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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第五章 『Chapter:Saturn』
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第四話 『質問』

 教室にいたのは、海鉾矩玖璃(かいほこくくり)ちゃん、金泉霰華(かないずみせんか)ちゃん、地曳赴稀(じびきふき)ちゃん、天王野葵聖ちゃん、冥加對(みょうがつい)君、木全遷杜(きまたせんど)君の六人で、他のクラスメイトをはじめとして、水科逸弛(みずしないっし)君や火狭沙祈(ひさばさき)さんの姿はなかった。


 教室に入るなり早々に、冥加君からよく分からない心配をされ、よく分からない台詞を言われた私は驚きを隠せずにいた。何で冥加君はここまで何かに必死になっているのだろうか。そして、具体的にその正体は分からないけど、何かがおかしい。そう、私と冥加君たち六人の間に何か見えない大きな壁があるような、そんな奇妙な感覚がした。


 私は普段から八時頃には教室に着いている。大抵の場合は、私はクラスメイトの誰よりも早く教室に着き、みんなが登校してくるのを静かに眺めている。だけど、今日はそうではなかった。普段ならもっと遅い時間帯に登校してくる六人は、私が来たときにはもうすでに教室にいた。


「おい、土館! 大丈夫……なんだよな……? どこか具合が悪いとか、変な感覚がするとか、そういうおかしな症状は出ていないよな? それと、記憶のほうは――」

「え、えっと、私なら見ての通りいたって健康だけど……冥加君、どうしたの? いつもなら私が最初に教室に来るのに今日は六人も先に来ているし、何だかみんな険しい表情をしているし。何かあったの?」

「え……土館……まさか、土館も……」

「……?」


 冥加君はまるで信じられないといった様子で心底驚いていた。しかし、私には冥加君が何に対してそこまで驚いているのかが分からず、黙ったまま小首を傾げて眉をひそめるしかなかった。すると、教室の奥のほうにいた五人がぞろぞろと私のほうへと歩いてきた。その後、まず最初に海鉾ちゃんが声を発し、続いて他の五人も口々に声を発していった。


「冥加くん。残念だけど、この様子だと誓許ちゃんも『失敗』したみたいだね。昨日連絡が取れなかった時点で何かがおかしいとは思っていたけど、やっぱり誓許ちゃんも沙祈ちゃんや水科くんみたいな状態にある」

「確かに、海鉾さんの言う通り、そうとしか考えられませんわ。まあ、元々このプロジェクトは失敗する可能性もあると先生は仰っていましたし、こうなることも考慮に入れてその対抗策を練っておくべきだったかもしれませんわ」

「だが、俺たち全員が三人みたいな状態にならなくて済んだというのもまた、不幸中の幸いというものだろう。九人全員がそうなってしまえば、誰も向こうとこちらの区別がつかなくなり、何が真実で何が虚実なのかを見極められなくなる」

「だから私は、最初からこんな理不尽かつ不確定なプロジェクトには反対だったんだ。こんな状況になってしまった後に、今さらこんなことを言っても遅いというのは分かっているけど、だったらなおさら、こんなところで何をしろっていうのよ」

「……ここでなら、ワタシはワタシたちの過去の罪を償えると思っていた。……だけど、そんなのは浅はかな考えだった。……ここは、ワタシが知っている世界じゃない。……こんなところにいても何も成せないし、みんながただ辛くなるだけ」

「みんなもそれぞれ思うところはあると思うが、今が危機的状況だということには変わらない。どうにかして、この状況を打破する方法を考えよう。そうだな……まずは、三人の記憶の転移がなぜ『失敗』したのか、そこから――」

「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 私には、六人が何を言っているのかが分からなかった。そして、私がそんな状況にあるというのに、私の目の前で意味不明な会話を淡々とし始めた六人の意図も分からなかった。そんなとき、気がつくと、私は大声を張り上げてその会話を途中で止めさせていた。


 一瞬だけ、宙に浮かんでいるディオネの姿を確認する。ディオネは私と六人の会話などまるで興味がないといった様子で、私の言いつけを守ってそれまで通り静かにタブレットを弄り続けているだけだった。ディオネの出現が六人の様子の変化に関係あるのなら何か反応を示すと思ったけど、どうやらそうではないらしい。


 私はディオネから冥加君に視線を戻し、みんなに問う。


「みんな、さっきから何を言っているの? 『失敗した』とか『プロジェクト』とかって、何のことなの? みんなが何かに悩んでいるのなら、私でよければ相談に乗るけど、私一人だけ仲間外れにしないでよ! 私、みんなの友だちでしょ?」

「土館……それは――」

「申し訳ありません、土館さん。ですが、もう大方の状況は分かったので大丈夫ですわ。これ以上土館さんにご迷惑をかけるわけにもいきませんし、こちらとしてもこのことはあまり話したくないのですわ」

「『大丈夫』って……そんな言葉を信じろっているの? 私には、みんなが険しい表情をして悩んでいるように見える。それなのに、そんな状態で『迷惑をかけるわけにいかない』なんて言われても信じられないよ」

「あのね、誓許ちゃん。わたしたちは何も、誓許ちゃんのことを仲間外れにしようとしているわけじゃないんだよ。誓許ちゃんの言う通り、悩んでいるのは確かだけど、それと同時に、大丈夫なのも確かなことなんだよ」

「土館。いずれ俺たちの悩みを話すときがやってくるだろう。だから、そのときまで、今日のことは忘れておいてほしい。今はそうしてくれることが、俺たちにとっては一番ありがたい」

「……うぅ」


 三人から立て続けになだめられるように台詞を投げかけられ、私はどう言い返すこともできなくなってしまった。六人が何かを隠しているのは確かなはずなのに、どうしてもそれが何なのかが分からない。そして、六人はどうしてそこまでその『何か』を隠し通そうとしているのか、それについてもまったく見当がつかなかった。


「いいんじゃないのー?」

「……え?」


 不意に、私の左斜め上のほうからディオネの声が聞こえてくる。私は思わず、宙に浮いているディオネのほうを見てみると、ディオネは相変わらず楽しそうにタブレットを弄り続けていた。そのまま私が黙って次のディオネの台詞を待っていると、それに気がついたらしいディオネがさもどうでもいいことかのように言った。


「ボクが横から口を挟むのもおかしな話だけど、その人たちが『聞いてほしくない』って言ってるなら、それ以上聞かないほうがいいんじゃないの? ボクもそうだけど、お姉ちゃんにだって他人に教えたくないことの一つや二つはあるでしょ? それと同じだよ」

「……それはそう、だけど……」

「まあ、最終的にどう決断するかはお姉ちゃん次第だよ。ただ、ボクが思うに、ここでお姉ちゃんがどんな行動をとってもその人たちは自分たちが隠していることをお姉ちゃんには教えないと思う。それもそうだよね。友だちのお姉ちゃんにどうしても隠していたいことなんだから、そう簡単に教えられるわけがない」

「……そう、よね……」


 確かに、ディオネの言う通り、ここで私がどんなことを言っても六人は隠していることを教えてはくれないだろう。今までだって、私たちはそれぞれ友だちに隠し事をしてきたわけだし、今回のこともそのうちの一つなのだと考えれば、それほど大きな問題ではないと思う。


 だけど、だからといって、それでいいというのだろうか。六人が何かに悩んでいてそれを解決できないのであれば、友だちである私が少しでも力になるべきではないだろうか。


 いや、そういえば、さっき木全君は言っていた。『今日のことを忘れてくれるほうがありがたい』と。つまり、私が六人の友だちだとしても、当然のことながら、踏み入っていい領域と踏み入ってはいけない領域がある。だから、今回のことはそのうちの踏み入ってはいけない領域のほうなのだ。それに、『いずれ話す』とも言ってくれている以上、六人はそのことを一生隠すつもりではないということが分かる。


 ここはやはり、ディオネの言う通りにしておいたほうがいいのかもしれない。六人が隠していることを私に話してくれるそのときが来るまで、私はただ純粋にそのことを忘れていればいい。そうすれば、これ以上六人に悩み事を増やさせる必要はなくなるし、私がこんなに心配する必要もなくなる。


「つ、土館……?」

「ごめんね、みんな。それが、みんながどうしても隠していたいことなら、無理に言う必要はないよ」

「ほ、本当か!?」

「うん。ただし、どうしても解決できないと思ったら、すぐに私に相談すること。力になれるかどうかは分からないけど、悩み事を聞くくらいならできるから。あと、みんなが私にそのことを話せるくらいに落ち着いたらでいいから、そのときが来たら私に話してね」

「ああ、もちろんだ! 約束する!」

「よかったね、元気になったみたいで」

「え? ああ、そうだな……はは」


 やっと明るい表情を取り戻してくれた冥加君に対して、私はくすっと微笑みかけた。すると、冥加君や他の五人も少しだけ表情を緩めて、私が六人の隠し事についてそれ以上言及する意思がなくなったことについて安心しているように見えた。とりあえず、今回のことはもう忘れよう。いつか六人が私にそのことを話してくれるときがくるまで。


 それからというもの、私たちはそれぞれ自分の席に戻り、各々適当に時間を潰した。しばらくすると、クラスメイトが少しずつ教室に来始めて、その中には逸弛君や火狭さんの姿もあった。


 そういえば、あの六人の中で何かを隠しているということは、逸弛君や火狭さんもさっきの私みたいなことになったのだろうか。まあ、さっきのことはもう忘れることにしたわけだし、これ以上考えても何か答えが出るわけではない。そう考えて、私はそれ以上は何も詮索しないことにしたのだった。


 一方その頃ディオネはというと、私の言いつけを守って宙に浮きながら静かにタブレットを弄り続けていた。あのお喋りなディオネがまさかここまで静かにできるとは軽く予想外だったけど、つまりそれほどまでにタブレットに興味津々だったということなのかもしれない。


 そして、チャイムが鳴り、一時間目が始まる。

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