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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第十二話 『遊戯』

 あの後、四人から逃げるようにして家に帰ってきた俺は自分の部屋で一人、考え込んでいた。


 俺が土館にしてしまったこと。正確にいえば、俺のもう一つの人格が土館にしてしまったこと。どちらにしても、それは紛れもなく殺人未遂だ。土館の体の上に乗って動きを封じ、その首を絞めて窒息死させようとした。土館のすぐ近くに海鉾がいなければ、教室に遷杜がいなければ、今頃――、


 そうなってしまうと、俺は土館を失うだけでなく、それを種として再び惨劇が繰り返されてしまう。俺たち九人(今は十人か)の中には誰一人として殺し合いなんて望んでいる子はいないのに、それなのに、どうしてこうなってしまうのだろうか。


 『箱』が故障してる今、もう次の世界で惨劇を食い止めるなんてことはできない。今の世界で全てを解決しなければいけないんだ。そうしないと、俺たちは、もう二度とあの楽しかった日々に戻ることはできない。


 そう考えてるうちに、俺は遷杜に殴られた部分の痛みを感じ、それ以外による精神的な疲労から、ふっと意識が途切れた。次の日、俺が目を覚ましたときにはすでに十時を過ぎており、ふとPICの着信履歴を見てみると、みんなから何十件もの電話がかかってきていたことや、何十件ものメールが送られてきていたことが分かった。


 たぶん、昨日の夕方の件について話をしようとしたり、学校に遅刻した俺を心配して電話をかけてきてくれたのだろう。でも、あいにく、昨日あんなことがあった次の日の俺は何か解決策を考え出すまで誰かと話す気分にはなれなかった。結局、どうしようもない眠気に打ち勝つことができなかった俺は、そのまま学校を休んでほぼ丸一日を睡眠に費やした。


 夕方、昼間に十時間近く寝た俺はふと目を覚ました。さすがにもう眠気はないだろうと思われるかもしれないが、こういうときの睡眠は眠気を解消してくれる効果を持たない。熟睡できていないからだと思うけど、まだまだ眠気はあるし、もはや永遠に眠っていられるのではないかと思える。


 眠気はあるが、ただ何となく、これ以上眠ってはいけない気がする。夜に眠れなくなるとかそういうこともあるけど、学校を休んでまで解決策を考える時間を作ったというのに、その貴重な時間の全てを睡眠に費やすなんて勿体なさ過ぎる。


 ベッドから起き、部屋の隅にある机の前の椅子に座る。何をするわけでもなく、頭の中でここまでのことを整理する。そして、ある程度の情報を整理し終わった後、俺のもう一つの人格について考え始めた。


 結局のところ、俺のもう一つの人格の正体はいったい何なんだ。本当に、そのままの意味で、俺のもう一つの人格ということで片付けてしまってもいいのだろうか。いや、何かが引っかかる。何か別の、理由がある気がしてならない。


 俺は幼い頃、原因不明の精神的な病に悩まされていたことがある。その病気の名前は知らないし、詳細についても担当医は教えてくれなかった。それによって俺の私生活に支障が生じ、色々な問題が起きた。そして、後に友だちグループのみんなと知り合ったことで精神が落ち着き、その病気は完治したと思われていた。その病気の正体こそが、俺のもう一つの人格だと思われている。


 ただ、よく思い出してみてほしい。今まで、俺のもう一つの人格が誰を殺そうとしてきたのかを。今の世界を含めたここまでの世界で、俺のもう一つの人格が殺そうとしたのは、全員友だちグループのメンバーだ。もちろん、ディオネを殺そうとした可能性もあるが、その記録は『箱』の壁からは消えている。


 それで、どうして俺のもう一つの人格が友だちグループばかりを殺そうとしてきたのか。それは、俺のもう一つの存在に気づいたり、それについて俺に聞こうとしてきた子ばかりだ。ということは、俺のもう一つの人格は自分の正体を誰にも知られたくないということになる。


 しかし、ここでいくつか問題が起きる。まず、俺のもう一つの人格が自分の正体を知られたくないのなら、俺がみんなにそのことを話してしまっている以上、今この瞬間に全員を殺しにいってもおかしくない。それなのに、地曳を除けば、今の世界で殺そうとしたのは土館だけ。いくら俺がみんなに話していたのを聞いていなかったとはいえ、普段の会話で分かりそうなものだ。


 次に、何で地曳を殺そうとしたのかということだ。そもそも、俺のもう一つの人格が自分の存在を知った友だちを殺そうとするのなら、どうして今までの世界で地曳は殺されなければならなかったのかということになる。


 地曳が俺のもう一つの人格のことを知っていたとして、いつどこでそれを知ったというのか。また、地曳がそれを知っているということを、俺のもう一つの人格はいつどこで知ったのか。この世界はあの日の晩に誕生したばかりであり、俺は『伝承者』なのだから、『箱』から出るまで今の世界の誰かと話してはいない。


 三つ目に、すっかり忘れそうになっているが、俺のもう一つの人格は殺人以外にも罪を犯している。それは、今までの世界でも起き、前の世界でも起きたというのを俺はこの目で確認している。


 殺された友だちのPICが奪われていたこと、加えて、殺された金泉の知恵の輪が奪われたこと。PICは奪ってもパスワードが分からなければ使用できないし、それを機械で解析できないようなプログラムさえ捻じ込まれていると聞いたことがある。だから、奪ったところで意味はないし、それが自分を犯人候補から外す根拠になるわけでもない。


 PICはまだいいとしよう。でも、何で金泉が持っていた知恵の輪まで奪う必要があったんだ。俺のもう一つの人格は表に出ていられる時間が決まっているのか、普段は俺の意識を乗っ取ることはない。ましてや、知恵の輪で暇潰しをしたかった、なんて理由でもあるまい。


 だけど、それならなおさら、わけが分からない。考えれば考えるほど、どんどん分からなくなっていく。情報が、圧倒的に情報が足りていない。しかし、その情報をどこから仕入れるべきなのか、それさえも知らない。もしかして、俺はもう詰んでるんじゃないか。そんな気さえしてくる。


 土館を殺しかけた次の日という状況で、友だちに会うわけにはいかない。だが、友だちに会わなければその関係を修復するということすらできないし、何よりも、何かを知っているらしいディオネから情報を聞き出せない。


 これはもう、遷杜に殺される覚悟で行動しないといけないかもしれないな……。


 と、そのとき、ふとPICからアラームが聞こえてきた。見てみると、どうやら土館が電話してきたらしいことが分かった。数秒間だけ電話に出るか迷ったが、学校を欠席した上に夕方になっても連絡がとれないとなると心配をかけてしまうかもしれない。そう思い、とりあえず電話に出ることにした。


 直後、PICの立体映像の画面上に土館の可愛らしい顔が映し出される。


『あ、冥加君! よかった……やっと繋がった……』

「……ごめんな、土館。でも、俺は今、誰かと話すわけには……」

『冥加君……みんな、冥加君のことを心配してたんだからね? 昨日、あの後から連絡がつかなかったし、学校には来ないし、冥加君の身に何かあったんじゃないかって』

「……いや、俺はどうもしてないよ。ただ、ちょっと考え事をしてたんだ」

『……もしかして、昨日のこと、まだ気にしてる……? その……冥加君のもう一つの人格さんが、私を――』

「ああ。自分でもう一つの人格を制御できると思っていた俺が馬鹿だったんだ。だから、これを解決するまで、誰かと会うわけにはいかない。そうしないと、また誰かを、大切な友だちを傷つけてしまうから」


 そうだ。今、こうしているときだって、俺のもう一つの人格は行動の機会を伺っているかもしれない。そして、何かきっかけがあれば俺の意識を乗っ取って、土館を殺しに行くかもしれない。それだけは、何としてでも避けなければ。だから、今すぐにでも電話を切って、一人にさせてくれ。


『確か、冥加君のもう一つの人格さんは、元々冥加君がかかっていた心の病気に関係してるんだよね?』

「え? あ、ああ。たぶん、そうだと思うけど」

『それで、高校生になって、私たちと友だちになったことで心の負担が軽くなって、一時的に完治してたんだよね?』

「前の世界で俺のもう一つの人格のことを知るまでずっとそう思ってたけど、実際には完治なんてしてなかった。だから、前の世界では惨劇が起き、今の世界では地曳と土館を殺しかけてしまった」

『……だったら、さ。また、冥加君のもう一つの人格さんを封じ込めちゃおうよ』

「……? どうやって……?」

『冥加君は私たちと友だちになって心の負担が軽くなったから、その病気が完治した。でも、実は完治してなかった。だけど、実際には病気は「完治はした」けど最近「再発してしまった」っていう状態だったら? 今の冥加君は「伝承者」とか使命とか、そういうことで色々圧迫された状況にあるでしょ? つまり、そのせいで、完治した病気が再発したんじゃないかなって』

「そういうことになるのか……?」

『正直なところ、私にはよく分からないけど、少なくとも、端からはそういう風に見えるよ。だから、友だちグループのみんなで遊びに行こうよ。そうすれば、一時的にでも心の負担が軽くなって、また完治するかもしれないでしょ?』

「で、でも、それはあくまで仮説に過ぎなくて、もしそうじゃなかったら、また――」

『そうなっても、いいんじゃないかな』

「土館……?」

『冥加君は言った、今の世界は九百六十回目の世界だって。ということは、私たちは本当はもっとずっと前にこの世からいなくなっていておかしくない存在なんだよ。そんな存在に、誰かが延長戦を与えてくれた。もちろん、死ぬのは怖いし、みんなと離れ離れになるのは嫌だよ。でも、これ以上今の世界でも他の世界でも誰かが辛い思いをするのなら、そんな世界は今ここで終わってしまったほうがいい。だから、軽い気持ちでもなんでもなくて、今の世界を救う第一歩として、みんなで遊びに行こうよ』

「……、」

『あ、そうはいっても、そこまで堅苦しくする必要はないし、いつも通り何気なく楽しめればそれで――』


 俺が想像していた以上に、土館は今の状況を理解していた。いや、土館が言った台詞は土館本人の意思もあるだろうが、それは友だちグループのみんなの意思のようにも思えた。みんなは、この世界の真相というわけの分からないことを確かめるために奮闘している。そして、ずっと前に滅びていたはずの世界で生きているという自覚がある。


 そんなことを言われて、俺だけが引き下がるわけにはいかない。元はといえば、俺からみんなに助けを求めたんだ。みんなの思いを無駄にしないためにも、今ここで俺が前に進まなくてどうする。


「……ありがとう、土館。何だか、ちょっと落ち着いたよ」

『うん、どういたしまして』

「それじゃあ、みんなにも連絡しないとな。待ち合わせの時間と場所はどうする?」

『あ、それなら任せて。みんなとはもう話し合ってあるし、待ち合わせの時間も場所もある程度決まってるから。えっと――』


 そうして、俺は土館から明日遊びに行く約束をし、その詳細を聞いた後、少し土館と話してから電話を切った。

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