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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第二十二話 『秘密』

 次の日の放課後、俺たちは図書館に来ていた。


 昨日、海鉾と和解を果たし、友だちグループ内での恋愛事情などの人間関係を完全に修復することに成功した俺は、ディオネに『この世界の真相』について知っていることを聞いた。すると、どうやらその秘密はこの図書館にあるらしいことをディオネは言った。


 そもそも、『箱』の壁に書かれていた記録には図書館の存在なんて何一つとして書かれていなかった。それなのに、何でディオネはその存在を知っていたのか。いつの間にか調べていたのか、それとも何か別の理由なのか。何にしても、違和感があるのは確かだ。


 でも、ふと思い出す。もし、そもそも俺の考えが間違っていたとしたら、どうだろうかと。どういうことなのかというと、『箱』の壁に書かれていた記録のうち、どのような内容の記録が削除されてしまうのかということだ。


 もうすでに周知の事実ではあるが、最初の世界で、以降の全ての世界の記録のうちディオネに関する記録を削除するようにしたのはディオネだ。本人もそういう解析結果を言っていたし、おそらくそれは間違いないだろう。


 だけど、そのときディオネはこうも言っていた。『「箱」は私が作ったものではない』と。『「箱」は元からこの世界にそういうものとして置かれていたのかもしれない』と。そのときも、もちろん今も、それがどういうことなのかは分からない。


 ただ、一つだけ、今になって分かったこともある。それは、『箱』を作った何者か、あるいはこの世界自身さえもが、その壁に書かれていた記録に干渉していたのかもしれないということだ。


 もし、図書館の存在がディオネの存在に直結するのであれば、それは『ディオネに関する記録』として記録から削除されてしまうことだろう。それならこの仮説は間違っているということになる。


 しかし、もしそうでないのなら、いったい何で図書館の記録は消えてしまっていたのか。今言ったように、理由は一つしかない。それこそが、『箱』を作った何者か、あるいはこの世界自身が記録に干渉したという可能性だ。


 ディオネから、図書館に行けば何か分かるかもしれないと言われたとき、何となくであるがおかしいとは思っていた。こんな仮説を考えるよりも、ずっと前に、おかしいとは思っていた。


 そもそも、仮にも一年半も通っている学校だというのに、どうして俺は図書館の存在を知らなかったのか。少なくとも、入学前や入学時には何らかの説明があったはずだし、改めて見てみると校内案内図にもしっかりと記されているし、図書館というものがどういうものなのかは知っていた。


 それなのに、俺を含めて、友だちグループの誰もが図書館の存在を知らなかった。それはまるで初めて聞いたかのような、まさかそこにそういうものがあるだなんて一度も考えたことがなかったかのような、そんな反応をしていた。


 『違和感』。今の状況を簡潔に言ってしまうのであれば、この言葉しかない。


 それはそうとして、ここまで考えたところで、さらに疑問は生まれてしまう。


 これから確かめに行くところではあるけど、図書館に行くと何が分かるのかということだ。そして、『箱』を作った何者か、あるいはこの世界自身は、何を目的として俺たちの意識から図書館を消したのか。


 それこそが、この『世界の真相』ってものなんじゃないか?


 校舎の最上階の隅の隅。ディオネに言われた通り、俺たちはようやく図書館に辿り着いた。別にディオネの言葉を疑っていたわけではないが、まさか図書館が現代に本当にあるとは思っていなかった。


 ふと振り返ってみると、俺とディオネを除いた八人も同様にして、おそらく人生で初めて見る図書館に驚きを隠せずにいた。ひとまず、中に入ってみよう。


 想像以上の中は広く、紙の本特有と言うべきか、普段はあまり匂わない匂いが充満している。電気が点いていたため、すでに図書館内に誰かいるのかと思っていたけど、そういうわけでもなかったらしい。今図書館に来た俺たち十人以外では誰もいない。


「それじゃあ、手分けして探そう……とはいっても、具体的に何を探せばいいのかってことは分かってないんだったな。まぁ、各自適当に図書館内で目ぼしい本を探して、今まで知らなかった、もしかするとこの世界の真相に関係してあるんじゃないっかって内容の本があればすぐに教えて欲しい。少しでもそう思えたのなら、何かその本に手がかりがあるはずだからな」


 みんなのほうを振り返ってそう言い、俺たちはおよそ二人ずつ分かれて、手がかりを探し始めた。俺は土館と、他のみんなもその恋人に相当する人と。あと、どうやら海鉾はディオネと一緒に行動しているらしい。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ほとんど会話をせず、本を出し入れする物音程度しか立っていない、静かな空間。俺もみんなも、その手がかりを探すことだけに集中していて、他のことには気が回らなくなっているのかもしれない。


 さて、どれくらい時間が経っただろうか。そんなことを思いながら、何気なくPICを確認する。探し始めてから、約三十分といったところだ。集中していると、こんなにも時間が経つのが早い。


「……?」


 と、そのとき、俺はふと気がついた。いや、『気がついた』というよりはむしろ、『何かに気づいたけど、それが何なのかまでは分からない』といったところだろうか。


 現在時刻をPICで確認しただけの何気ない仕草のどこにそう感じられた要因があったのかは分からない。でも、何か違和感というか、少なくとも今まで気づいていなかったそれを感じ取ることができた。


 すると、不意に俺のすぐ近くで本棚を眺めていた土館が俺に話しかけてきた。


「冥加君、ちょっといい?」

「ん、何だ?」

「何分か前に見つけて少し読んでみて気づいたんだけど――」


 土館はそう言って、手に持っている本の表紙を俺に見せた。その本は古くなっているのか傷やら汚れやらが多く、どういうタイトルだったのかが分かり辛くなっている。でも、『P―I―C―』と書かれているのは分かった。


 ……ん? ……『PIC』?


 土館からその本を受け取ると、正面に立っていた土館が俺の隣に移動した。そして、土館がこの本のどこに違和感を覚えたのか想像しながら、俺も一ページずつ見逃しがないように捲っていく。


 表紙から微かに分かるように、案の定、この本はPICについて書かれている本らしい。


 どうしてPICは作られ、瞬く間に全世界に普及したのか。加えて、取り扱い説明書に書いておけばいいような具体的な操作方法や、従来の電子機器とは異なる点がいくつもいくつも書かれている。


 十ページほど捲ったところで、今のところ何か目ぼしい情報は記されていない。さて、土館はこの本のどこに違和感を覚えたのか、それはこの先に書かれているのだろうか。そんなことを考えながら次のページを捲ったとき、その見出しが目に飛び込んできた。


「『PICの開発から普及まで』……」

「そう、そのページ。私が冥加君に見てもらいたかったのは、そのページなの」


 土館にそう言われ、俺はそこまでのページよりもさらに念を入れて、丁寧に読み始めた。


 『PICは二十二世紀初頭に物理学者・太陽楼仮暮によって開発される。第三次世界大戦終戦後、現代社会においてその機能の必要性が見直され、爆発的に全世界に普及……』。


「……………………………………………………………………………………え?」

「どう思う?」

「これは、いったいどういうことなんだ? 仮暮先生は元物理学者で、しかもPICを開発した張本人だったなんて……!」

「『太陽楼仮暮』なんて珍しい名前、そう何人もいるとは思えないよ。だから、ここに書かれている『太陽楼仮暮さん』と、私たちが知っている『仮暮先生』はたぶん同一人物。でも、それっておかしくない?」

「ああ……何かがおかしいのは分かる。でも、それが何なのかは分からない。いや、そもそも、PICを開発したなんていう結果を残している人がどうして今は高校の先生をしているのか、そこから疑問だ」

「何か、そうしないといけない理由があったのかもしれないね」

「そうしないといけない理由?」

「今や全世界に普及しているPICを開発した以上、その功績は相当なもののはず。少なくとも、一生生活には困らないだけの大金を得られたり、未来永劫誰からも忘れられることのない名誉を得られても不思議じゃない。でも、実際にはそうなっていない」

「仮暮先生は高校教師として働き、今の今まで俺たちに一度もそのことを話さず、俺たち自身もそのことを知らなかった……確かに、何か裏がないと変な話だな」

「ああ、それと、もう一つ気になったこともあったの」


 開いていたページで土館に指を差された部分を見てみる。そこには、PICの略称なるものが書かれていた。とはいっても、PICの略称は『個人情報を管理し、時計機能が付いている機械』ということで『Personal Information Clock』のはずだ。


 しかし、そこに書かれていたのは、俺たちが今まで当然だと思っていた情報ではなかった。


「『Psycho Interface Clockover』……?」

「『Psycho』は精神病患者、『Interface』は電子計算機、『Clockover』は……たぶんオーバークロック刑に関係する何かだろうね」

「いやいや、待て待て。この本に書かれている情報が本当だとして、それじゃあ、今まで俺たちが聞かされていたPICの略称は何だったんだ?」

「分からない。でも、もしかすると、この略称こそが本当のもので、何か関係があるんじゃないかな」


 俺と土館はそう言うと、黙り込んで考え始めた。ここまで色々な情報が得られたのは思わぬ収穫だった。でも、まだ何か足りない。まだ、その、確信に迫る何かが。


 とりあえず、一旦みんなを呼んで意見を聞くことにしよう。そう考えたとき、ふと海鉾の呼ぶ声が聞こえた。


「冥加くん、ちょっと気になる本があったんだけど……」

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