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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第十四話 『午言』

 俺たち以外で三組のペアに分かれた六人別行動を開始した後、俺たち三人のペアは当初の予定通り街中に遊びに行った。まずは昼ご飯をテキトウに済ませて、それからはゲームセンターに行ったり、二人の買い物に付き合ったりと。それなりに……というか、かなり楽しい時間を過ごせたと思う。


 その間、二人は俺の腕から離れることなく、常にその柔らかい胸の感触が伝わっていた。当の俺は美少女二人に挟まれていることで、どうしても緊張してしまっていた。


 逸弛が言っていたらしい予定では、もうすぐ、最初に集まった噴水前に再集合ということになるらしい。つまり、それまでの時間は各自で遊んで、それからはみんなで遊ぼうということなのだろう。というか、もう少ししっかりと逸弛の話を聞いておけばよかったかもしれない。


 ともかく、今日土館と海鉾と一緒に遊んだことで、俺の中にある決心ができた。それは、俺のもう一つの人格の件について直接的には関係しておらず、惨劇を繰り返させないという『伝承者』の使命には間接的に関係していることだった。


 地曳と天王野にそれぞれ自分の過去を話させ、互いの気持ちを正しく認識した上で、二人をさらに仲良くさせた。遷杜と金泉に互いが過去に会っていたということを思い出させ、本来あるべき方向に二人の意識を向けさせることで、二人を恋人にした。


 俺はそれらのことをその四人のためにした、とは口が裂けても言えない。もちろん、その四人に幸せになってほしいという想いこそあったものの、それは本心ではないと思う。本質はもっと別のところにあり、それはその四人の恋愛事情によって引き起こされる事件を未然に防ぐというものだった。これで、少なくともその四人によって惨劇の一端が始められることはないだろう。


 でも、俺たち友だちグループは他にもいる。四人だけでなく、ディオネも含めたら十人もいる。


 だから、今度は俺の番なんだ。俺は土館が好きだということ、土館は逸弛が好きだということ、海鉾が俺に好意を寄せていること。それらを今ここで解決する。あの四人を半ば強引にくっ付けたのだから、全ての事件の発端であるといっても過言ではない俺が行動しなくてどうする。今日、俺の中にできた決心というのは、そういうものだった。


 俺たちは、集合時間よりも少し早めに例の噴水前に到着した。そして、話があると言って土館を呼び出し、海鉾にはトイレに行ってくると言っておいた。後々海鉾にも話さなくてはならなくなるが、万が一のことも考えて、『土館と話してくる』とは言わなかった。


 なるべく人目のない場所に行き、土館を連れ込む。店が立ち並んでいる街路とは逆方向に位置する建物の影に隠れ、誰にも話を聞かれない状況を作る。土館は俺が何の話をするのか気になっている様子だったが、事実上これから告白することになる俺からしてみれば、何か話す気にはなれなかった。


 緊張によって心臓の鼓動が早くなっているのを感じながら、焦りつつも息を整える。周囲に誰もいないことを確認し、俺は土館の顔を見た。


「それで、話って何?」

「あ、えっと、その……」


 ヤバイ、どうしよう。ここまで来たまではよかったけど、言葉が出てこない。でも、それだと似たような状況で、しかも唐突にそうさせた金泉に合わせる顔がない。ヤケになったつもりで言え。


「あー……土館って、可愛いよな」

「そ、そう? あ、ありがとう……でも、何で急に――」

「髪は長くて綺麗だし、スタイルもいいし、何よりもその顔が可愛い。もちろん、俺は土館の白っぽい肌もいいと思うし、髪形も似合ってると思う。それに、土館はとにかく性格がいい。女の子っぽい可愛い性格をしていながら、真面目で、困ってる人を見たら助けていそうな、優しくて暖かい性格をしてる」

「……冥加君――」

「俺は! そんな風に、可愛くて、優しい、土館誓許という一人の女の子のことが好きだ! 土館が逸弛のことが好きなのは分かってるし、本当のことを無理に思い出せなんて言わない! このことを言う機会なんで一生訪れないと思っていたけど、土館たちと一緒に遊んで、今日なら言える気がしたんだ! 『ごめんなさい』なんて聞きたくないから返事は言わなくてもいい。でも、俺は前の世界からずっと、土館のことが好きだった! ……ごめん。こんなこと、急に言われても困るよな。俺だって、今まで何の積み重ねもないのに土館にOKをもらえるなんて甘い考えは持ってない。ただ、伝えておきたかっただけなんだ。前の世界では、伝えることすらできなかったから。……先に、噴水前に戻ってるよ」


 俺の台詞に土館は返事をしない。俺が恥ずかしさ全開で恥ずかしい台詞を言っている間、土館がどんな表情をしていたのか、俺には分からない。土館は少しだけ顔を俯けており、その表情を俺に見せてはくれなかった。土館は自分の思いを知っている俺からそんな風に告白されて、俺のことを軽蔑したかもしれない。たとえそうであっても構わない。俺の気持ちを伝えること自体に意味があるから。


 俺は土館の返事を聞くことなく、その場を去ろうとした。人生最初の告白は見事撃沈。それはそれで、いい経験になったのだからいいじゃないか。そう思った矢先だった――、


「つ、土館……?」


 ふと、振り返った俺の背中に押し付けられた柔らかい感触を感じた。何が何なのか理解が追いつかなかった俺はすぐにそれを確認し、土館が背中から俺に抱きついているということを知った。土館は表情を見せないようにして俺の背中に顔をうずめ、その大きな胸を押し当ててきた。


 これから何が起きてしまうのか、何の予想もつかないまま柔らかい感触に硬直していると、土館は俺の体に抱きついたまま、小さく呟いた。


「実はね、もう、思い出してるんだよ……?」

「え……?」

「私が本当は冥加君に一目惚れしたってことも、冥加君の気を引くために水科君を好きなフリをしたのも、それが演技だってことを忘れていたことも、ぜーんぶ」

「いつから……?」

「うーん……たぶん昨日、かな。冥加君がそのもう一つの人格さんのことで悩んでるのを知って、どうしたら助けてあげられるかなーって考えてたら、フッとね。でも、鮮明に思い出せた理由は、今冥加君に告白されたことやこうして冥加君に抱き付いていることが大きいかな」

「そう、だったのか……それじゃあ、俺の告白は――」

「もちろん。こちらこそ、これからもよろしくね。私の、初めての彼氏クン♪」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。


 でも、次第に少しずつ、土館が俺に言ってくれた言葉を理解していった。


 そして、土館が本当の気持ちを思い出し、俺からの告白にOKの返事をしてくれたという事実に、俺は思わず大声で叫びたくなってしまった。まさか、俺が本心から土館を好きだったとはいえ、振られることを前提にして告白したというのに、それを受け入れてもらえた上に、土館が全てを思い出してくれた。こんなにも嬉しいことはない、


 俺は土館に一言だけ声をかけ、向きを変えて、改めて俺のほうから土館を抱き締めにいった。すると、土館もさっきまで同様に俺に抱きついてきてくれ、互いの体の温もりを感じ合うことができた。


 もう、このままずっとこうしていたい。今までの世界ではイレギュラーな世界を除いて、俺は一度たりとも土館と付き合えなかったというのに、前の世界ではその想いすら伝えることができなかったのに。それななのに、今は土館と抱き合えている。この事実に、これだけの事実に、俺はどうしようもない喜びを感じていた。


 これからのことなんて、もうどうでもいい。ただ、俺は土館と――、


「あの~、お取り込み中のところ悪いんですけど~、そろそろ話進めてもらってもいいですかね~?」

「わっ!」


 脳内が土館一色で染まり、恋人同士になったばかりでまだ早いと分かっていることを要求しかけたとき、ふとそんな声が俺を現実に引き戻した。見てみると、土館の斜め上に、土館によく似た少女が浮遊している。彼女は、紛れもなく、今日はここにいないはずのディオネだった。


「な、何でディオネがここに!?」

「あの、冥加君、ごめんね。ディオネ、お昼過ぎにみんなと集まったときから、私のすぐ傍にいたんだ」

「え? でも、何でわざわざ姿なんか――」

「そもそも、お姉ちゃんに色々と助言して、冥加さんについてのことを思い出すきっかけを作ったのはこの私なんですからね! そこんところ、感謝してもらいたいものですよ!」

「ディオネが助言……? 何だってそんなこと――」

「ほら、水曜日に地曳さんと天王野さん、木曜日には金泉さんと遷杜さんを、それぞれ仲直りみたいなことをさせたでしょう? 私は、その手伝いをしてやってもいいかと思ったわけですよ」

「ちょ、ちょっと待て。ディオネが土館の記憶を戻す手伝いをしてくれたのは嬉しいが、何で二つの件を知って――」


 そのとき、俺はふと思い出した。


 水曜日、ちゃんと鍵が閉まっているのを確認して家に上がったはずなのに、その後に地曳が『鍵開いてたよ?』と言って勝手に上がりこんでいたことを。そして、地曳と天王野が仲直りした後、台所に行った際、何かが動いた気配を感じ取ったのを。もし、地曳が勝手に家に上がり込む前に何らかの手段で鍵を開け、そのまま開けっ放しにし、いつの間にか台所まで移動していたのがディオネだったとしたら?


 さらに、木曜日、土館は俺のもう一つの人格に話をするため、海鉾は遷杜と金泉の恋の行方を見届けると言って教室に戻ってきたが、そもそも二人が遷杜と金泉の話の一端を聞いていたのは少しそういう話を耳にして、その後行方が分からなくなったディオネを探す意味も込めて教室に戻ってきたのだとしたら?


「どうです? 何となく、私がいつどこで何をしていたのか、分かりましたか?」

「ああ、大体はな……だが、一つ言わせてくれ。勝手に鍵を開けるのはまだしも……鍵を開けたなら閉めていけよ!」

「まーまー、そう怒らないで下さいな。これでも私は、お姉ちゃんの身も心も冥加さんに奪われることを了解して、祝福してるんですから。それに、私たちの過去に何があったのか、その確認もしたいんでしょう?」


 もう少しだけ土館と二人きりでゆっくりしていたかったが、そういうわけにもいかないらしい。俺は土館とディオネから二人の過去に何があったのかを聞き、俺が知っている過去とほとんど変わらないことを確認した。


 それから何事もなくみんなが待っている噴水前に行くつもりだった……が、物事はそう簡単に俺を進ませてはくれなかった。

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