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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
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第二十七話 『無人』

 昨日はお母さんと話したことで、私の出生の秘密やお母さんの過去について知ることができた。今までずっと疑問に思っていて、私自身も今回みたいな理由がなかったとしてもいつかは聞こうと思っていたのかもしれない。今となっては、何だか凄く心が晴れたような気がする。


 そこまではよかったけど、結局、肝心のディオネの正体については分からずじまいのままだ。ディオネが幻覚や霊やホログラムなどの実体がない存在ではないとすると、ディオネは実在する人物なのだということが分かる。でも、PICで調べて、お母さんに直接聞いた結果、私に妹はいないということも分かっている。


 そうなると、ディオネは私が知らないまったく別の人物なのだと考えるのが妥当かもしれない。私だけでなく、誰もが最初はそう思うだろう。だけど、私にはディオネについてまったく心当たりがない。未開拓地にいる見ず知らずの女の子が私のことを知る機会があるとも思えない。


 私は……ディオネに何を言われても自分の考えを持てるようになった私は、ディオネの出現がみんなの自殺に関係していると確信している。だから、昨日はPICで戸籍情報や家庭関係を調べたり、お母さんを傷つけることを覚悟で聞いたりした。


 私の部屋に突然ディオネが現れた次の日、明らかにみんなの様子がおかしかった。だからといって、それが友だちグループの全員というわけではなく、私と逸弛君と火狭さんの三人を除いた六人なのだということはそのときから分かっている。


 そして、木曜日に地曳ちゃんと天王野ちゃんが、日曜日に逸弛君と火狭さんが、昨日金泉ちゃんと木全君が自殺した。逸弛君と火狭さんは自殺する前日に会ったときまで何もおかしなところはなかったのに、死んでしまった。他の四人は前日までには何らかの予兆があったように思える。


 こんなこと、普通じゃない、狂っている。そして、この一連の自殺事件が一切報道されていないこの世界も狂ってる。それくらいのこと、改めて考える必要もなく分かってる。


 ディオネは不思議な能力をいくつも持っていて、私に人殺しをさせようとしたりした。六人が校舎一階で話し合いをしているときに、ディオネが教室に入った瞬間に天王野ちゃんの様子がおかしくなった。加えて、私がディオネを疑ったとき、私はそれに気がつくこともできないまま、言い包められてしまっていた。


 もちろん、今でも私はディオネのことを信じたいと思っているし、何か別の結末であってほしいと思っている。だけど、こうなってしまってはもう、六人が死んでしまったのは全てディオネの仕業だと疑わざるをえない。


 本人に聞いてしまえばそれで済む話なのかもしれないけど、そうしてしまうと今度は私まで殺されてしまうかもしれない。正体も目的も分かっていないままだし。


 というわけで、私は今日冥加君に相談してみようと思っている。ディオネはテキトウに図書館にでも行ってもらって、その間に冥加君にディオネが出現してから起きたことを全て打ち明けようと思う。最初からこうしていれば……という後悔はもう遅い。冥加君なら、私の突拍子もない話を信じてくれて、何か解決方法を考えてくれるかもしれない。


「それじゃあ、行ってきまーす」


 玄関に立ち、靴を履きながらお母さんに向けてそう言う。ディオネは相変わらず狭い廊下で宙に浮いており、そんな私のことを見ていた。


「あれ? お母さん?」


 何度か呼びかけてみても、お母さんの返答は聞こえてこない。いつもならここで『行ってらっしゃーい』という声が聞こえてくる。それに、部屋のドアを閉めていても玄関から大声で呼べば聞こえるはず。昨日は急遽午前中で仕事を切り上げたと言っていたから、今日もその続きで休みなのかと思ってたけど。


 小首を傾げた後、私はディオネのほうを向いて小声で話しかけた。


「ねぇ、ディオネ。お母さんがどこに行ったか知ってる?」

「さぁね。先にお仕事に行ったんじゃないの?」

「うーん、何そのテキトウな返事……」

「いやいや、いくらボクでも分かることと分からないことくらいあるんだよ?」

「まあ、それはそうだと思うけど」

「ボクはお姉ちゃんに起こされて起きたから、それより前にお母さんがお仕事に行ったのなら知らないし、それ以前に、朝ご飯なら作り置きが保存されてたじゃん」

「そう言われてみればそうかもね」


 お母さんが何の連絡もなしにお仕事に行くだなんて少し珍しいと思ったけど、昨日が昨日だっただけに、そういうこともあるんだろう。よく考えてみれば、朝食をディオネと二人で食べていた段階で気づくべきだったかもしれない。


 とりあえず私はディオネの言い分に納得し、玄関ドアを開けて外に出た。その後、玄関ドアのロックがかかっているのを確認した。


 その数分後、時刻は午前七時五十分頃。私はある、一つの違和感に気がついた。


「今日……何だか、やけに静かじゃない……?」

「そうかな? ボクからしてみれば、この街はいつも今日くらい静かだったような気がするけど?」

「いや、でもさ、さっきから変な感じしない……?」

「『変な感じ』?」

「そう。何というか……あ」


 ディオネに言いかけたとき、私はその違和感・『変な感じ』の正体を理解した。私はそれを理解した直後、背筋がゾクッとする嫌な感覚を得、信じがたいその正体を再度確認した。


「人が……いない……?」

「……?」

「ディオネ! 人が……私たち以外で誰も人がいない!」

「えーっと……どゆこと?」

「ほら、見てみてよ!」


 私はそう言って、ディオネに周囲を見回すように指示をした。ディオネは渋々嫌々といった感じだったけど、私に指示された通り周囲を見回し、数秒後にはその驚きをあらわにしていた。


 私たちの周囲に、誰一人として人がいない。


 家から出てここに来るまで誰にもすれ違っていないし、車道では一般車も自動運行バスも一切走っていない。それどころか、私は今日、ディオネ以外の人の姿を見ていないし、私とディオネ以外の人の声を聞いていない。


 何で? 何で、誰もいないの? この街の人たちは、いったいどこに行っちゃったの?


 押し寄せる恐怖と不安の感情から、私は思わずそこから走り出してしまった。ディオネがついてきているかは分からないけど、今はただ、この現状が真実なのかどうかを確認しておく必要がある。


「お姉ちゃん! 急に走り出してどうしたの!?」

「はぁはぁ……ディオネも見て分かったでしょ! 何でかは分からないけど、この辺りに私たち以外の人がいないってことが! だから、これが本当にそうなってるのか、確認しておかないと!」


 ディオネにそう言いながら、私は続ける。そして、今が登校中なのだということも忘れ、普段通学路として使っている道から外れ、目に入った『人がいそうな場所』へと向かった。マンション、コンビニ、交番、それ以外の場所にも。


 しかし、どこに行っても人の姿が見えたり人の声が聞こえることはなく、そもそも人の気配すらなかった。マンションなどの住宅施設や交番などの公共施設には灯りは点いていたけど鍵がかかっていて中には入れず、コンビニなどの商業施設やそれ以外の場所は灯りすらついていない有様だった。


 十分、二十分……いや、もっとかかったかもしれない。私は自分の体力が限界に達するまで、可能な限り全ての場所を確認して人がいるかいないかを見た。しかし、最終的に残ったのは、全身汗だくになって呼吸困難に陥りそうなほど息が荒くなっている私と、そんな私のすぐそばで浮遊しているディオネだけだった。


「……ディオネ……何か、知らないの……?」

「うーん……こればっかりはボクにもよく分からないね。何といっても、お姉ちゃんが探した限りでは、どこにも人がいないんだもん。誰かがこんなことをしたとも思えないし、ボクたちだけが残っているっていうのもどうなんだろうね」

「……まあ、分かれば苦労しないか……」

「そういえば、お姉ちゃん。今日って水曜日だよね?」

「え? ああ、うん。そうだけど、それがどうかしたの?」

「前、お姉ちゃんからもらったタブレットで調べ物をしているときに知ったんだけどさ、各月の偶数週の水曜日って一日中雨が降るんじゃなかったっけ?」

「言われてみれば……でも、今日は水曜日だけど、雨が降っていない……? いや、午後からは降り始めそうな曇り空ではあるんだけど」

「天気のコントロールは、気象庁だったっけ? が、戦争中に使われていた『天候をコントロールできる薬品』を大気中にばら撒いてそうしているらしいし、これって、その気象庁の人たちがその仕事をできない状況にあるってことなんじゃないの?」

「まさか……つまり、この街だけじゃなくて、世界中の人たちがいないっていうこと!?」

「その可能性もあるけど、少なくとも、日本にはもう誰もいないだろうね」


 ディオネの推理を聞き、私は咄嗟にPICを起動させた。そして、普段なら今日のニュースを随時報道してくれているページを開くものの、そこには昨日までのことしか書かれておらず、更新されていなかった。さらに、ワンセグを開いてみたけど、どの番組も砂嵐が映っているだけだった。


 いったい、この世界に何が起きているというの? 私は今日、冥加君にディオネのことを相談して、これまでに死んでしまったみんなのことを考えて、それで……。


 それなのに、私のそんな考えは一歩遅かったというの? あと少し、あと一日早く行動していれば、こんなことにはならなかったかもしれない。それなのに――、


「お姉ちゃん!」

「え?」


 不意に、ディオネの大声が聞こえてきた。切羽詰まったようなディオネの声を聞いた私はすぐにディオネのほうを向こうとした。しかしその直後、私はディオネによって力強く突き飛ばされた。


「な、何す――」


 私がディオネに文句を言おうとしたとき、ディオネはすでに私のほうを見ていなかった。ディオネは少し遠くからみても額に汗をかいているのが分かり、焦っている様子が伺えた。そんな、ディオネの視線の先には――、


「やっト……見つケタょ……誓許ちゃン……!」


 右手に長い金属の棒を持ちながら、狂ったように笑っている、変わり果てた、海鉾ちゃんの姿があった。

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