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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
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第二十三話 『失望』

 次の日。私は普段通りの時間帯に登校した。教室に着いたときには誰もおらず、時間が経つにつれて少しずつ次々とクラスメイトたちが登校してくる。その誰もが、逸弛君と火狭さんが自殺してことについて話している姿も見られず、そもそもそのことを知っている様子もなかった。


 やはり、仮暮先生が言っていたように、あの二人が自殺したことは私たち友だちグループと仮暮先生しか知らないのだろう。逸弛君と火狭さんには兄弟姉妹はいなかったはずだし、どちらの両親も二人が幼い頃に亡くなったと聞いたことがある。遠い親戚とかがいるのかは分からないけど、二人が協力し合いながら普段は一人暮らしをしていることを考えると、いないのかもしれない。


 二人は心中自殺しなければならないほど、何かに追い詰められていたのだろうか。昨日の金泉ちゃんからの電話によると『罪の意識』や『この世界に対する絶望』が原因らしいけど、それは具体的にはどういうものなのだろうか。


 この一週間くらいの間で、私は自分が理解できないことがあること、そしてそれを友だちのみんなが理解できていることをたくさん知った。もちろん、解決できたことよりもまだ解決できていないことのほうが多いし、納得のいかない現実を何度も突きつけられた。


 地曳ちゃんと天王野ちゃんの自殺。逸弛君と火狭さんの自殺。私が予期せぬままに、多くの謎を残して自ら命を絶った四人。いや、地曳ちゃんは事故で、火狭さんは逸弛君と心中したらしいから、厳密には違うけど。それはそうとして、私はこんな現実を認めたくない。


 最初は、一目惚れをしてしまった逸弛君目当てで入った友だちグループ。でも、そこでは優しくて楽しいみんながいて、逸弛君とはあまり話せなかったし、火狭さんとは何度も喧嘩したりしたけど、私としては充実した日々を送れていた気がする。


 それなのに、今はもうあの日々に帰ることはできない。九人から四人が欠けて五人となった。そして、その中にはまだまだ不穏な空気が漂っている。たぶん、私ごときでは掃えないような空気が。


 未だに、逸弛君と火狭さんが自殺したことを信じられないでいるし、その現実を認めようとすると辛くなる。逸弛君は私が好きだった男の子で、火狭さんはそんな逸弛君の幼馴染みであり恋人。逸弛君ともっと話しておけばよかった、火狭さんともっと早くに仲直りしておけばよかった。そんな後悔ばかりが募っていく。


 ふと、昨日の金泉ちゃんの電話のことを思い出す。やはり、分からないことが多過ぎて、もどかしくなってしまう。いや、厳密にはそうではないのかもしれない。何というか、どうしようもない、嫌な予感がする。


 昨日の朝方と比べて明らかに様子がおかしかった夕方の金泉ちゃんの身に、何かよからぬことが起きてしまうのではないか。未来予知なんてたいそうなものではないけど、私の直感がそう囁いている気がしてならない。


 そんなことを考えていると、冥加君と海鉾ちゃんが教室に入ってきたのが分かった。二人は何かを話しながら、私に気がつくことなくそれぞれの席へと向かった。そして、教室内をぐるっと見回すと、私の席に向かって歩いてきた。


 ……あれ? そういえば、冥加君と海鉾ちゃんの家って近所でもなんでもなかったような気がするけど、どうだったっけ? まあ、偶然学校近くか校舎内で会って、そのまま一緒に来たとかそういうことなのかもしれないけど。前にもそういうことがあった気がするし。


 最初に口を開いたのは冥加君だった。


「土館、おはよう。昨日は急に早退したって聞いたから、俺たち心配したんだぞ? それで、体調のほうはもう大丈夫なのか?」

「おはよー、冥加君。うん、昨日帰ってからずっと寝てたからね。この通り元気だよ」

「そうか……それならよかった……土館にまで何かあったら、俺……」

「冥加君……?」


 冥加君は一度だけ安堵の溜め息と吐くと、そのままよろよろと机に手をついた。見てみると、冥加君は余程私の体調のことを心配してくれていたらしく、それで私が大丈夫だと言ったから安心したらしい。


 と、そんな冥加君を見ていると何だか微笑ましくなった私がくすっと笑ったとき、私同様に冥加君を見ながら少しニヤニヤしている海鉾ちゃんが半笑いになりながら声を発した。


「いや~、実はね、誓許ちゃん。ここだけの話なんだけど、冥加くんってば昨日はずーっと『土館大丈夫かな』とか『土館に何かあったんじゃないか』とか言いまくってたんだよ~。しかも、顔真っ青にしながら、ふふっ。まったく、いくらなんでも心配性が過ぎるよね~」

「え? 冥加君、そうだったの?」

「ちょ、お、おい! 海鉾、何でそのことを言うんだ! 昨日、言わないって約束したはずだろ!?」

「ん~? どうだったかなぁ~? わたし、記憶力悪いからなぁ~」

「うおおおおい!」


 まさか、冥加君がそこまで私のことを心配してくれていたなんて知らなかった。海鉾ちゃんはあんな風に冥加君のことを笑いながら言ってるけど、たぶんそんな冥加君の気遣いを私に伝えようとしてくれたんだと思う。やっぱり、二人とも優しい。


 冥加君が海鉾ちゃんに注意をし、海鉾ちゃんが冥加君からの注意を受け流す。そんな楽しげな会話が聞こえてくる中、私は冥加君に声をかけた。


「冥加君、ありがとう」

「え?」

「私、冥加君がそこまで私のことを心配してくれてたなんて知らなかったから、とっても嬉しいよ」

「そ、そうか。土館に喜んでもらえたのならよかった。あ、でも、俺が土館のことを心配するのは当然というか、何というか――」

「それと、海鉾ちゃんもね」

「……? わたしも?」

「冥加君が私のことを心配してたってことを教えようとしてくれたんだよね。冥加君のことを笑いたかったとか、そういうことじゃなくて」

「わたしは別に……そんなことないよ。ただ、誓許ちゃんのことを元気付けようと思ったのはそうなんだけど」

「ふふっ。もー、素直じゃないなー」


 分かってる。私がこうして体調がよくなって教室にいる今になっても、二人が気を遣っていること。そして、私がそのことを見抜いていると分かってるのに、二人は直接的にそのことを言おうとしていないことを。


 いい友だちを持てて、本当によかった。そんなことを思っていると、少しだけ暗い雰囲気になっていた冥加君が言い始めた。


「土館……逸弛と火狭のことなんだが――」

「あ、うん。二人のことなら、昨日仮暮先生から聞いたよ」

「そうか」

「何があったのかは分からないけど、だからこそ、これ以上深入りはしないようにしようと思う。結局、地曳ちゃんと天王野ちゃんのことも、未だによく分からないことばっかりだからね」

「土館も辛いと思うが、俺たちも同じくらい辛い。そして、土館が言うように、何であの二人が自殺したのか、その原因は分かっていない。何か新しい情報が入るまで、俺たちはこの平凡な日常を過ごそう」

「うん」


 冥加君は『何であの二人が自殺したのか、その原因は分かっていない』と言ったけど、それが嘘なのだということは分かっていた。それは、昨日の金泉ちゃんの電話を思い出せば分かることだ。とはいっても、具体的にそれが何なのかは分かっているわけではないけど、大雑把な原因しか分かっていないから、冥加君はあえて言わなかったのかもしれない。


 現在時刻は午前八時二十五分少し前頃。あと五分と少しで一時間目の授業が始まる。二人と話していて気がつかなかったけど、ふと教室内に視線を移すと、クラスメイトの半数ほどが登校してきているのが分かった。


 そのとき、私の中に二つの疑問が生まれた。一つ目は、あと少しで一時間目の授業が始まるというのに、やけに登校してきているクラスメイトが少ないということ。元々、私のクラスは三十人しか生徒がいなくて、教室の大きさを考えると、普段から妙に無駄な空間がある。


 でも、そういうことではない。今日は空間以前の問題で、登校してきているクラスメイトが少な過ぎる。この時間帯なら、クラスメイトの八割から九割が教室にいても不思議ではないのに、だ。昨日の私みたいに薬に頼りたくないからという理由で薬を飲まずに早退したり欠席したりする生徒も少なからず存在する。だけど、それは全員ではないし、ましてや、クラスの半数がそういう性格だとは考えられない。


 首を傾げて、私は考え続ける。二つ目の疑問は、そのまだ登校してきていないクラスメイトの中に金泉ちゃんと木全君が含まれているということだった。金泉ちゃんは昨日私と電話したときは少し様子がおかしかったけどいたって健康そうに見えたし、昨日学校で見たときは木全君も普段通りだったと思う。


 何でクラスメイトの半数近くが登校してきていないのか。そして、どうして金泉ちゃんと木全君も登校してきていないのか。私は、唐突に浮かんだそれらの疑問を拭うことができず、気持ち悪い感覚を得た。気がついたとき、思わず私はそのことを冥加君と海鉾ちゃんに聞いてしまっていた。


「ねぇ、冥加君、海鉾ちゃん。今気がついたんだけど、やけに空席が多いと思わない?」

「言われてみれば、俺たちを含めてまだ十五人くらいしか来てないな。だが、何で急にそんなことを?」

「ううん、大した理由じゃないんだけど、ふと気になって。あと、金泉ちゃんと木全君も来てないけど、二人は何か聞いてる?」

「そういえばあの二人もまだ来てないな。俺は何も聞いてないが――」

「あ、それなら、わたし知ってるよ」

「そうなのか?」

「うん。何か昨日、金泉ちゃんから『明日、私と遷杜様は学校をお休み致しますわ』っていうメールが届いたんだよ。何かあったのかなーって思って返信はしたんだけど、未だに返事はなし。あとで仮暮先生に言おうとは思ってたんだけどね」

「そういうことだったんだ。何だ、それなら大丈夫そうだね」


 昨日、私も金泉ちゃんから電話がかかってきた、ということを言っておくべきだっただろうか。まあ、大したことは話していないし、二人も知ってるかもしれないから、わざわざ言うまでもないかな。

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