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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第十一話 『奇妙』

 ミョウガとカイホコを殺害してから一晩が経ち、次の日の朝になった。昨日は早く登校したけど、今日はそんなことはなく比較的いつも通りに登校した。そして、自分のホームルーム教室に着くと同時に、ワタシはふとある違和感を覚えた。


 教室の中には、友だちグループのメンバーたちだけでなくそれ以外のクラスメイトもおり、それぞれが普段とは何ら変わらない様子で過ごしている。ただ、友だちグループのメンバーだけはミョウガとカイホコが殺害されたということもあってなのか、若干気分が落ち込んでいるようにも見える。


 でも、それでもやはり、教室の中の光景はいたって何の変哲もないものだった。しかし、それこそがワタシの中の違和感を駆り立てている。


 まず、昨日ワタシがミョウガとカイホコを殺害したときに教室中には一面真っ赤に染まってしまうほどの血液や臓器が散らばっていた。だけど、今はそんなことはなく、教室の壁である透明な強化ガラスはただ一つの曇りもなく、床や机も艶が出るほど綺麗になっている。


 おそらく、昨日カナイズミたちに連絡を受けたタイヨウロウら教職員が殺人事件が起きたということを警察に通報して、そのときにカナイズミに派遣してもらった警察官たちが綺麗に後片付けておいてくれたのだということは分かる。


 そうだとしても、いきら事件の痕跡がないとはいえ、殺人事件が起きた教室をそのまま次の日も使うなんてことがありえるのだろうか。色々と問題がありそうだし、そもそも、通常ならば起きないはずの殺人事件が学校内で起きたのだから、臨時休校になってもよさそうなもの。でも、今のところはそのどちらも行われていない。


 そして、ワタシの中に生まれたもう一つの違和感は、友だちグループのメンバーはさておきとしても、その他のクラスメイトたちの様子が明らかにおかしいということ。いや、厳密には、いつも通りすぎておかしい、といったほうがいい適切か。


 仮にも、ミョウガとカイホコというクラスメイトが二人も原因不明、犯人不明のまま殺害されたというのに、全く恐怖や危機感を覚えている様子がない。というよりはむしろ、そんなクラスメイトたちはそもそもミョウガとカイホコが殺害されたということを知らないのではないかと思ってしまうほど。


 一つ目の違和感に関しては、例の警察官たち五人が綺麗に後片付けしてくれたのだということで納得できる。いちいちワタシからの指示がなくてもある程度は考えて動けるだろうし、それに、そんな些細な仕事が終わったくらいで連絡はしなくてもいいことにしているから、わざわざ確認するまでもない。


 二つ目の違和感に関しては、例の警察官たち五人によって情報規制が行われているということ。つまり、事件現場を発見したワタシたち友だちグループと担任であるタイヨウロウだけがそのことを知っており、それ以外の人たちには知られないようにしている。これならば、クラスメイトたちのあの能天気さにも納得がいく。


 でも、ワタシはどうしてもそんな違和感を完全に拭うことができなかった。今自分の中で解釈できたように納得できる理由があるというのに、それとは別の事情が絡んでいるのではないか、裏があるのではと疑ってしまう。


 この三日間でジビキという大切な心の支えを失い、九人も殺害したことによって精神状態が不安定になって、少なからず神経質になっているのかもしれない。考えすぎだということは分かっているけど、たとえ裏があったとしてもそれを確認する術なんてないということは分かっているけど、ワタシはそう思ってしまうのだった。


 教室の入り口で数秒間立っていたワタシは、ようやくその中に入る。すると、先に登校していた友だちグループのメンバーが一瞬だけワタシのほうを見る。しかし、そのうちでヒサバとミズシナは二人で何かを話しているだけであり、キマタとツチダテには特に動きがなかった。


 ワタシはひとまずみんなのことを無視して自分の席へと向かい、折り畳み式の机を起動させる。授業の用意とかそういうものはほとんどないのでそれ以上することはない。


 とりあえず、何もすることがないけど、この奇妙な雰囲気が漂う教室にこれ以上いたくはないので、廊下に出て気分転換でもしてこよう。そう思ったとき、不意にワタシの左手が何者かに掴まれた。顔を上げてみるとそこにはカナイズミがおり、不意にワタシの手を引いた。


「……カナイズミ、何?」

「まだ一時間目の授業が始まるまでは時間があります。なので、少しばかりお話をしにいきませんか?」

「……いや、手を引っ張られてるから、ワタシはどうにもできないんだけど……」

「い・い・で・す・よ・ね?」

「……別に」


 カナイズミはワタシの左手を力強く掴みながら、かなり強引に手を引いてくる。ワタシは拒否権を与えられることなく、ずるずると廊下に連れて行かれた。そして、一時間目の授業開始まで残り十分を切ったとき、他に誰もいない廊下でワタシとカナイズミの会話が始まる。


「……用件は?」

「まあ、簡単に申し上げますと、昨日電話で聞いたことと大体同じことですわ」

「……二度も同じことを聞かないでほしい。……ワタシは、ミョウガとカイホコが殺害された事件については何も知らない」

「天王野さんはそう仰いますけど……どうも、周りはそう思っていないのですわ」

「……どういう意味?」

「実は昨晩、私と遷杜様と土館さんの三人で話し合いをしたのですわ。冥加さんと海鉾さんが何者かによって殺害された事件について」

「……そう」

「それで、そのときの話し合いの結論が、天王野さんが犯人なのではないかというものです」

「……っ」


 カナイズミのその台詞を聞いたとき、ワタシは少しだけ動揺してしまった。でも、なるべくその動揺を外には出さなかったので、おそらくカナイズミは気づいていないはず。


 ワタシのその動揺の理由には、二つ理由があった。


 一つ目は、もうすでにワタシがミョウガとカイホコを殺害した犯人であるという真実がたった三人によって推理されてしまっているということ。確かに、誰がどう考えても、ミョウガとカイホコを殺害できるのはワタシ以外にはいない。だから、いつかはそう推理されても不思議ではない。


 でも、いくらなんでも早すぎではないだろうか。カナイズミの推理力はともかくとして、ツチダテが例の電話相手の女性だとして、キマタは何にも関わっておらず何も知らないはず。それなのに、どうしてそこまでの推理をこんな時間で導き出せるのか。


 二つ目は、カナイズミとツチダテがワタシのことを裏切ったのではないかということ。カナイズミはワタシが『この世界に警察がいない』という事実を世間に公表するのを恐れて、ワタシには逆らえないはず。それなのに、何で推理に付き合っているんだ。


 そして、ツチダテは自分からワタシに殺人の依頼を出してきたというのに、ワタシが犯人であるとみんなにばれてしまっては行動しにくくなる上に、色々な弊害が生じてしまう。面白半分でしているのか、何かの計画なのか、そこまで考えが及ばなかったのかは知らないけど、いい迷惑だ。


 とりあえず、今は念のためカナイズミに釘を刺しておこう。


「……カナイズミの言う通り、たとえワタシがミョウガとカイホコを殺害した犯人だとしても、カナイズミはそれを広めることはできない。……ワタシがあの情報を知っている限り、カナイズミはワタシには逆らえない。……それ以前に、警察そのものがないのだから、ワタシを罪に問うこともできない」

「……確かに、それもそうですわね……」

「……?」


 カナイズミは少しだけ顔を俯けて、やや悲しそうな表情をしてそう言う。このときのワタシには、カナイズミのその表情の意味がよく分からなかった。でも、その表情は一瞬だけのものであり、気がつくとカナイズミはいたって普通にワタシに話しかけてくる。


「それじゃあ、これで一応、伝えられることは伝えておきました。私はこれ以降もみなさんと冥加さん海鉾さん殺人事件の推理に参加すると思いますが、天王野さんは犯人ではないということで進めておきます。天王野さんを怒らせてあの情報を世間に公表されでもしたら困りますからね」

「……あっそ」

「ええ」

「……そういえば、聞いておきたいんだけど、ミョウガとカイホコが殺害されたという話を知っているのはワタシたちだけ?」

「私たち六人と担任の仮暮先生、あとはお二人のご家族でしょうか。一応情報規制がされるので、知られていたとしてもその範囲だけでしょう。もっとも、お二人のご家族はまだご存知ないかもしれませんが」

「……分かった。……ありがとう」


 なるほど。ということはつまり、やはり情報規制は行われていたということか。だから、クラスメイトたちの様子が普段通りだったのか。


 それにしても、あの二人の家族もあの二人が殺害されたということを知らないというのは、どういうことだろう。学校行事で急に泊り込むことになったとか、行方不明になったとか、そういう理由をつけたのだろうか。まあ、何にしても事件について知っている人は少なければ少ないほど都合がいい。


「……あら?」

「……?」


 不意に、教室に戻ろうとしていたカナイズミがワタシの顔(というよりは前髪部分だろうか)を見て、何かに気がついた様子で引き返してくる。


「天王野さん。このリボン、どうしたのかしら? 継ぎ接ぎだらけではないですか」

「……っ」


 一昨日の夕方、ワタシは義理の父親に本当のお母さんの形見でもあるリボンを何度も引きちぎられた。そのままの状態では二度と使えないほどリボンは短くなり、どうすることもできないように思えた。


 でも、どうしても納得できなかったワタシは義理の家族を殺害した後、自分でリボンを縫い直し、完全に元通りとはまではいかないけど繋ぎ直した。おそらく、カナイズミはそのことに気がついてそんな質問をしてきたのだろう。


 状態を確かめようとしてワタシのリボンに手を伸ばすカナイズミ。しかし、ワタシはそんなカナイズミの手を払い、言った。


「……どうでもいいでしょ。……そんなこと」


 そのすぐ後、一時間目開始のチャイムが鳴った。

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