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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第三章 『Chapter:Uranus』
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第八話 『射殺』

 とりあえず、今朝のワタシの死体演技によって、例の電話相手の女性の正体がツチダテだということが分かった。さて、例の電話相手の女性の正体の件についても大方片付き、続きという名の最終確認は家に帰ってからするとして、そろそろ次の用事に移るとしよう。


 今朝の死体演技後の休み時間、ワタシはミョウガにツチダテの前で『さっきのは演技だった』と言わされた。そのときにふと感じたのが、ミョウガもツチダテもワタシの計画にある程度は気づいているはずなのに中々それを表面に見せない、という違和感。まるで、二人はそもそもワタシの計画に気づいてなどいないのではないかと思ってしまうほど、その気配を感じさせなかった。


 まあ、おそらくこれはワタシの考えすぎ。あれだけ非日常的なことをした上に、昨日からワタシはみんなの前で異常行動を何度かとっている。殺人犯と殺人依頼者であるあの二人がそんなワタシのことを警戒しないわけがない。ひとまず、この件についてはもう少し時間が経ってから、新しい情報が出てから考え直すことにしよう。


 話を変える。ワタシが奇声を上げたり不審な行動を取っても思いのほか周囲の人間の反応が薄いということ察すると、どうやらワタシはジビキの殺人現場を見てしまったことによって精神状態が不安定になったと思われているらしい。そういうこともあり、今朝の一件は大事にはならず、狭い範囲で片付いたように思われる。もっとも、その現場にいたワタシを含めた三人はそれだけではすんでいないけど。


 それから時間は経過して、放課後になった。今日、ワタシは一日中授業を何一つとして聞かずにこれからの計画を立てていた。まだ先過ぎて予測できない部分だったり、不確定な部分は多々あるけど、これからの大まかな方針は大体決定できたと思う。


 ワタシは家に帰る仕度を済ませた後、教室を見渡す。誰かが特別な動きをとっているわけでもなく、しいていうならば、ミョウガとミズシナが会話しているくらいのもの。ミズシナは何か用事でもあるのか、やけに落ち着かない様子に見える。


 そういえば、今日はヒサバが学校に来ていなかったような気がする。現代医学では大抵の体調不良くらいならすぐに治せるはずだから、余程具合が悪いのか、それともミズシナと喧嘩でもしたのか。いや、ワタシはこれまでに、ヒサバとミズシナほど仲がいいカップルを見たことがないからその可能性は低いか。


 教室に残っているクラスメイトたちの様子を確認した後、ワタシはミョウガに話しかけるためにその背後へと歩いていった。そのときもミョウガはミズシナと会話していた。そして、ワタシが話しかける寸前、ミョウガが後ろを振り向いて教室に残っている友だちグループのみんなに声を発する。


「ところで、みんなはどうす……」

「……ミョウガ」

「わぁ! な、何だよ、天王野……」

「……ミョウガに話がある。……他の人に聞かれると駄目だから、みんなを先に帰して、教室にミョウガだけ残って」

「え? ああ、うん。分かった」


 ミョウガにしてみれば後ろを振り返った直後にワタシに話しかけられたことで驚いていたと思う。でも、ワタシはそんなことなど一切気にすることなく、ミョウガに簡潔に用件を述べた。ミョウガもワタシのそんな台詞に疑問を感じている様子だったけど特に断ることもなく、他のクラスメイトを先に帰した。


 そして、他のクラスメイトが全員教室から出て、同じフロアに他の人がいないということを確認した後、ワタシは顔を少し俯けながらミョウガの前に立つ。すると、ワタシが声を発するよりも前にミョウガが先に話しかけてきた。


「それで、用件は何なんだ? 何か相談があるのなら俺はいつでも受け付けられるが、今朝みたいな悪戯についての話だけはあらかじめ遠慮しとくぞ」

「……大丈夫。……今朝のはあくまで『再現』だから」

「再現?」


 そう、あれはまさに『再現』だった。一昨日のジビキのバラバラ死体のように、昨日ワタシが殺害した七人の義理の家族のように、悲惨で残酷な殺人現場。当然のことながら、今朝のワタシの死体演技はその『再現』が目的ではないけど、わざわざ本当の目的を教える必要もない。


 ミョウガの台詞の後、ワタシはそれまで少し俯けていた顔を勢いよく上げ、ミョウガのことを凝視しながら狂気じみた笑い声を上げる。ワタシはどうしてもミョウガに聞いておかなければならないことがあった、確かめなければならないことがあった。だから聞く。


 ミョウガを殺害するのは、その後でも遅くはない。


「……キッヒャアハハハハ!! ……ワタシ、ミョウガに質問したいことがあるんだ」

「ど、どうした天王野……? それに、質問って……」

「……ワタシ以外のみんなは知っていないけどワタシは知っている、ミョウガの秘密。……それについて、『最後に』確認しておきたいんだよ」

「俺の……秘密……?」

「……ミョウガ、一昨日の夜にあの場所にいたでしょ?」

「あの場所?」

「……『ジビキの死体があった場所』のこと」

「……!?」


 ワタシがそう言うと、ミョウガはまるで驚きを隠せないといったような表情をした。まさか、ワタシが一昨日の晩にミョウガの犯行現場を目撃していたことを知らなかったわけではないはず。つまり、これはワタシの計画をかく乱するための演技。


 それまでとは大きく異なるワタシの雰囲気や話し方からなのか、ミョウガの動揺が少しずつ大きくなっていくことが分かる。そんなミョウガに対して、ワタシは追撃とばかりに話しかける。ワタシがミョウガに真に聞きたかったことは最後に聞く。そして、その答えによって、ミョウガの処遇を決定する。


「……ほかにも知ってるよ。……まず、ミョウガは『ジビキの死体を見た』。……でも、その死体は『四肢がバラバラの状態ではなかった』ということも。……ワタシが聞きたいことの大体は今のミョウガの反応を見ればすぐに分かったからもういいけど、逆にミョウガがワタシに質問してもいいよ。……もっとも、質問したいことがあれば、だけど。……キヒャハハハハ!」

「天王野が知っていることだけで構わない、だから教えてくれ。地曳を殺してそのあとにその死体を切断したのは一体誰なんだ? それが分かれば……」

「……何? ……もしかして知らないとか言うつもり? ……まあ、いいや。……この世界には、うっかり『自分がしたことまで忘れている馬鹿』がいるかもしれないから教えてあげるよ――」


 ミョウガは一体何を考えている? ここまで色々な証拠を突きつけ、ワタシがミョウガの犯行現場を見たと言っているようなものなのに、なぜ未だに本性を現さない? 何か策略でもあるのか、それとも本当に動揺しているだけなのか。


 ワタシは、今のミョウガの予想外の様子に対する決定的な結論を導き出せないまま、言う。一昨日の晩にミョウガによって起こされた、ジビキ殺人事件の真相を。


「……それは……ミョウガ。……ミョウガ自身――」


 直後、それまでワタシが圧倒的優勢だったその場の空気が一瞬にして変貌を遂げた。ワタシがそれに気づいたときにはすでに手遅れだった。つまり、それほどまでにその変貌はワタシの予想の範疇を超え、目にも留まらぬ速さで起きたということ。


「……ぁ……がっ……あ……」


 ワタシが先ほどの台詞を発した直後、ミョウガはそれまでのただ動揺しているだけの雰囲気を振り払い、まるで人が変わったかのように表情を変え、ワタシの身動きがとれないように背後の壁へと叩きつけた。


 気づくと、ワタシは足はともかくとして両腕を拘束され、のど元には一本のナイフが突きつけられている。もし、ワタシがあと数ミリメートル動くか、ミョウガがワタシのほうに寄るだけで、ワタシの首はそのナイフに貫かれる。


 殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される……!!!!


 突然のことということもあり、最初は何が起きたのかが分からなかった。でも、今ははっきりと分かる。ワタシは今、ミョウガの気まぐれによって生かされているだけ。この状況はどう逆転することもできず、打開などできるわけがない。


 ワタシの計画は、ミョウガを含めた九十三人を殺害して願いを叶えるという計画は、こんなところに朽ち果ててしまうのか。大好きだったジビキの仇も討てないまま、ただ一瞬の一回のミスで死ぬのか。


 七人も殺害しておいて変な話だけど、ワタシは死の恐怖を感じ取っていた。嫌な汗が全身から流れ出し、心拍数が少しずつ多くなっていく。どうしようもなさすぎる状況に涙など出る暇もなく、むしろその逆で、笑いがこみ上げてきそうになる。


 そのとき、不意にそんなワタシにミョウガが話しかけてくる。


「天王野。お前は、どこまで知っている」

「……お、一昨日の晩に……ミョウガがジビキを殺害した場面を見た……だけ。それ以上は何も――」

「地曳の死体をバラバラにしたというのもお前か」

「……はい……」

「なぜ、あんなことをしたんだ」

「……気まぐれで……ただ、それだけで……」

「そうか。それ以外に何か知っていることは?」

「……それ以外は何も……」

「分かった。もしかするとお前も地曳と似たような状態なのかと思ったが、どうやら違うらしい。この世界の真相を暴くつもりもなさそうだ。地曳のときはやむをえなかったが、俺もあまり友だちを殺したくはない。とりあえず、天王野は一昨日の晩から今このときまでに起きたことを忘れろ。そして、これ以上何も行動を起こさず、誰にも打ち明けず、俺にも話しかけてくるな。そう誓えるのなら、今の状態から開放してやる」

「……誓う」


 ワタシがそう言うと、ミョウガはワタシの両腕の拘束を解き、のど元に突きつけていたナイフを引き、ポケットの中へとしまった。そして、教室から出る間際、未だにその場に立ち尽くしているワタシに対して言った。


「最後に一つだけ、質問を受け付ける。知りたいことを聞け。そして、俺たちはその質疑応答が終わった後は口を聞かない」

「……何で……」

「……?」

「……何で、ジビキを殺したの……?」

「ん? 俺が地曳を殺している現場を見ていた、って言ってなかったか? 地曳が生きていると俺たちに不都合が起きる。地曳がこの世界の真相を暴き、破滅させかねない。ようは、不穏因子だったんだ。だから、殺した。それだけだ」


 ミョウガはワタシの質問にそんな風に簡単に答えた後、『じゃあな』と呟き、教室を後にした。一方、教室に残っているワタシは今のミョウガの台詞を頭の中で復唱し、考えた。


 ジビキが生きているとワタシたちに不都合が起きる? この世界を破滅させる不穏因子? そんなこと、あるわけがない。ジビキは、本当の家族を失ったワタシの最初で最後のただ一つの心の支えだった。それなのに、ミョウガはそんな訳の分からない理由でジビキを殺した。


 許せない。


「……アハ……アハハハハハハハハハハハハ! ……ミョウガァァァァアアアア!!!!」


 ミョウガに底知れぬ殺意を覚えたワタシはポケットの中から一本のナイフを取り出し、それを右手に持った。そして、廊下にいるミョウガに聞こえるような大声で名前を呼び、そのミョウガから見えるような位置に移動する。


「何だ。まだ質問したいのか――」


 ワタシが明らかに異常状態になっているというのに全く動じないミョウガ。ワタシがこのままナイフを持ってミョウガを追いかけたり、ナイフをミョウガ目がけて投げたとしても、ミョウガを殺害することはできない。だったらどうすればいいか。答えは単純明快。


 ワタシは、右手に持っているナイフを両手で持ち直し、その刃先を自分の腹部に向け、勢いよく突き刺した。


「な、何をしているんだ!」


 自分で刺したナイフがワタシの腹部に引き裂き、そこから大量の血液が辺り一面を真っ赤に染めるほど溢れ出す。これまでに経験したことがないほどの激痛を感じ、少し後悔しながらも、目の前の目的だけに意識を集中させる。


 ワタシが自分の腹部にナイフを突き刺した場面を目撃したからなのか、さすがのミョウガも平静を保ってはいられなくなっていた。廊下にいたミョウガは教室に引き返し、ワタシの元へと駆け寄る。


 そう。これこそがワタシの狙い。あれだけの距離離れていたミョウガを今この場で殺すためには、ワタシの身に何か異常が起き、それによってミョウガを動揺させ、教室に引き戻す必要があった。ワタシの作戦は成功した。


 教室に引き返してくるミョウガを確認したワタシは、自分の鞄から特殊拳銃を取り出し、その照準をミョウガの心臓部分に向けた。この距離ならば特殊拳銃の射程圏内であり、その照準を定めやすい。


「……死ね」


 ワタシがそう呟いた一瞬後、辺りに大量の血液と臓器が辺り一面に散らばった。

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