聖ちゃんから、僕のバイトが承認されたってことを伝えてもらえたのはよかったんだけど、一応ご両親にもお礼を言っておきたくてね。ほら、面接とかそういう類いのこともなかったし、何よりも急なことだったから』

「……っ」

『葵聖ちゃん?』

「……実は、両親は今いない」

『どういうこと?』

「……明日から用事で遠くのほうに行くことになっていて、今はその準備で買い物に行っている。……だから、今は電話を代わることはできないし、明日ミズシナが会うこともできない」

『あー、そうだったのかー。それじゃあ、仕方ないね。葵聖ちゃんのほうから、僕がお礼を言っていたって言っておいてくれる?』

「……うん」

『ありがとう――あ、沙祈がそろそろ家に来る頃だから、また明日ね』

「……また明日」


 そう言って、ミズシナとの電話は終わった。


 おそらく、ミズシナはただ純粋にお礼が言いたくてワタシの義理の両親に会いたいと言ったのだと思うけど、そういうわけにはいかない。いや、そもそもワタシの義理の家族はもう死んでいるのだから、そんなことはできるわけがない。


 やっぱり、ミズシナのバイト承認なんてしないほうがよかったかもしれない。ミズシナが無意識のうちに言っていることが度々ワタシの精神を攻撃してくるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ