表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第四章 『Chapter:Venus』
120/210

第三十話 『回帰』

「う、嘘……天王野さん……! 天王野さん!」

「あはははははははは!! 私に逆らうからこうなるんだよ! 最初から素直に金泉ちゃんと木全君を殺しておけば、こんな早くに死なずに済んだかもしれないのにね!」


 天王野さんの頭部を土館さんが発砲した弾丸が貫通した。その後、力なく人工樹林の地面に倒れこんだ天王野さんのもとに、私はすぐに駆け寄った。土館さんと『ディオネ』という少女は、そんな私と天王野さんのことをケラケラとあざ笑うかのように楽しそうに笑っている。


 私は天王野さんのもとへと駆け寄ると、すぐに天王野さんの体を起こした。天王野さんの額には赤黒い穴が空いており、そこからはドボドボと絶え間なく血が溢れ出ている。それに加えて、天王野さんの瞳には光沢がなく、眼球は白目を向くかのように上のほうを向いてしまっていた。


 天王野さんの口元に手をかざしてみると、もうすでに息をしていないことが分かる。また、天王野さんの胸に耳を当ててみると、もうすでに心臓は動いていないことが分かる。私の体は天王野さんの額から絶え間なく溢れ出てくる血で少しずつ赤色に染まっていく。そんな中、私は目の前で起きた信じがたい事実を受け入れざるをえなくなった。


 天王野さんは死んだ。


 私は遷杜様と協力して、天王野さんを説得した後、少しずつでも構わないから更正させようとしていた。それなのに、土館さんはそんな私の希望を一瞬にして木っ端微塵に打ち砕いた。状況を一つ一つ分析していくごとに、私は自分の心に何か新しい感情が芽生えていくのがよく分かった。


 しかし、ここで私がその感情に全てを委ねて、土館さんにOverclocking Boosterを向けたところで、私は『ディオネ』という少女に射殺されることだろう。それでは駄目だ。復讐なんて意味がないのは分かっているけど、こんな状態になってまで天王野さんが私を助けようとしてくれた思いを無駄にしないためにも、これ以上の犠牲を増やさないためにも、私は生きて土館さんと『ディオネ』という少女を殺さなければならない。


 だけど、いったいどうすればいい。どうすれば、こちらの被害を最小限に抑えてあの二人を殺すことができる……? あ……一つだけ、方法があった。


 でも、それには多少の危険が伴う上に、私一人だけの力では無理だ。だから、私は土館さんと『ディオネ』という少女の注意を引いて、できる限り早く、少しでも長く、その機会を作るしかない……!


 私は今すぐにでも暴れ出してしまいそうな感情を落ち着かせた後、天王野さんの死体をそっと人工樹林の地面の上に置き、土館さんのほうを見た。土館さんとそのすぐ傍の空間にふわふわと浮かんでいる『ディオネ』という少女はニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべている。


「土館さん……何てことを……」

「あはっ! ねぇ、金泉ちゃん。天王野ちゃんはね、私たちの奴隷になる前にも大勢の人たちを殺しているんだよ? 三人の友だちに加えて、自分の家族とか、両親の会社の従業員の人たちとか、他にも何人も何人も何人も何人も殺してきたんだよ。金泉ちゃんが殺人を害悪とするなら、私は金泉ちゃんの代わりに正義の味方として天王野ちゃんを殺してあげたってことになるよね? 私は一昨日の生徒虐殺事件で数人殺した程度だけど、天王野ちゃんはその何倍も殺している。それなのに、どうして金泉ちゃんは天王野ちゃんの死を悲しんで、私のことをそんな目で見るの? まったく、理解に苦しむよ」

「ほんと、ほんと。ていうか、この世界はボクとお姉ちゃんが創造し直すんだから、替えの利く歯車の一つでしかない金泉さんには拒否権なんてないだよね。ましてや、ボクたちの奴隷の天王野さんがお姉ちゃんの左手を噛んで怪我をさせるだなんて、論外だよね」

「天王野さんが何人もの人たちを殺してきたのは全て、あなたたちが天王野さんの心の隙間に入り込んで、彼女の行動をコントロールしていたからじゃないですか! それに、私は自分の願いを叶えようとしたり、自分にとって理想的な世界を作り出そうとする行為自体には文句は言いませんわ。ですが、そんなことのために私を……私たちを巻き込まないで下さい!」

「あはははははははは! 残念だけど、それは無理な話だね。これまでに死んでいったみんなはもちろんのこと、金泉ちゃんを含めたこの世界でまだ生きている人たちはみーんな私たちのオモチャなの。オモチャはね、その持ち主が思い描くキャラクターに設定されて、黙って遊ばれていればいいんだよ。だから、そろそろ死んでくれる? 私、もう今の金泉ちゃんには飽きちゃった」

「ねー、ねー、お姉ちゃん。この人、どうやって殺す? ほら、さっきの天王野さんみたいに銃で一発で殺しちゃうと面白くないでしょ? もっとこう、絶望を味わいながら死んでもらおうよ!」

「それもそうね。何がいいかしら――」


 そのとき、一瞬だけ土館さんと『ディオネ』という少女の視線が私から外れた。チャンスはおそらくこの瞬間しかない。そう確信した私は、何の前触れもなく唐突に大声で叫んだ。


「今ですわ!! 遷杜様!!」

「……っ!? お姉ちゃん、危な――」

「え――」


 私が叫んだのとほぼ同時のタイミングで、人工樹林の地面の上で倒れていた遷杜様がOverclocking Boosterの引き金を引いた。また、私と遷杜様の行動に一番早く気がついたらしい『ディオネ』という少女が、土館さんを庇うかのように両手で突き飛ばした。


 私は『ディオネ』という少女に行動を制限されていたけど、遷杜様はおそらくノーマークだった。でも、私たちが生きて土館さんと『ディオネ』という少女を殺すには、二人の気が逸れるのを待つ必要があった。そのときこそ、今訪れたこのタイミングに他ならない。


 直後、Overclocking Boosterに照準を合わされた『ディオネ』という少女の体が内部から爆破し、その周りにいた私たち三人の顔や体に真っ赤な鮮血を撒き散らせた。私と遷杜様は『ディオネ』という少女が跡形もなく死んでいったのを確認し、一方で土館さんは人工樹林の地面に尻餅をついて、肉片と化した『ディオネ』という少女の姿を呆然と眺めていた。


「あ……あれ……? ディオネ……? どこ……? どこに行ったの……? お姉ちゃんはここだよ……? だから、返事を――」


 あまりにも突然のことだったからなのか、土館さんは『ディオネ』という少女が殺されたという事実を認識できていないようだった。今なら、このまま土館さんも一緒に殺してしまえる。そうすれば、ようやく全てが、何もかもが終わる。


 私はそう信じて、自分のOverclocking Boosterを取り出し、土館さんに照準を合わせようとした。


「きゃあっ!」

「よくも……よくもよくもよくもよくもよくもよくもよくもよくも……! 私の……たった一人の……可愛い妹をおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 ふと気がつくと、つい先ほどまで人工樹林の地面に尻餅をついていたはずの土館さんはその場に立ち上がっており、その右手に握り締められている銃口は私のほうを向いていた。そして、その銃口から放たれたと思われる弾丸は私が持っていたOverclocking Boosterに命中し、思わず私はそれから手を離してしまった。その後、そのままOverclocking Boosterは私から少し離れた地面に滑っていってしまった。


 このままでは殺されてしまう。私はそう直感した。しかし、土館さんは私がOverclocking Boosterを失ってどうすることもできなくなっているのを確認すると、今度は人工樹林の地面の上に倒れている遷杜様のほうを向き、右手に握り締めている旧式の拳銃の引き金を何度も何度も引いた。


「死ね……死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねええええええええ!!!! お前なんか……あの子を殺したお前なんか……死ねええええええええ!!!!」

「ぐあっ……ああああ! ああああああああ!!」

「遷杜様ああああああああ!!」


 土館さんは右手に握り締めていた旧式の拳銃の弾丸がなくなると、ポケットから新たな拳銃を取り出し、続けて遷杜様の胴体に弾丸を撃ち込んでいった。そして、私が何もできずにいるまま、土館さんは遷杜様の胴体に何十発もの弾丸を撃ち込んだ。ふと見てみると、動かなくなった遷杜様の胴体には大量の穴が空いており、それらの穴から尋常ではない量の血が溢れ出しているのが分かった。


 私はそんな遷杜様の様子を見て我に返り、人工樹林の地面に落ちているOverclocking Boosterを拾おうとするした。しかし、またしても土館さんにOverclocking Boosterを発砲されてそれを阻止される。顔を上げてみると、私の額には一丁の拳銃の銃口が向けられており、土館さんは憎々しそうに私のことを睨みつけていた。


「あの子が死んだら、私の願いが叶わないじゃない……どうしてくれるの……? そうなれば、あの子はもちろんのこと、みんな、誰一人として生き返らないんだよ……? それを分かって、あの子を殺したの……?」

「つ……土館……さん」

「早く答えろよ! 私は、お前に聞いているんだよおおおおおおおお!!!!」

「……っ」


 土館さんの大声に気圧された私は思わず顔を俯けて目を瞑ってしまった。直後、土館さんが握り締めていた拳銃から発射された弾丸が私の額を貫通……することはなかった。


「な……何で……あんたがまだ生きて――」

「……え……?」


 土館さんのそんな苦しそうな台詞を聞くと同時に、私はゆっくりと目蓋を開けた。すると、そこには背中に一本のナイフが突き刺った状態で、人工樹林の地面に力なく倒れている土館さんの姿があった。背中からとはいえ、心臓を一突きされているといったところだろうか。その傷口からはゴボゴボと絶え間なく血があふれ出していた。その後、しばらく様子を伺ってみても土館さんは微動だにせず、呻き声一つ上げなかった。


 何がどうなったのか、私にはまるで検討がつかなかった。ただ、どうやら私は助かったのだということだけはよく分かった。私は自分の目から涙が零れ落ちていくのを実感すると同時に、そのまま人工樹林の地面にへたり込んだ。


 すると、不意に一人の少女の声が聞こえた。私はどこかで聞き覚えのあるその声を聞くと、ゆっくりと俯けていた顔を上げた。


「危なかったね、霰華ちゃん。ぎりぎりだったけど、まだまともなほうを助けられてよかったよ」

「……え……!? ……か、海鉾さん……!?」


 そこには、先週の木曜日に天王野さんによって冥加さんと一緒に殺されたはずの海鉾さんの姿があった。しかし、何やら様子がおかしい。よく見てみると、海鉾さんの左手は血で真っ赤に染まっていることが分かった。いや、私が感じた違和感はそんなことではない。


「海鉾さん……右腕が……」

「ん? ああ、これ? これはね、どうしても生き残るには必要なことだったから、仕方なかったんだよ。まあ、そのときは死にたくなるほど痛かったし、今でもまだ痛むけどね」


 私の目の前に立っている海鉾さんには、『右腕がなかった』。まさに言葉通り、本来ならばそこにあってもおかしくない右腕が海鉾さんには付いていなかった。代わりに、海鉾さんの右肩から左脇腹にかけて赤く染まっている包帯がぐるぐる巻きにされており、その姿ははたから見ても非常に痛々しいものだった。


 しかし、海鉾さんはそんなことなどどうでもいいことのように、私に言う。


「それはそうと、最後に話をしに行かなくていいの?」

「え?」

「木全くんのこと。彼、あと数分もすれば死ぬと思うけど?」

「……!」


 海鉾さんのその台詞で私はハッと息を呑んだ。ふと海鉾さんから視線をずらしてみると、そこには血まみれになって動かなくなっている遷杜様の姿があった。私は遷杜様の名前を呼びながら、急いで駆け寄った。


「遷杜様! 遷杜様!」

「……金……泉……」

「少しでも喋ると、余計に体力を使ってしまいます! ただでさえ雨が降っていて傷口が酷くなりやすいというのに、これ以上傷口が広くなると、命に関わりますわ!」

「霰華ちゃん。残念だけど、木全くんはもう助からないよ。見ての通り、木全くんの体はさっき誓許ちゃんに何度も発砲されたせいでボロボロになってる。今意識を保っているのも、軽く奇跡と言えるほどにね」

「そんな……」


 遷杜様が死ぬ? そんなこと、あるはずがない。でも、もし、海鉾さんの言った通り、遷杜様があと数分で死んでしまうとしたら? だったら、私がするべきことは――、


「……無事か……金泉……」

「はい……ですが、遷杜様がこんな姿に……私、もうどうすればいいのか……」

「……いいんだ。俺は……俺が探し続けていたあのときの女の子を……大切な人をやっと守れたのだから……」

「それって――」

「……さっき……薄れ行く意識の中、ようやく思い出したよ。俺がまだ小学生の頃、家族や同級生から避けられていた頃……俺たちはもう出会っていたんだ……。俺が声をかけた女の子はこの世界に絶望して自殺しようとしていた……その後、俺はその女の子を慰め、俺たちは仲良くなった……俺は唯一俺と仲良くしてくれていたその女の子に救われ、その女の子のことが好きだった……」

「遷杜……様……!」

「……その女の子こそが……お前、金泉霰華だ……生きてくれていて、本当によかった……」

「遷杜様! 私もずっと遷杜様のことをお慕いしていました! この気持ちは、あのとき遷杜様が自殺しようとしていた私のことを止めてくれて、慰めてくれたからこそ芽生えたものですわ! この気持ちは今までもこれからも変わりません!」

「……よかった……俺は、やっと大切な人を守ることができたんだな……今まで悪かった……金泉が俺に気があることは随分と前から分かっていたのに、気がついていないふりをして……」

「いえ……もうそんなことはいいですわ! 今は遷杜様とこうしてお互いの気持ちを話し合えただけで……え……遷杜様……?」

「……悪い……もう、俺は、無理、みたいだ……こんな俺のことを好きになってくれてありがとう……もっと早く、このことに気がついていれば、お前を幸せにできたかもしれな――」


 そう言って、遷杜様の体からふっと力が抜け、遷杜様の目蓋がゆっくりと閉じられた。私は目の前で何が起きたのかを理解できていないまま体を小刻みに震わせ、数秒間だけ呆然としていた。そして、ついに遷杜様が息絶えたのだということを理解すると、その場で叫ばずにはいられなくなった。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 それから数分間、私は自分の咽喉が枯れていることになどまるで構うことなく、ただひたすらに叫び続けた。やっと長年抱え続けていた想いを遷杜様に伝えることができたのに、やっとお互いが相手に言えなかったことを言えたのに、遷杜様は死んでしまった。


 私はもう、どうすることもできないまま、もどかしささえ感じるような悲しみに溺れた。全身の震えは止まらなくなり、今にも胃の中のものが逆流してきそうな強烈な吐き気に見舞われた。どこか別の世界に逃げ込んでしまいたくなるような、心が現実逃避を欲する中では、意識を保っていることすら容易ではない。


 悲しみに暮れ果て、今がいつだったのか、自分が誰だったのかすら分からなくなる。自分の体が血で真っ赤に染まっていくことすら気にすることなく、私は遷杜様の死体を抱き締めた。


 しかし、不意に、そんな私のことを慰めもせずに、何気なく声をかけてきた人物がいた。


「霰華ちゃん。木全くんが死んで悲しいのは分かるけど、もう時間がないんだよ。そのままの体勢でいいから、話を聞いてくれる?」

「何で……何で、海鉾さんまで生きているんですか……海鉾さんは先週の木曜日に天王野さんによって冥加さんと一緒に殺されたはずですよね……」

「確かに、わたしはその日に葵聖ちゃんに殺されかけた。というよりはむしろ、葵聖ちゃんに殺されないように、彼女の目の前で自殺したように見せかけた。そのためにわたしは自分で自分の右腕を切り落とし、葵聖ちゃんは大量出血でわたしが死んだものだと思い込んだ。だから、わたしの右腕がなくなっているのは、わたしがここにいるために必要不可欠なことなんだよ」

「どうして、今まで姿を現さなかったのですか……わざわざ自分の右腕を切り落としてまで生き残ろうとしたということは、何か大事な目的があったからなんですよね……だったら、どうして……」

「霰華ちゃんがどう思っているか知らないけど、こう見てもわたしはただの女子高校生だからね。さすがに自分で自分の右腕を切り落とすことに慣れているわけじゃないし、医学的に特殊な知識があるわけでもない。もちろん、こんな怪我を病院に見せれば大事になるのは間違いなかったから、病院に行くこともできなかった。その結果、どうしても傷口を塞ぐのに時間がかかったしまった。現に、今でもまだ傷口は塞がっていないし、あまりの痛さでここまで来るのにも相当の時間がかかってしまった。本当はみんなを助けるために何かをするべきだというのは分かっていたけど、さすがにこんな状態ではろくなことはできなかったよ」

「それで、遷杜様にメールを送ったりしたというわけですか……」

「あ、木全くんから聞いたの? わたしは自分の身を隠すことと、この怪我を治すことに精一杯だったから、せめて木全くんに何かしてもらおうと考えたんだよ。あの土曜日は、誓許ちゃんたちが葵聖ちゃんに殺されるか、葵聖ちゃんが誓許ちゃんたちの奴隷にされるか、そのどちらかにしか傾かないからね。前例だけみれば、前者が約六割で後者が約四割ってところかな。それに、わたしだってこの怪我をする前は、何もしていなかったわけじゃないんだよ? 火曜日の晩に木全くんに助けてもらえるように相談したり、水曜日の放課後に沙祈ちゃんと誓許ちゃんに喧嘩をさせないために、冥加くんに水科くんの提案を断ってもらったり」

「ああ……それで、あの頃はみなさんの言動が妙におかしかったというわけですか……」


 今さらだけど……今さらだからこそ、何だか変に納得できてしまった。そうか、それで土館さん以外のみなさんの言動に多少の違和感を感じていたのか。だから、土館さんが『ディオネ』という少女のせいで狂っていたことに気がつけなかったのか。


 理解はできているけど、納得もできているけど、私の中は空っぽになってしまっていた。それほどまでに、私にとって遷杜様の存在は大きなものであり、かけがえのないものだったのだ。


「さて、霰華ちゃん。ここれ一つ提案なんだけど、いいかな?」

「何ですか……」

「もし、次にわたしが『木全くんともう一度会える』って言ったら、どうする?」

「……っ! そ、それはもちろん、会いたいに決まっていますわ……ですが、そんなことが実際に起こるわけ――」

「それがね、不思議なことに実際に起こりうるんだよ。だから、これからわたしは霰華ちゃんに突拍子もないことを言う。そして、その後、金泉ちゃんには、わたしの代わりにみんなを助けてもらうために――」


 そうして海鉾さんは、私に安心して新たなスタートを切らせるために、満面の笑みをしながら言った。


「こことは別の、新しい世界に行ってもらうね」


 この世界では、私はみなさんのことを救えなかった。天王野さん、海鉾さん、地曳さん、火狭さん、土館さん、冥加さん、水科さん、仮暮先生、他にも大勢の人たち、そして遷杜様。その全員を救うために、二度とこんな惨劇を繰り返させないために、宇宙的な大改変の後に誕生する新たな世界で、行動を起こす。


 遷杜様、そしてみなさん。今助けに行きますから、あと少しだけ、待っていて下さい。


第四章 『Chapter:Venus』 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ