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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
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第十六話 『追求』

 十二時を少し回った頃、ようやく私は冥加君との待ち合わせ場所である第六地区のS-4エリアの中央噴水前に辿り着いた。ふと見てみると、ぽつぽつと人が歩いている街路の先に冥加君の姿を見つけることができた。


 私は自分の格好に変なところがないかをもう一度確認した後、『今日は楽しもう!』と意気込み、そこで待ってくれている冥加君に声をかけた。


「あ、冥加君ー。ごめんね、待った?」

「いや、全然待ってないよ。俺もさっき来たばかりだし」

「そう? それなら、よかったー」


 思った通り、やっぱり冥加君は優しい。待ち合わせの時間を少し過ぎちゃったけど、何気ない感じで言葉を返してくれた。と、内心ホッとしていると、冥加君の視線が私に集中していることが分かった。冥加君は何を話すわけでもなく、ただただ私の頭の先から靴までを少し驚いた様子で見ていた。


 冥加君は何で私のことをそんなに見てるんだろう? もしかして、どこか変なところでもあったのかな? そんなことを思いながら、私は恐る恐る本人に聞いてみることにした。


「え、えっと……何か、おかしかったかな……?」

「……ん? いやいや、まさかそんな、土館がおかしいわけないだろ? むしろ、似合い過ぎて可愛過ぎるくらいだよ。今の土館のことをおかしいだなんて言うやつがいたら、この俺が絶対に許さない。うん、本当に似合ってる」

「あはは。冥加君は本当にお世辞が上手だよねー。でも、ありがとね。褒めてくれて」

「あ、ああ……」


 何だか今、冥加君が私のことを『可愛い』と言ってくれたとき、何でかは分からないけど胸がドキッとした。たぶん冥加君は私に気を遣って、お世辞のつもりで何気なく言っただけなんだと思うけど、やっぱりそういうことを言われると嬉しいものだ。


「それじゃあ、そろそろ行こうか?」

「うん。今日は冥加君に全部任せるから、よろしくねっ」

「ああ……って、土館!?」

「……? どうしたの?」

「どうしたのって、ええええ!?」


 冥加君の左腕に抱き付きながら、何で冥加君がそこまで驚いているのかが分からなかった私は軽く首を傾げた。私としては、冥加君が気分転換代わりのお出かけに誘ってくれたことの恩返しの意味も含めて、せっかく二人きりで行くんだから、とか思った結果こうしたわけだけど……もしかして、冥加君はこういうのは苦手だったのかもしれない。


 確かに、よくよく考えてみれば、女の子が同い年の男の子の左腕に抱きつくなんてことは彼氏彼女の関係以外ではほとんどないだろう。ただ何となく、以前男の子はこうされると喜ぶみたいなことを聞いたことがあったから実践してみたけど、失敗だったかもしれない。何だか、私のほうも少し恥ずかしくなってきたし。


 かといって、今さら突き放すと、冥加君の気を悪くしてしまうかもしれない。気を遣いすぎるのも友だちとしてどうかと思うけど、最低限の礼儀は必要だと思う。とりあえず、確認だけは取っておこう。このままいけそうなら、そのまま突っ走ろう。


「もしかして、私に引っ付かれるの……嫌だった?」

「え!? そ、そんなわけないだろ! 凄く嬉しいし、むしろもっと引っ付いて欲しいくらいだ!」

「本当に?」

「もちろん!」

「だったら、もう少しくっ付いちゃおうかな~」

「え」


 冥加君に了承をもらった私は、それまで以上にさらに冥加君の左腕に抱きついた。そのとき、私の胸が冥加君の左腕に当たったのか少し変な感じもした。でも、もう引き返すわけにはいかない。私は半ばやけになりながら、冥加君の心臓の鼓動が聞こえるくらい密着していった。


 そのとき、ふと私の中で何かが妙に引っかかった。何というかそれは、とてもではないけど言葉には表しにくい、よく分からない感覚だ。ただ、これだけは分かる。『私はいつか冥加君とこうしたいと思っていた』。それがいつだったのか、はたまた私の本心なのかは確かめようもない。


 私は高校生になってすぐの頃に会った逸弛君に一目惚れして、それからというもの逸弛君のことを好きでいた。それなのに、冥加君とこんな恋人みたいなことをして、私は『嬉しい』と思っている。何でなんだろう。この日、私はそんな感情を抱えながら、冥加君との気分転換を楽しんだ。


 喫茶店に行って軽く昼食を済ませた後は、買い物に付き合ってもらったり、ゲームセンターで遊んだりし、気がつくと時刻は午後三時を回っていた。冥加君と待ち合わせをしたのがついさっきのような気がして、もう三時間も経ったのかと、正直自分でも少し驚いている。つまり、それほどまでに、私は今日という日を楽しんでいるということになるんだと思うけど。


 私が冥加君の左腕に抱き付きながら二人で歩いていると、ふと冥加君が話しかけてきた。


「冥加君、次はどこに行こっか?」

「うーん、そうだな……俺は土館が行きたいところならどこでもいいよ」

「ふふっ。冥加君ならそう言ってくれると思った。あ、思いついた。それじゃあ、冥加君。次は――」


 私がそう言いかけたとき、三十メートルくらい先の街路に海鉾ちゃんと金泉ちゃんの後ろ姿を発見した。二人は私と冥加君同様に私服で、何かを話しながら向こうのほうに歩いていくのが確認できた。


「……? あれって……海鉾ちゃんと金泉ちゃん?

「え?」

「海鉾ちゃんと金泉ちゃんは、今日は一緒に遊べないんじゃなかったっけ……?」

「つ、土館? さあ、そろそろ次の場所に――」


 そのとき、冥加君のやけに焦っている態度を見て、私の中で冥加君だけでなく、この前の水曜日から様子がおかしかった六人のことを思い出した。そして、その全員に対して、不審感を抱いてしまった。


 この前の水曜日、私は冥加君、海鉾ちゃん、金泉ちゃん、地曳ちゃん、天王野ちゃん、木全君の様子がおかしいことを知った。というのも、その六人が登校直後の私によく分からないことを言ってきたからだ。その場はディオネに助言されたということもあり、それ以上は追求はしなかったけど、異常はまだ続いた。


 その日一日、朝のことばかりを考えていた私はディオネに起こされ、学校を出ようとしていたときに、再び六人の会話を聞いた。六人はまたしても私が理解できない単語をいくつか使って、会話していた。しかも、急に天王野ちゃんの体調が悪くなったり、地曳ちゃんが教室に残った四人を怒鳴ったり、何がどうしたらそうなるのかまったく分からなかった。


 そして次の日、天王野ちゃんの体調が悪いことは分かっていたけど、放課後、突然異常を察知した冥加君の言葉によって、私たちは地曳ちゃんの家へと向かった。すると、そこには薬を飲んで自殺していた天王野ちゃんの姿と、その天王野ちゃんと一緒に自殺しようとしていた地曳ちゃんの姿があった。


 そのときの私はその場の状況の移り変わりを理解できず、幸いなことにも地曳ちゃんだけは助けられたと思っていた。しかし、混乱した地曳ちゃんは台所から包丁を取り出して再び自殺しようとし、冥加君と木全君がそれを止めるべき追いかけたとき、転んで包丁が首に刺さって死んでしまった。


 この日、地曳ちゃんの家に行く前、私は海鉾ちゃんと金泉ちゃんに『次の土曜日に遊ばない?』と誘われていた。それなのに、昨日冥加君から遊びのお誘いを受けたとき、海鉾ちゃんと金泉ちゃんは用事で来られなくなったみたいなことを言われ、その晩に、金泉ちゃんと木全君のペアと会い、またしてもよく分からないことを言われた。


 さて、ここまでのことを整理すると、私一人だけがこの異常な状態に取り残されていることが分かる。私を遊びに誘ったにも関わらず次の日には冥加君づてでそれを断った海鉾ちゃんと金泉ちゃん、それと入れ替わるようにして私を遊びに誘った冥加君。さらに言うなら、木曜日に突然原因不明のまま自殺をした地曳ちゃんと天王野ちゃん。


 やはり、この六人……いや、今は四人か、は私に何か重大なことを隠している。


 そういえば、昨日木全君が言っていた。『土館にとっては自力で記憶を取り戻さない限り到底信じられないような突拍子もない話だ』と。私が何を忘れているのか、何でみんなはそのことを知っているのに教えてくれないのか、そして、その突拍子もない話とは何のことなのか。


 以前、こんな思考をしたときはディオネに丸め込まれて自分の意思を持てなかった私だけど、今ははっきりとそれを持つことができている。たとえ私がみんなの力にはなれなくても、それでも、何か手伝えることの一つや二つはあるはずだ。みんなが隠していること、私が忘れていること。私はそれを確かめる必要がある。


 私は冥加君の左腕に抱きついていた力を弱め、普段よりも少し声を低くしながら問う。どうすれば冥加君はそのことを話してくれるのかを考える。その後、冥加君の顔を見上げるようにしながら顔を凝視しつつ、私は声を発した。


「ねぇ、冥加君? 冥加君は知っているんだよね?」

「な、何をだ……?」

「とぼけても無駄だよ。冥加君は知っている。冥加君たちは知っていて、私が忘れていること。地曳ちゃんと天王野ちゃんが何で死ななくてはならなかったのか。そして、そのことを冥加君たちが隠している理由。その全てを」

「さ、さあ……? 何のことだ?」

「冥加君は何か知っているんでしょ? 答えてよ」

「……えっと」

「冥加君!」

「は、はいぃ!」


 思わず大きな声を発してしまい、それによって私はふと我に返った。


 あれ? 今の今まで、私は何をしていたんだろう? 何で、冥加君はこんなにも怯えて、私のことをこれまで見たこともないような表情で見ているんだろう?


 みんなが隠していることをどうしても知りたいと思うあまり、私は我を失ってしまっていたらしい。もっとよく考えてから、冥加君に一つずつ聞いていけば済む話なのに。それなのに、私は――、


「あれ? そこにいるのは……對君と誓許ちゃんかな?」

「……え?」


 私が自分の行動を後悔していると、不意にそんな声が聞こえてきた。私は聞き覚えがあるその声の方向をすぐに向き、そこにいた二人の姿を確認した。

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