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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
最終章 『Chapter:The Solar System』
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第四話 『会議』

 地曳は今までの世界で俺のもう一つの人格に執拗に命を狙われてきた。だから、それには理由があり、その理由こそがこの世界の真相に辿り着く手がかりになると思っていた。でも、気絶していた地曳が目を覚ましたところ、気絶する直前の記憶が失われていた。どうやら、地曳が人工樹木に頭をぶつけて気絶した際に余程強く頭を打っていたらしく、気絶すると同時に記憶の一部も飛んでしまったらしい。


 さすがの俺もこの状況でこんなにも都合が悪過ぎることが起きてしまうなんて信じられなかった。だから、地曳に様々な角度からの質問を投げかけることで事実確認をし、少しでも早く多くの記憶を取り戻してもらおうとした。しかし、結局地曳の失われた記憶が戻ることはなく、挙句の果てには、天王野によって途中でそれをやめさせられてしまった。


 その後、不意に俺は今の状況に納得した。思い返してみれば、俺は『伝承者』なのにも関わらず次の『伝承者』ではないみんなにこの世界に秘密を話している。それなのに、俺のもう一つの人格は俺自身を殺そうとはしなかった。


 今までの世界で『伝承者』だった俺がここまでのことをしたことはなかったため、自殺さえも躊躇しないのかは分からない。だが、少なくとも、俺のもう一つの人格が目的を持って地曳を殺そうとしていたのなら、その地曳の記憶の一部が失われた今となってはもう表に出てくる必要がなくなったのだろう。だから、今この瞬間まで、俺のもう一つの人格が暴走しみんなを殺しにかかるということはなかった。


 地曳の記憶に関する話も十分程度で終わり、考え出した理論をみんなに言った後、とりあえず今は地曳の記憶が戻るのを待とうという話になった。一方の地曳は俺たちが何を話しているのか理解できていない様子だったが、海鉾と天王野が説明しておいてくれるらしいのであとは任せておこう。


 さて、地曳の記憶の一部が失われた今、この世界の真相は永遠に闇に包まれたままなのか、といえばそうでもない。もちろん、地曳から聞き出すほうが正確な情報を膨大に得られるとは思うが、それができないのなら、他の方法に頼るしかない。それに、俺としてもそろそろ姿を現してほしいと思っていたところだしな。


 つい二時間ほど前に人工樹林の中で土館に電話をかけたとき、俺は『土館妹もしくはそれに近い何かを名乗る奴がいないか?』と聞いた。その台詞に土館が驚いたことで『十人目』の存在を確信した俺は続けて『そいつも一緒に連れてきてほしい』と言っておいた。


 しかし、部屋中のどこを見回してみても、『十人目』や『土館妹』らしい人物の姿は見えない。土館が俺との約束を破るような子ではないのは分かっているし、もし約束を守れない理由があれば俺に言ってくれるはずだ。つまり、今この部屋に『十人目』はいるということになる。『箱』の壁の記録にあった通り、『十人目』が『透明人間』なら、どれだけ見回してみても見えないことの説明がつくからな。


 天王野と海鉾が地曳に説明をしている隣で、俺は土館のほうを向いて聞いた。


「土館。さっき、俺が電話で言ったこと覚えてるか?」

「え? う、うん」

「『奴』は連れてきてくれたか?」

「……うん。見えないかもしれないけど、この部屋にいるよ」

「そうか……」


 土館から最終確認を取り、俺は再び部屋中を見回した。やはり、俺たち九人以外には誰もいない。遷杜や金泉たちは俺と土館が何の会話をしているのか分からず、首を傾げている。


 そして、俺はどこにいるのかも分からない、『十人目』に向かって力強く言い放った。


「そろそろ出てこいよ、土館妹。いや、『箱』を作り出し、この世界をループさせた『十人目』と言ったほうがいいか?」


 直後、土館が座っている斜め右上に一人の少女が出現した。『出現した』と言うと立体映像なのかと思われるかもしれないが、その少女は紛れもなく実体であり映像などではない。容姿は土館と非常によく似ており、『土館と瓜二つの双子の妹』と呼んでも差し支えないほどに思える。強いて異なっている点を言うなら、髪が若干短くて結び方が違うことや、隠れ巨乳の土館と比べてほとんど胸がないことが挙げられる。


 何が起きるのか何となく予想できていた俺とその少女の存在を知っていた土館は驚くことなくその少女の出現を見届けられた。しかし、他のみんなは一瞬のうちに何が起きたのか理解できておらず、未だに驚きを隠せずにいる。無理もないだろう。突然何もない空間から同い年くらいの女の子が出現して、しかもどういう原理なのかそのまま空中に浮いているのだから。


 俺とその少女の目が合う。すると、その少女は土館によく似ているが少し高い声を発した。


「あー、もう! 何で私がここにいるってのが分かったんですか!」

「お前が最初の世界で作ってくれた『箱』の壁にあった記録をまとめてみたら、自ずとそういう存在がいるんじゃないかって思えたんだ。だから、俺はこうしてお前と対面できたってわけだな」

「『箱』ねぇ……ところで、さっきからそれっぽい雰囲気は感じ取っていたんですけど、みなさんってもしかして転移後の記憶とか持ってたりします?」

「『転移後』? どういう意味だ?」

「あちゃー、やっぱりそうかー……道理でお姉ちゃんが私のことを忘れてたり、みなさんの話を聞いていても心当たりのないことばっかりだなーって思ってたんですよねぇ。っと、それはさておきとして、私は『箱』なんてものを作った覚えはないですよ?」

「何? お前が『箱』を作ったんじゃないのか?」

「ええ、まあ。ってか、せっかくこうして私の存在を暴いてくれやがったわけですし、そろそろ『お前』じゃなくて名前で呼んで下さいな。ああ、そうか、覚えてないんでしたね。改めまして、私の名前はディオネ。土館誓許お姉ちゃんの双子の妹です」

「ディオネ? 本名……ではなさそうだが」

「まあ、本名っちゃあ本名ですけど、そうじゃないっちゃあそうじゃないですよねぇ。どちらにしても、一応正式名称と呼ばれるのはディオネで合ってますんで、それで呼んで下さい」


 『ディオネ』って、明らかに漢字変換できないカタカナの名前だよな。それとも、無理やり漢字変換したりするんだろうか。そういえば、前の世界で俺が土館に電話したときも、ディオネ(と思われる人物)は『名前がない』みたいなことを言っていたような気がする。それが関係しているのだろうか。


「そうか、分かった。えっと、それで、ディオネと土館の関係について聞いておきたいところではあるが、その前に――」

「私はお姉ちゃんの実妹で、お姉ちゃんは私の実姉。ただ、私はこの世界ではいないことになってるみたいなんで、お姉ちゃんもお母さんも私のことは知らないんですよ。っとまあ、そんな感じなわけですよ」

「そうなのか? 土館」

「う、うん。ディオネが言うにはそうみたいね。ディオネの言う通り、私も中々ディオネのことを思い出せないんだ……」

「まあ、お姉ちゃんが『土館誓許』としてみなさんと接している時点でほぼ確定なんだけどね」

「そういえば、ディオネって冥加君から電話がかかってくる前に私の部屋に現れたとき、自分のことを『私』じゃなくて『ボク』って言ってなかったっけ?」

「んー……一応、ボクはお姉ちゃんと話しているときは一人称を『ボク』って言うようにしてるんだよ。その他大勢と話すときは『私』にするんだけどね」

「何か理由があるの?」

「ほら、やっぱり性格から考えてボクとお姉ちゃんだったら、どちらかといえばボクが『攻め』でお姉ちゃんが『受け』って感じしない? いつか来るかもしれないその日のために、日々修練を積んでいる……っと、そういうことだよ」

「……どういうことなの?」

「おーい、そろそろ話を戻してもいいかー?」


 いきなり何の話をし始めるんだ、こいつは。


「えーっと、それで、ディオネが『箱』を作ったわけじゃないっていうのは本当なのか?」

「だーかーらー、さっきからそうだって言ってるじゃないですかー。ってか、『箱』って何なんですか。そんなだっさい名前付けるなんて、ネーミングセンスゼロどころかマイナスに振り切ってますよ」

「……いや、たぶんアレに『箱』って名づけたのはディオネだぞ」

「ええええ!? この、私が!? そんなだっさい名前を!?」

「まあ、証拠があるわけじゃないけどな。『十人目』であるディオネ以外に『箱』を作ったと思われる人物の候補がいないからな。だから、ディオネが『箱』を作ったものだとばかり思っていたが……あ」

「どうしたんですか? ようやく自分の愚かさに気づきましたか?」

「何でそうなるんだよ……というか、ディオネと話していると全然会話が進まない気がしているのは俺だけなのか?」

「まったく、本当ですよ。しっかりしてくれないと困りますよ、茗荷さん」

「おい待て。何か今『ミョウガ』の発音が違ったような気がしたんだが……」

「『~のような気がした』はただの気のせいです。もしくは、そう感じた人の頭がパッカーンしてるか。そのどっちかです」

「ああああ! 苛々するし話が進まねぇぇぇぇ!」

「ごめんね、冥加君。ディオネが迷惑かけて……」

「お姉ちゃんが謝ることはないんだよ。悪いのはそこで頭を抱えて呻き声を上げている茗荷さんだから」


 ディオネに散々弄られ、一向に話が進まないことに俺は苛立ちを覚え始めていた。ただ、『十人目』に事の全容を打ち明けた段階で俺のことを殺しにくるような奴だったらどうしようと危惧していただけに、ディオネみたいに友好的なやつだったのは嬉しい誤算だ。シリアス全開で話を進めるよりは精神的にも大分マシだからな。


「とにかく! さっきの俺の説明を聞いていたから分かってるとは思うが、明日ディオネには俺たちと一緒に人工樹林まで来てもらう! そして、『箱』の仕組みや何か手がかりになりそうなことを調べてもらう! いいな?」

「えー、面倒臭いです。せっかく生身の肉体を操れるわけですし、しばらくはお姉ちゃんと遊んでおきます」

「いや、この世界がループし始めた原因の可能性が一番高いのがディオネである以上、もはやお前に拒否権はない。その辺を重々理解して発言してもらいたいところだな」

「……だって、この世界がなくなったら、私は――」

「……?」

「はぁ……しゃーないですね。お姉ちゃんを丸一日好きにしていいってことで手を打ちましょう。もちろん、言葉通り『何でもしていい』ってことを許可してもらいますけど」

「え?」

「くっ……だが、これもこの世界の真相を暴いて惨劇を回避させるため……やむを得ない。土館、苦行かもしれないが頼んだぞ」

「え? ちょっ……え?」

「やったー! これでお姉ちゃんに○○したり××できるぞー」

「○○とか××って何!?」

「そりゃ……ねぇ……?」


 そうして、何とか俺たちは『箱』を作ったと思われる『十人目』である『土館妹』ことディオネと和解したのだった。地曳の記憶の一部が失われてしまったのは残念だったけど、ディオネのこともあるし、まだ完全に策がないというわけではない。


 その後、金泉にこの世界には警察がいないことをみんなに説明してもらった後、全員で少しだけ話し合い、みんなは各々自分の家へと帰っていった。明日からはいよいよ、この世界の真相を暴く捜索が始まる。そして、俺たち九人……いや、十人の関係修復が。

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