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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第十八話 『嫌悪』

 昨日の夕方、わたしは誓許ちゃんと分かれた後、左腕から大量の血が流れ出ている冥加くんの姿を発見した。突然のことにわたしはどうすることもできなくなり、ただただその場に立ち竦んでいるしかなかった。すると、冥加くんはわたしの姿に気づくことなく、どこかへと歩き去ってしまった。


 しばらくした後、わたしは今何が起きたのか、その少し前に何が起きたのかを理解し、冥加くんが出てきた地上と地下街を繋ぐ階段を下りていった。案の定、その入り口から歩いてすぐのところには霰華ちゃんの無残な死体があり、PICと特殊拳銃が奪われていた。


 あと、死体のすぐ近くにナイフが放置されていたことと、霰華ちゃんの体にいくつもの切り傷があったことから、今回の殺人事件もまた冥加くんによるものだということが分かった。


 土曜日にあったことや、事件現場の状況、それに加えてそれまでのみんなの様子を踏まえた上で、わたしはその事件現場で何があったのか、それについてこのような推測を導き出した。


 おそらく、金曜日に冥加くんは木全くんを殺した後、自分のことを犯人だと推理している、もしくは推理している可能性の高い人物と二人で話して、その情報操作をしようと考えたのだろう。


 その結果、まず最初に選ばれたのが誓許ちゃんだった。誓許ちゃんは、最近は何か様子がおかしいような気がしたから、きっと冥加くんも少なからず気になっていたからこそ、そうしたのだろう。


 しかし、誓許ちゃんは元々わたしと二人で話をするつもりだったから、冥加くんのそのお誘いを断った。そして、次に選ばれたのが霰華ちゃんだった。


 霰華ちゃんは、選択肢として残っている友だちの中では最も推理力が高く、実際に真相の付近にまで到達していた。それに加えて、消去法でいくと、わたしは冥加くんの犯行をサポートする立場であり、沙祈ちゃんは水科くんとデート中、誓許ちゃんは用事で来られないのだから、残るは霰華ちゃんしかいないということになるのだ。


 最終的に、冥加くんは本来の目的を隠した上で何らかの理由をつけて霰華ちゃんを呼び出し、霰華ちゃんが何をどこまで知っていて、どれくらいまでの推理をしているのかということを確認した。


 そして夕方、冥加くんは金曜日に木全くんを殺したとき同様に霰華ちゃんの存在は危険であると判断し、霰華ちゃんのことを殺そうとした。でも、殺されるときまで冥加くんのことを信じていた木全くんとは違って、霰華ちゃんは自分のことを殺そうとする冥加くんに反撃を仕掛けた。


 おそらく、そのときに使用されたのが、木曜日の晩の話し合いの後に霰華ちゃんがわたしと木全くんに渡した特殊拳銃だったのだろう。結果的に、冥加くんは霰華ちゃんを殺すことに成功したものの、霰華ちゃんからの反撃によって、冥加くんは左腕にあんな大怪我を負ってしまった。


 昨日の夕方、帰り際に街中で一人、わたしが見かけた冥加くんの姿はその直後のものだったのだろう。こう考えれば、土曜日にあったことや、事件現場の状況、それに加えてそれまでのみんなの様子についての大方の説明がつく。


 冥加くんがあんな大怪我をさせられたことについては今でも心配で心配で仕方がないけど、現代医学ならば、一晩立てば充分に完治できる程度の怪我だ。現に、わたしも葵聖ちゃんに噛まれて骨が見えそうになっていた左手はすでに完治しているし。


 目が抉れただとか、体が真っ二つになっただとか、そんな風に大怪我という一言では済まないような怪我をしたのならまだしも、左腕に大怪我を負ったくらいなら、そのときはかなり痛いと思うけど、まだすぐに治すことができる。つまり、わたしの推測が正しければ、冥加くんの心配は特にいらないということになる。


 怪我をしていた冥加くんを見つけた後、わたしは霰華ちゃんの死体を見つけた。そこで、わたしは今まで述べていた推理をし、自分が何をするべきなのかを確認した後、すぐにそれを実行に移した。


 それは、葵聖ちゃんのとき同様に、事件現場の改変だ。木全くんのときは誓許ちゃんがいたからできなかったけど、赴稀ちゃんのときのような状態に近づける努力をした。死体のすぐ近くに放置されていたナイフを使用して、死体をさらに悲惨な状態にして、冥加くんにわたしのことを認めてもらうために。


 霰華ちゃんの死体の状態を変えた後、わたしは改めて誓許ちゃんを呼び、『何となく地下街に行ってみたら、霰華ちゃんの死体があった』といった感じで嘘甚だしい言い訳をしておいた。


 誓許ちゃんは半信半疑といった様子だったけど、どうやら霰華ちゃんが殺されていたということにショックを受けていたらしく、それどころではないということが伺えた。それから、沙祈ちゃんや水科くんにこのことを伝えておいてほしいということを伝えて、警察を呼んだ後、その場を後にした。


 今回の件で、わたしはまた冥加くんに認めてもらうための一歩を進めることができた。冥加くんの意思の通り、霰華ちゃんの死体の状況を悲惨なものにして、他の人にわたしや冥加くんが犯人ではないということを思い込ませるために嘘をついて、様々な情報操作をした。


 そろそろ冥加くんはわたしのことを認めてくれるだろうか。冥加くんが暗にわたしに出した認定試験は合格点に達しただろうか。もうそうならば……なんてことを考えていると、いてもたってもいられなくなる。


 でも、前回も見たようなことを思っていたにも関わらず、まだ冥加くんはわたしのことを認めてくれていなかったみたいだったので、今回もあまり過度な期待はしないでおいておこう。いつかそのうち、わたしが冥加くんに認められて、わたしが辿り着きたいところにまで行けるはずだから。


 わたしはそのときをただひたすらに待ち続けて期待に胸を膨らませながら、冥加くんの犯行をサポートしていけばいい。


 日曜日、昼頃。わたしは自分の部屋にて一人、そんなことを考えながら他には何かをするわけでもなく、ベッドの上で寝そべっていた。


 もう何十分もボーっとしながらベッドの上で寝そべっていたからなのか、そろそろ眠くなってきた。そして、ウトウトと意識が落ちかけていたとき、不意に左腕に取り付けてあるPICのアラーム音が聞こえてきた。


 そのアラーム音を聞いたとき、最初は冥加くんからの電話かと思ってベッドの上から飛び降りたわたしだったけど、電話をかけてきたその人物が沙祈ちゃんだと分かった瞬間に、その気持ちは急速に冷めていった。


 中々思い通りにならないことにガックリと肩を落とし、そのまま部屋の床に倒れこみそうになる。全身から力が抜けきった状態で、わたしはゆっくりとPICを操作し、沙祈ちゃんからの電話に出た。何か理由でもあるのか、沙祈ちゃんは音声通話でわたしに電話をかけてきたらしい。


「……はい、もしもし。どうしたの? 沙祈ちゃん」


 確かに通話ボタンをタッチしたはずだけど、沙祈ちゃんの声は聞こえてこない。間違い電話という可能性も疑ったけど、沙祈ちゃんの声ではなく、鼻をすする声が聞こえてきたのでその考えは途中で消え去った。


 状況がいまいち理解できなかったわたしはそのまま無言で沙祈ちゃんの次の台詞を待ち続ける。すると、その数十秒後、ようやく沙祈ちゃんの声が聞こえてきた。しかし、そのときの沙祈ちゃんの声は普段の元気そうなものではなく、泣いているのか鼻声だった。


『……もしもし……矩玖璃……?』

「そうだけど……どうしたの?」

『えっと、実はね……逸弛と喧嘩しちゃったの……』

「はぁ……そう……」


 またか。そんな考えさえ浮かばないほどに、沙祈ちゃんがわたしに言った内容は心底どうでもいいようなことだった。わざわざそんなことで電話してくるなよと言いたくなる。でも、このまま電話を切るわけにもいかないので、とりあえず、話だけは聞いてみることにした。


「何があったら、この間みたいに水科くんと喧嘩しちゃうことになるの?」

『……あたしにもよく分かんないんだけど……昨日逸弛とデートに行って、そのときに霰華と冥加と会って、今日誓許から霰華が殺されたって聞いたの。それで、昨日霰華と冥加がデートしてたって知っていたから、励まそうと思って少しだけ笑ってみたら逸弛に怒られて、それで――』

「……あ?」


 わたしと電話で話しているこの女は、今何と言った? 『昨日霰華と冥加がデートしてた』? 『励まそうと思って少しだけ笑ってみた』? 何をどう解釈して、どういう思考回路を持っていたら、そんなことになるんだ? そして、どうしてそんなことをわたしに言えるんだ?


 冥加くんは連続殺人犯で、霰華ちゃんはその事件の真相を寸前まで暴いた人物だ。二人はそれぞれ、相手がどのような立場にいる人間なのかを知っているはず。それ以前に、冥加くんの好きな人は分からないけど、霰華ちゃんは木全くんのことが好きだったはず。


 それなのに、冥加くんと霰華ちゃんがデートしていた、だって? しかも、そんなわけの分からない勘違いをしている上に、励まそうと思って冥加くんのことを笑っただって?


 そのときの状況がいまいち想像できないけど、今のわたしにはそんなことはどうでもよかった。冥加くんと霰華ちゃんが敵対していて恋人などではないということくらい、このわたしがよく知っているからその可能性はないとはいえ、わたしは別のことに対して嫌悪感を抱いていた。


 それは、沙祈ちゃんが冥加くんのことを励まそうとしたとしても、表面的には悲しんでいたはずの笑ったということ。理由は何であれ、わたしが誰よりも愛しているあの冥加くんのことを笑うだなんて、許せない。何度も何度も自分の中でそんな言葉を復唱しているうちに、わたしの中のその感情は抑え切れなくなった。


「そういえば、沙祈ちゃん。沙祈ちゃんって、いつでもどこでも水科くんと一緒だよね?」

『……え? うん。逸弛とは昔からずっとそうだし、今はあたしの彼氏だし』

「ふーん。それで、沙祈ちゃんはいつから水科くんと一緒にいるの? あと、何で沙祈ちゃんはそんなに水科くんのことが好きなの?」

『それは……あたしと逸弛がまだ小さい頃に……色々あって……』

「何か明確な理由がないの? 決め手だとか、きっかけだとか。それなのに、『ただ昔から一緒にいる』という曖昧かつどうでもいい理由だけで水科くんにいつでもどこでもべったりと引っ付いて、恋人になって、それ以上のこともしたんでしょ?」

『く、矩玖璃……? どうしたの……? 何が言いたいの……?』

「はぁ……ここまで言って、まだ分からないか……哀れな女』


 わたしはわざとらしく大きな溜め息をつき、そのまま数秒間、沈黙を維持した。


 もしかすると、わたしが言ったその台詞はただの八つ当たりだったのかもしれない。沙祈ちゃんが冥加くんのことを笑ったということはあくまできっかけに過ぎず、冥加くんに認めてもらえないだとか、冥加くんが誓許ちゃんと霰華ちゃんを遊びに誘ったということだとか、そういうことでストレスが溜まっていたのかもしれない。


 でも、そのときのわたしはそんなことになど気づくわけもなく、沙祈ちゃんの根幹を揺るがすような一言を放つ。


「沙祈ちゃん。もしかして、水科くんに『操られている』んじゃない?」

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