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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第十四話 『現場』

 霰華ちゃんと誓許ちゃんと一緒に教室に残っていたとき、不意に木全くんから電話がかかってきた。電話に出てから最初の三十秒くらいは何も動きがなかったからなのか、霰華ちゃんは首を傾げてこっちを見ていたけど、一方の誓許ちゃんはそれまで同様に、顔を俯けているばかりだった。


 PICから木全くんの弱々しくて今にも掠れて途切れてしまいそうな声を聞いたとき、わたしの中である直感が働いた。わたしはその直感を信じて、その場にいた二人から少し離れた位置に移動してから、木全くんに聞き返した。


「な、何があったの? 木全くん」

『……俺に残された時間は……おそらく、あとわずかしかない……だから、率直に言う……』

「う、うん」

『冥加が犯人だ……俺が、冥加と話しているときに……冥加は犯人じゃないよな……と……聞いた直後に、あいつは……うっ……ぁ……!』

「だ、大丈夫!?」


 木全くんはどこか怪我でもしているのか、一言一言を必死に押し出すようにわたしに言う。その言葉はどれも非常につらそうであり、現に、体のどこかに大怪我を負っているのだということが容易に推測できた。そして、木全くんがわたしに言った台詞から、わたしは考える。


 おそらく、木全くんは冥加くんに対して、触れてはならない部分までを話として持ち出してしまったのだろう。木全くんが言ったように、『冥加は犯人じゃないよな』みたいに。


 そこで、冥加くんはある一つの判断を下した。それが、『木全遷杜を殺すということ』。木全くんが何らかの原因でもがき苦しんでいるのは、冥加くんが木全くんを殺そうとしたからだ。


 たぶん、木全くんは霰華ちゃんから貰った拳銃があったから、冥加くんに抵抗することができたのだろう。だから、冥加くんは葵聖ちゃんのとき同様に木全くんのことを殺し損ねてしまったのだと思うけど、もうすぐ息絶えるだろう。


 PICからは木全くんの声以外の音は聞こえないことから、近くに人はおらず車道もないのだということが分かる。つまり、他の人に頼ることができなかったから冥加くんに殺されかけて、自分の怪我をすぐに治すことができないから、死ぬ直前にこうしてわたしに電話をかけてきたのだろう。


 わたしが冥加くんの犯行をサポートする立場であるとも知らずに。


 とりあえず、あまり電話の時間が長過ぎると霰華ちゃんと誓許ちゃんに不審に思われてしまう。だから、今すぐにでも電話を切って、現場に行って状況を確かめたいところだ。でも、霰華ちゃんが『木全くんが殺された』ということを知ったら絶対に取り乱すだろうからな……どうしようか。


 まあ、ひとまず、木全くんがどこにいるのかだけは聞いておこうか。


 PICの向こう側で友だちが一人死にかけているのに、わたしは心の奥底ではいたって冷静に木全くんに尋ねる。一応、表面上は非常に焦って驚いているように見せかけながら。


「じゃ、じゃあ、今からわたしたちもそこに行くから! 木全くん、今どこにいるの!?」

『……えっと……第二地区……多種研究施設密集区域の……V-5エリア……だ……』

「わ、分かった! 何があったのかはそこに行ってから聞くから、それまでは頑張って――」

『……待て……』

「……?」


 わたしがPICを操作して電話を切ろうとしたとき、木全くんはそれまでの弱々しい声色に最後の力を振り絞って少しだけ平常通りに戻し、わたしのその行動を中断させた。


 もう木全くんが何を伝えようとしたのかは伝わったし、これからわたしはどう行動するべきなのかは考えてある。だから、冥加くんが犯人であると知ってしまっている木全くんは死んでくれてもいいんだけど、まだ何か言いたいのだろうか。


 木全くんの呼びかけに対してわたしが聞き返した後、少しばかりの間を空けて、木全くんは言った。


『金泉には……言わないでくれ……』

「……? 何を?」

『……俺が、冥加に殺されたことを……あいつが知ったら、冥加も死ぬ……』

「まあ、そうだろうね。でも、木全くんからしてみても、自分を殺した冥加くんには死んでほしいんじゃないの?」

『違う……あいつは……俺を殺そうとしたのは、本当の冥加じゃない……!』

「どういうこと?」

『……俺にナイフを突きつけたときのあいつは……何か別の……別の冥加のような感じがした……普段のあいつとはまるで違う……ような……』


 信じていた親友に裏切られて、しかも殺される寸前まで痛め付けられたからなのか、どうやら木全くんの意識は現実とそうでないものの区別がつかなかくなってしまっているらしい。走馬灯とはまた違う、いわゆる現実逃避のようなものだろうか。自分が望んだ結果でないと死んでも死にきれない、みたいな。


 でも、残念ながら、今回の場合はわたしに電話してしまったことがそもそも木全くんにとっては運の尽き。なぜなら、わたしは冥加くんの犯行をサポートする立場だから。もうすぐ死ぬやつの戯れ言に時間を浪費するつもりはない。


「あー、そう。そうだったんだー」

『……海鉾?』

「それにしても、残念だったね、木全くん。色々と考えた結果わたしに電話するのが最善だと思ったんだろうけど、実際には最悪の選択肢を選んじゃって。せめて、わたしじゃなくて誓許ちゃんに電話をかけていればなんとかなっていたかもしれないのにねー」

『……何を……言っている……?」

「ふふっ。ここまで言っても、まだ分からないの? もしかして、馬鹿の方ですか? とりあえず、もう電話を切るね。あの二人がこっち見てるし」

『……! まさか、海鉾……お前――』

「じゃあねー」


 木全くんの台詞を最後まで聞くことなく、わたしは軽い調子で木全くんを嘲笑した後、電話を切った。どうやら、木全くんは最後の最後に、わたしが冥加くんが真犯人であることを知っている人物だったことやそれ以外の何かに関係している人物だということに気づいたみたいだけど、もうそのことを他の誰かに伝えられるような体力は残っていないはず。


 まあ、だからこそ、最後に余計な雑談をして時間を使わせたんだけどね。別に死ぬ直前に絶望を与えたかったわけじゃないし、他に理由があったわけでもないけど、せっかく話したとしてもそれが外に漏れない相手なら真相を教えてしまっても構わないだろう。


 わたしの中で、そんな難解事件を実現した犯人みたいな心理が生まれたからこその、その行動だった。


 電話を切った後、しばらくの間わたしは何をすることもなく、少し離れたところで座っている霰華ちゃんと誓許ちゃんに背を向けた状態のまま、近くにあった椅子に座っていた。


 そして、冥加くんが木全くんを殺したことや、木全くんがどういう状況にあるのかを想像しつつ、これからわたしはどうするべきなのかを改めて考える。その結論が導き出されたとき、わたしは後ろを振り返り、二人のもとへと歩み寄った。


 相変わらず、霰華ちゃんはわたしのことを不思議そうに見ているだけで、誓許ちゃんは顔を俯けて暗い雰囲気を醸し出しているだけだった。わたしはそんな二人に声をかける。


「二人とも、少しいいかな?」

「え、ええ。いいですけど……今の電話は――」

「あー、うん。今の電話は木全くんからかかってきたの。やっぱり、冥加くんは犯人ではなさそうだって。だから、とりあえずは安心しておけって」

「そ、そうですか……」

「それで、本題なんだけど……霰華ちゃんに話したいことは言い終えたから、霰華ちゃんは先に帰っておいてくれる? わたしは誓許ちゃんと二人きりで少し話があるから」

「……? 分かりましたわ」

「うん。ありがと」


 わたしがするべきことは二つ。


 まず一つ目は、霰華ちゃんに嘘をついて、先に家に帰すこと。


 霰華ちゃんは木全くんが殺されたと知ったらおそらく豹変して今すぐにでも冥加くんのことを殺しに行こうとするだろう。そうなってしまったら、わたしにも被害が及ぶ可能性があるし、押さえつけることができない可能性だってあるし、何よりも冥加くんを殺されるのは困る。


 だから、霰華ちゃんには『木全遷杜は生存している』という嘘と『冥加對は犯人ではない』という嘘を伝えて安心させて、推理を完全にリセットさせた上で家に帰ってもらう。こうすれば、冥加くんやわたしに被害が及ぶことはないし、情報操作も完璧だ。


 まあ、遅かれ早かれ、霰華ちゃんの耳に木全くんが死んだという情報は入ると思うけど、それまでに何か対応策を考えておけばいいだけの話だ。だから、今はとりあえず一時凌ぎという名目でこうするのが最善だと思われる。


 次に二つ目は、誓許ちゃんと二人で木全くんの殺人現場へと向かって、その状況を確認すること。


 もし、わたしが一人で現場に行ってその状況を確認した場合、いくつか問題が発生してしまう。例えば、わたしが冥加くんを庇っているだとか、わたしが木全くんを殺しただとか、そんな風に考えてしまう人が出てくる。


 だから、わたしの他に第一発見者が必要だ。それも、わたしが木全くんと電話していたということを知っている人のほうがいい。それに該当するのは霰華ちゃんと誓許ちゃんだけだ。でも、霰華ちゃんは先に家に帰ってもらうから、消去法でわたしは誓許ちゃんと一緒に第一発見者になるのが最善ということになる。


 この二つを達成することで、わたしも冥加くんも木全くんを殺した犯人であるという候補から外されることとなり、霰華ちゃんに命を狙われる必要もなくなる。


 また、一連の殺人事件の犯人は同一人物であることはもうすでに前提条件になっているのだから、木全くんを殺した犯人がわたしや冥加くんではないということはつまり、それまでの事件の犯人もそうではないということが証明できる。


 霰華ちゃんを先に家に帰した後、わたしと誓許ちゃんは二人だけでさっき木全くんが言っていた場所へと向かった。その最中、誓許ちゃんは未だに顔を俯けたまま暗い雰囲気を醸し出していたけど、もしかすると、木全くんが殺されたということを悟っていたのかもしれない。木全くんから電話がかかってくる前にも何か言っていたような気がするし。


 木全くんが殺されていた殺人現場は赴稀ちゃんや葵聖ちゃんほどではないにしても、相当悲惨なものだった。辺り一面は真っ赤に染まり、それはまるで血の海のような状態だった。木全くんがもたれかかっていた真っ白な研究所の外壁は赤一色に変わっていた。


 また、木全くんはナイフで切りつけられたらしく、死体の近くには一本のナイフが無造作に放置されており、全身には大量の切り傷があった。その切り傷の全てから今も大量の血液が溢れ出ていた。あと、一部では制服越しだけど、内臓が見えそうになっている箇所もあった。

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