表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
134/210

第十四話 『遭逢』

「……あら? 土館さん?」

「金泉ちゃんに、木全君……?」


 その人影の正体は、金泉ちゃんと木全君だった。二人は私と会うまでは手を繋いで歩いていたみたいだったけど、私と会うと咄嗟に手を離した。私の記憶が確かなら、金泉ちゃんと木全君は付き合ってはいなかったはずだけど、もしかして最近付き合い始めたのだろうか。


 この場の空気を読んでディオネが黙ってくれている隣で、私は二人と少しだけ話していくことにした。


「二人とも、何でこんなところに?」

「それはこちらの台詞ですわ。私と遷杜様は……その……少し風に当たりたかったので、それで散歩をしていただけですわ。それよりも、土館さんのほうこそ、何でこんな時間にこんなところにいるんですか?」

「あ……」


 そうだった。私にはディオネが見えているから一人ではないと分かっているけど、二人にはディオネが見えていない。つまり、はたから見れば私は、夜遅い時間帯に一人で街を歩いている高校生ということになる。


 それに、一応二人にはここにいる理由があるけど、私にはない。とりあえず、テキトウに言って誤魔化しておこう。ディオネのことを説明するわけにもいかないし。


「わ、私も二人と同じように、ちょっと涼みたかったんだよ。ほら、最近色々あったからね。たまには頭の中を空っぽにしたいときもあるんだよ」

「そうだったんですか。そういえば、土館さん。話は変わるのですが、体調のほうはもう大丈夫なんですか?」

「体調?」

「一昨日、天王野さんと地曳さんが亡くなった日、土館さんが地曳さん宅で気絶して倒れた後、私と海鉾さんがお見舞いに行ったときも、あまり体調が優れていないように見えましたから。それに、今日も学校では酷く疲れきった顔をしていましたし」

「私、そんなに酷い顔してたんだ……そうじゃなくて、えっと、ごめんね心配かけちゃって。私はこの通り、こうして普通に話せるくらいにはなったから。あと、ありがとね」

「いえ、別に心配とかはしていないのですが、これ以上現状が悪化する事態だけはどうしても避けたかったので。今のはその確認、といえば適切なのでしょうか」

「あ、そうなの?」


 何というか、金泉ちゃんが私の体調のことを心配してくれていたと思って少し嬉しかったわけだけど、どうやらそうではなかったらしい。というか、わざわざ私本人の目の前でそのことを言わなくてもいいのに、と思ったわけだけど、たぶん金泉ちゃんに悪気はないんだと思う。前々から金泉ちゃんは落ち着きすぎていて、時々冷たいときもあることを知っているから。


 そのとき、それまで黙って金泉ちゃんの隣に立っていた木全が、不意に私に話しかけてきた。


「土館。お前、まだ思い出せないのか?」

「……何を……?」

「せ、遷杜様! 今日の会議でそのことはもう土館さんには話さないと決定したばかりではないですか! これ以上、プロジェクトにノイズが入ると――」

「悪い、金泉。だが、どうしても俺は現状に納得できていないんだ。それに、このままでは、冥加があまりにも可哀想だからな」

「それもそうですが……」

「えーっと……何の話?」


 正直なところ、説明なく二人だけで会話を進められても、まったく分からない。


「『ここではなく前にいた場所のこと』、『俺たちがここにいる理由』、そして、『この世界そのもの』のことだ。どうだ? 何か思い出せたことはないか?」

「うーん……地曳ちゃんと天王野ちゃんが死んじゃう前、六人がそのことを話しているのを聞いたことがあるけど、それとはまた違う話? 心理テストか何かなのか、それとも、哲学的な話題なの?」

「はぁ……やはり、お前らの思考はとことん似てるな」

「……?」

「これは『心理テスト』でも『哲学的な話題』でもない。ただの、『現実』だ。俺たちにとっては至極当然で当たり前のことだが、土館にとっては自力で記憶を取り戻さない限り到底信じられないような突拍子もない話だ」

「……遷杜様。だいぶ冷えてきましたし、そろそろ帰りましょう?」

「そうだな」


 そう言って、金泉ちゃんと木全君はろくな説明もしないまま、私のすぐ隣を抜けて歩いて行こうとした。私はそれを止めることなく、二人が何を言いたかったのかを考えていた。二人が完全に私の視界から外れたとき、木全君が言った。


「せめて、あいつへの想いくらいは思い出してやってくれ。俺の親友は、お前がそんな状態になってしまっていることに酷く心を痛めている。だから、な」


 木全君のその台詞が聞こえた後、私はすぐに二人が歩いて行った方向を振り返った。二人は私と会う前までと同様に手を繋ぎながら、仲良く肩を寄せ合い、何かを話しながら歩いていることが伺えた。


 私はそのまま呆然としながら二人の後ろ姿を眺めているしかなかった。やがて、人工樹林前の坂道を少しずつ下って行き、二人の後ろ姿が見えなくなったとき、それまで静かに黙っていたディオネが口を開いた。


「あの二人って、何か性格似てるよね」

「言われてみれば、確かにそんな気もするね。二人とも口数が多いほうじゃないし、いつも冷静だし」

「それもそうだけど、あれはもう『冷静』っていうよりも『冷徹』なんじゃないの?」

「一応言っておくけど、『冷徹』には『冷たい』って意味はないからね?」

「んじゃ、『冷酷』にしておこう」

「さすがに、二人ともそこまで心無い人じゃないと思うよ。さっきだって、金泉ちゃんは私のことを心配してないって言ってたけど、ああいうことを言ってくれたってことは、もしかすると本当は心配してくれてたのかもしれないし」

「それはともかくとしてもあの二人、お姉ちゃんに意味不明なことばっかり言ってたじゃん。しかも、ろくな説明も解説もなしで。頭大丈夫なの?」

「いやいや、それは言い過ぎだって。確かに私にはあの二人が何を言っていたのかさっぱり分からなかったけど、それはあの二人が私に何かを伝えるように努力して、私もそれを理解できるように努力した結果だから、仕方ないことなんだよ。たぶん」

「ま、お姉ちゃんがいいなら、ボクもそれで納得するんだけどね」


 ディオネはそう言うと、数秒だけ間隔を空けた後、続けて台詞を発した。


「ところで、一つ気になったことがあったんだけど、聞いてもいい?」

「何?」

「お姉ちゃんって、好きな人いるの? 異性で」

「ぶっ!」


 あまりに唐突で予想外過ぎるディオネからの質問に、私は思わず噴き出してしまった。その後、少しむせたようになりながら咳を数回し、私の台詞を待っているディオネのほうを見た。


「どうなの?」

「ど、どうなのって、何がどういう流れになったらそんな質問ができるのよ……いくら何でも、脈絡がなさ過ぎ――」

「そうかな? ボクはちゃんと、ここまでに聞いた会話を踏まえた上でそのことについて疑問に思ったから、こうしてお姉ちゃんに聞いただけなんだよ? 話の脈絡は通ってるはずだし、別段おかしなことを聞いてるわけでもないはず」

「何というか、ディオネにそういうことを言われると、言い返せなくなるのは何でだろう」

「それで、ボクの質問に対する答えは?」

「……………………います」

「あ、やっぱり? ちなみに、誰誰ー?」

「水科……逸弛……君……」

「水科さん……? あー、あのいつも火狭さんと一緒にいる人? あれ? でも、それは……あ、そういえばそうだった」


 一瞬だけ何か引っかかることでもあったのか首を傾げていたディオネだったけど、すぐに自己解決できたらしく、納得した様子になった。一方で、何でこのタイミングで、しかもこんなところで、ディオネに好きな人のことを言わなければならないのか、私はそのことで後悔と恥ずかしさがマックスになっていた。


「いつ頃から水科さんのことが好きになったの?」

「高校に入ってすぐくらい……だと思う」

「水科さんのどの辺に惹かれたの? あと、好きになったきっかけは?」

「優しくて格好いいところで、確か一目惚れ……だと思う」

「ヒュ~」

「もう! 何よこれ! 何かの面接!?」

「い~や~? べ~つ~に~?」

「そのニヤニヤ顔、今すぐやめてほしいんだけど……」


 ちょうどいい機会なので、ここで、私が友だちグループのみんなと知り合った経緯について話しておくとしよう。


 高校生になってすぐの頃、私はすぐに何人もの友だちを作ることができ、それなりに楽しそうな学校生活を送れそうな状態にまでもっていくことができた。高校生としては最高のスタートといえるだろう。


 そんなとき、同じクラスに水科逸弛君という男の子がいるのを発見した。彼はその整った容姿もさることながら、男女問わず人付き合いがよく、それはもう優しくて格好いい男の子だったと思う。当時の私の友だちの中にも彼のことが好きだった子もいたし、気づいた頃には私もそのうちの一人になっていた。


 ある日私は誰から聞いたわけでもなく、水科君が同じクラスの何人かを集めて友だちグループというのを作っていることを知った。私はこれをきっかけにして水科君にお近づきになれればいいと思い、水科君に声をかけてその友だちグループというのに入れてもらおうとした。


 すると、水科君は持ち前の爽やかな笑顔で快く承諾してくれて、私はその友だちグループに入ることに成功し、さらには、冥加君、海鉾ちゃん、金泉ちゃん、地曳ちゃん、天王野ちゃん、木全君という六人の友だちを作ることにも成功した。私は水科君の近くにいられる喜びを感じつつ、彼らと一緒に過ごす学校生活を楽しんだ。


 ただ、そんな中で一つだけ、私を現実に引き戻す存在があった。それが、火狭沙祈さんだった。火狭さんは水科君とは小学校に入る前から幼馴染みらしく、今では恋人同士の関係にあるのだという。いつでもどこでも水科君にべっとりとくっ付いているし、水科君に気があって話しかける女の子がいようものなら罵倒して追い返すという始末だった。私も、火狭さんには何度も嫌なことを言われたことがある。


 これが、私が友だちグループのみんなと知り合った経緯だ。そして、私が水科君にどのような想いを抱いているのか、何で火狭さんとは不仲だったのか。その、事実に基づいた真相ということになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ