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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第四章 『Chapter:Venus』
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第二十九話 『黒幕』

 土館さんは一昨日の月曜日に、天王野さんが起こした生徒虐殺事件の爆発に巻き込まれて跡形もなく殺されたはず。それなのに、どうして土館さんはまだ生きているのか、私にはまったく見当もつかなかった。これまでに起きたことで何か見落としがあったから、こんな予期せぬ事態が起きているのは分かっている。でも、それが何なのかが分からない。


 土館さんは未だに驚きを隠せないでいる私や、足を撃たれて人工樹林の地面の上で悶え苦しんでいる遷杜様のことなどまったく気に留めることなく、ガタガタと怯えながら震えている天王野さんのほうへと歩いていく。天王野さんはこの世の終わりを目の当たりにしたかのような、光を失った瞳で土館さんのことを呆然と見ており、対する土館さんはそんな天王野さんの様子を見るとニヤッと笑った。


 土館さんは膝を折って屈み、怯えて震え続けている天王野さんと目線の高さを合わせる。そして、少しの間を空けた後、尋問をするかのように話しかけた。


「さーて、天王野ちゃん。今朝、私が天王野ちゃんに何を言ったか覚えている?」

「……カ、カナイズミとキマタを殺せって――」

「残念、不正解。正確には、二人の手足を生きたままもいで、痛めつけながら殺してって言ったんだよ。それなのに、この有様は何? 二人の手足をもいだり痛めつけるどころか、天王野ちゃん自身が殺される寸前まで来てるよね? それに、私が木全君に銃を向けたときに、二人に『危ない』って言ってたような気がするんだけど? これはどういうことなのか、もちろん説明できるよね?」

「……う、うぅ……」

「ちょ、ちょっと待って下さい! いったい、何がどうなっているんですか!? どうして、殺されたはずの土館さんが生きているのですか!? それに、どうして天王野さんはそんな土館さんに怯えていて、土館さんは遷杜様の足を狙って撃ったのですか!?」

「あのね、金泉ちゃん。そんなに次々と質問されても答えようがないでしょ? 時間はたっぷりあるんだから、ゆっくりとお話しようよ。それに……そもそもそこから間違っているんだよね」

「え……?」


 私は自分の理解が状況に追いついていないのがよく分かっていた。だからこそ、正体不明かつ目的不明な土館さんにそのことを聞く必要があった。しかし、土館さんは『そもそもそこから間違っている』と言い切った。それはどういう意味を指すのか。私は黙って土館さんの次の台詞を待つしかなかった。


「まず、見て分かると思うけど、私は誰にも殺されてなんかいない。おばけとかゾンビなんかじゃないし、PICで映し出されているホログラムとかでもない。息をしていて、心臓も動いている、正真正銘の生身の人間だよ」

「で、ですが、先ほどから言っているように、土館さんは月曜日に天王野さんが起こした生徒虐殺事件の爆発に巻き込まれて殺されたはずじゃ――」

「それはね、金泉ちゃんのただの勘違い。だって、あのとき私は打ち合わせ通りのタイミングで教室から廊下に出て、そこにいた天王野ちゃんと合流したんだもん。ほら、事件現場に私の死体そのものはなかったでしょ? あれだけでも充分過ぎるくらいのヒントだったと思っていたんだけど、どうやら金泉ちゃんは気がつけなかったみたいだね。あ、そういえば、事件当時、最初のほうの爆発は私が天王野ちゃんに指示してさせたものだけど、後半は私が爆弾を投げて楽しんでいただけだから。いやー、目の前で人間がバラバラになっていくのって、とっても楽しいよね!」

「な、何で土館さんはそんな、天王野さんと手を組んでいたみたいなことを……? それに、何で人を殺すことに楽しさを覚えているのですか……?」

「もー、相変わらず金泉ちゃんは物分りが悪いなー。普段から知恵の輪ばっかりしているから、変な方向に頭が固くなったんじゃないの? 面倒だから、最初から全部説明してあげるよ。金泉ちゃんだけ、期間限定特別大大大大サービスだからね? 本当は三人とも普通に内臓を引きずり出して殺すつもりだったけど、金泉ちゃんだけは細胞一つ一つを毟り取って殺してあげるから」

「……っ」


 今私の目の前に立っている人物は、私がよく知っている土館さんなどではない。ただただ自らの快楽のために狂気的な殺人を繰り返す、一人のサイコパスの殺人鬼だ。手足をもぐとか、内臓を引きずり出すとか、それらは正常な精神状態にある人ならまず口にしないような言葉だ。それなのに、土館さんは何のためらいもなく、不気味な笑みを浮かべながら淡々と言ってみせる。


 『狂っている』。私は土館さんの様子を伺いながら、彼女のことを率直にそう思った。しかし、その言葉だけでは今の土館さんの異常さを的確に表現するにはどこか言葉足らずな感じも否めなかった。


 土館さんは私の顔が真っ青に青ざめているのを確認すると、一瞬だけニヤッと笑い、私が知りえない一連の事件の真相を話し始めた。そのときの土館さんは妙に楽しそうであり、それはまるで、難事件を作り出した犯人が大衆に種明かしをするときのようにすら見えた。


「さぁーって! それじゃあ、待ちに待った、種明かしターイム! いやー、まさかここまでうまくいくとは思ってもいなかったし、せっかくだから一度くらいはしてみたかったんだよねー!」

「……土館……さん……」

「金泉ちゃんは随分と前から気がついていたみたいだけど、私はいつからみんなのことを殺そうと計画していたのか。それはね、先週の火曜日の晩に、私の前にあの子が現れたからなんだよ。みんなを殺せば私の願い事を叶えてくれる、そう誓ってくれたあの子がいたから、私はこうしてみんなを殺すことにしたんだ」

「あの子……? 願い事を叶える……?」

「まあ、こんなことを突然言われても困るよね。金泉ちゃんの立場になってみれば、分からなくもないよ。でも、これは紛れもない事実。私はみんなを、この街の人たちを、この世界の人たちを全員殺す。そして、私の好きなように性格とか人間関係とかを改変させて生き返らせる。こうすれば、私にとって思い通りの世界を作り出すことができるでしょ? そうなれば、きっと水科君も――」

「ひ、人を生き返らせるですって!? そ、そんなこと、できるわけがありませんわ! 現代医学において、ありとあらゆる病気や怪我は時間さえかければほぼ確実に完治できるし、数年間なら延命措置を行うことも許されていますが、人体蘇生だけはまだその技術を確立されていないはずですわ! それなのに、そんなできもしないことをできると思い込んで、大勢の人たちを殺してきたというのですか!? あなたは何を考えているんですか!?」

「……? 金泉ちゃん、それは私の台詞だよ。人を生き返らせるくらい、全然不可能なことなんかじゃないよ?」

「な、何を言って――」

「だって、私は実際に試したんだもん。あの子に『死んだ人を生き返らせることはできる?』って聞いて、『たぶんできる』って返事をもらった後、私はお母さんを殺した。でも次の日、お母さんは私がよく知るお母さんとして普通に生きていた。その日も私はお母さんを殺したけど、やっぱり次の日にはお母さんは生き返っていた。そのときから、私はあの子が言ったことを信じて、私たちにとって思い通りの世界を作り出そうって決めたんだ」

「そ、そんなことが本当にあるわけが……そもそも、土館さんが言う『あの子』という人物が人体蘇生なんて技術を持っていたとして、あらゆる願い事を叶える能力を持っていたとして、どうして大勢の人たちを殺す必要があったのですか!? そんなことができるのなら、わざわざ殺さなくても自分たちの思い通りの世界とやらを創造できたはずなのに!」

「だーかーらー、頭の固い金泉ちゃんにはこれ以上何を話しても無駄かもしれないけど、物事には順序と制約ってものがあるんだよ。あの子は『自分のため』ではなく『他人のため』でないと願い事を叶えられないらしいし、死人でないとその人間性を変えることもできないみたいなんだよ。それに、どうやら回数制限とか範囲制限とか色々あるみたいでね。そういうことをまとめて考えた結果、こうするしかなかったってわけだね」

「ど、どうして、そこまで……」

「『どうして』? 金泉ちゃんも一度くらいは『世界征服』なんて大それたことをしたいと思ったことはない? 好きな男の子に自分のことを見てほしいとか、出会ったばかりの頃のように友だちグループみんなで仲良く遊びたいとか、良好な家族関係を取り戻したいとか、そういうことを思ったことはない? 私はずっと前からそんなことができたらいいなって思っていた。そして、そんなときにあの子が現れた。だから、私はあの子の言うように殺人を繰り返して、いずれは願い事を叶えてもらうつもりだよ」

「……っ」

「ねー、そろそろ姿を現してもいいんじゃないの? んー? 大丈夫大丈夫、ここにいる三人は私たちに手出しはできないからー。あ、オーケー? りょーかーい。ねぇねぇ、金泉ちゃん。金泉ちゃんにとっても嬉しいお知らせだよ」

「な、何でしょうか……?」

「あの子が、みんなの前に姿を見せてもいいって言っているんだよ!」


 土館さんがそう言った直後、私は思わず自分の目を疑った。つい先ほどまで、辺り一面は大雨が降り続き、人工樹木や草むらに囲まれているだけのはずだった。それなのに、そんな空間に見覚えのない一人の少女が出現した。どう偽ることもできない、まさに言葉通り『出現』した。その少女は大雨が降り続く空間に、腕を組みながらふわふわと浮かんでいる。


 よく見てみると、その少女は土館さんとよく似た外見をしていることが分かる。身長は土館さんよりもだいぶ低く百四十センチくらいしかないように見えるけど、幼いながらもその顔立ちや、髪の色は土館さんそっくりのものだった。しかも、あえて土館さんに似せているのかは分からないけど、ツインテール状に結わえている髪や、私たちが通う学校の制服を着ていることも、私にそう思わせた大きな要因となった。


 土館さんは再び驚きを隠せないでいる私のことをニヤニヤと楽しそうに見ながら、その反応を楽しんでいる。そして、空間に浮かんでいるその少女の姿が完全に現れた後、土館さんが声を発する。


「紹介するよ。この子は私の妹の『ディオネ』。本名はないらしいから、『ディオネ』っていうのはもちろん偽名だけどね」

「おっ久し振りでーす! あ、でもでも、ここではボクとみなさんは初対面でしたっけー? まあ、何でもいいですよね! できることなら皆さんには姿を見せたくなかったんですけど、お姉ちゃんが大丈夫って言ってくれましたし、こうして姿を見せたってわけですねー!」

「だ、誰……? いや、そんなことよりも、土館さんの妹ですって? 土館さん、あなたは確かお母様と二人暮らしの一人っ子だったはずじゃ――」

「うん、まあそうなんだけど、この子が私のことを『お姉ちゃん』って呼ぶから、『私の妹的な存在』って意味でそう紹介しただけだよ。それに、私自身この子がどこから何の目的で来たのかは知らないし。でもほら、『お姉ちゃん』って呼ばれるとどうしても親近感が沸いちゃうでしょ?」

「で、ですが、そんな身元不明の人の言葉を簡単に信じるだなんて、正気の沙汰とは思えませんわ……!」

「ねー、ねー、お姉ちゃん。ボクについての話はもういいでしょ? そろそろ種明かしを再開しようよー。そっちのほうが断然楽しいし、この人たちが苦しむ姿も見られて面白いよー」

「それもそうね」


 土館さんと土館さんの妹的な存在らしい『ディオネ』という少女は私の台詞を無視して、勝手に話を進めようとする。しかし、私はそんな二人のことを止めることができず、二人の口から発せられるであろう一連の事件の真相を知りたいという欲求に駆られていた。


 そのとき、私はすっかり忘れかけていた。私のすぐ傍には両足に重症を負っている遷杜様が人工樹林の地面の上に倒れており、天王野さんは土館さんと『ディオネ』という少女の姿を見て怯えながら震えていたということを。


 すると、明らかに天王野さんが嫌がっているのにも関わらず、土館さんは指で天王野さんの顎をなぞったり、乱暴に髪を触ったりし始めた。一方で、『ディオネ』という少女は今だに空中に浮いたまま(どうやって浮いているんだろう)、ポケットから旧式の拳銃を取り出して、それを土館さんに渡した。


「さて、随分と前置きが長くなっちゃったね。改めて、種明かしタイムを再開するとしようかな。いいよね? 金泉ちゃん」

「え、ええ……」

「やったー! 待ってましたー!」

「まず先に断っておくけど、私は地曳ちゃんと海鉾ちゃんと冥加君の死には関係していないから。海鉾ちゃんと冥加君は天王野ちゃんが殺したって知っているけど、地曳ちゃんだけは何で死んだか分からないんだよね」

「まあ、不運な事故にでもあったんじゃないの? あの人、いつでもどこでも変なテンションだし」

「つまり、土館さんたちはその時点までは何もしていないと……?」

「金泉ちゃん、人の話は最後まで聞くべきだよ? 私はね、その時点まではお母さん以外は誰も殺していないけど、だからといって何もしていないわけではないんだよ。私はこの子の『願い事を叶えられる能力』が真実かどうかを確認した後、すぐに私たちの目的を行動に移した。私がまず最初にしたのは、天王野ちゃんの行動をコントロールするということ。これは主にこの子が頑張ってくれたんだけど。この子がこちらの正体を隠した上で天王野ちゃんとコンタクトを取り、上手にそそのかして何度も殺人を繰り返させたってわけだね」

「何で、そんなことを……?」

「私にだって、誰かを殺すことに抵抗を覚えていた時期もあったんだよ。そして、この子に天王野ちゃんの行動をコントロールしてもらっていたとき、丁度私はそんな時期にあった。だから、私の代わりに天王野ちゃんに殺人を犯してもらって、私は他のことをしていたんだよ。あ、この『他のこと』っていうのはわざわざ説明するまでもないよね?」


 おそらく、土館さんが言う『他のこと』というのは、私たち友人グループを内部から崩壊させる行動のことだろう。確か、土館さんの様子がおかしくなっていったのと、土館さんに意味不明な言動が目立つようになったのは同じくらいの時期だったと思う。


 私のことを驚かすような狂気じみた発言をしたり、最初から陥れるために火狭さんと仲良くなったふりをしたり、水科さんとの関係を破壊させるために遷杜様と火狭さんに取り返しのつかない過ちを犯させたり、私にそのことを教えて実際の現場に向かわせたり……今すぐに思いついた限りで、殺人に関係のない土館さんの行動はこれだけある。もしかすると、私が知らないだけで本当はもっとあるのかもしれない。


「でも、ここで一つ、私にとって人生の転機になりうる出来事が起きたんだよ。まあ、それがなければ今の私はここにはいないわけで、もっと犠牲者は少なかったかもしれないけどね」

「いったい、土館さんに何が起きたと言うのですか……?」

「この子の天王野ちゃんに対するマインドコントロールが最後まで完了する前に、天王野ちゃんが私たちを裏切ったんだよ。つまり、天王野ちゃんはこの子から私のことを殺さないように言われていたにも関わらず、私のことを殺そうとした。だから、私はその報いを受けさせることにしたんだよ。その結果、ご覧のように天王野ちゃんは私の声を聞くだけで体が震えるようになり、私の姿を見るだけで吐き気を覚えるようになった」

「まさか、昨日から天王野さんの左目に眼帯がされているのは……」

「どうやら、天王野ちゃんは私のことを意地でも殺してみたかったみたいだね。私のことをプレス機で押し潰そうとしたり、振り子で真っ二つにしようとしたり、ナイフとかで串刺しにしようとしたり、何かもう色々と散々な目に合わされそうになったよ。でも、この通り、私とこの子は生き残った。そして、私はこの子と二人がかりで天王野ちゃんに仕返しをすることにしたんだよ」

「それで、さっきから天王野さんの様子がおかしかったというわけだったのですね……」

「私とこの子は天王野ちゃんから全ての武器を奪い取って、そのまま偶然近くにあったバールで天王野ちゃんの目を抉ってあげたんだよ。まあ、そのまま殺してもよかったけど、天王野ちゃんが『何でもするから殺さないで』って必死に泣きながら言ってくるものだからね。優しい私は天王野ちゃんのことを殺さずに奴隷にして、私の世界征服計画を手伝ってもらうことにした」

「そして、日曜日に遷杜様と火狭さんを間違った方向に進むように差し向け、私にその現場を見せて苦しめようとしたというわけですか」

「そういうこと。金泉ちゃんが木全君に対して抱いている気持ちは前から分かっていたし、せっかくだからいっそのこと三人だけじゃなくて四人に苦しんでもらったほうが効率がいいからね。その後私は、次の日の月曜日に天王野ちゃんにクラスメイトのみんなを虐殺するための下準備をさせて、火曜日には水科君と火狭ちゃんと仮暮先生を殺した」

「私や遷杜様に海鉾さん名義でメールを送りつけたのも、あなた方の仕業だったということですか……」

「……? 確かに、私はこの子に『金泉ちゃんに海鉾ちゃん名義のメールを送っておいて』って指示をしたけど、木全君には送っていないよ? ねぇ、何か勝手なことした?」

「ううん。確かに、ボクはお姉ちゃんに頼まれた通りに金泉さんにメールを送ったけど、木全さんには送ってないはずだよ? それ、間違いメールだったんじゃないの?」

「まあ、それ以外には考えられないわね。というか、もうそんなことはどうでもいいわけだし」


 そう言うと、土館さんは『ディオネ』という少女に『金泉ちゃんのことを監視しておいて』とだけ言うと、後ろを振り返った。そして、その先にいた天王野さんの首元を左手で力強く握り締めてその後ろにあった人工樹木に押し付け、右手に持っていた旧式の拳銃を天王野さんの米神に当てた。


 そのときの天王野さんの表情は恐怖一色に染まっており、その顔は涙で真っ赤に腫れ上がってぐちゃぐちゃになっていた。土館さんはそんな天王野さんのことなど構うことなく、淡々と話しかける。


「さあ、天王野ちゃん。もう、充分な休憩は取れたでしょ? 私がしたかった話は大体終わったから、そろそろ金泉ちゃんと木全君を殺していいんだよ?」

「……で、でも……」

「何? もしかして、私の言うことが聞けないって言うの? まさか、そんなことはないよね? あなたは私とあの子の奴隷なの。奴隷はね、主人に逆らったら罰を受けないといけないんだよ。天王野ちゃんだって、せっかく残っている右目を抉られるのは嫌でしょ? それとも、まさか自殺願望でもあるのかな?」

「……そ、それは……」

「私の目の前で、あの二人を殺してみてよ! あんたの数少ない友だちを、自分の命だけのためにその手で殺してみてよ! そして、これまでに自分が犯してきた過ちを悔いて絶望してみてよ! あはははは、あはははははははははははははははは!!!!」

「……うああああああああ!!」


 狂気じみた笑い声を上げる土館さんと、そんな土館さんに首を絞められながら大声で泣く天王野さん。どうにかしてこの状況を打開しようと思っているものの、私は『ディオネ』という少女に旧式の拳銃を向けられているためにろくな行動ができない。もし一歩でも動けば、私は『ディオネ』という少女に発砲され、心臓を打ち抜かれて死ぬことだろう。


 もう、何もかも駄目だ。私も遷杜様も天王野さんも、土館さんと『ディオネ』という少女に殺されてしまう。私は何もかも全てを諦めて、潔く負けを認めようとしていた。


 そのときだった。


「……ワタシはこれ以上誰も殺したくない……! ……二度とオマエらの言いなりにはならない……! こんなこと、もう嫌なんだああああああああ!!」

「い……痛っ……!」


 ふと顔を上げて見てみると、そこには天王野さんが土館さんの左手に噛み付いている光景があった。おそらく、天王野さんは決死の覚悟で土館さんの一瞬の隙を突き、土館さんの左手に噛み付いたのだろう。しかも、よほど力強く噛み付いたのか、土館さんの左手からは大量の血が飛び散っていた。


 土館さんが呻き声を上げながら左手の激痛に苦しんでいる間に、天王野さんは私のほうを向いて叫ぶ。


「……カナイズミ、キマタ! ……早く……逃げてええええええええ!!」

「ただの奴隷ごときが、よくも私に逆らったね……やっぱり、主人に怪我を負わせた奴隷は、処分しないといけないねっ!」

「天王野さん!」

「……え……?」


 直後、パンッという銃声音が当たり一帯に響き渡った。それと同時に、私のほうを向いていた天王野さんの額に赤黒い穴が空き、その穴からは大量の血が噴き出て、天王野さんは力なく人工樹林の地面に倒れこんだ。

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