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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第二章 『Chapter:Neptune』
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第十一話 『武器』

 わたしは冥加くんの秘密を守るために、二人が事件の真相に辿り着くのを阻止しようと考えた。しかし、今この場ですぐにそれを実行してしまうと、二人はわたしが葵聖ちゃんを殺した真犯人であることや、冥加くんの秘密を知っているということに勘付いてしまうかもしれない。


 だから、二人がわたしと一緒に推理をしようと言ってきているその申し出を断るわけにはいかない。とはいっても、わたしが知っていることの全てを話してしまっては本末転倒だ。


 つまり、わたしが今するべきなのは、二人からの申し出を表面的にだけ承諾したように見せかけて、事実と嘘を入り交えながら適当な情報を教える。それと同時に、二人が今回の二つの事件についてどこまで推理していて、どこまで分かっているのかを、直接的ではない間接的な方法で聞き出す。


 こうすることで、冥加くんが実質的な主犯であることや、わたしが冥加くんの秘密を知っているという事実を外に漏らすことなく、二人が現在知っている情報の範囲を把握することができる。


 さらに、わたしが事実を言うとともに嘘も言うことで、二人の考えを混乱させることが可能となり、二人が推理によって真相へと辿り着くことを困難にさせる。最終的には、ただの学生ごときが、冥加くんが起こした凶悪殺人の真相には辿り着けないという現実を気づかせて、推理を中断させる。


 しばらくの間は、わたしも表立って行動はしないほうがいいだろうから、二人による冥加くんへの疑いが晴れるまではわたしが演技をするとしよう。当然のことながら、余程の場合でなければ冥加くんの犯行の手伝いもしないほうがいいと思うしね。


 冥加くんに認めてもらいたいというのはやまやまだけど、それ以前にわたしたちの秘密が他の人にばれてしまっては、せっかく立てたわたしの計画が破綻してしまう。だから、まずはその処理を完全に済ませてからにしよう。


 数分間に渡ってPICの前で考え込んでいたわたしのことを、画面の向こう側にいる霰華ちゃんと木全くんは真剣そうな眼差しを向けて見ていた。ふとそんな二人の様子に気づき、自分の中での考えもまとまったとき、わたしは声を発した。


「……ああ、ごめん。考え込んでた。えっと……じゃあ、わたしが思っていることを言うよりも前に、とりあえず、霰華ちゃんと木全くんは事件のことをどこまでどう知っているのかを教えてくれる? あと、その情報からどんな推理を導き出したのか、も」

『……そうですわね。海鉾さんの言う通り、まずは状況の整理からしておいたほうがいいですものね。それに、こうして海鉾さんに電話をかけるよりも前に私が遷杜さんとどのような推理をしたのかについてもお話ししておくべきでしょう』

『そうだな』


 今の状況でわたしが一番知りたかったことを率直に聞くと、二人は何の疑いもなく、わたしのその台詞に賛同した。あまりにも二人が単純すぎたからなのか、わたしは思わず気が緩んで顔がにやけて吹き出しそうなったけど、寸でのところでそれを回避することに成功した。


 そして、木全くんが自分の台詞に続けて、現在知っている情報を淡々と述べていく。


『今のところ俺たちが分かっているのは「地曳と天王野を殺した犯人は捕まっておらず、同一犯である可能性が高いこと」、「二人を死に追いやったのはそれぞれ、一本のナイフであること」、「二人の死体からはPICがなくなっていたこと」、「地曳が殺された日の晩、地曳は俺たち八人全員に謎のメールを送ってきていたこと」、「天王野は地曳が殺された事件について、何かしらの情報を持っていたこと」くらいか。他にも何かあったような気もするが、何だったか――』

「……ん? ちょっと待って」

『どうかされたのですか?』


 今の木全くんの台詞の中でいくつかの疑問が生まれたわたしは、冥加くんを守るだとか、計画だとか、そういうこととは一切関係なく、自分自身のために木全くんの台詞を中断させた。


「『二人の死体からPICがなくなっていた』って? あと、『赴稀ちゃんが殺された日の晩に、謎のメールが送られてきていた』って? どういうこと?」

『ああ、そうか。そういえば海鉾は、天王野が俺たち七人に地曳が殺されたということを伝えた後、すぐに天王野と一緒に保健室に行っていたんだったな』

『実はあの後、仮暮先生から私たちに、地曳さん殺人事件について少しだけお話があったのですわ。そのときに、「地曳さんのPICもどこへいってしまったのか未だに行方不明で、電源を切られているのか、その場所の特定もできていない」と言われたのですわ』


 二人の説明を聞いたわたしは、あまり深いことを考えたりせずにすぐに納得した。そういえば、言われてみれば、直接誰かに言われたわけではないけど、教室にいるときにそんな話が聞こえてきたような気がする。


 わたしが赴稀ちゃんのバラバラ死体を発見したときは、そんなことを確認しているような余裕はなかったから、そこまで詳しくは覚えていないし、分からない。


 でも、よくよく思い出して見ると、確かに霰華ちゃんの言う通り、葵聖ちゃんの死体にはPICがなかったような気もする。わざわざそんなことを確認したりはしていないけど、確かそうだったと思う。まあ、どちらにせよ、二人がわたしに嘘をつく理由はないはずだから、これは信じてもよさそうな情報だ。


 そうなると、赴稀ちゃんと葵聖ちゃんの死体からPICを取ったのは冥加くんということになる。冥加くんが赴稀ちゃんを殺し、わたしに殺させるために葵聖ちゃんを半殺しにしたのだから。


 だけど、たとえ冥加くんが死んだ二人のPICを取ったとしても、そんな行動をした理由はいったい何なのだろう。PICは暗証番号によって厳重にロックされていて、基本的にPICを所持している本人でしか操作することはできないから、わざわざ移動履歴を確認されて追跡されるリスクを負ってまでする必要はないように思える。


 それでも、冥加くんは死んだ二人の死体からPICを取っている。他の、わたしが知らない第三者が行ったこととも思えない。でも、そうだとすれば、やはりそのときの冥加くんの意図が分からない。


 霰華ちゃんと木全くんの言ったことが嘘だとも思えないけど、冥加くんのその行動の意図も分からなかったわたしはしばらく考え込んだ後、二人に説明を続けてもらうように言い、それを聞くことにした。ひとまず、分からないことは後回しにして、そのうち新たな情報が入ったときにでも考えるとしよう。


『もう一つの、「地曳さんが殺された日の晩、地曳さんは私たち八人全員に謎のメールを送ってきていた」ということなのですが、私の推理が正しければ、もしかすると海鉾さんのところにもそのときに地曳さんからメールが二通送られていたのではないですか?』

「え……うん。そういえば、あの日の晩に赴稀ちゃんから何かよく分からないメールが送られてきたような気がする」

『やはり、そうでしたか。実は、私と遷杜様にもあの日の晩に地曳さんからメールが送られてきていたのですわ。しかも、「この世界は昨日から作られた」とだけ書かれた文面のメールと、それを訂正するような内容のメールが、それぞれ一通ずつ』

『まあ、俺も金泉もそのメールが送られてきたときは何のことか分からず放っていたんだが、さっき二人で話しているときにその話題が出て、そのことが判明したというわけだ』

「……へー、そうだったんだ。知らなかった」


 わたしは少しだけわざとらしく、二人の説明に納得したように返答をして頷く。


 赴稀ちゃんが冥加くんに殺された日の晩、わたしに一通のメールが届いた。そのメールの文面は『この世界は昨日から作られた』とだけ書かれたもの。そして、その少し後にもう一通、『さっきのメールに深い意味はないから気にしないで。ごめん』という文面のメールも届いた。


 木全くんが言ったように、二人同様にわたしもそのメールが届いたときはそれがどういう意味なのかが理解できずに考えることを放棄して、その記憶を忘却の彼方へと放り投げたために、今の今まで一回たりともそのことを思い出すことはなかった。


 でも、二人と会話したことで少しだけ状況が変わった。わたし同様に、霰華ちゃんと木全くんにもまったく同じ文面のメールが届いていたということが判明したからだ。


 赴稀ちゃんが冥加くんに殺される直前にどういう意図をもってあんな説明不足甚だしい意味不明なメールを送ってきたのか、その意図も真意も分からない。でも、少なくとも赴稀ちゃんはわたしたちに何かを伝えようとしたということは分かる。


 冥加くんに殺されるということを伝えるならば、誰か一人に冥加くんが犯人であることを率直に伝えられる文面のメールを送ればいいだけの話だから、その可能性は低い。だとすると、赴稀ちゃんはわたしたち八人にあんなメールを送って何を伝えたかったのだろうか。


 それに、霰華ちゃんの推理が正しければ、赴稀ちゃんはわたしたち三人だけでなく、他の友だちグループのメンバーにも同様のメールを送っているということになる。


 どちらにせよ、赴稀ちゃんの考えも、あのメールの意味も分からないままだけど、そのことが冥加くんの立場を危うくするような邪魔な存在ではないことは確かだ。


 赴稀ちゃんが冥加くんに殺されるということを誰かに伝えていたら、今頃冥加くんはオーバークロック刑によって廃人になってしまっていたかもしいれないのだから。でも、もし冥加くんが廃人になってしまっても、わたしが一日中付きっきりで看病してあげればいいだけか……いや、そんなことは考えないでおこう。


 ……あれ? でも、そうなると少しだけおかしなことになるんじゃないだろうか?


 確か、赴稀ちゃんからの一通目のメールは、冥加くんが人工樹林から出てくる少し前に届いたはず。つまり、赴稀ちゃんが冥加くんに殺される直前、もしくはその最中に全員へと送ったものだ。


 でも、赴稀ちゃんからの二通目のメールは、冥加くんが人工樹林から出てきて、わたしが興味本位で人工樹林の中に入った後に届いた。つまり、二通目のメールが送られたとき、すでに赴稀ちゃんは殺されていたはずなのに、メールが送られているということになる。ということは、あの二通目のメールは赴稀ちゃんではない、誰か別の人物が送ったということになるのではないだろうか。


 いやいや、結論を出すのはまだ早い。もう少し色々な可能性を考えてからでも遅くないはずだ。


 例えば、冥加くんが赴稀ちゃんを殺し損ねて、残ったわずかの命を使って赴稀ちゃんがみんなにメールを送ったとしよう。


 だけどそうなると、一通目のメールを取り消すような文面を送る意味がない、ということに気づくことができる。それ以前に、赴稀ちゃんは四肢がバラバラの状態で殺されていたのだから、どうメールを送れというんだ。


 別の可能性を考えよう。例えば、あのときなぜか人工樹林にいた葵聖ちゃんが赴稀ちゃんの死体からPICを取って、赴稀ちゃんを装ってわたしたちにメールを送ったとしよう。……いや、この可能性のほうが低いかもしれない。


 そもそも、思い出してみれば赴稀ちゃんのPICは冥加くんが取ったはずだし、実は冥加くんではなく葵聖ちゃんが赴稀ちゃんのPICを取った犯人だとしても、その暗証番号が分からなければPICを操作することさえ叶わない。また、それらのことが可能だとしても、あんなメールをわざわざみんなに送る意味もない。


 しかし、それは冥加くんにもいえることだ。冥加くんが赴稀ちゃんを殺した犯人であることを赴稀ちゃんがメールという形でみんなに伝えようとしたならまだしも、それとはまったく関係のないようなメールなのだから、冥加くんがわざわざ訂正する必要性が見当たらない。


 ここまで考えたとき、わたしの中ではさらに疑問がいくつも浮かび上がっていた。赴稀ちゃんが送ったとされる一通目のメールの意図は何なのか。赴稀ちゃんが送ったとされる二通目のメールの意図と、それの本当の送り主は誰なのか。


 考えようにも情報が少ないから、どうしようもない。とりあえず、分からないことがあるというのは気分がいいものではないけど、こんなところで時間を浪費するのもあまり得策ではなさそうだ。わたしはしばらく考え込み、二人のことを待たせた後、不意に話を再開させる。


「まあ、その二つのことはおいておくとして……結局のところ、二人は誰が赴稀ちゃんと葵聖ちゃんを殺した犯人だと思っているの? 二人の話を聞いていると、何だか大体の目星はすでについていそうだけど」

『……海鉾の言う通り、一応目星は立っている。実のところ、俺もあまり認めたくはないが、地曳と天王野を殺した犯人はおそらく、冥加だ』

「……!」

『俺たちが知りうる情報でこれまでの状況を振り返ったとき、冥加が俺たちが推理した犯人像に最も近いということが分かる。しかし、証拠は有り余るほどあるのだが、本人はまるでその気配を見せてはいない。自分が犯罪を犯しているということを認識できていないのではないかと思えるほどにな。それに、俺自身もまさか親友が友だちを二人も殺した犯人であるとは思いたくないが……』

『遷杜様の言う通りですわ。私としても、もっと別の結果になればいいと思っていたのですが、どう考えてもこのような結論にしかできないのですわ。友人が殺人犯なんてこと、信じたくないのは誰だって同じですけど……』

「……なるほど……」


 やけに演技臭い二人のその台詞を聞いた後、わたしは二人に聞こえないような小さな声でそう呟いた。


 やっぱり、わたしの推測通り、二人は冥加くんが二つの事件の主犯であることを突き止めている。だけど、おそらくそれだけだ。それ以上のことは何も分かっていないはずだ。


 冥加くんが、何でそんなことをしたのか。何で二人も殺しているのに捕まっていないのか。そのことについてはわたし自身も分かっていないことが多いけど、おそらく二人はさらに多くのことを分かっていないと思われる。


 それなのに冥加くんが二つの事件の主犯であることを突き止めるなんて正直凄いと思えるけど、だからこそ、今がチャンスだ。理論も根拠もまるで決定的ではなく、地盤も基盤も固まっていない不安定な今の状況だからこそ、それを根本から覆して崩壊させることも可能なのだ。


 わたしは、二人の推理を混乱させるため、事実を含めて嘘を教える。それは、あたかも真実を話しているかのような演技をしながら。


「それはないと思うよ?」

『……え? どうしてそう言い切れるのですか?』

「だってわたし、赴稀ちゃんが殺された日の晩に、冥加くんが人工樹林の近くを通り過ぎるのを見たもん」

『何? それはどういうことだ?』

「えっと、詳しく言うと……あの日の晩、わたしは少し散歩でもしようと思って人工樹林の近くを歩いていたの。そんなとき、冥加くんの後ろ姿を見つけたの」

『人違いという可能性や、すでに犯行を終えた後の姿だったという可能性は?』

「たぶん、それはないと思う。たとえそれが後ろ姿だとしても、わたしが冥加くんのことを見間違えるとは思えないし。それに、わたしが冥加くんを見つけたのは冥加くんが人工樹林の手前数十メートルの地点にいたところだから。それで、こんな時間に何してるんだろうって思ってそのまま後ろのほうを歩いていたんだけど、冥加くんはわたしに気づくことなく何をすることもなく、人工樹林を通り過ぎて行ったの」

『では、海鉾さんがその冥加さんを発見するよりも前に、犯行は行われていたのではないですか?』

「さっき同様に、それもまたありえないと思う。だって、わたしが冥加くんの後ろ姿を追いかけて人工樹林から大分離れたとき、ふと赴稀ちゃんからメールが来て、考えているとその何分か後に二通目が届いたから」

『ということはつまり海鉾は、冥加は犯人ではない、と言いたいのか?』

「まあ、最初から言っているように、おそらくそうだろうね。あと、わたしは見ていないけど、冥加くんはもしかすると赴稀ちゃんを殺した犯人を見たかもしれないね。確証はどこにもないけど」

『……うーん……』


 さすがに、冥加くんが人工樹林の近くにいたという事実を教えるとともに、嘘の情報を言い過ぎたかもしれない。わたしの台詞の後、霰華ちゃんと木全くんはそれぞれ難しい顔をして、考え込んでしまった。


 二人はわたしが嘘を言うなんて可能性はおそらく考えていないはずだから、わたしが言った台詞の全てを信じるはず。でも、それは自分たちがついさっき立てた仮説を根本から考え直す必要があることを意味する。


 二人には悪いけど、わたしはわたしの目標を達成するよりも前に誰かに邪魔をされるわけにはいかない。だからこそ、冥加くんが真犯人であることを伏せた上で、代わりに冥加くんが人工樹林を通り過ぎたという嘘を教えた。


 これで、二人が必死に組み上げた全ての推理はそれぞれの事件の状況と証拠だけが残った状態で、一からの再スタートとなる。


 そんなとき、しばらくの間考え込んでいた二人が会話をし始める。


『……これは、もう一度、推理をし直す必要がありそうですわね』

『そうだな。とりあえず、俺が明日、冥加に何か有益な情報を知っていないかどうかを聞いてみよう』

『え!? で、ですが遷杜様! それは、万が一にも冥加さんが犯人だったときにリスクが大き過ぎますわ! ですから、わたしもついて――』

『それは駄目だ。とりあえず、今は海鉾の目撃証言を信じて、冥加が犯人ではないという可能性にかける。それにもし、俺たちの考え過ぎならそれでいいじゃないか。俺だって、親友を一人失わずに済むわけだしな』

『遷杜様……』


 何なんだ、こいつらは。


 一応、三人一緒にそれぞれの顔を画面に映し出して通話しているはずだけど、わたしの存在を忘れたかのように、そこにいないもののように、霰華ちゃんと木全くんは勝手に会話を進める。


 というか、霰華ちゃんは霰華ちゃんであからさまに木全くんのことを心配し過ぎだ。今だって、顔を真っ赤にして恥ずかしがっているような、照れているような、そんな表情をしているし。どんな理由で好きになったのかは知らないけど、木全くんのことを好き過ぎだと思う。


 一方の木全くんは冥加くんのことを余計な方向に、あまりにも過剰評価し過ぎだ。冥加くんが真犯人であることも知らずに。あと、男同士なのに冥加くんのことを好き過ぎだと思う。わたしみたいに女子が男子を好きになるならまだしも、男子が男子をそこまで信じるというのは……どうなんだろう。これ以上のことを言うと、誰かにあらぬ誤解をされそうだ。


 目の前で勝手に会話を進められたことに対してわたしが苛立ちを覚え始めたとき、自分の台詞に続いて霰華ちゃんが木全くんに台詞を発した。その後、不意にさっきまで完全に放置されていたわたしも会話を振られる。


『遷杜様がそう仰るのでしたら致し方ありませんわ……ですが、念のため……本当に危機的状況になったときのために、わたしから武器を一つ差し上げますわ』

『……武器?』

『遷杜様、海鉾さん。3Dプリンターはご自宅にございますわよね?』

『あ、ああ』

「うん」


 3Dプリンター。すなわち、通常のプリンターは2Dだけ、つまり紙などの平面的な情報しか送ったり複製したりすることはできない。でも、3Dプリンターは違う。目的のものの材料とその設計図さえあれば、人の手を加えることなく、機械が自動的に目的のものを作ってくれる。


 現代では2Dと3Dの両方の機能を内蔵したプリンターが主流となり、値段もそれほど高くないので、大抵の家庭に一つはあるようなものとなっている。生成するものの材料は家の近くにある店にも置いてあるけど、必要であれば転送もできるから、基本的には大体のものが揃っているといえるだろう。それに、昔はどうだったかは知らないけど、一時間もあれば大抵のものを作り出すことができる。


 そのため、家庭用だけでなく工場などでも大量に導入されており、人々の生活に必要なものなどを短時間で低コストで確実に製造することができる。


 でも、霰華ちゃんはそんな3Dプリンターを使用して、一体何をするつもりなんだろう。そんなことを考えていると、わたしの心を覗いたかのように霰華ちゃんが言葉を放つ。


『今から、お二人のご自宅にある3Dプリンターに特殊拳銃のデータを転送しますわ。あと、透明な強化ガラスの設定を変更できるパスワードをお二人のPICに送りますわ。万が一のことがあった場合、これらをお使い下さい』

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