表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第一章 『Chapter:Pluto』
20/210

第二十話 『発見』

「……ん?」


 俺はPICに『検索してはいけない言葉』を入力し、それを検索した。しかし、突然グロい画像が出てきたり、唐突に何らかの超常現象が起きたりはせず、実際には何も起きなかった。


 そもそも、俺は休み時間にクラスメイトの女子が話しているのをテキトウに聞き流していただけであり、そもそも『検索してはいけない言葉』というものをまったく知らない。何となく、検索しないほうがよさそうな言葉ならある程度は予測がつくが、実際に聞かれると解答に困る。


 そのため、まずは『検索してはいけない言葉』が一覧になっている表か何かを調べてから再度検索をしようと思っていた。だから、何も起きなくても当然と言えば当然かもしれないが、ただ何となく、拍子抜けだった。


 俺の想像では『検索してはいけない言葉』と検索した直後に何かが起きるのかと思っていたからな。まあ、それ以前に、そんな超常現象が起きるわけがないか。幽霊だとか超常現象だとか、そういう類いのものはもう時代遅れだしな。


 とりあえず、俺は何も起きなかったことですっかり安心した気持ちになった。その後、検索結果の一番上にあった『「検索してはいけない言葉」の一覧』という、まさに俺が望んでいたタイトルのページをタッチした。すると、PICの立体映像上に、あまり見かけない単語やその説明が記載されている図表がいくつか表示された。


 ページの上部に表示されている『検索してはいけない言葉』の概要や表などの一番上には、『どのような理由があっても、絶対に検索してはいけません。また、検索したことよって不快な思いをされても、当サイトは一切責任を負いません』と大きな赤字で書かれていた。


 ページの背景や一覧表の色は青や緑の比較的優しくて心地良い印象を受ける色で構成されている。しかし、それらを根底から全て覆すかのように、その注意書きの文字はいい意味でも悪い意味でも目立っていた。


 『浮いている』だとか『合っていない』だとか、そういう表現とは何かが違うような、本当に触れてはならないような奇妙な気配さえ感じた。そう。あえていうなら、人間の恐怖観念に直接影響を与えるような、気持ちの悪さを覚えるような感じだ。


 その注意書きの文字を見たとき、まだ何もグロい画像が出たり超常現象が起きたわけでもないのに、俺は全身汗だくになり背筋が寒くなっていた。そして、自分の背後や真上や足元などの死角に何かがいるのではないかという疑心暗鬼に捕らわれる。ついつい、それらの場所を自分の目で確認したり、実際に触れてみたりしてしまう。


 一応言っておくが、それらの場所には誰かがいるわけではなく、俺が恐怖するような物があったわけでもなかった。もし誰かがいても、それは父さんくらいのものだろう。もしくは、幻覚だろう。というか、気分を紛らわせるためとはいえ、そんなことを言い続けていると余計に怖くなるので、そろそろ本題に移ろう。


 俺は緊張と恐怖から小刻みに震える指でタッチパネルを操作し、上から下へと立体映像の画面をスクロールしていった。一度に大きな範囲を移動させてしまうと何を見てしまうか分からないので、一応その保険としてそのような行動をとったが、どうやらあまり意味はなかったみたいだ。


 そのサイトのページ自体には具体的な『検索してはいけない言葉』の検索結果が表示されているわけではなく、あくまで俺みたいな興味本意で検索しようとしている人を手助けする、もしくは引き止める役目しかなかったからだ。


 一覧表には、五十音順で具体的な『検索してはいけない言葉』が書かれており、その横には『検索した結果どうなるのか』や『閲覧危険度』など、気持ちばかりの警告文が記載されていた。それらの文字は普段俺を含めた大多数の人が使用している日本語のはずなのに、なぜか一文字一文字読み進めるたびに生気を吸われるような嫌な感覚がある。


 まあ、オカルトだったりホラーだったり、そういう超常現象は現代科学がその正体を『何かの見間違え』や『人の恐怖感情が作り出した幻覚』や『何らかの希少な化学現象』のどちらかであると定義づけられているから、何も問題はない。


 それに、当然のことながら、PICに人の生気を吸う機能が付いているわけでもない。だから、俺が感じたその妙な感覚はたぶん気のせいだと分かっているが、やはり、どうしても何となくそんな気がする。


 俺はすでに『検索してはいけない言葉』の虜になってしまっていた。いや、今のところはその具体的な言葉を調べていないので何とも言えないが、この世界には自分が知らない恐ろしいことがこんなにもあるのだということに興味を抱かざるをえなかったのだ。


 あれはいつの頃だっただろうか。随分前にあったことのような気がする。その頃の俺は、この世界の全てに絶望していた。いつでもどこでも勝手に次に起こることを予測してしまい、何もかもが自分の予想通りの結果になってしまう。そんな風につまらなくてくだらないこの世界に対して、ひどく退屈してうんざりしていた。


 どれだけ思い出そうとしても、あれがいつの頃だったのかが分からない。それとも、ただの夢だったのだろうか。それすらも分からない。ただ、今になって思えば、未来予知ほど便利な特殊能力はないだろうとすら思えるが。まあ、俺みたいな平凡な高校生にそんな特異なものはあるわけないけどな。


 一覧に広がっているのは、五十音順で綺麗に並べられた、大量の『検索してはいけない言葉』たち。この言葉たちがこれまでにどれほどの数の人々を精神的に苦しめ、これからも同様のことを行っていくのかと考えると少しぞっとしてしまう。


 インターネットがこの世界に普及してからおよそ百五十年。これから先、いつまでインターネットやそれに類似するものが使われ続けるかは分からない。だが、毎日一日ずつ異なる一人が三百年間ずっと今の俺同様のことをしてしまったら、その被害者はおよそ十一万人になる。


 ……実際に計算してみると、思いのほか少なかった。まあ、一日あたりの被害者はもっと多いだろうし、インターネットが三百年以上使われる可能性もあるから、その総数も必然的にもう少し多くなると思うが。


 俺はそれらの言葉の『閲覧危険度』という項目を見て、これからどの言葉を検索しようかと考えていた。閲覧危険度の段階は全部で五段階あり、もっとも危険度が低いものが星一つ(ランク一)、もっとも危険度が高いものが星五つ(ランク五)となっているらしい。せっかく普段はしないようなことをするのだから、やはりインパクトは強いほうがいいだろう。


 それに、そもそも俺がこの行動をし始めた理由は、最近俺の身の回りで起きた妙な現象や殺人事件を忘れるためだ。だったら、そのインパクトは強ければ強いほうがいいに決まっている。


 俺はこの目で友だちが殺されている殺人現場を見たし、その際に大量の血や内臓までもを見てしまった。つい数日前までは仲良く話し、遊んでいた友だちの、だ。それは、画像よりも現実で見るほうが怖いに決まっているのだから、これ以上俺が恐れるものなんてないはずだ。


 俺は、そんな軽い気持ちで画面のスクロールを続けた。表示されている具体的な『検索してはいけない言葉』たちは、どれも俺がこれまで知りえなかった言葉ばかりであった。よく考えてみれば、世間に出回ってしまっていたら、それはもはや『検索してはいけない言葉』と呼べないのだから、当たり前のことか。


 そんなとき、ふとある単語が俺の興味を惹いた。危険度は最大値のランク五であり、その説明欄には大きい赤字で『これだけは絶対に検索してはいけません』としつここう書かれていた。そんなことを言われると、余計にそうしたくなってしまうのが人という生き物だ。


 俺はその説明欄から視線をずらして肝心の言葉を確認し、その言葉を読み上げた。


「『OVERCLOCKINGPROJECT-Y』……?」


 一見、アルファベットばかりの言葉で何を意味しているのか分からないが、直訳してみると『オーバークロックプロジェクト-Y』と書かれていることが分かる。オーバークロックとは機械の周波数を上げたり人の脳内思考時間を早めたりすることを指し、プロジェクトとは集団で一つの目標に向かって何かをする計画などを指す。


 でも、その二つの単語の意味はある程度は分かるが、その繋がりは何なんだろう。それに、プロジェクトの後ろにある『Y』の一文字、これは一体何の略称なのだろうか。オーバークロックやプロジェクトと何か関係があるのだろうか。


 俺はしばらくの間、そのことについて考えていたが、結局明確な解答は出なかった。そして、言葉と危険度の隣にあった説明欄を再度確認した。そこには、言葉の意味は書かれていなかったが、『検索には多少手間がかかる』や『見てしまったら一生もののトラウマを背負う』みたいなことが書かれているだけで、それ以上は特に詳しい説明は何もなかった。


 『知らぬが仏』という言葉もあるが、この場合はむしろそうではない。俺はそのことについて調べようとしているのに、その説明がないというのは余計に俺の興味を誘い、同時に恐怖観念を刺激するほかなかったのだ。


 心臓の鼓動は早まり、発汗は酷くなっていく。背筋は寒くなり、それとは逆に顔が熱くなってくる。視界に入っていないところから何かの気配を感じ、落ち着いていられなくなる。


 そのとき、俺は強く心に決めた。これを検索しよう、と。今さら引き返すなんてこと、気になってしまってできるわけがない。それに、ここで引き返してしまえば、当初の目的である忘れたいことも忘れられないままだ。だったら、俺に選択の余地はなく、この先に進むしかないだろう。


 意を決した俺は、PICに『OVERCLOCKINGPROJECT-Y』と入力してそれを検索した。俺がその言葉を入力してからPICが検索結果を表示するまでには、一秒とかからなかった。


 俺は『OVERCLOCKINGPROJECT-Y』の検索結果を見たとき、一瞬だけ嫌な予感がした。一応、直接的にグロい画像がヒットして、検索結果の一ページ目から表示されたわけではない。また、何か超常現象が起きたわけでもない。しかし、何かとても嫌な予感がしたのだ。


 そういえば、『検索してはいけない言葉』の一覧をまとめていたサイトには『検索には多少手間がかかる』と書いてあったから、その概要を調べるだけでも時間がかかりそうだ。いや、だからこそ、『これだけは絶対に検索してはいけません』なのか。


 確かに、テキトウに探していて、『ないなー』とか思って安心しているときに突然グロい画像が出現したら、心臓が止まるのではないかと思ってしまうだろう。想像するだけでも恐ろしい。実際にそんなことになれば、本当に心臓が止まってしまうかもしれない。なるほど、そういう観点も危険度に含まれているのか。


 とりあえず、俺は目的の記事を探し出すにはしばらく時間を要するだろうと思い、検索結果の一番上に表示されていた、アルファベットのみで構成されている文字列を何気なく選択した。直後、俺が選択したページが開かれる。


「……?」


 表示されたページはタイトル同様に、アルファベットばかりで書かれているものだった。英語だろうか。そのことから、日本ではないどこか別の海外のサイトであることが推測できた。


 PICの翻訳機能を使用すれば一瞬で全文を翻訳できるが、このページに書かれているのはたぶん英語だけだと思うので、自分で訳すのもありだろう。英語くらいなら学校でも習い終わったから、俺でも訳せるし。


 俺は基本的には使用しないが英語の勉強も兼ねて、そのページに書かれている文を訳すことにした。


「えっと、何々……『「オーバークロックプロジェクト-Y」は人間の脳の思考能力を本来の限界以上に加速させることを可能にさせる技術を開発する計画のことを指し、その後の利用価値を模索する計画でもある』……?」


 何だか、何となく想像できていた通りの平凡な説明文だな。それに、人間の脳内時間を早めて苦痛を与えるだけならば、死刑廃止の代わりに導入された『オーバークロック刑』があるじゃないか。あちらは決して人道的にはあまりいい使い道とはいえないが、それでも人間の脳内時間を早めることには成功しているはず。


 それなら、『OVERCLOCKINGPROJECT-Y』の『人間の脳の思考時間を限界異常に加速させることを可能にさせる技術を開発』という部分はすでに終了していることになる。もしかすると、この計画はすでに終了したものなのかもしれない。また、これを考えた人たちが『オーバークロック刑』の導入と執行に大きく関わっているのかもしれない。


 つまり、残るは『その後の利用価値を模索』ということか。思い当たる限りでは、人間の思考能力を限界以上に加速させるのだから、勉強とかスポーツなどで役に立ちそうなものだ。


 俺はそのまま続けてページを下へ下へとスクロールしながら、英文を日本語訳していった。ここから先は口に出して読んだりはせず、自分の心の中だけで解決することにする。


 どうやら、人間の脳内時間のオーバークロックはまだ実験段階の試作品に過ぎないのだという。それで、表向きは『オーバークロック刑』という画期的な刑罰として、本来死刑になっていてもおかしくない重犯罪者を主に、実験台にして全世界で堂々と実験しているらしい。


 さらにその下の文を見てみると、『死刑は元々様々な人種、国家、宗教から反発されていて、それを廃止させることができた上に、人類の未来のための研究も進めることができるので一石二鳥だ』とも書かれていた。


 また、『その地獄を実際に味わった刑執行者の映像を全世界に配信することで、人々はそれに恐怖した。そして、他にも様々な要因があるが、重犯罪やテロなどがほとんどなくなったのは死刑よりも恐ろしいこの刑を恐れているからだと考えられる。いい意味で、予期せぬ事態だ。これはもはや、一石三鳥ともいえるだろう』とも書かれていた。


 ……この記事を書いた人はことわざが好きなのだろうか? まあ、そんな話はさておき、俺は次の記事を読むためにさらに画面をスクロールした。何やら図式や記号でオーバークロックの仕組みや具体的な方法が書かれているみたいだったが、専門知識がない俺にはまったく理解することができなかった。それはもう、別次元の言葉のようにすら思えるほどに。


 まあ、俺がこのページを見にきた目的はオーバークロックの方法を知りたいからではなく、最近俺の身の回りで起こった不幸を忘れたいインパクトが欲しかったというだけのことだ。別に、余計なことは知らなくても問題ないだろう。


 それにしても、中々そういうインパクトの強い画像が出てこないな。別のページにあるのだろうか。そんな適当なことを考えながら、俺が勢いよくページをスクロールしたそのときだった。


「……!」


 ついに、俺はその『検索してはいけない言葉』という言葉の意味を理解した。その画像群の上部には英語で『以下にオーバークロックを試作運用したものの、失敗した場合の資料写真を添付する』と書かれていた。


 ある写真では、頭部と頭蓋骨の上半分が何かによって引き剥がされ、実物の脳が丸見えになっている写真があった。しかも、その脳はいたるところから真っ赤な血が吹き出ており、所々が大きく欠損していた。そのため、実物の脳の断面図やその内部までもがはっきり見えていた。


 しかも、頭部の持ち主である人はおそらく死んでいると思われるが、真っすぐにこちらを見つめており、その視線の先にいた俺は一瞬だけ金縛りにあったのではないかという感覚に陥ってしまった。その瞳は写真を見た俺に金縛りをかける以外にも、何かを訴えかけているようにも思えた。


 その写真の下部には『オーバークロックに失敗した、実験体の脳の資料写真』と書かれていた。つまり、オーバークロックの実験では失敗してしまうと脳が大きく欠損したりして、人が死ぬ可能性もあるということになる。


 それとは別の写真では、一人の男性が大勢の手術医の人たちにベッドに押し付けられている写真だった。男性を押さえ付けている手術医の人たちの服の色は元々は緑や白であったことが分かるが、それらの色が分からなくなるほど真っ赤に染まっており、今も男性の体から噴き出し続けている大量の血液を浴びていた。


 さらにその男性は、頭から髪の毛が全て抜け落ちており、しかも金属バッドで何十回も殴られたかのように頭部も顔面も大きく歪んでいた。さらに、全力で手術医の人たちから逃れようと手足に必死に力を込めている様子が伺える。また、男性の手足に限らず全身のいたるところでは骨が丸見えになっており、ドロドロに溶解してしまっている部分もあった。


 おまけに、男性の眼球は両目とも飛び出して床に落ちており、元々目があった部分は血が流れ出しながらも真っ黒になっていた。そして、胴体は骨が見えている以外にも内臓がじかに見える状態になっており、床には男性の指や内臓だと思われる大量の肉片が散らばっていた。


 写真の下部には『一時的なオーバークロック自体には成功したものの、その数分後、身体に異常が発生した実験体。また、その際に精神が不安定になり、自殺を図った瞬間を取り押さえられたときの写真』と書かれていた。その写真はオーバークロックにはとてつもないメリットがあるかもしれないが、そのデメリットも計り知れないものだということを意味していた。


 この二つのように、おぞましくてグロテスクな写真以外にもそれらと同様かそれ以上に見ないほうがいい写真がずらっと何十枚も添付されていた。最初の二つの写真を見終わった俺はそのまま流すように無感情に他の写真を眺めた。


「……うん」


 最初の二枚の写真から最後の列の写真までを見終わった俺は、どうすればいいのかが分からなくなり、無言で無表情のまま無感情にPICの電源をそっと静かに切った。そして、そのまま座っていた椅子の背もたれにもたれかかって考えた。


 何というか……本当に見なければよかったと思う。今の数分間に俺は普段見ることができないような、少なくとも現実に見た殺人現場よりも遥かに悲惨な、思い出すだけで吐き気がしてくるような写真を見てしまった。


 正直なところ、あんなものは二度と見たくないと思う。というか、後悔なんて絶対にしないと思っていたのに、今の俺は酷く後悔してしまっている。俺は、嫌な予感がしたらそれがどのような状況でも引き返すべきだと実感した。ある意味での教訓と言えるだろう。


「もう……思い出すのはやめよう」


 俺は一言だけそう呟き、それ以上考えるのをやめた。最近俺の身の回りに起きたことを思い出すことも、今見た写真や記事を思い出すことも。これ以上それらを続けてしまうと、俺の中の何かがおかしくなってしまう。そう思ったからだ。それほどまでに、俺が今見た写真や記事は衝撃的なものだった。


 当然、血液や内臓やそれ以外の見るだけで恐怖を覚えるものを見たからであり、それらからは狂気すら感じたからそう思えた。でも、それ以上に、あれらはどこか革新的なものを秘めているような気がする。そして、いつかどこかで見たような気もした。


「……?」


 色々と見てはならないものを見てしまった俺は、とりあえずその気分転換代わりに読書でもしようと思った。気分転換の気分転換とはどういうことなのかと聞かれても、俺は知らん。そういうときだってあるのだ。


 そして、自分が座っていた椅子の前にある机の引き出しから、授業用とは別のタブレットを取り出そうと、それに手を突っ込んだ。その際、俺の手に何かが触れたような気がした。俺はタブレットではなくそれを手に取り、自分の目の前に持ってきて確認する。


「……これは、何だ……? ……って……え……!?」


 俺が手に持っていた『それ』。最初、俺はその正体を理解できなかった。色々と見てはならないものを見てしまったから感覚が狂っていたのか、それともこんな場所にあるはずがないという潜在意識が俺にそれを理解させなかったのか。


 答えはそのどちらであるとも言いえるし、どちらでもないともいえる。俺自身にはどれが正解でどれが間違いなのかまでは分からない。しかし、『それ』を見た十秒程度後には理解できていたから、あまり気にする必要もないかもしれない。


 俺の左腕にはPICが取り付けられている。しかし、俺の右手が掴んでいたのもまた、同様にPICにほかならない。ただ、俺の右手が掴んでいるほうのPICは俺以外の誰かのものであることが明白であり、そして、真っ赤な血痕のようなものが付着していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ