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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
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第十三話 『引率』

 夜。夕食も食べ終え、お母さんが再び仕事に向かった後、私は自分の部屋でディオネと遊んでいた。というのも、ディオネが私のPICのIDを使って誤って買ってしまったゲーム(有料)がそれなりに面白かったらしく、私にもさせてくれるのだという。ただ、私は普段からゲームとかはほとんどしないので、ディオネがプレイしている光景をよく分からないまま眺めているだけになっていた。


 一時間くらい、いや、二時間くらい経っただろうか。そろそろ、眺めているだけというのも疲れてきた頃、さすがのディオネもそのゲームに飽きてきたらしい。そんなとき、ディオネはタブレットの電源を切り、私のほうを向いて声をかけてきた。


「飽きた」

「そりゃ、休憩を挟まずに二時間近くもしてたら飽きるでしょ」

「楽しかったことには楽しかったんだけど、ボクの隣でお姉ちゃんが暇そうにしてるってのもあって疲れやすかった。元々、ボクはお姉ちゃんとするつもりで声をかけたわけだし」

「そう言われても、私はあんまりゲームとかはしないからそういうのはよく分かんないし……まあ、ディオネが少しでも楽しめたのなら買った甲斐があったってものじゃない?」

「それもそうだね」


 ゲームをしている最中、ディオネは私がタブレットの画面を見やすいようにするために、宙に浮くのではなく床に座っていた。そして、そう言うとタブレットを近くにあった私の机の上に置き、再びふよふよと少しずつ上昇していった。


 ディオネには学校では基本的に話しかけないと伝えてあるし(実際にはほとんど守られていない)、私が友だちと話しているときや勉強をしているときもそっちに集中させてほしいと言ってある。一方で、ディオネは学校には行っていないし、おそらく私以外に気軽に話せる人もいない。


 街の様子を観察したり、私のPICのIDを借りて色々な情報を調べたり、ゲームをしたり、ディオネはディオネなりに私が構ってあげられないときの時間潰しをしている。だけど、今みたいにゲームをしていても、余程のことがない限りそう長くは続かない。


 まあ、さっきディオネがゲームをしているときに私のほうのPICでそれをいくらくらいで買ったのかを調べてみたところ、思いのほか安かったので、あと数個なら買ってあげられると思う。私は自分の服とかそういうものを買う以外にはほとんどお小遣いを使わないから、ある程度の貯金はある。さすがに、その全部をゲームを買うために使うわけにもいかないけど。


 不意に、ディオネが何かを思い出した様子で私に言ってきた。


「あ、そうだ。お姉ちゃん、今からちょっと外に出てみようよ」

「今から? どこに?」

「んー、ボクが気になったのは、人工樹林ってところかな。ほら、あれだけ大きな敷地に人工樹木が植わってるだけとは、到底思えないでしょ? だから、その探検だよ」

「探検って、人工樹林の周りはともかくあの中にはほとんど明かりが差し込んでこないから、夜に行っても何も見えないかもよ? それに私、暗いところはあんまり得意じゃ――」

「大丈夫大丈夫! 一つ確かめたいことがあって、それを確かめ終わったらすぐに帰るから! それに、もしお姉ちゃんに何かしようとする輩がいたら、このボクがそいつを成敗してくれるわ!」

「何か、キャラ変わってない……? まあ、特にすることもないし、いいかな」

「やったー! じゃあ、早速出発だー」

「おー」


 今はお母さんも仕事に出ていることだし、一時間から二時間くらいで帰ってくれば問題はないだろう。それに、人工樹林に行って何かをするわけではないだろうから、予想以上に早く帰って来れるだろうし。


 それから約十分後、私とディオネは例の人工樹林の前にまで来ていた。やはり、私の思った通り、人工樹林に周りは真っ暗で、誰一人として歩行者はいない。もちろん、車なんて走っていないし、元々この近辺には住宅やお店はないから、その中で目立つ明かりは数本立っているの街灯くらいのものだ。


 そして、それと同時に私は少し驚いていた。私はこれまで、こんな夜遅くに外に出たことはないし、ましてや日常的に人工樹林の近くを通るわけでもない。だからこそ、まさかこれほどまでに夜の人工樹林が真っ暗だとは知らなかった。明かりがほとんど差し込まない夜の人工樹林はそれなりに暗いだろうことは分かっていたけど、それとはまた違う意味での暗さを感じ取ることができた。


 そのまま人工樹林の奥の奥のほうに引きずり込まれてしまうのではないか。あの奥には、何かよくないものがあって、私のことを待ち伏せているのではないか。そんな、ありもしない嫌な想像をしてしまう。いや、それが真実か否かということはこの際関係ないのかもしれない。今の私にはそれを確かめる術はないし、それ以前に、たとえそうだとしてもそれはそれで面白味があるのかもしれない。


 それに、今の私のすぐ隣にはディオネがいる。実戦で頼りになるかどうかは別として、ディオネは私のことを守ってくれるみたいなことを言ってくれたから、私はその言葉だけで充分だった。確かに、暗いのは怖いし、できることなら入りたくない。でも、ディオネのためなら、そして、ディオネがいるなら少しくらいなら構わないと思うこともできた。


「お姉ちゃん。ボクはこれからこの中に入って行くけど、お姉ちゃんはどうする? ここは中よりも明るいほうだし、どうしても暗いのが嫌ならここで待ってくれてもいいけど」

「ううん。私も一緒に行くよ」

「そう?」

「うん。私はディオネについてきたわけだし、ディオネとはぐれたらもっと怖い思いをしそうだから」

「まあ、言われてみればそれもそうかもね。んじゃ、そろそろ行こうか」


 私がディオネのその台詞に頷くと、ディオネは黒一色に染まっている人工樹林の中へと入っていった。私も、そんなディオネに続いてゆっくりと歩き進んでいった。


 人工樹林の中に入ってからというもの、私とディオネの間にほとんど会話はなくなった。私は左腕に取り付けてあるPICを、ディオネは私が渡したタブレットの明かりを頼りにして正面を照らしていることは変わりなかったけど、私とは違ってディオネは何かを探しているようなそぶりを度々見せていた。


 ディオネは以前にもここに来たことがあるのかもしれない。一瞬だけそんな気がしたけど、よく考えてみればそんなことはなかった。ディオネはこの街に来たのは初めてだと言っていたし、ただ気になったからこの人工樹林に来たいと言っていた。確認したいことがあるみたいなことも言っていた気がするけど、おそらくそれは昼間に調べていて気になったことのうちで、何か引っかかったからそうしたかっただけなのだろう。


 一定の法則で並べられている無数の人工樹木の間を抜けながら、時々その節々に設置されている草むらを抜けて行く。右に曲がったかと思えば左に曲がったり、真っ直ぐ進んでいるかと思えば急に立ち止まったり。そんな、不規則な歩みを続ける。


 どれくらい時間が経っただろうか。随分と目がこの暗さに慣れてきたらしく、最初は明かりがないと真っ暗で何も見えなかった場所も、今ではその少し奥まで見えるようになってきた。


 私がそう感じたすぐ後、私とディオネは月の明かりが差し込んでいる広場に突き出た。そこは、別段広いわけではなく、かと言って狭いわけでもない。ただ、人工樹木がなく、草むらがなく、ハイキング先の昼寝場所には最適そうな場所のように思えた。


 その場所に着いたとき、ディオネの様子が少し変わったような気がした。それまでも何度か急に立ち止まったことはあったけど、それとはまた違った印象を受ける。何か革新的な、ようやく探し物が見つかったかのような、そんな目をしていた。


 月の明かりが雲で遮られたり、秋の少し肌寒い風が吹く。そんな中、ディオネは無言でその広場の地面に足を着け、地面の具合を確認していった。私はディオネが何をしているのかが分からず、その手前で見守ることしかできなかったけど、ディオネはディオネなりに何か目的をもって行動していることは明らかだった。


 それから約五分後、一通り広場一帯を調べ尽くしたディオネが私のもとに帰ってきた。ディオネはやけに疲れた様子で、一度だけ溜め息を吐いた。


「ふぅ……」

「探し物は見つかった?」

「探し物? ボクはただ『確認したいことがある』って言っただけだよ? まあ、どちらにしても、それは見つからなかったわけだけど」

「というか、探し物だとしても確認したことだとしても、それって何だったの?」

「いや、それはボクにも分からない」

「……?」

「厳密には、『それ』がここに存在しているかもしれないということは分かっていたけど、『それ』の姿形は知らないし、人工樹林にあるのかすらも分かってはいないんだよ」

「えーっと、少し話についていけてないんだけど」

「まあ、今晩のことについて一言でまとめると、ボクが確認したかった『それ』はここには存在せず、『それ』を設置するのに最適な場所を見つけられたってことだよ」

「ふーん」


 正直なところ、ディオネの説明は私にとって説明にはなっていなかった。『それ』とやらの正体を教えてもらえていないし、何を確認したかったのかすら教えてもらえていない。ディオネがそこまで隠すということは聞かれたくないことだろうからこれ以上聞きはしないけど、何となく気になってしまう。


 私がそのまま考えを巡らせていると、ディオネが宙に浮きながら両手を上げて大きく伸びをし始めた。『んー』という可愛らしい声の後、ディオネは私のほうを向いて少し笑いながら言った。


「んじゃ、そろそろ帰ろっか。ごめんね、お姉ちゃん。こんな時間にこんなところにまでついてきてもらっちゃって」

「ううん。私は大丈夫だよ」

「お礼にお姉ちゃんにアレコレ教えてあげるから……フフフフ……」

「何その不気味な笑顔……私に何をする気なの?」

「大丈夫大丈夫。最初はすこーし痛いかもしれないけど、じきに気持ちよくなるから。今夜は寝かせないぞー、ウフフフフ……」

「……もしかして、夕方の話題ってまだ続いてたの? というか、何でディオネは私のことをそんなに百合にしたいのよ」

「そのほうが楽しいからさー!」

「はいはい」


 ディオネらしいといえばそうなのかもしれないそんな会話をした後、私とディオネは薄暗い人工樹林の中を抜けて行った。そして、そのまま真っ直ぐ家に帰ろうとしたとき、不意に二つの人影が私とディオネの前に現れた。

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