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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第十二話 『仲裁』

 昨晩、わたしと霰華ちゃんと木全くんは、冥加くんが引き起こした赴稀ちゃん殺人事件と葵聖ちゃん殺人事件について話し合った。また、すでに二人は考えられた推理によって、冥加くんが二つの事件の犯人であることに気づることが判明した。


 でも、冥加くんをサポートする立場のわたしはそれ以上の推理をさせないため、今ある推理を無へと返すために、わずかな真実を含めて偽の情報を二人に伝えた。


 その結果、わたしの思惑通り、二人は自分たちが立てた推理の穴に混乱し、冥加くんが犯人ではないと思い込み、推理を一からし直すことになった。


 木全くんはそれらのことも含めて、今日冥加くんに話を持ちかけると言っている。だけど、二人の中では冥加くんが犯人ではないということがまだ完全には証明されていなかったからなのか、その行動は危険だと考えた霰華ちゃんは木全くんを引き止めようとしていた。しかし、案の定木全くんはそれを拒んだ。


 そして、それでも木全くんのことが心配だった霰華ちゃんは、わたしと木全くんに『特殊拳銃』と『透明な強化ガラスの一部設定を変更できるパスワード』を送った。前者はそれぞれの家にある3Dプリンターで複製して、後者はそれぞれのPICに直接送られた。


 それらの使用方法や使用すべき場面についての説明を霰華ちゃんから受けた後、その日の話し合いは終了となった。さて、予想外の場面で、かなりとんでもないものをもらってしまったような気がするのはわたしだけだろうか?


 この特殊拳銃の使い方は、ドラマとかで使われていて今では製造販売禁止になっている弾丸を使用するタイプの旧式の拳銃と同様に、取り付けられている安全装置を外し、対象物に銃口を向けて、引き金を引くだけ。デザインというか色合い的な何かは極めて近代的なものだけど、外見や大きさはほとんど旧式の拳銃と何ら変わりはない。


 強いていうなら、わたしは旧式の拳銃を手に持ったことがないから正確なことはあまり言えないけど、想像以上に本体が重かったということくらいか。それに、何だか重心も少しだけ偏っているように思えるし。


 また、この特殊拳銃は旧式の拳銃とは異なり、対象物質の質量や密度などの情報を分析して、それらに合わせてその威力が変化するというものらしい。


 たとえば、そこら辺にある建物に照準を合わせればワンフロアを崩壊させるほどの威力があるが、ガラス製のコップに照準を合わせれば一部が少しだけ欠けるだけ、みたいな感じで。


 ただし、人間を対象した場合は他の物を対象にた場合と少し異なり、次の二つのことが起きるという。


 一つ目は、対象となったその人間の体中の全身系を麻痺させて、数時間身動きを取らせなくするというもの。このとき、心臓や脳などの生命維持に関わる器官にはあまり影響は及ぼされず、もし影響があったとしても致命傷にはならずに済むのだという。ただし、場合によっては他の器官には後遺症が残る可能性もあるそうだ。


 二つ目は、対象となったその人間の照準を合わせた体の部位を内部から爆破させるというもの。それはもう、その部位が木っ端微塵に吹き飛んで肉片と骨だけになるくらいに。正直いって、人の体がそんな風になってしまうなんて想像もつかないし、かなりグロい話だけど、そういう設定を施されているらしい。


 なんでも、照準を合わせたその部位の内部にある空気などの気体に刺激を加えるとかなんとかして、内側から気圧を押し退けられるくらいの圧力にするらしい。そうすることで、それまでは安定を保っていた体のその部位の安定が保たれなくなり、内側から爆破してしまうらしい。


 確か、エネルギー源は普段わたしたちが家電製品とかに使っているエネルギーと同じで、少ない補給量で結構な時間動かすことができるという話だ。


 具体的にどういう仕組みで上記の二つの機能をすることができるのかは分からないけど、防犯道具としては万全過ぎるほどの機能を持ち合わせているハイテクマシーンだといえるだろう。


 あと、それらの機能をどうやって切り替えられるのかという説明も受けたけど、正直いって専門用語ばかりで、しかも長かったからよく分からなかった。というか、聞いてすらいないので、覚えているわけがない。


 まあ、わたしに限ってはおそらく使うことなんてないだろうから、覚えていなくても大丈夫だろう。一応、常備しておくようにとは忠告されたけど。しかも、PICで監視されているというので、逆らうにも逆らえない。


 そして、そんな危険過ぎる特殊拳銃とともに、わたしのPICに送られてきたパスワード。こちらも、どのパスワードをどこに入力すれば何ができるのかという説明書はパスワードとセットでPICに送られてきたけど、特殊拳銃同様におそらく使う機会はないだろう。


 どちらも、犯罪者と対峙したときや密談をするときには最適なものかもしれない。現に、霰華ちゃんはわたしや木全くんの身を案じてこの二つをくれたのだと思うし。


 だけど、それらをもらった後、わたしは一つだけ大きな疑問を抱いた。


 何で霰華ちゃんは一般人ではまず所持できないようなそんなものを持っていたのか。そして、何でそれらを簡単にわたしたちに渡したのか。二つの武器が送られてきて、三人による話し合いが終わった後、わたしはどうしてもそれらの疑問を拭うことができなかった。


 特殊拳銃もパスワードもまず一般人はその存在を知らないほど物騒なものであり、わたし自身も霰華ちゃんから渡されるまではその存在などまるで知る由もなかった。それに、どちらも一般人では所持できず、犯罪者に対抗する警察などの特定の人たちしか所持できないように思えるのに、何で霰華ちゃんは所持していたのか。


 霰華ちゃんは元々頭が良過ぎるからなのか、普段から何を考えているのかが想像できないことがよくある。でも、こればっかりはどうしても分からない。


 霰華ちゃんはわたしたちの身を守るためだけにどうしてここまでのことをするのか。そして、霰華ちゃんの正体は本質的には何なのか。金泉霰華という一人の女の子は、何をどこまで知っているのか。それらのことが途端に分からなくなった。


 霰華ちゃんと木全くんがわたしに電話をかけてきたときから、わたしは冥加くん以外の身の回りのことや友だちを信じられなくなって、殺意すら覚えるほどになったけど、そんな感情さえ消え失せるような疑問がわたしの心を支配していた。


 その疑問を解決するために霰華ちゃん本人に直接話を聞くわけにもいかず、わたしは自分の中に生まれた疑問を取り払うことができず、もどかしい気持ちを抱えながら布団に入って意識を落とし、次の日の朝となった。


 わたしは昨日霰華ちゃんから送られてきた特殊拳銃をバッグに詰め、いつでもすぐに使えるようにパスワードをPICのホーム画面に設定してから、いつも通り少し早めに家を出た。


 教室についてから十分も経たないうちに、冥加くんと死んだ赴稀ちゃんと葵聖ちゃん以外の友だちグループのみんなが次々と教室に集まってくる。そういえば、昨日は沙祈ちゃんが体調不良で欠席していたけど、今日は学校に来ている。


 大抵の病気や怪我なら学校を休むまでもなく治せるはずだけど、そんなに悪い病気にかかったのだろうか。細菌なんていないはずだし、怪我をするような場面もないはずだけど。まあ、学校をサボりたいときだってあるだろうから、たぶんその程度の理由なんだろう。水科くんと喧嘩した可能性もあるけど。


 冥加くんはいつも学校に来るのが結構遅いけど、一時間目が始まるまでに間に合うのだろうか。わたしから、『霰華ちゃんと木全くんが冥加くんのことを疑っている』ということを直接的ではない何らかの方法で伝えておきたいところだけど、どうやって伝えようか。


 そんなことを考えているとき、気づくと、すでに登校していた友だちグループ六人の中で、沙祈ちゃんと誓許ちゃんが口喧嘩をしている。朝っぱらから何をしているんだと思いつつ、どうにかしてこの喧嘩をやめさせたいと思っていると、冥加くんが登校してきた。冥加くんは二人の女の子が喧嘩しているのも気にしない様子で、登校早々何やら水科くんに話しかけていた。


「何であんたはそんなにあたしや逸弛に突っかかってくるのよ! いったい、何の恨みがあってそんなに色々言ってくるの!?」

「別にそんなこと、火狭さんには関係ないでしょ? それに、私は火狭さん一人に構っているのではなくて、逸弛君たちみんなに忠告したいだけなの。そもそも、わたしはこんな風に火狭さんと喧嘩をしたいだなんて、少しも思っていない。火狭さんが勝手に勘違いしているだけ」


 どうやら今回の二人の喧嘩もまた、水科くんが原因らしい。沙祈ちゃんは水科くんを取られまいとして誓許ちゃんに反抗し、誓許ちゃんは落ち着いた雰囲気でそれに反論している。


 一方、二人の喧嘩の原因を作っている水科くんは冥加くんと何かを話しているだけで、目の前で起きている喧嘩を止めようともしない。仮にも沙祈ちゃんは水科くんの恋人だというのに、放置はまずいのではないかとすら思えてくる。


 というか、わたしもそうだけど、霰華ちゃんは知恵の輪で遊んでいるだけで、木全くんは沙祈ちゃんのことを見ているだけで、その場にいる誰もがその喧嘩を止めようとはしていない。わたし自身もその内の一人なのだから余程のことはいえないけど、かなりの頻度で見るような光景だけど、友だち失格だと思う。


 普段の二人の口喧嘩にしては、誓許ちゃんが声を荒げていないからなのか静かな印象を受ける。まあでも、喧嘩には変わりないので、見ていて苛々してしまう。何も、わざわざ教室でするようなことではないということは確かだ。毎度毎度喧嘩するくらいなら学校になんか来ないで、勝手に家で殺し合いでもしていてほしいとすら思う。片方が死んだら静かになるだろう。


「本当は赴稀も葵聖もあんたが殺したんじゃないの!? あたしから二人も友だちを奪って、そんなに楽しいの!? そのうち、あたしのことも邪魔だから殺すんでしょ! 鬼! 悪魔! 死んじゃえ!」

「……っそんな根拠のない言いがかりなんてやめて……私、そんなことしてないし、それにあの二人を殺したのは……いや、何でもない。もう、こんな無駄な言い争いはやめよう?」


 誓許ちゃんはそう言って、冥加くんのことを一瞬だけ見た後、顔を俯けた。どうやら、誓許ちゃんのその不自然な仕草に気づいたのは私だけだったらしく、誰も特に何も追及しなかった。


 そういえば、昨日葵聖ちゃんの殺人現場を見せたとき、誓許ちゃんは今にも吐きそうな感じに咳き込んでいて、霰華ちゃんに保健室に連れて行かれたけど、今はもう大丈夫なのだろうか。まあ、沙祈ちゃんと口喧嘩ができるくらいなんだから、もう治っているのだろう。


「何よそれ! 言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさいよ! あたしは最初に会ったときから、あんたのそういうところが大嫌いなのよ! あたしからの言葉を無視するし、答えても今みたいにまるで相手にしないし! 挙句の果てに、あたしの逸弛さえも横取りしようとするし! 何で、あんたみたいな奴が生まれてきたのよ! アンタなんて、生まれる価値すらなかったのよ!」

「……っ! 私は何も、そんなつもりで火狭さんと話していたわけではないし、今はもう逸弛くんを横取りしようだなんて思っていない! それに、私が他人を差し置いてこの世界に生まれてしまったことと今のことは関係ないでしょ!? 私が生きていて何が悪いの!? この世界には、生まれてこれなかった人や、完全な形で生まれることができなかった人が大勢いるんだよ!? それなのに、そんなこと、簡単に言わないで!」


 沙祈ちゃんの台詞が気に食わなかったのか、ようやく誓許ちゃんはいつものように声を荒げてそれに反論した。何だか、沙祈ちゃんも沙祈ちゃんで、ただ単純に誓許ちゃんに悪口を言いたいだけのような感じがするし、誓許ちゃんも誓許ちゃんでそれくらいのことくらい分かっているのに突っかかるというのは、やはり見ていてもどかしい気持ちになる。


 というか、正直いってうざい。


 喧嘩も大分ヒートアップしそうなので、そろそろやめさせておいたほうがいいだろう。こっちにまで被害が及んだら嫌だし、沙祈ちゃんも誓許ちゃんも相手の髪や服を引っ張ったりして、もはや口喧嘩という領域には収まらないような状況になってきたし。


 そう思ったとき、不意に冥加くんが、そんな風に揉み合いながら殴り合いの喧嘩をしている二人の間に割って入って喧嘩を止めようとした。わたしもそれに続いて、二人の間に入って呼びかける。わたしは沙祈ちゃんに、冥加くんは誓許ちゃんに。


「おい、土館! そろそろいいだろ! もうやめておけ!」

「離してよ、冥加君! 今までずっと我慢してきたけど、今回の言いがかりばかりは納得がいかない!」

「沙祈ちゃん! こんなところで喧嘩しても、何もいいことなんてないよ? だから、もう――」

「うるさい! 矩玖璃は誰かに彼氏を取られるようなつらい経験をしてないからそんなことが言えるんだ! それに、こいつはいつでもどこでもあたしの逸弛を横取りしようとして!」


 沙祈ちゃんにその台詞を言われたとき、わたしの中でまたしても新たなる殺意の感情が生まれた。わたしの目の前にいる、何でもできて、恋人がいて、好き勝手に生きている、この赤髪短髪の女の顔面を力づくで殴ってやりたいとすら思った。


 わたしなんか、沙祈ちゃんとは違って彼氏を取られる取られない以前に、好きな人に自分の気持ちを気づいてもらえないでいるというのに。その気持ちを嘲笑うかのような躊躇の欠片も見当たらないその台詞に、わたしは苛立ちを覚え、抑えられない妬みと殺意の感情を抱いた。

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