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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第十六話 『嫉妬』

 誓許ちゃんと二人で街を歩きながら、これまでに起きた三回の殺人事件についての話し合いや情報交換をしたものの、特に新しい情報や有益な情報は何も得られなかった。


 わたしはできる限り情報を漏らさないようにして、誓許ちゃんが何をどこまで知っているのかを探ってみたけど、結局誓許ちゃんが知っているのは霰華ちゃんや木全くんが知っている程度の情報だけだった。正直いって、かなり拍子抜けだ。


 何か思わせぶりで意味有り気なことを何度か言っていた割にはあまりにも情報が少な過ぎるし、それ以前に、人を休日にこんなところにまで呼んでおいて何も話が進まないというのはあまりにも酷い。


 これでは、誓許ちゃんが冥加くんの犯行の根本に関わることを知っていると思い込んで心配し、どう対処すればいいのかが分からず、少し恐れていたわたしが馬鹿みたいじゃないか。


 今さら後悔しても遅いけど、こんなことなら、誓許ちゃんからのお誘いを断ったり、話し合いなんてせずに普通に遊べばよかったかもしれない。


 結局、わたしが知っていることと他のみんなが知っていることを総合的にまとめた場合で判明していることは、冥加くんに関係することでは主に、冥加くんは『これまでに起きた三回の殺人事件の主犯であること』、『殺した人の死体からPICを取ったこと。木全くんの場合では、特殊拳銃も同様』、『殺人に使用された凶器は、それぞれナイフ一本であること』、『冥加くんは何らかの方法で警察からの追跡を逃れていること』。


 分かっていることも、分かっていないことも多々あるけど、わたしからしてみればあまり関係がない。


 わたしはただ、冥加くんの犯行を影ながらサポートし、いずれはそれを冥加くんに気づいてもらいたいだけだ。そのためには、嘘の情報を友だちに流したり、場合によっては葵聖ちゃんのときみたいに殺すことだってできる。それほどまでにわたしの決意は固いものだった。


 誓許ちゃんとある程度のことを話し終わった後、わたしたち二人の間を沈黙が支配している時間が流れている。何をするわけでもなく、何か進展があるわけでもない。今日せいぜいしたことといえば、あまり遠くないけどこんな場所に来たということと、そこを歩いたということくらいのものだ。


 このままではただのウォーキングでしかない。わたしは別に表向きは明るく振舞ってはいるけど、本質的にはスポーツ少女だったり活発的な少女ではない。それ以前に、休日を使ってまで体を鍛えるつもりなんてあるわけがない。第一、女の子がそこまで体を鍛えても、ね。


 そんなことを考えながら、わたしは左手首に取り付けられているPICを操作する。その後、表示された立体映像の画面を確認したところ、現在時刻は午後二時半だということが分かった。待ち合わせ場所の中央噴水から歩き始めてからまだ三十分しか経っていないのに、もう話の種が尽きてしまっている。


 いや、元々決して楽しい話題をするつもりではなかったし、遊びに来たわけでもなかったので薄々気づいてはいたけど、まさかこんなにも早く終わってしまうとは思いもしなかった。


 PICの立体映像をしまい、顔を上げる。そのとき、ふとわたしの目にある二人組が映った。


「……ん? あれって、沙祈ちゃんと水科くん……?」

「あ、本当だ。デートでもしてるのかな」

「まあ、あの二人は恋人だから、休日にデートくらいするよね」


 わたしと誓許ちゃんが歩いていた場所から見て前方三十メートル程度の地点には、沙祈ちゃんと水科くんの姿が見える。二人とも何やら楽しげに笑顔で話しており、その雰囲気からも分かる通り、はたから見てもお似合いのカップルのように思える。


 沙祈ちゃんは水科くんの腕に抱き付いており、水科くんはそんな沙祈ちゃんの髪をそっと撫でている。こうしてみてみると、普段は学校でもイチャイチャしてるからあまり実感がないけど、あの二人は恋人同士なんだなということがよく分かった。


 それはそうと、沙祈ちゃんも誓許ちゃん同様に、昨日よりもだいぶ調子がよくなっているみたいだ。沙祈ちゃんと水科くんは木全くんが殺されたということを知らないけど、沙祈ちゃんは昨日の朝に誓許ちゃんと喧嘩していたからね。


 もしかすると、わたしが予想していたよりも二人はそのことについてあまり気にしていなかったのかもしれない。まあ、沙祈ちゃんにはあんなことを言われたからどうとでもなれと言いたいところだけど、冥加くんの存在を脅かすような存在でないのなら、一応わたしたちの友だちでもあるんだし、仲良くしてもらいたいところだ。


 それにしても、誓許ちゃんは沙祈ちゃんと水科くんのあんな様子を見て何とも思わないのだろうか。誓許ちゃんは少なからず水科くんに好意を抱いていたと思うんだけど。まあ、本人が気にしていないのなら、別に構わないけどね。


 元々の容姿が良いほうの部類に入るあの二人があんな風にイチャイチャと街中を歩いてるからなのか、それとも他の理由でなのか、二人は色んな意味で目立っていた。わたしと誓許ちゃんとの距離は時間が経つにつれて開いているはずなのに、今でもまだ見失う気配がない。


 すると、またしてもわたしの目にその二人とは別の二人組の姿が映った。その二人の姿を見たとき、わたしは何が起こったのかを認識することができなかった。わたしはそのまま、ろくな思考もできないままに、思わず声をもらす。


「……え……?」

「どうしたの? 海鉾ちゃん」

「いや、えっと、その……あれって、冥加くんと霰華ちゃんだよね……? 何でこんなところに……?」

「……火狭ちゃんと水科君みたいに遊びに来たんじゃない?」

「いやいや、でも、霰華ちゃんは冥加くんのことを犯人だと思い込んでいるし、それに、冥加くんは昨日木全くんが殺されたことを知ってるんだよ……?」

「まあ、私たちの場合はこれまでの殺人事件についての話し合いのためにここまで来たけど、世間は普通に休日だからね。最近は何かと張り詰めている場面が多かったから、たまには羽を伸ばそうとでも思ったんじゃない?」


 今だに驚きを隠せないを隠せないでいるわたしに対して、誓許ちゃんは目の前にある光景がさも当然のことかのように、淡々とわたしの質問に返答していく。


 さて、これはどういうことだ。


 まず、あの二人が何でこんなときにこんな場所に来ているのかということだ。ただ単純に遊びに来ただけという可能性は考えにくいし、わたしたちみたいに話し合いをしに来たとも考えにくい。だとすると、何のためにこんな場所に来たんだろうか。


 まず、冥加くんが霰華ちゃんのことを何らかの名目で誘ったとして、その目的はおそらく一つしかない。それは、霰華ちゃんが何をどこまで知っているのかを確認することだ。もしかすると冥加くんは木全くんと話したことで、霰華ちゃんも冥加くんのことを疑っているということを知ったのかもしれない。


 だから、その対策を練るためにあえてこのタイミングで、木全くんの死が霰華ちゃんの耳に入っていないときに、情報収集をしようとしたのだろうか。


 でも、そんなことをしてしまえば、万が一にも口が滑ってしまったときに霰華ちゃんがそれを見逃すとは思えないから状況は悪化するだけ。つまり、この可能性は低い。


 では逆に、霰華ちゃんが冥加くんのことを何らかの名目で誘ったとして、その目的は何だろうか。いや、そもそもこの可能性は考えるまでもなく論外だろう。


 霰華ちゃんは木全くんが殺されたということを知らないけど、それよりも前から、赴稀ちゃんと葵聖ちゃんを殺したのは冥加くんであると決め付けている。しかも、木全くんが冥加くんと話をすると言ったときも、『リスクが大き過ぎますわ!』みたいなことを言っていたし。


 他人に注意するほど危険なことであると分かっているにも関わらず、わざわざそれを実行するだろうか。いや、少なくとも、わたしならそんなことはしない。


 例えば、近くに柵がない池があったとして、友だちがその近くを通ったとき、わたしはその友だちに何らかの注意をするだろう。また、それと同時にわたし自身もその池の近くは通らないようにしようと考えるだろう。


 他人に注意しておいて、自分が危険なものに近づく。この例の場合は、わたしがその池に近づいて、足を滑らせ、そのまま池に落ちて溺れ死ぬということ。これでは、ただの馬鹿だとしか言いようがない。目の前に危険があると分かっているのに、それを避けようとしないのは、自殺願望があるとしか思えない。つまり、こういうことだ。


 あれ? でも、そうなると、結局冥加くんと霰華ちゃんがなぜこんなところにいるのかということに説明がつかなくなってしまう。無理やりこじ付けしてでも説明しようとは思わないけど、今回ばかりは冥加くんの意図が読めない。いや、霰華ちゃんの行動についても分からない。


 そのとき、不意に誓許ちゃんがわたしのほうを向いて、言った。


「海鉾ちゃん。実は、私にも冥加君から電話がかかってきたんだよ」

「……? どういうこと?」

「昨日、木全君の殺人現場に向かっていたとき、私が誰かと電話してたの覚えている?」

「あー、そんなことがあったような、なかったような」


 というか、正直いってそんな細かいことを今さら言われてもいちいち覚えているはずがない。あのときはあのときで、一刻も早く現場に行って、状況を確認したい一心だったし。とりあえず、話を進めるためにここは誤魔化しておこう。


「そのときにね、冥加君から、『明日、みんなで遊びに行かないか』って言われたんだよ」

「……え?」

「そのときは木全君の殺人現場に行って、状況を確認する必要があると思っていたからお断りしたけど、たぶん霰華ちゃんもそれと似たようなことを言われたんだと思う。それで、冥加君は本当は友だち全員と遊びに行くつもりだったけど、木全くんが死んじゃって、私たちが傷付いたと思って気遣って、仕方なく、すでに誘っている霰華ちゃんと二人で遊びに来たんじゃないかな?」

「……」


 それはつまり、どういうことだ。誓許ちゃんは何を言いたいんだ。


 冥加くんは放課後に木全くんから誘われて一緒に帰った。そのときに木全くんを殺し、木全くんは死ぬ直前にわたしに電話をかけてきた。それで、わたしと誓許ちゃんがその現場に向かっている最中に、冥加くんは誓許ちゃんに遊びのお誘いの電話をした。


 でも、断られたから霰華ちゃんに電話をかけ直して、そうこうしているうちに木全くんが殺されたことが発覚したから、『現場に来てほしい』と電話でわたしに言われて現場に来た。冥加くんは、わたしと誓許ちゃんが木全くんの死を悲しんでいると思い、気を遣って遊びには誘わなかった。


 ……何かがおかしい。わたしはそう直感していた。物事の順序としてはおそらくこれであっているはずだけど、どこか違和感がある。わたしが知りえない何かが絡んでいるような気がしてならない。


 それよりも、何で冥加くんは誓許ちゃんや霰華ちゃんには遊びのお誘いの電話をかけたにも関わらず、わたしには電話をかけてくれなかったのだろうか。わたしはそのことについて納得できない気持ちで一杯になった。


 わたしは、霰華ちゃんと誓許ちゃんに対して、強い嫉妬の感情を抱いた。

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