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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第十七話 『逸弛』

 女子陣が台所で料理を作り始めた頃、逸弛から話があると言われた俺は二人で家の外に出ていた。逸弛曰く、どうやら遷杜は巻き込みたくないらしく、遷杜には俺の部屋で一人待ってもらうことにした。


「それで、話って?」

「あ、そうだ。本題に入る前に、いくつかいいかい?」

「ああ、構わないぞ」

「質問というよりは確認に近いんだけど、遷杜君と霰華ちゃんをくっ付けたのは對君だよね?」

「一応、そういうことになるな。俺はあの二人にそれぞれ少しずつ情報を与えて、あとは話し合ってもらっただけだけど。どちらかといえば、過去を思い出して、お互いの想いを伝え合って、恋人同士になれたのは、あの二人の努力の結果だ」

「うん、とりあえずこの件に関しては、對君からその台詞が聞けただけで満足だよ。僕もいつかあの二人は今みたいな状態になってくれるんじゃないかって思ってたからね。僕と沙祈以外にカップルができてよかったよ」

「……確かに、『男女のカップル』なら二組目か……」

「そういえば、今の對君の台詞で思い出したけど、赴稀ちゃんと葵聖ちゃんは恋人同士ってことになるのかな? 前からあの二人の仲が良いのは知っていたつもりだけど、何だか数日前からさらに仲が良くなったような気がするんだ。もしかして、それも對君の計らい?」

「たぶん、そうだと思う。でも、俺がどうこうするまでもなく、あの二人は時間さえ経てば今みたいな状態になっていたんじゃないか? というか、女子同士のカップルなんて実際にいるんだなーって思った」

「僕としては、男性が減っていて女性が増えている現代なら、身近な人にそういう関係があっても不思議ではないと思うけどね。現に、あの二人以外で、同じクラスの女の子たちでも何人かはそうみたいだし」

「そうだったのか? さすがに、そこまでのことは知らなかったな」

「まあ、別に言いふらすようなことでもないからね。知ってる人はかなり少ないと思うよ」


 『何で逸弛はそんな情報を知っているのか』なんて野暮な質問はしない。


「それで、このことは昨日気がついて今日確信に至ったんだけど、對君と誓許ちゃんは――」

「その通りだ。昨日、四つのペアに分かれた際、俺は土館に告白した。『箱』の壁に書かれてあった記録には、土館は元々俺のことが好きだったが、今はそれを忘れていると記されていた。だから、撃沈覚悟で告白したわけだが……あらかじめディオネが土館に助言してくれていたみたいで、土館はそのことを思い出していた。だから、俺たちはお互いの想いを伝え合うことができ、恋人同士になったんだ」

「對君と誓許ちゃんはそうなるべきだって僕もずっと思ってたから、本当に嬉しいよ。一年半くらい前から一年くらい前までは誓許ちゃんから相談を受けたりしていたんだけど、いつからだったか、ばったりなくなってね。少し心配していたけど、もうその心配もいらないね」

「ああ、心配かけて悪かったな」

「それにしても、對君の告白の前に誓許ちゃんにあらかじめ助言をするなんて、改めて、ディオネちゃんという人物のことが分からなくなるね。やけに勘がいいというか、何を考えているのか分からないというか」

「そうだな。あいつに関しては、俺もよく知らないんだ。一番最初の世界のディオネが『箱』に細工をしたらしく、そのせいで『箱』の壁に書かれている記録にはディオネに関するものがほとんどない。前の世界では電話で話したことはあるがその姿すら見せなかったし、今の世界で何度か話した程度では、その人物像を完全に掴むことができていない。ようは、俺も逸弛と同意見だってことだ」

「今日だって、ついさっきまでは冥加君たちと一緒にいると思っていたのに、冥加君を呼びに行ったときにはもういなかったし。本当、神出鬼没だね」


 ディオネに対する、逸弛のその表現の仕方は非常に的を射ていた。動力なしで空中に浮遊していたり、姿を見せたり隠したりできるその様は、まさに神出鬼没だろう。ただ、今回に限っては、海鉾を探しに行ってくれているだけなので、煙のように消えたわけではない。


 そんなことを考えていると、少し嬉しそうな表情で逸弛が聞いてきた。しかし、俺からしてみれば、逸弛のその表情はニヤニヤしているようにしか見えなかった。


「ところで、誓許ちゃんとはどこまで進んだんだい?」

「ど、どこまでって……?」

「どのプレイまで進んだのかってことだよ」

「アウトー! ここ、家の前とはいえ屋外だから! そういうことは思っても口に出すな!」

「え? 制服、裸エプロン、拘束、SM、屋外、中――」

「ストーップ! 逸弛、落ち着け! というか、『屋外』って!?」

「……? そのままの意味だよ? まあ、冬場は寒いからあまりしたくないし、するとしたら夏場かな。深夜なら誰もいないし、汗をかくには丁度いいかも」

「いや、聞いてないから! って、待て! 『中――』の後に何を言おうとしたんだ!?」

「出――」

「言わなくていい! 高校生なんだからせめて避妊はしておけ! それ以前に、こんなことを屋外で俺に言わせないでくれ!」

「大丈夫だよ、普段から沙祈はピルを飲んでくれてるし」

「そういう問題じゃねぇ! あーもう滅茶苦茶だよ! どうしてこんな話になったんだ!」

「まあまあ。僕と沙祈の話は、機会があればまた今度ゆっくり話すとして……」

「たぶん、そんな機会は一生訪れない」

「對君と誓許ちゃんはどこまで進んだんだい? 一緒のベッドで寝るくらいはした?」

「……まだっす」

「え?」

「一緒のベッドで寝るどころか、お互いの裸も見てないし、キスすらしてないんだよ! 手を繋いだり、抱き締め合ったりはしたけどな!」

「え……?」

「何その哀れむような目! やめて! 昨日告白したばっかりなんだから、そんなに急に色々と要求しないで! これからゆっくり、一つずつ、段階を踏んでいくつもりだから!」

「……僕の場合、恋人になる前に沙祈を抱いたから、あんまりそういう『段階を踏む』というのがよく分からないんだよね。初夜っぽいものもなかったし、次の日からはどんどんプレイが増えていく一方で」

「羨ましいような、羨ましくないような……まあ、逸弛と火狭の場合、何年も前から近所でずっと遊んでいたってこともあるんじゃないか? 一線を越えるまでに積み上げてきた経験値が桁違いだ」

「そう言われてみると、確かにそうかもしれないね。小学生くらいのときは一緒にお風呂に入ることもあったし、遊びでキスしたりすることもあったし。あ、でも、それだと今と変わらないかも。沙祈の体が日に日にエロくなっていくことと、プレイが増えたこと以外は」

「……逸弛は恵まれてるなって、改めて思いました」


 何だかもう、羨ましいとか、そういう次元の話じゃない。可愛くて巨乳で人気がある女の子と幼馴染みで、近所に住んでいて、今は恋人同士で、しかも一線を越えているだなんて。男としては理想的どころか、一生かけても叶わないような話だ。でも、俺は土館のことを他の誰よりも可愛くて美しいと思っているし、少しずつ進んでいければいい。何年かかろうとも、それで充分だ。


 何だか、久し振りに男子高校生らしくそっち系の話で盛り上がってしまった。逸弛の躊躇しない言葉の数々でヒートアップしてしまった心を落ち着け、そろそろ本題に入る頃だろうかと思っていると、不意に逸弛が口を開いた。


「話は変わるけど、今日矩玖璃ちゃんはどうしたんだい?」

「……っ」


 重苦しい雰囲気で、逸弛はそう言った。『随分と話のテンションが変わったな』なんて突っ込みを入れられるほど、そのときの俺に余裕はなかった。


「もしかして、昨日何かあったのかい?」

「……そうだと思う」

「やっぱり、對君と誓許ちゃんが付き合い始めたのが原因と見て間違いなさそうだね」

「ああ……海鉾が俺に好意を寄せていたのは、前の世界で本人から聞いたことで知っていたし、『箱』の壁に書かれている記録を見て理解していた。でも、俺は海鉾のことを恋愛対象として見ていなかったし、海鉾が言っていたような過去を覚えていないし……そして何よりも、土館のことが好きだったんだ。だから、俺は海鉾の好意を受け入れることができなかった」

「對君の気持ちはよく分かるよ。僕も、それまでまったく知らない女の子から告白されたことが何度もあるけど、そのたびにどうするべきなのか考え込んでいたから。もちろん、僕は心の中では沙祈一筋と決めているから、全て断ってきたけど。でも、やっぱり、友だちとして、矩玖璃ちゃんの気持ちも考えたほうがよかったかもしれないね」

「どうすればよかったんだろうな……」

「對君が矩玖璃ちゃんに何と言ったのかは分からないし、それを聞こうとも思わないけど、なるべく矩玖璃ちゃんが傷付かないような台詞の言い回しをすべきだったかもしれない。正面から事実だけ突き付けられても、矩玖璃ちゃんが辛い思いをするだけだろうからね。どちらにしても、もう後戻りはできないわけだし、あとは明日学校に行ってから、直接話をするべきだと思うよ。当然のことながら、誓許ちゃんも一緒にね」

「ああ、そうさせてもらう……ありがとな、助言してくれて……」


 薄々どうするべきなのかは分かっていたが、恋愛経験豊富な逸弛にそう言われると、やはりそうするべきなのだと確信できた。あとで土館に相談して、明日のことを考えるとしよう。


「もう前置きはいいだろ? そろそろ、本題を話してくれよ」

「ああ、そうだったね。すっかり忘れていたよ」

「おいおい」

「ごめんごめん。でも、今對君に言われて思い出したことで、その重大性に気がつけたよ」

「どういう意味だ? 何かよくないことでも起きたのか?」

「実は……僕の家から一本、沙祈の家から三本、包丁がなくなっていたんだ」


 逸弛の台詞を聞いたとき、俺は瞬間的に前の世界での出来事を思い出した。二人の家から包丁が合計四本消失した事件。逸弛はそのことから火狭が連続殺人犯なのではないかと思い込んでしまっていたが、その真相はどうしようもなく呆気ないものだということを俺は知っている。少なくとも、『箱』の壁に書かれていた記録には、真相は些細なものに他ならなかった。


 逸弛の説明を聞き始めて一分後、俺は逸弛の周囲で何が起きたのかを理解した。そして、案の定、俺が知っている包丁消失事件とまったく同じだということが分かった。俺がその真相を口に出そうとしたとき、ふと一人の少女の声が聞こえた。


「逸弛に、冥加……こんなところで何してるの?」


 そこにいたのは、エプロン姿で左手に包丁を持っている火狭だった。

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