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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第一章 『Chapter:Pluto』
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第七話 『報告』

 今朝は登校するなり早々に、天王野によるとんでもない茶番に巻き込まれて土館に誤解されたりもしたが、一応その誤解も解いて本来の目的も達成できた。


 そして、今日の分の授業も全て終わった放課後。俺は帰る仕度をした後、逸弛に昨日同様にまた地曳殺人事件の謎について情報を集めに行くのかを聞いた。


「なあ、逸弛。今日もまた、捜索には行くのか?」

「……いや、僕は今日はやめておくよ。今朝對君が言っていたように、沙祈のこともあるからね。まあ、行きたい人は行ったらいいと思うけど」

「そうか。分かった」


 『昨晩火狭から俺に電話がかかってきて、逸弛や土館と口喧嘩をしてしまったことについて相談された』ということを伝えたからなのか、逸弛はいつになくそわそわとしていた。昨日は自分から『捜索しよう』と提案したにも関わらず、今はそんなことはもうどうでもいいことのようにテキトウな返答した。


 確かに、幼い頃からの長い付き合いで現在は彼女である火狭と喧嘩したなんてことは逸弛本人も久し振りだと言っていたし、できることならば早く仲直りして以前のような関係に戻りたいと思っているのだろう。今の逸弛の行動は間違いなく、逸弛が火狭のことを体目当てではなく本当に心から大事に思っているからこその行動なのだろう。少なくとも、俺にはそう感じることができた。


 俺にも彼女とか誰よりも大切にしたいと思える人がいたら、今の逸弛みたいになるのだろうか。気になる子はいても現実にはそんな相手がいない俺にとっては、とてもではないが想像もつかなかない。でも、そのときはたぶん似たようなことにはなるのだろう。


 まあ、それ以前に喧嘩しないことに意識を集中させたほうがいいのかもしれないが、『喧嘩するほど仲がいい』と言われる場合もあるみたいなので、たまにはそういうのもありなのかもしれないな。


 俺は急ぐ逸弛を引き止めることなくそのまま帰してやろうと思っていたが、不意にあることを思い出したため、逸弛がそそくさと教室を出ようとした直前、今朝は時間がなくて聞けなかったそのことについて聞いた。『機密情報だから言えない』とか言われて聞けていない可能性充分にあったが、聞いてみないと分からないから聞いておかない手はない。


「そういえば、逸弛。昨日、逸弛たちのグループは警察に話を聞きに行ったんだよな? 何か有益な情報は得られたのか?」

「あー、それが……」

「……?」


 逸弛は一刻も早く火狭のもとへと行きたいと思っているからなのか、それとも何か別の理由でか、そんな歯切れの悪い返事をした。そしてしばらくの間沈黙がその場を支配し、俺が黙って逸弛の次の台詞を待っていると、あまり話したくなさそうだったが逸弛がようやく口を開いた。


「聞くには聞いたんだけど、『殺人事件なんて今どき起きるわけないだろ』って言われるだけで、何も教えてもらえなかったんだよ」

「え? ということは、そもそも相手にすらされなかったってことか?」

「まあ、そういうことだね。交番の中にいた警察の人たちに何度か聞き直してみたんだけど、誰に聞いても答えは同じだったんだ」

「つまり、それほどまでに今回の事件は裏で何かヤバイことが起きていたり絡んでいそうだな」

「そうだね」


 おそらく、自分から事件の謎を解明しようと言い始めた逸弛のことだ。言い出した自分がいるグループが成果なしなんてことにはならないように、質問の仕方も変えたことだろう。例えば、『亡くなった地曳さんの友だちなんです!』とか『どうしても地曳さんの殺人事件について調べないといけないんです!』とか。いや、逸弛の性格的にそんな風に情に訴えるような台詞は言わないか。


 しかし、逸弛がそれに近いことをしても警察が何一つとして情報を言わなかったということは、それほどまでに今回の事件の裏では何か非常識的なことが起こっているということが容易に推測できる。いや、殺人事件ということ自体が非常識的なことにほかならないのだが、それ以外で何かが起きているのでは、という意味だ。


 もしかすると、応対した警察官の良心で『殺害された地曳の友だちには余計な情報を与えて傷付けないようにしよう』と考えたという可能性もある。だが、そうだとすると、逸弛が『何度か聞きなおした』という台詞と辻褄が合わない。警察官だって人間だ。だから、いくら特定の一人がそんな良心を持っていても、それを全員が持っているとは限らない。


 まあでも、結論としては、逸弛のグループは完全に成果がないわけではなかったといえるだろう。今回の地曳殺人事件は裏で何か大変なことが起きているかもしれないということや、警察は何があっても外部に情報を漏らすつもりがないということが分かったのだから。


 でも、せっかくそこまで分かったまではよかったのだが、そうなるとこれ以降の捜索は意味がないかもしれない。警察が意地でも事件の情報を外部に漏らしたくないのなら情報操作だって行われているだろうし、事件の痕跡が残るようになんてしないはずだ。もしかすると、そのうち俺たちにも何らかの形でその影響が顕著に現れ出すかもしれない。


 逸弛の台詞を聞いた俺はしばらく考えていたが、自分は急いでいるのにそんな俺に待たされていることに疲れたのか、逸弛は珍しく少々イライラしながら俺に話しかけてきた。


「……對君。對君のグループの捜索結果も聞きたいところだけど、僕はそろそろ沙祈のところに行かないといけないから、もう帰ってもいいかい?」

「え? ああ、すまん。待たせて悪かったな。俺も今日は捜索はしないから、途中まで一緒に帰ろう」

「あ、そう? それじゃあ、せっかくだから帰り道に對君のグループの捜索結果を聞こうかな」

「了解ー。とはいっても、大して言えるような情報はないけどな」


 昨日俺のグループが捜索したことで得られた情報はせいぜい『警察を含めた俺たち以外の人がいなかったこと』と『地曳の死体はすでに片づけられていて、その痕跡もまったく残っていなかった』ということくらいだ。言おうと思えばものの数十秒で済むような内容だが、帰りの分かれ道までは時間があるからその間に俺の考察も含ませてじっくり話すとしよう。


 俺ばかり自分の意見を言っていてまだ確認していなかったが、俺と逸弛以外のみんなはどうするのだろうか。今日はもう帰るのか、昨日同様に事件の捜索をするのか。俺はそのことについて確認するために後ろを振り返り、そこにいたみんなに質問するために声を発した。


「ところで、みんなはどうす――」

「……ミョウガ」

「わぁ! な、何だよ、天王野……」


 俺が振り返ってみんなに向けて声を発した直後、天王野が俺のすぐ後ろに立って名前を呼んできた。しかも、天王野は俺の目線から二十センチメートル以上も下方から俺の顔を凝視しており、右手で俺の制服の端を掴んでいた。


 やはり、ここまできてしまうと、本当に小さな子どもにしか見えない。それと、このふわふわしている白髪を撫でたくなってしまう謎の衝動の正体は何なのだろうか。


 あと、当然ながら俺は該当しないが、天王野葵聖は間違いなく、幼女を好んでいる男子諸君を知らず知らずの内に周囲に集めてしまう『ロリコンホイホイ』と呼べるべき存在だろう。天王野は基本的に普段は眠そうにしているか無表情なので、その幼い外見と冷たい表情の間にあるギャップに萌える変態もいるらしい。まあ、今はそんなことはどうでもいいが。


 俺が突然声をかけられたことによって驚いた俺は気の抜けた声を発してしまった後、そのまま驚いた表情のまま固まっていた。すると、天王野はぼそぼそと俺にしか聞こえないように小さな声で話しかけてきた。


「……ミョウガに話がある。……他の人に聞かれると駄目だから、みんなを先に帰して、教室にミョウガだけが残って」

「え? ああ、うん。分かった」


 もしかして、ついに天王野も俺に恋愛相談をするようなお年頃(同級生だが)になったのだろうか。それとも、地曳が殺された事件について何か不安なことがあるとかだろうか。さすがに、今朝の天王野の死んだふりについて謝りたいのなら土館も呼ぶだろうから、おそらく前者二つの内のどちらかなのだろう。


 その後、俺は逸弛に『ごめん。今日はやっぱり先に帰っておいてくれ』と言い、天王野が今言った通り、教室内にいた他のみんなにも先に帰るように言った。そしてその数分後、透明な強化ガラス越しでも俺と天王野以外の人を確認出来なくなったとき、俺は俺のことを呼び止めた天王野に聞いた。


「それで、用件は何なんだ? 何か相談があるのなら俺はいつでも受け付けられるが、今朝みたいないたずらについての話だけはあらかじめ遠慮しとくぞ」

「……大丈夫。……今朝のはあくまで『再現』だから」

「再現?」


 ふと気がついたとき、俺の目の前に立っていた天王野は俺がよく知っている天王野ではなくなっていた。天王野の今の違和感のある台詞が俺にそのことを気がつかせた第一の要因ではあったが、それ以外にも天王野の様子の変化を悟らせる要因はあった。


 天王野は笑っていた。それも、昨日地曳が死んだことをみんなに伝えた直後にしていたように、目は見開いていて口は裂けそうなくらいに開いている。そして何よりも、とても楽しそうだった。それらは個別に見れば何の違和感もない可愛らしいものだったかもしれない。


 でも、今の天王野の表情にはその全てがあり、それらによって俺がまず感じたのは『狂気』、ただそれだけだった。


「……アハッ……ヒャアハハハハ!! ……ワタシ、ミョウガに質問したいことがあるんだ」

「ど、どうした天王野……? それに、質問って――」

「……ワタシ以外のみんなは知っていないけどワタシは知っている、ミョウガの秘密。……それについて、『最後に』確認しておきたいんだよ」

「俺の……秘密……?」


 歪んでいて狂気を感じる表情をしているからなのか、おかしな笑い声を上げたからなのか、天王野は普段とはまったく異なるテンションと言葉遣いで、俺の精神を少しずつ恐怖で削ぎ落としながら話しを続けた。そして、俺がまるで予想していなかったその質問をしてきた。


「……ミョウガ、一昨日の夜にあの場所にいたでしょ?」

「あの場所?」

「……『ジビキの死体があった場所』のこと」

「……!?」


 俺は、まさかそんなことを天王野に聞かれるとは思ってもおらず、心構えなんてできていたわけもなく、あからさまに動揺してしまった。そんな俺の様子を見て確信を得たのか、天王野は再びケタケタと狂気じみた笑い声を上げていたって楽しそうに俺のことを追撃した。


 天王野がそのことを知っているということはつまり、天王野もあの現場にいたということになる。さらに、天王野がわざわざ俺にそのことを言ってくるということは天王野本人が犯人である可能性は極めて低い。つまり、天王野は地曳を殺した犯人やその死体の四肢をバラバラに切断した犯人の姿も見た可能性が充分にある。


 しかし、俺がそのことについて聞くよりも前に、天王野が先に口を開いた。


「……他にも知ってるよ? ……まず、ミョウガは『ジビキの死体を見た』。……でも、その死体は『四肢がバラバラの状態ではなかった』ということも。……ワタシが聞きたいことの大体は今のミョウガの反応を見ればすぐに分かったからもういいけど、逆にミョウガがワタシに質問してもいいよ。……もっとも、質問したいことがあれば、だけど。……キヒャハハハハ!」


 ……相変わらず、凄い笑い方をするな。どこから声を出しているんだろうか。というか、笑い過ぎて喉が潰れてしまうのではないかと、少々不安にさえなってくる。


 そんなことはさておきとして、天王野は俺が聞こうと思っていたことを先に言ってくれたので、そのままの流れで天王野に知っていることを答えてもらうために質問しようとした。だがその直前、俺はある一つのことに気がついてそれを躊躇せざるを得なくなった。


 何で天王野は、俺が『地曳の死体は見たが、それの四肢はバラバラにはなっていなかった』ということまで知っているんだ? もし天王野が地曳を殺した犯人や俺がその現場に遭遇してしまったことを知っていたとしても、それならば、知り得る情報はそこまでのはずだ。


 もしかして、俺が人工樹林から飛び出した後に地曳の死体の四肢をバラバラに切断した犯人が人工樹林に入って行ったことも見たというのか? 確か、天王野は忘れものをしたからあの人工樹林に行ったと言ってたが、それを前提にして考えると、人工樹林の外ではなく中でそれらの出来事を見ていたということになる。


 やはり、天王野は地曳殺人事件について俺が知らない深い部分まで知っている。それを他の人には話さずに俺に話しているのはなぜなのかまでは分からないが、それでも聞ける情報は全て聞いておくに限る。


「天王野が知っていることだけで構わない、だから教えてくれ。地曳を殺してその後にその死体を切断したのは一体誰なんだ? それが分かれば――」

「……何? ……もしかして知らないとか言うつもり? ……まあ、いいや。……この世界には、うっかり『自分がしたことまで忘れている馬鹿』がいるかもしれないから教えてあげるよ――」


 何かと前置きが長かったが、最終的には俺の質問に答えてくれた天王野。しかし、俺はその天王野の台詞を最後まで聞くことはできなかった。いや、俺の行動次第ではできたかもしれないが、その途中に予期せぬ妨害が入った。そして、その予期せぬ妨害は俺の記憶に残ることなく、俺と天王野の会話を中断させた。

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