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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第九話 『連殺』

 辺り一面に撒き散らされている真っ赤な血液と、無残にも飛び散っている大量の臓器。ワタシは教室の中で一人、そんな光景の手前で特殊拳銃を右手に構えたまま、そこに埋もれるように横たわっているミョウガの姿を見る。


 ミョウガは先ほどワタシが不意をついて特殊拳銃の引き金を引いたことによって、胸から膝くらいまでの肉体を内側から爆破され、辺り一面を真っ赤に染め上げるほどの大量の血液を撒き散らしながら、無残に死亡している。


 今回の一件の後に残ったのは、体を真っ二つにされた死体が転がっている教室と、その教室にいるワタシ。そんなワタシも決して無傷というわけではなく、ミョウガを誘い出すために自分で自分の腹部をナイフで突き刺したから、そこからはいまだに大量の血液が溢れ出ている。


「……やった……!」


 ワタシは腹部に走る激痛に耐えながら、よろよろと立ち上がり、血の海の横たわっているミョウガの元へと歩み寄る。その際に、ゴボゴボッという生々しい嫌な音を立てながら傷口から大量の血液が体外へと流れ出る。どうやら、力加減を間違ったのか、思いのほか重症になってしまったらしい。


 こんな大怪我は誰にも見せられないから、早いうちに家に帰って自分で治療しないとかなりまずい状況。今の状態でもかなり出血が酷いのに、これ以上時間が経過してしまったら、ワタシの命に関わるかもしれない。それに、自分の作戦で自殺してしまっては元も子もないし、それではあまりにも馬鹿すぎる。


 だから、今はとりあえず、一刻も早く事件現場の状況を確認して、ミョウガを殺したのがワタシだということが誰にもばれないように家に帰る。そして、すぐに怪我の治療を施して、明日、今日あった殺人事件のことを何も知らないと装いながら普通に登校してくる。この殺人現場の片付けや情報操作はカナイズミに派遣してもらった警察官たちに任せれば大丈夫なはず。


 そう考えたワタシは、ようやくミョウガの死体のすぐ隣に辿り着き、その死体の状態を確認した。この惨状を見れば誰でも分かるとは思うけど、当然のことながら、息はしておらず心臓は動いていなかった。つまり、ミョウガはどう偽ることもなく、誰がどうみても死んでいた。


 そのとき、今はどう考えても冷静に行動するべきなのに、ワタシの中の何かがそれに打ち勝ち、ワタシに異常な行動を起こさせる。


「……アヒャアハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


 腹部に大怪我をしているワタシにはもうそんな狂気じみた笑い声を上げられるような体力と気力は残っていないはずなのに、ワタシは叫ぶ。ワタシとミョウガの死体以外には誰もいない、一面真っ赤に染まっている教室の中で一人。


 そうだ。ワタシは勝ったんだ。ワタシが大好きだったジビキをよく分からない理由で殺害したミョウガのことを、今度はワタシが殺し返すことに成功した。そう思っていると、どうしてもワタシは自分の感情を抑えられなくなった。


 ミョウガは特殊拳銃によって胴体を真っ二つにされてもう死んでいるというのに、ワタシは一刻も早く家に帰って怪我の治療をしなければならないというのに、ワタシはそんなことなどまるで構わないといった調子で、何度も何度もナイフをミョウガの死体に振り下ろす。


 ナイフがミョウガの死体に突き刺さる度にワタシの顔面だけでなく、ミョウガが横たわっている血の海にもピチャピチャと血しぶきが飛び散る。その血は、それまで辺りを真っ赤に染め上げていたミョウガの血液や、ワタシの傷口から流れ出した血液と混ざり合う。


 勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った勝った……!


 ワタシはジビキの仇を討った。そして、例の電話相手の女性からの依頼の内の一人を殺害したことにより、ここまでの殺害総人数八人で、残るは九十二人。何度も何度もそんな事実を自分の心の中で唱えなおし、また、そのあまりの嬉しさによってワタシの異常な行動は止まる気配を見せなかった。


 気がつくと、ワタシはもう何度ナイフを振り下ろしたのかすら分からなくなっていた。ただ、両腕を襲うこれ以上ないくらいの疲労感と、乱れた呼吸、出血の量はそれまでとは到底比べ物にならないほどだった。


 元々、ミョウガの死体は非常に悪い状態であり、ワタシがどうする必要もなく、グチャグチャだった。でも、今ワタシが何度もナイフで突き刺したことによって、死体にはいくつもの穴が空いた。もちろん、そこからは血液はもちろんのこと、わずかに残っている臓器も流れ出ようとしている。


 おそらく、この程度の刺し傷であれば、死体発見者は犯人が被害者を殺した後に追撃を加えたのだとは思わずに、犯人が被害者を刺した後に決め手として胴体を真っ二つにさせた、と考えるはず。


 だからどうなのかと聞かれれば答えに困るけど、つまり、ワタシが犯人ではないということを疑われなければワタシは真にミョウガ殺人事件とは無関係と判断される。もちろん、ミョウガが教室に残ってワタシと二人きりで何かを話しているということは友だちグループのみんなは知っているから、最初は疑われると思うけど、どうにかしてそれを解消してしまえば何も問題はない。


 あとは、カナイズミに派遣してもらった警察官に殺人現場の後処理や情報操作を任せておけば、そこから先もワタシは自分の計画を遂行することができる。


「え……? 冥加……くん……?」


 不意に、ワタシ以外には誰もいないはずの教室の入り口からそんな声が聞こえてくる。ミョウガの死体のすぐ隣にへたりこむように座っていたワタシは、少し驚きながら、すぐさまその声がした方向を見た。そこに立っていたのは、目の前にある光景をまるで信じられないといった表情をしているカイホコだった。


「何で……何で何で何で何で何で何で何で何で!? 何が、どうなったら、こんなことになるの!? 答えてよ、葵聖ちゃん……答えろよおおおおおおおお!!!!」


 カイホコは教室の入り口付近からその中を見渡し、そこにある一つの無残な死体を確認した後、大声を出してワタシに怒りの感情をぶつけてくる。自分の友だちが殺されたのだからその怒りは当然のものだったのかもしれないけど、ワタシはそれ以上の何かをカイホコから感じ取った。


 また、カイホコはしばらくその場でワタシのことを睨みつけながら返事を待っていた。しかし、ワタシはそんなカイホコに答えようとはしない。答える理由もないし、答えたところで、未来が変わるわけでもなさそうだから。


 確か、カイホコはカナイズミやツチダテと一緒に他のクラスメイトたちと同じような時間に下校したはず。それならば、今頃は校舎の外か、早ければ家に着いていてもおかしくない。それなのに、まさかカイホコはワタシが教室でミョウガに何かをしたと気がつき、引き返してきたのだろうか。


 なぜカイホコがこのタイミングでこの現場にいるのかが分からなくなったワタシは、その答えを導き出すために、さらに思考を続けようとする。でも、ワタシのその思考が答えを導き出すよりも前に、カイホコのほうに動きがあった。


「……何で、答えない……何で、平然としている……何で何で何で何で何で何で何で何で……! ……殺してやる! 殺してやる!」

「……っ」


 突然カイホコの口から放たれたそんな台詞に、ワタシは少し動揺してしまった。カイホコは一昨日の晩にジビキのバラバラ死体を目撃し、昨日もワタシを甚振った挙句色々と情報を聞き出してきた。だから、少なくとも何かをしてくるとは思っていたけど、まさか『殺してやる』という台詞が出てくるとは思いもしなかった。


 溢れ出る涙によって赤く腫れた両目をワタシに向けながら、カイホコは発狂する。そして、その発狂とともに廊下から教室へと入ってワタシの元へと駆ける。どうしても、何があっても殺したい。そのときのカイホコからは、ワタシに対してそんな思いがあったのかもしれない。


 しかし、そもそもカイホコが教室に入ってきた時点で勝敗は決していた。


「……うるさいから、消えろ」


 直後、パァンという破裂音とともに、先ほどのミョウガのとき同様に辺り一面に大量の血液が飛び散る。ただ、ワタシはすでにあまり体力が残っておらず腕を高く上げることができず、胴体に照準を合わせることができなかったため、下半身を爆破させることしかできなかった。だから、臓器が飛び散ることはない。


 下半身を失ったカイホコの胴体は空中から教室の床へと重力によって落下し、血の海に沈む。そして、そのままカイホコの上半身が二度と動くことはなかった。おそらく、特殊拳銃に下半身を爆破された瞬間に即死していたのだろう。


 まさかカイホコまで殺害することになるとは思いもしなかったけど、これはこれで計画の一部に組み込んで、これからに役立てることにしよう。


 そもそも、カイホコは一般人ならば知りえないような情報を多く知っていて、余計な詮索をし過ぎた。今だってそうだ。何か重大なことに気がついても、それを確かめなければならないわけではない。だから、これはその報いなのだと思ってもらえればいいだろう。


「……がっ……あ……」


 気が緩んだからなのか、突如として今まではあまり痛んでいなかった腹部の傷口が痛み始めた。それと同時に、傷口から溢れ出てきている血液の量も増えているような気がする。そろそろ治療をしないとまずい。ワタシはそう確信した。


 その後、ワタシは例の電話相手の女性に二人を殺害したということを証明するために送るために殺人現場の写真を撮り、ゆっくりと教室を後にした。幸いにも、その帰り道には誰にも会うことはなかったので、ワタシが大怪我をしていて全身真っ赤に染まっているということを誰にも知られずに済んだ。


 ミョウガとカイホコの胴体が真っ二つになって一面真っ赤に染まっている教室を見たとき、みんなはどう思うだろうか。ワタシはそんな楽しいことを考えながら、カナイズミに派遣してもらった警察官たちに指示を送っておいた。

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