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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第一章 『Chapter:Pluto』
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第二十五話 『会合』

 逸弛に続いて、今度は火狭が何者かによって殺された。しかも、その殺人現場は狂気を覚えるほど悲惨であり、恐怖を感じるほど酷かった。俺自身も何の心構えもできていない状態であんな光景を見てしまったため、思わずその場に胃の中のものを全てぶちまけてしまった。


 俺はの気分は、嘔吐の後の気持ち悪さと目の前に存在する火狭の死体によってさらに悪くなっていくのが分かった。とりあえず、俺は発見した昨晩火狭が逸弛を殺すために使ったと思われる鉄パイプの棒を近くの人工樹木の茂みに隠し、その場を去った。


 地曳、天王野、金泉、土館、逸弛、火狭。今までで殺されたのはこの六人。俺の友だちグループで唯一生き残っているのは俺、遷杜、海鉾のたった三人だけだ。


 逸弛に限っては火狭が殺したとして、他の五人は結局誰が殺したのだろうか。火狭が殺したと言われればそうなのかもしれないが、何かが引っかかる。それに、火狭が何者かによって殺されたことなどについても考えると、考えれば考えるほど余計に分からなくなっていく。


 俺は登校中に悲惨な光景を見てしまったことやこれまでの事件の謎を解明できないことから、浮かない気持ちになりながらも、やっとの思い出学校に到着した。


 どうやら俺は、火狭の殺人現場に思いのほか長い時間いたらしく、学校に着いたときの時刻はすでに十二時を回っていた。四時間目の授業に途中から参加するのもあまり気分が乗らないので、学校の外でテキトウに時間を潰した後、四時間目の授業が終わって昼休みに入った瞬間を狙って、俺は校舎内へと入った。


 俺の教室へと行ってみると、そこにはいつも通りの教室の風景があった。ただ、その中の全員が浮かない表情をしており、息が詰まるような空気が教室中に溢れ返り、重苦しい雰囲気が教室を支配していた。


 誰も、堂々と午後から登校してきた俺のことなどまるで気にもとめず、それぞれがそれぞれの行動を取っていた。そんな中、俺が自分の席に向かおうとしたとき、ふと二人の男女の姿が目に入った。


 それは、友だちグループの内で俺と同様に唯一生き残っている、俺のかけがえのない友だちである、遷杜と海鉾だ。二人はまだ昼食は食べ始めていない様子で、何か真剣そうな表情をしながら話していることが分かる。


 随分と久し振りに友だちに会った気持ちになった俺は、何気なくそんな二人に声をかけた。


「おはよう……には、遅いか。何を話しているんだ?」

「あ、冥加くん……」


 俺が声をかけると、海鉾は何かに困ったような何かを心配しているような表情を見せながら、小さくて聞こえにくい声で返事をした。対する遷杜も、海鉾と同様にいつもとは異なる表情をしていた。だが、海鉾とは違って、俺に返事をすることも俺の顔を見ることもなかった。


「えっと……その……冥加くんは今来てくれたからよかったけど、沙祈ちゃんと水科くんがまだ来てないなって……」

「……っ」


 少しの間を空けて口ごもっていた海鉾だったが、意を決したのか、震える声で俺にそう言った。その際、遷杜が眉をひそめて海鉾のほうを睨みつけていたような気もしたが、そんなことにも構うことなく俺は海鉾のその台詞に返答した。


 遷杜にとっても、海鉾にとっても、つらくて悲しい事実を。


「……逸弛と火狭は……殺された」

「え……?」

「逸弛は火狭に、火狭は何者かに。実は昨日の夜、家の近くを散歩していたら逸弛から電話がかかってきて、『沙祈に殺される』って言ってきたんだ。それで、現場に行ってみたけどもう手遅れで、逸弛は火狭に殺されていた。その現場を目撃したことを火狭に知られた俺は、やっとの思いでその場を逃げ切ったけど、ついさっき登校中に火狭の死体が……うっ……」

「みょ、冥加くん!? 大丈夫!?」


 俺はできる限りあの二つの惨状を思い出さないように、感情を入れずに、ありのままの事実だけを二人に言おうとした。しかし、やはりあの二つの惨状の悲惨さや狂気さは異常であり、俺のその決意すら歪めて吐き気や眩暈などの症状を引き起こすほどのものだった。


 逸弛は、人としての原型を留めないほど何度も殴りつけられて体のいたるところが陥没し、辺りにはその肉片や大量の血液が飛び散っていた。


 火狭は、目を閉じることさえ許されないまま首元をナイフによって貫かれ、それによって背後の人工樹木にはり付けられており、全身にあった大量の切り傷からは血液が滴り落ちていた。


 それらの殺人現場を目撃してからもうすでに随分と時間が経っているにも関わらず、それらが俺に与えた衝撃は計り知れないものだった。それと同時に、これまでに見てきた三人の殺人現場の光景までもがフラッシュバックし、俺の脳内を恐怖に染め上げる。


 思わず胃の中のものが逆流し初めて咳き込んでしまった俺の背中をさすりながら、海鉾が心配そうに声をかけてきてくれる。海鉾のその行動は些細な優しさであり、普段でも充分に感謝するに値するが、友だちが六人も殺されて失った今に限っては余計に身に染みる行動だった。


「それで、今、二人の死体はどこにある?」


 教室の床に膝を突き、海鉾に背中をさすられながら咳き込んでいた俺に対し、何の躊躇いもなく遷杜はそう聞いた。そのときの遷杜の様子はいつも通りの冷静沈着なものであったが、どこか違和感があった。


「ちょ、ちょっと木全くん! 冥加くんは――」

「海鉾は黙っていろ。俺は海鉾に聞いているのではなく、冥加に聞いているんだ」

「ありがとな海鉾、心配してくれて。もう大丈夫だから」

「で、でも……」


 いつになくやけに俺を気遣ってくれる海鉾。俺は海鉾のその優しさに思わず涙が出そうになったが、二人の前で泣くわけにもいかないと思いとどまり、先ほどからどこか様子がおかしい遷杜の質問に答えた。


「たぶん、二人の死体はまだ人工樹林にあると思う。火狭が逸弛を殺した凶器の鉄パイプもそこに」

「冥加が最後に見たときは人工樹林にあったんだな? それはいつだ?」

「えっと、逸弛が昨日の深夜で、火狭がつい一、二時間くらい前だな。二人がいなくなったことを誰も知らないみたいだから、俺以外は誰も現場を見ていないと思う」

「分かった」


 逸弛は昨日の夜遅くに日が変わりかけていたときに火狭に殺された。火狭がいつ殺されたのかは分からないが、現場にぶちまけられていた血液のほとんどが凝固していたことから、数時間は経過しているものだと思われる。血がどれくらいの時間で固まるのかまでは知らないが、それなりに時間がかかりそうだ。


 それに、遷杜に言ったように、遷杜や海鉾に限らず他の誰もが逸弛と火狭が殺されたことに気がついている様子ではない。もしかすると、二人が学校を休んでいることや姿を見かけないことに疑問を抱いている人もいるかもしれないが、まさか殺されているだなんて考えている人はまずいないだろう。


 ましてや、二人と仲がよかった遷杜と海鉾でさえそのような考えには至らなかったのだから、それ以外の人たちがそのような考えに至るとは考えにくい。


 教室の中を満たしている重苦しい雰囲気の正体は二人が学校に来ていないことから想像される最悪の結末を予測してのものなどではなく、それ以外にクラスメイト四人が殺されたことによってもたらされたものだった。


「まあ、でも、誰も気づかなくても当然かもしれないね。沙祈ちゃんと水科くんのお父さんとお母さんは……」

「ああ。確か、二人の両親はもういないんだったな」

「うん」


 殺された二人のことを哀れむように海鉾がそう呟く。


 そう、逸弛と火狭の両親はもうこの世にはいない。元々二人の両親の仲がよかったことや家が近いことから二人は幼い頃から仲がよく、昨日までは幼馴染みであり恋人として、恋人以上の関係として愛し合っていたはず。そんな、いつでもどこでも二人の仲が良過ぎていた理由の一つに、二人の両親がもうこの世にはいないことが挙げられる。


 死因は様々だ。一人は戦死、一人は病死、一人は事故死、一人は他殺。二人の両親の内で誰がどれに該当するのかは忘れたが、唯一覚えているのは、その四人の死因が全て異なっているということだけだ。


 以前逸弛から聞いた話によると、その中で一番最後に死んだのは火狭の父親で、二人がまだ小学生くらいのことらしい。それからというもの、二人は身の回りのことやそれ以外のことの全てを協力してこなしていき、高校生になって俺たち五人を誘って七人と友だちになった。


 それほど仲がよかったあの二人が何で……。


 今さら俺がどう考えようが、逸弛と火狭が死んだという事実に変化が訪れるわけでも、時間が巻き戻るわけでもない。でも、何か別のことをしていれば二人のことを救えていたのではないだろうか。どうしてもそんなことを考えてしまい、俺の気分はさらに下降していくのだった。


 二人の過去を思い出し、昨日と今日の惨状も思い出した俺は、すでに起動されていた近くにあった椅子に座った。そんなとき、ふと海鉾が小さく呟く。


「それに、葵聖ちゃんと霰華ちゃんの家族は全員いて、赴稀ちゃんは一人暮らしだったみたいだけど、誓許ちゃんのお母さんは可哀想だよね。一人残されちゃって。確か、誓許ちゃんはお母さんと二人暮らしだったから」

「……ん? 土館って一人っ子なのか?」

「え? うん、そうだよ。というか、大体の子は一人っ子だけどね」

「あれ……?」


 どういうことだ? 土館が母親と二人暮らしだなんて、兄弟姉妹がいないことを意味する一人っ子だなんて、そんなことがありえるのだろうか? 以前……というのも土館が殺されるよりも前に俺が電話をかけたとき、何度か土館の妹が電話に出たはずだ。


 俺は、それまで土館に妹がいるなんて知らなかった。だから、そのとき、そのことに驚いたということをいまでも鮮明に思い出すことができる。PIC越しとはいえ、その声は土館とは全然違っていたし、話し方もまったくの別人にしか思えなかった。


 それに、土館がわざわざ妹がいるという嘘を俺につく必要が見当たらない。当の土館が死んでしまった今になってはその理由を聞くことも叶わないが、俺は海鉾のその台詞に動揺を隠せなかった。一方の海鉾は何で俺が動揺しているのかその理由を理解できていないらしく、キョトンと首を傾げて俺のほうを眺めていた。


「冥加、二人の殺人現場の件は俺と海鉾が先生や警察に伝えておく」

「え? いや、俺も――」

「お前は来ないほうがいいだろう。さっきからのお前の様子を見ている限りでは余程酷いことになっていることが伺えるからな。だから、今日の学校の授業が終わったらさっさと真っすぐに家に帰れ」

「……分かった」


 遷杜にやけに力強く言われた俺は、首を縦に振るしかできなかった。確かに、遷杜の推測通り、あの二人の殺人現場はかなり悲惨なものだ。そして、その両方を見てしまった俺の精神はすでにボロボロだ。だからこそ、遷杜はそんな俺を気遣ってそう言ってくれたのだろう。


 二人に心配をかけてしまって申し訳ない気持ちになりながらも、俺は午後からは通常通りに授業を受けた。とはいっても、せいぜい三時間くらいだけだが。

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