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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第五話 『突飛』

 昨晩、俺は友だちグループの八人を自分の家に呼び、この世界の秘密や『伝承者』などについて教えた。個人しか知らないはずの情報さえも交えて言ったからなのか、一応みんなは俺の話を信じてくれたみたいだ。まあ、その後の出来事もあって、内心実は信じられていない人はいないと思うけど。


 地曳はこの世界の秘密以上の、事の解決の手がかりになりうる世界の真相を知っていると思っていた。しかし、地曳が人工樹林で頭を打って気絶した際、同時にその部分の記憶が全て失われてしまった。最初はあまりにも最悪な事態だったために信じられなかったけど、俺のもう一つの人格が暴走していないことから、その訳を納得できた。


 最初の世界で『箱』を作り、この世界をループさせたと思われる『十人目』は『土館妹』ことディオネだった。『箱』の壁に書かれていただけの情報ではその存在を確信することはできなかったけど、前の世界での出来事を思い出し、俺はディオネの存在を突き止められた。


 ディオネは自分が『箱』を作ったわけではないと言っていたけど、真相はどうなのか分からない。もしかすると、『伝承者』以外のこの世界の住人のように、各世界ごとに記憶が初期化されたのかもしれない。それなら、今の世界のディオネが『箱』を作った記憶がないと言っていたことにも頷ける。


 どちらにしても、今日の放課後、俺は九人を人工樹林に連れて行って、『箱』を見せる。もちろん、土館を一日だけ好きにしていいという約束をしたのだから、何があってもディオネも連れて行くつもりだ。そして、何か分かったことはないか聞いて、何か分かればそれでよし。何も分からなければ、改めてこれからの活動方針を決めるだけだ。


 さて、昨晩の会議から一晩経ち(とはいっても、解散したのは午前二時過ぎだが)、俺たちは普段通りに登校した。いや、俺がみんなに今までの世界の出来事の一部を話してしまった以上、もはやみんなはこれまで通りの生活は送れない。自分が『日常』だと思っていた今この瞬間に『非日常』が隠れ潜んでいるということを知ってしまったのだから。


 ……なんてことはなく、俺の予想を超えて、みんなは普段通りの学校生活を送っていた。解散した時間帯が遅過ぎたため、俺を含めて全員が寝不足気味だったが、それでも俺がよく知るみんなはそこにいた。たぶん、みんなのその態度は俺の話を信じていなかったからではなく、俺のためを思って少しでも明るく振舞おうとしてくれていたんだと思う。


 土館はディオネも学校に来ていると言っていたが、透明人間状態になってるらしく、土館以外には姿が見えていない。まあ、俺たち九人はディオネの存在を知っているからもう驚かなくなったとはいえ、何も知らないクラスメイトや先生がディオネを見たら驚いてしまうだろうからその判断は妥当だろう。


 そういえば、昨晩は俺たちのこれからに関わる重要な話をしていたため特に気にならなかったが、ディオネとはいったい何者なのだろうか。透明人間になれて、空中に浮遊できて、世界再編の衝撃を耐えられる『箱』を作り、この世界を九百六十回もループさせた張本人。少なくとも、俺のような一般人ではないことは確かだ。もしかすると、超能力者的な何かなのかもしれない。まあ、その辺りも含めて少しずつ聞いていくとしよう。


 さて、何はともあれ、長くて退屈な授業も終わってやっと放課後になった。俺もそうなのだが、授業中や休憩時間に寝ていたからなのか、朝に顔を合わせたときよりもみんなが元気そうに見える。地曳と天王野に限っては俺の家で解散した後そのまま遊んでいたらしく、家で寝る時間がほとんどなかったのだという。だからなのか、二人は学校にいる間はいつ見ても寝ていた。そんなわけで、放課後にしてやっと二人が起きている姿を見た気がする。


 教室にいる八人を呼び、一箇所に集まって円になる。また、他のクラスメイト全員が教室からいなくなったのを確認すると、ディオネを呼んで姿を現してもらった。その後、全員の表情を伺い、俺は話を切り出した。


「みんな、集まってくれてありがとう。それじゃあ、今から人工樹林に行って、昨日言っていた『箱』を見せようと思う」

「冥加が言ったように、『箱』が何かの手がかりになれば、これからのことも考えやすいしな」

「ごめんね、みんな。私が大事なことを忘れちゃったから……」

「いや、地曳は悪くない。確かに、地曳の記憶があればそれも何かの手がかりになったかもしれないが、覚えていないのなら少しずつ思い出せばいいだけだからな。それに、ディオネに『箱』を調べてもらえば何か分かるかもしれない。というわけで、昨日も話した通り、今日はディオネにも同行してもらう。いいな?」

「まっ、その代わりに、いつかお姉ちゃんを一日オモチャにさせてもらいますけどっ」

「あのさぁ……それで、私何されるの?」

「それはもう……楽しくて、気持ちよくて、他のことを何も考えられなくなるようなことだよ♪」

「危ないことじゃないよね……?」


 土館がレズの魔の手に犯されそうになっているが、ディオネと約束してしまった以上、俺にそれを止める権利はない。内心やや不機嫌になりながらそのまま黙って二人の会話を聞いていると、ふと逸弛が質問してきた。


「ところで對君。一ついいかい?」

「ん、何だ?」

「ディオネちゃんに『箱』を調べてもらうのはいいとして、その後はどうするつもりなんだい? 何かが分かったとしても、何も分からなかったとしても、僕には對君がその後どうするつもりなのか分からないんだ」

「ああ、そのことなら任せておいてくれ。実のところ、どっちに転んでもすることはほとんど変わらないんだよ」

「そうなのかい?」

「もちろん、何かが分かったほうがその後が楽になるんだが、何も分からなければ別の方法で調べればいい。それに、いくらなんでも、何も分からずに終わるなんてことはないだろう。仮にも、九百六十回も世界再編を乗り越えた超物体なんだからな」

「まあ、それもそうだね」


 『箱』は本来、この世界に存在してはいけないものだったのかもしれない。それはもちろん、この世界が九百六十回もループしていることも然り。だけど、『箱』が存在していて、この世界がループしていなければ、今この瞬間に俺たちはいない。俺たちは最初の世界で土館とディオネだけを残し、死んでいったのだから。


 何はともあれ、そういう意味ではディオネに感謝するべきなのかもしれない。こうして、俺たちにこの世界の真相を探求するための猶予を与えてくれたのだから。


 でも、ふと疑問に思う。ディオネが『箱』を作った方法はさておきとして、どうしてディオネはこの世界をループさせておきながら、今までの世界で俺たちと一切コンタクトを取らなかったのだろうか。ディオネの記憶が世界再編とともに初期化され続けたのなら納得がいくが、それならむしろ、何で『箱』の壁から自分に関する記録を消したのだろうか。


 ディオネについてはデータがなさ過ぎて分からないことばかりだ。今のところは悪い奴には見えないが、記録にないところで俺たちに対して悪事を働いていたかもしれないし、今だって何かを企んでいてもおかしくない。


 ……と、そんなことをいつまで考えていても仕方がないか。警戒するに越したことはないが、人を疑うのはあまりいいことだとは思えない。表向きだったとしても、こうして俺たちと仲良くしてくれているんだから、今はそれでいいじゃないか。


 俺は軽く頭を振って目を覚まし、改めてみんなのほうを向いて言った。


「よし! 確認も終えたことだし、そろそろ行こうか――」


 俺が台詞を言いかけたとき、ふと教室内にいる俺たち十人のものではない声が聞こえた。その声を聞いた俺たちはすぐにその声がした方向を見た。


「あら? みなさん、まだ教室に残っていたんですか?」

「か、仮暮先生……」


 そこには、仮暮先生こと太陽楼仮暮(たいようろうかくれ)先生がいた。仮暮先生は終礼が終わって三十分以上も経っているにも関わらず未だに教室に残っている俺たちを見て、少し驚いているように見えた。仮暮先生は俺たちの姿を順番に見て確認した後、続けて言った。


「みなさんは本当に仲が良いですね。それで、今は遊びに行く約束でもしていたんですか?」

「ええ、まあ……」

「そうでしたか。私が学生の頃はみなさんのように仲が良い友だちなんていませんでしたから、正直羨ましいです。でも、今は教師としてみなさんと会えたことが嬉しいですね」

「あ、ありがとうございます」

「おっと、言い忘れるところでした。私は生徒が教室に残っていないか確認しに来たんですけれど、ここには十人以外誰もいませんよね?」

「ああ、はい。見ての通りです」

「分かりました。それでは、念のため、戸締りと電気を確認してから教室を出て下さいね。あと、最終下校時間まではまだ余裕がありますけど、明るいうちに家に帰って下さい。もちろん、お家の方を心配させるほど夜遅くまで遊んでいては駄目ですよ」

「分かってますって……というか、仮暮先生は俺たちを小学生とでも思ってるんですか……」

「いえ、私の可愛い教え子たちだと思ってますよ。では、また明日」


 そう言って、仮暮先生は廊下を歩いていった。普段ならこんなことはないのに、何でかは分からないけど、今日はやけに緊張した。何と言うか、どうしようもない違和感があったような気さえした。すると、仮暮先生の後ろ姿が完全に見えなくなったとき、ふと俺の隣に立っていた土館が小声で話しかけてきた。


「ねぇ、冥加君。さっきの仮暮先生、何か変じゃなかった……?」

「え……? まあ、確かに、普段と比べて雰囲気が少し違うような気はしたが――」

「ううん、そうじゃなくて……」

「……?」

「ほら、仮暮先生……さも当然のことのように言ってたでしょ? 教室に私たち以外誰もいないか聞いたとき、『ここには十人以外いませんよね?』って」

「あっ……! 『十人』って……それはつまり……」


 土館に言われて思い出した。俺が感じていた、どうしようもない違和感とはこのことだったんだ。仮暮先生が俺たちに声をかけたのがあまりにも唐突過ぎて、ディオネは透明人間になっていなかった。それなのに、仮暮先生はディオネすらも教室に残っている友だちグループの一人としてカウントしていた。


 この出来事が意味する結論は――、


「いやいや……たぶん、仮暮先生がディオネが紛れ込んでいることに気づかなかっただけなんじゃないか? だって、ディオネも俺たちと同じような制服を着てるわけだし」

「そうだといいんだけど……」


 担任の先生と会話しただけなのに、結果的に場は不穏な空気に包まれた。その後、俺たちは改めて気を引き締めて人工樹林に行き、『箱』を調べ始めたのだった。

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