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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
204/210

第二十七話 『希望』

 仮暮先生の話を聞き、脳が正常に記憶を整理し、一週目から九百六十週目までの仮想世界での出来事を理解した俺は、どうすることもできないままベッドの上で座っているしかなかった。仮暮先生がゆっくりと重い足取りで部屋を出るときも、その後も。


 仮想世界での出来事とはいえ、総計三千回以上も友だちを殺してきた感触が蘇る。ナイフで肉を突き刺し、骨に当たり、引き裂いていくあの感触が。そして、断末魔の叫び声を上げながら、絶望ととも死んでいく友だちの姿を目の当たりにする。


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!


 仮想世界の出来事とはいえ、総計九百回以上も友だちに殺されてきた感覚がぶり返す。腕を切断されたり、胴体を吹っ飛ばされたり他にも色々と。そして、断末魔の叫び声を上げながら、何もできずに死んでいくという絶望を改めて感じ取る。


 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!


 俺は……何てことをしてしまったんだ……今まで散々迷惑をかけてきたこの世界に……せめてもの恩返しとして始めた、このプロジェクト……仮暮先生の協力を得て、ようやく実現に移せた、オーバークロックプロジェクト……第三次世界大戦を終わらせるために、『宇宙の真理』なんていう、欠片も存在が分かっていないものを探求しようとした……それなのに……rれはおhらAB+のいはじれああがふぁあj&)!|=”(#R*?>+おえはへえあヴぁおえAVGTODあらあえおおおれれおれれおれおれ)$({!~}{折れkれあv織れらヴぁk織れオレあ俺は……それを終わらせてしまった……よかれと思って……これでみんなを救える……これがみんなを救える唯一無二の方法だと信じて……確かに、俺たちは友だち同士で殺しあうという、最終的に二人しか生き残れないという惨劇を回避することには成功した……でも、それがどうしたっていうんだ……あの出来事は何もかもが仮想世界での出来事で……現実世界に換算すれば一つの世界あたり二分程度の出来事で……現実世界は第三次世界大戦によって現在進行形で死ぬ続けているってのに……それなのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい……脳内に残ったのは……何度も友だちを殺してしまった記憶……何度も友だちに殺されてしまった記憶……そして……もうどうしようもないという絶望だけ……だ……もう一度、命をかけてでも、仮想世界に飛び立って、『●×の▲■』をrIKAIしに行くか……???? ……無理だ……俺はPICを使って、脳内時間をオーバークロックさせて、仮想世界に行く方法を知らない……その全ては仮暮先生しか知らない……また、仮暮先生は俺たちの身を案じて……もう二度と脳内時間をoverclockingすることはできないと言い切ってしまった……ていた……たたたたtatatata……それなら、わざわざ脳内時間をオーバークロックさせずに、そのままの時間で仮想世界に行くというのは……????//__ ……これもまた、無理だ……不可能だ駄目だ……有り得ないだ無茶苦茶だ出鱈目だテキトウだ……どちらにしても、仮暮先生以外で仮想世界に行く方法を知っている人はいない……いくら脳内時間を×ー×ー×ロ×クさせないといっても、仮想世界に行くだけでも、脳に負荷がかかるということは誰にだって分かる……仮暮先生がそれを許可するとは思えない……それに、これだけ考えていても……何か最良の結論を導き出せても、仮暮先生は既に、オ、ー、バ、ー、ク、ロ、ッ、ク、プ、ロ、ジ、ェ、ク、ト、に、関、係、す、る、資、料、を/あヴぁあ[処]ヴぁヴぁ[分]ばばば/してしまっているかもしれない//……あり得る……もうお仕舞いだ……俺たちは、何のために何とたたたたたたったたああたたたた戦っていたんだ……?;;}} 『*****』を王里角刀牛する? 第惨次世界大戦を終わらせる? 何のために? 今まで迷惑をかけてきた、この世界のために? 俺たちがこの世界に何の迷惑をかけた? みんなみんな、生まれつき、心や体の一部が他と違っていただけで、苦しんできたのは、迷惑をかけられてきたのは、悲しんできたのは、俺たちのほうじゃないか? 両親を、兄弟を、自分の立場を、自分の居場所を、それらを奪われてきたのは俺たちじゃないか? それなのにににににんいにんいににんいに、何で俺たちが、俺が、この俺が、冥加對が、苦しまないと行けナインだ? 悩まないと逝けナインだ? むしろこれは、第三次世界大戦は、俺や、俺たちを苦しめた、この世界への当然の報いといえるんじゃないか? 他と少し違うだけで、自分の居場所が欲しかっただけの俺たちを苦しめてきた、×と言えるんじゃないか? そうさ・裁きが下ったんだ・みんな、みんな、みんなみにんみあんなみいにみなんいいnみんなnみんなみんなみんなみんあみんな――、


 一死しろ。遷化しろ。不帰しとけ。お先真っ暗さ。先途の選択肢は『死』と“dead”しかない。逝去しとけ。棄世しておけばいいんだ。んな人生、さっさと括っちまえ。もう終わりなんだ、終に何もかもが、終える……終終、こんなことをしたけど、その思いはもう終える……終了だ。


 あはははは……アハハハハハハハハハハハハハハハハ……覇葉派羽歯刃波端破杷爬頗巴把播琶芭簸母……_//**:;;:……。


「あはは……」


 笑えねぇよ。


 頭の中が、ぐちゃぐちゃになった。いや、より正確には、少しずつ、しかし、確実に、ぐちゃぐちゃになっていくのがよく分かった。それは同時に、今、俺が目の前に突き出された絶望的な状況に対して、どれほど驚き、混乱しているかを現しているようにも思えた。そして、俺の頭は最初からあんな風にぐちゃぐちゃだったんじゃないか、なんていう錯覚さえ感じられる$]”$’!’%=($=”(。


 どうしろっていうんだ……どうすることもできないじゃないか……もう、いつまで続くか分からない、この施設内での生活を楽しむしかないっていうのか……、


 そのとき、不意に俺の左手に柔らかい感触と温もりが感じられた。その温もりは、物理的な温度という意味であり、それとは別の、何かの温もりのようにも感じられた。その方向を見てみると、そこには、彼女がいた。


「土館……」

「冥加君……もういい、もういいんだよ……それ以上、苦しまないで……」

「え……」


 見てみると、いつの間にか、俺の周りにはみんながいた。みんなだって、仮想世界での九百六十回もの世界の記憶が戻って、脳が内側から破裂しそうな激痛を感じたり、途方もない後悔と絶望を感じたはずなのに、それでも俺のすぐ側にいる。全員、顔色が悪いのは揃っているけど、同時に、友だちと最後のひと時を過ごせるのならそれもいいかもしれないという、喜びとも諦めとも捉えられる感情が伝わってきた。


「土館……足、大丈夫なのか……?」

「あ、うん……よく分からないけど、治ったみたい」

「そうか……それならよかった」


 (現実世界での記憶で)つい昨日まで車椅子を利用して行動していた彼女は、今はそれを利用することなく、俺が座っているベッドのすぐ側に立っていた。


「……あ、そういえば……」


 ふと思い出した俺は、ディオネを探した。すると、『箱』によくにた形状の、大量のコードに繋がれた、生命維持装置を発見した。俺はゆっくりと立ち上がると、一人でその箱の正面に向かった。


「やっぱり、ディオネの意思に従うべきだったのかもな……そうすれば、お前だって」

『……ったく、何言ってんですか! 私は全てを知っている上で、こうなることまで分かっていて、それでもみなさんの意思を尊重したんですからね! 今さら、私の意見のほうが正しかったなんて言われても困るだけですよっと』

「そうだな……悪い……」

『ふん……でもまあ、これが本来の姿なんですから、それもそれでいいんじゃないですか』


 筋肉を持たず、骨を持たず、神経と内臓と命しか持っていない彼女は生命維持装置の中でそう言った。もちろん、自分の力で声を発することなどできないので、精神維持装置に脳波を読み込ませて、それを機械の音声で再生しているだけだ。声の収録は土館のものを使ったので、仮想世界のときとほぼ変わらない音声が再生されている。


「冥加、これからどうするんだ?」

「どうにもしないよ。ただ、余生を楽しむだけさ。ここにいるみんなで」

「そうか。それもそれでありだろうな」

「ああ」


 そうさ……もうどうしようもないんだから、余生を楽しむしかない。俺たちがこの世界に恩返しできなかったこととか、仮想世界で何が行われてきたとか、俺たちがこの世界にされてきたこととか、何がどうしてどうなったとか、仮暮先生が第三次世界大戦勃発の原因であるPICを開発したとか、そんなものは全部忘れて、なかったことにしてしまおう。そうしよ――、


「……あれ?」


 ちょっと待て。

 何だ、何だ何だ?

 何か、俺は重要なことを見落としている気がする。

 それは何だ?

 分からない。

 ただ、何かとんでもなく、俺たちのこれからを左右するようなことなのは分かる。

 それは何だ?

 いったい、何が引っかかっているっていうんだ?

 余生を楽しむ。

 そのつもりだ、このまま何もできないのであれば。

 俺たちがこの世界に恩返しできなかった。

 そもそも、俺たちはこの世界に生を受けたことやみんなと出会えたこと以外で恩なんて着せられてない。

 仮想世界で何が行われたか。

 まあ、うん、そうですね、あまり思い出したくない。

 俺たちがこの世界にされてきたこと。

 一つずつ思い出していたらきりがない。

 何がどうしてどうなった。

 抽象的過ぎ。

 仮暮先生が第三次世界大戦勃発の原因であるPICを開発した。

 別に、今さら仮暮先生を攻めても変わらない。

 そんなものは全部忘れて、『なかったことにしてしまおう』。


 それだ。それが、引っかかっていたことで、答えだ。


 まるで世紀の大発見でもしたかのように、俺は喜んだ。そして、そのままの勢いで、大声でその名を呼びながら箱のほうに走っていった。


「ディオネ!」

『な、何ですか!? いきなり大声出さないで下さいよ! 殺しますよ!?』

「いやいや、それは仮想世界から帰ってきた後だとシャレにならん」

『……すみません』

「っと、そうじゃなくて、ディオネは何でも願い事を叶えられるんだったよな!?」

『え? え、ええ、まあ。一応、そういうことになるんじゃないですか?』

「それなら、今まで、何で俺たちにそのことを言わなかったんだ?」

『は? 言ったじゃないですか。仮想世界で』

「現実世界での話だ」

『……………………嘘吐いても、すぐにばれそうですね。別に、大した理由じゃないですよ。ただ単純に、ただでさえこんな姿の私が、その上おかしな能力というか才能というかを持っていたとみなさんに知られれば、嫌われるかもしれないって思ってしまっただけですよ。それに、みなさんは私の力を使うに値する人格ではありませんでしたし……………………今は違いますけど』

「だったらさ」


 俺は希望に満ちた表情で言った。


「その力で、戦争を終わらせてくれよ」

『無理です』


 俺の希望は一瞬にして崩れ落ちた。


「何でだよ!」

『戦争を終わらせるってことはつまり、PICの存在を歴史から抹消するとか、全世界の国々の戦力を〇にするとか、そういうことですよね。そんなこと、いくら私でもできるわけないじゃないですか。それに、私の力はそんな風に一度に何十億もの人に影響を与えることはできないんですよ。PICの存在を抹消するにも、それに関わった人たちの記憶とか記録を消さないといけませんし、全世界の国々の戦力を〇にするにしても、兵器とか軍事に関わった色々を消さないといけません。物体を生み出すということはせず、消去及び改ざんだけなら可能ですが、一度に全部は無理です。もっとも、それらの関係者は毎日毎日増えていきますし、一日十人ずつやっていっても、間に合いません』

「そうか……」


 俺の希望は呆気なく一蹴された。それも、ご丁寧に理由をこじつけて(たぶん全部真実だと思うけど)。が、でも、しかし、俺の希望はその程度に朽ち果ててしまう程度のものではなかった。ディオネからそんな感じの返答をされるのは分かっていた。


 それに、俺が最初に閃いたのは、『なかったことにする』『PICの存在を』なのだから。


「それなら良い案がある」

『一応念のため言っておきますけど、国単位での改変も不可能ですよ』

「分かってるって。俺が言ってるのは、たった数人に影響を与えるだけで目的を達成できる。そういう案があるんだよ」

『え……それは……?』


 顔の表情はないのにやけに感情を感じられる箱に対して、俺は言う。


「『俺たちを、PICが世に出回る前の過去に飛ばしてくれ』」

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