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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第二十五話 『不審』

 昨日の夜、わたしはいつものように冥加くんが住んでいるマンションへと行き、冥加くんの後をつけて人工樹林の中へと入って行った。その最中、誓許ちゃんに引き止められたり、人工樹林の中に入った後、水科くんを殺していた沙祈ちゃんと普段とは様子が異なる冥加くんの会話を聞いたりと、色々な出来事があった。


 誓許ちゃんに言われたことや冥加くんと沙祈ちゃんの会話は、あまりよく意味が分からないものもあったけど、わたしの想定外のことは起きなかったし、起きていたとしても大体は修正できたと思う。


 そして、昨晩もまた、わたしは冥加くんの意思に従って、沙祈ちゃんと水科くんの死体を葵聖ちゃんや霰華ちゃんのときみたいに、さらに悲惨な状態に変えておいた。


 水科くんの死体はわたしが手を加えるまでもなくすでに悲惨だったから大したことはしていない。でも、沙祈ちゃんの死体は本人がナイフで首を引き裂いただけで、血液は大量に流れ出ていたけど死体の状態としてはそこまで悲惨ではなかったから、全身をそのナイフで切りつけたり、首にナイフを突き刺して人工樹木にぶら下げたりしておいた。


 これまでの殺人事件とは大きく異なり、今回の殺人事件は冥加くんが犯人ではなく、どちらも沙祈ちゃんによるものだ。でも、その殺人事件現場に冥加くんがいて、冥加くんの犯行をサポートする立場であるわたしの発言がその事件に関係しているのなら、これはもう冥加くんがしたといっても問題ないだろう。


 別に、無理矢理冥加くんに罪を押し付けたいわけではないけど、ここまできたらもはや細かいことなどどうでもいいのだ。そんな考えに基づいて、昨日の夜のわたしはそれまでの自分の行動理念に従ったのだった。


 さて、昨日の夜は、最初はいつもより早く帰ろうとか思っていたわけだけど、二人の死体の状態を滅茶苦茶にしていたということもあり、結局日をまたいでしまった。確か、家に帰ったのは深夜一時か二時か、もう少し後くらいだったはずだ。


 普段冥加くんが住んでいるマンションの近くで待機しているときでも、こんなに遅くなったことはない。お陰様で、今日は絶賛寝不足気味だ。朝、いつも通りの時間に起きてもあまり寝た気がしないし、さっきからあくびが止まらない。


 わたしの話はともかくとして、それから十時間以上が経った今、わたしは学校で昼休みの時間を過ごしていた。今のところ、冥加くんはまだ登校してきておらず、誓許ちゃんも寝坊でもしたのかつい一時間前に登校してきた。


 冥加くんのためと思ってこれまでの殺人事件を見てきたからなのかは分からないけど、気づけばわたしが所属している友だちグループの人数は僅か三人。わたしと冥加くんと誓許ちゃんだけだ。最初は九人もいたはずなのに、随分と減ったものだ。


 わたしは高校生になってすぐの頃に、沙祈ちゃんと水科くんに友だちにならないかと誘われるまでは友だちなんてほとんどいなかったし、家族だって一応いるけどいないようなものだから、今さら周りから誰もいなくなっても寂しくなんてならない。そう思っていたときもあった。


 でも、実際にそんなことになると、思いのほか寂しい気持ちになってしまうものだ。


「……海鉾ちゃん」


 ついさっき昼ごはんを食べ終えたわたしは、一人で自分の席に座って、そんなことを考えつつボーっとしていた。そのとき、不意に誓許ちゃんが浮かない表情でわたしに声をかけてきた。誓許ちゃんはつい一時間前に登校してきたばかりで、まだ今日は喋っていなかったから、適当に返事をしておこう。


「あ、誓許ちゃん。おはよー……って、もうお昼か。それで、今日はどうしたの? 何かあった――」

「……海鉾ちゃん。昨晩、私が言ったこと覚えてる?」

「……? 誓許ちゃんが言ったこと? 『今日はもう家に帰れ』とか、そういうことのこと?」

「そう。それのこと。海鉾ちゃんはそれを守ってくれた?」

「え? あ、うん……」


 わたしがそう答えると、誓許ちゃんは直立していた体を前面に押し出し、わたしの顔のすぐ目の前に自分の顔をもってくる。わたしと誓許ちゃんの顔の位置が随分と近くなったことによって、わたしは少しばかりドキッとしたけど、一方の誓許ちゃんは全く気にしている様子はなかった。


 そして、わたしのすぐ目の前にある誓許ちゃんの真剣そうな表情を見たとき、ふと思い出したかのようにわたしは、誓許ちゃんの意味不明な行動の理由や今の台詞の意味を考え始める。


 しかし、そんなわたしの思考が結論を導き出すよりも前に、誓許ちゃんはさらにわたしに無理難題な質問を繰り返す。また、その際に誓許ちゃんの顔の位置はさらに近くなり、わたしは少しずつ後ずさりをせざるをえなくなった。


「証拠は?」

「しょ、証拠って……わたしが『約束は守った』って言ってるんだから、それでよくないの……というか、それ以前に、そんなこと証明できるわけ……」

「海鉾ちゃんの言う通り、街中にも人工樹林の中にも監視カメラなんてものはないし、昨晩は特に他の通行人が少なかったから、目撃証言を頼ってそれを確かめることはできないかもしれない。でも、PICの移動履歴でも何でも見せてもらえればそれで済む話だと思うけど?」

「それは……」

「もしかして、何か見せられないような理由でもあるの? 『PICをつけていなかった』だとか『PICの電源を入れてなかった』なんていう言い訳は受け付けないよ? そんなこと、まずありえないからね」

「……っ」


 誓許ちゃんの様子がおかしい。今のわたしと誓許ちゃんの距離や話している内容を聞けば、それくらい誰だって分かることだろう。でも、そんな誓許ちゃんに少しずつ距離を詰め寄られ、一度も視線を外されることなく、そんな質問をされたわたしはどうすることもできなくなっていた。


 何で誓許ちゃんがそんなことをわたしに聞くのか、なんてことは今は問題ではない。それよりもむしろ、何で誓許ちゃんはそこまで真剣にわたしに問いただしてくるのかということが問題なのだ。


 昨日の夜、誓許ちゃんと会ったとき、別れ際でのわたしの演技には何も問題はなかったはず。誓許ちゃんだって、わたしが演技をしているということに気づいていた様子はなかった。何よりも、あの場では、誓許ちゃんはわたしが誓許ちゃんの言う通りに帰ったと思って心底安心しきっていた。


 念には念を押して、あれが全て演技だったという可能性も考えなければならない。でも、そうだとすると、わざわざ誓許ちゃんがそんなことをする理由が分からない。それに加えて、よくよく思い返してみれば、あんな時間にあんな場所に誓許ちゃんがいたことについてもまだ分かっていないままだった。


「返事はなし、か……」

「……」


 わたしは、誓許ちゃんから発せられる何ともいえない迫力に圧倒され、これまでのことについて考えていた。その結果、黙り込んだまま思いのほか時間が経ってしまっていたらしい。そんなわたしの様子を見たからなのか、誓許ちゃんは少し呆れたような表情をした後、続けてわたしに話しかけてくる。


「今はとりあえず、そのことについては何も言わないであげるわ。『あの子』が私に嘘をつくとも思えないけど、見間違いだったという可能性もあるからね」

「う、うん、ありがと……ん? 『あの子』って?」

「……何でもないから気にしないで」

「そ、そう?」


 わたしが誓許ちゃんからの質問に答える気がないと気づいてくれたのか、誓許ちゃんは半ば諦めたような言い方をした。しかし、そのときに誓許ちゃんの口から発せられた別の存在に違和感を抱いたわたしは、逆にそのことを誓許ちゃんに尋ねた。


 でも、誓許ちゃんにしてみれば、それはあまり聞かれたくなかったことらしく、誓許ちゃんは少し不機嫌そうな表情をして顔を俯けてしまった。


 何だったんだろう。


「ところで、今日はまだ冥加くんと火狭さんと水科くんが来ていないみたいだけど……」

「そ、そうだね。何でだろうね」

「今朝は私も寝坊しちゃって学校に来るのが遅れたけど、ほかの三人の事情は知らない。それで、海鉾ちゃんは何か心当たりか何かある?」

「うーん……わたしも知らないかなー」

「……そう」


 またしても、わたしは平然を装って誓許ちゃんに嘘をつく。


 正直なところ、わたしは沙祈ちゃんと水科くんが登校してきていない理由を知っている。それは、二人ともすでに死んでいるからだ。水科くんは沙祈ちゃんに殺され、沙祈ちゃんは冥加くんと人工樹木の陰に隠れていたわたしの目の前で首を引き裂いて自殺した。


 だから、二人は学校に来ていない。いや、そのことを知らない人からしてみれば、ただの欠席か遅刻かそのどちらかだろうと思ってしまうだろう。でも、そもそも二人はすでに死んでいるのだから、登校などできるわけがないのだ。少なくとも、わたしと冥加くんはそのことを知っている。もしかすると、誓許ちゃんも。


 それに、沙祈ちゃんと水科くんには両親も兄弟姉妹も親戚もおらず、あの二人だけが実質的な家族のような状態だったみたいだから、夜遅くに自分の子どもが家に帰ってこないからといって、親が警察に捜索願いを出したりすることもない。


 つまり、沙祈ちゃんによって作られ、わたしによって滅茶苦茶にされたあの二つの死体は、次に人工樹林に入った人でしか見つけることはできない。でも、人工樹林に入るなんて機会は普通ならばまずないから、死体の発見は相当後になることだろう。まあ、死体の発見が遅れるのは捜査や推理をかく乱しやすくなるからいいんだけど、もう終わったことなどのあまり興味はない。


 それにしても、冥加くんは何でこんなに学校に来るのが遅いのだろうか。昨日の夜の殺人事件は冥加くんが主犯ではないにしても、その目の前で行われたのだから、そうであるといっても過言ではないはず。


 だったらなおさら、自分が犯人ではないということを示すために、今日もいつも通り学校に登校してきてもいいはず。そうすれば、誓許ちゃんやそれ以外にも冥加くんのことを疑っている人たちからの目を欺くことができるのに。


 いや、沙祈ちゃんと水科くんの死体がまだ公式に見つかっていないからこそ、休めるうちに休んでおくのだろうか。わたしは冥加くんの犯行をサポートする立場であることを誓ったわけだけど、それでもやはり、冥加くんの行動はいまいちよく分からないことが多い。


 よくよく思い返してみれば、葵聖ちゃんのときも、木全くんのときも、霰華ちゃんのときも、冥加くんの行動はよく分からないものばかりだった。その場はその場でとりあえず納得できたとしても、改めて考えてみると、謎ばかりだ。


 わたしは、本当に冥加くんの手伝いをしていてもいいのかな?


「よっす。何話しているんだ?」


 そのとき、わたしの不意をつくかのように、冥加くんの声が聞こえた。

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