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オーバークロックプロジェクト-YESTERDAY   作者: W06
第一章 『Chapter:Pluto』
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第十一話 『下校』

 そういえば、今朝教室にいたときは火狭と土館の喧嘩に気を取られて気がつかなかったが、昨日教室で天王野が殺されたとは思えないほどに教室の中は綺麗になっており、血の匂いもしなかった。また、元々天王野は友だちグループ以外にほとんど友だちがいなかったとはいえ、誰一人として天王野殺人事件についての話題を上げることはなかった。


 俺がそんな些細な違和感を感じていると、火狭と土館が例のごとく逸弛を巡って喧嘩してしまい、それによって教室の空気がピリピリしてしまっていた。でも、そんな風に嫌な一日も終わり、ようやく放課後になった。俺と海鉾は火狭と土館を時間差で帰らせることによって殴り合いの喧嘩の再発を防ごうと考え、それを実行しようとしていた。


 しかし、その直前に俺は金泉に『少し、お話がありますわ』と言われ、他のみんなよりも早く、二人だけで帰りながら話とやらをすることになった。逸弛と火狭はもう帰っているので、土館のことは遷杜と海鉾に任せて、俺と金泉は学校を出た。


 俺も、金泉には昨晩電話をかけても繋がらなかったことについて聞いておきたい。また、頭のいい金泉なら地曳殺人事件や天王野殺人事件について俺なんかが推理できないような奇想天外な発想ができているのだろうと考え、近いうちに話を聞いておきたいと思っていたので丁度よかった。


「それで、話っていうのは?」


 逸弛と火狭はもう何分も前にいつも通りイチャイチャいながら仲良く帰って行き、土館がその二人を追いかけないように、俺と金泉がその間に入るような形で学校から帰りながら、俺は金泉に本題に入るために話しかけた。


 金泉は普段は知恵の輪を手の中で遊ばせているが、今は鞄の中に入れてあるのか持っていない。つまり、それほど今回の金泉の話とやらは真剣なものであることが容易に推測できる。


「……昨晩、私はある人と相談をしたのですわ。そして、私が冥加さんに質問することになったのですが――」

「『ある人』って誰のことだ? あとその前に、何で俺なんかに質問をするんだ?」

「そ、それは言えませんわ! それに、私が誰と何について相談しただとか、そういうことは今は関係ありませんわ!」

「お、おう? 何かごめん」


 少し下を向きながら俺のすぐ隣を歩いていた金泉だったが、俺が何か余計な質問をしてしまったからなのか、急に俺の顔を見上げて明らかに不機嫌そうな表情と雰囲気のまま声を荒げて反論した。何が金泉の気に触ったのかは分からないが、一応謝っておくべきだろうと思い、俺は一言だけ謝罪した。


 というか、金泉は俺が昨晩遷杜と金泉と海鉾に電話をかけたが繋がらなかったことを知らないからそう言えたのだろうが、そのことを知っている俺は昨晩金泉が相談した相手というのがおそらく海鉾なのだろうという推測することができた。


 そうだとすれば、遷杜は逸弛に電話するという理由があったにも関わらず、特に理由がなかったはずの二人に電話が繋がらなかったことにも納得できる。まあ、これはあくまで俺視点だけで見た話で、実際のところはどうなのかは分からないが。


 金泉は先ほど俺に対して急に取り乱してしまったことに気がついたらしく、『はっ』という声を発してわざとらしく二回咳き込んだ後、続けて話しかけてきた。


「それで、質問の内容なのですが……」

「ああ」

「……もしかして、冥加さんは地曳さんや天王野さんを殺害した犯人を知っているのではないですか?」

「え? 何で?」


 今回の金泉の話というのは遷杜に対する恋愛絡みのことではないということくらいは分かっていた。だが、それとは非常にかけ離れていてまず予想できなかったその質問に、俺は思わず気の抜けたような頼りない声で聞き返してしまった。


 金泉は何を根拠にして俺にそんなことを言っているのか。そして、誰と相談したからそんな結論に至ったのか。俺がその理由を考えて導き出すよりも前に、金泉は俺の質問に答える。


「冥加さんは亡くなったお二人の遺体が発見される直前に、その現場にいましたわよね?」

「……!? 何で、それを……?」

「地曳さんのときは、その現場に冥加さんがいたことを知っている人から情報を得たのですわ。天王野さんのときは、教室で冥加さんが天王野さんから話があると呼ばれていたことをみなさん知っています」

「もしかして、天王野から聞いたのか?」

「……天王野さん? なぜそこで天王野さんの名前が? とぼけているつもりなのかもしれませんが、どちらにせよ、これ以降私がその情報を誰から聞いたのかについて話すつもりはないですわ」


 俺が知っている限り、俺が地曳殺人事件の現場にいたことを知っているのは昨日殺された天王野ただ一人のはずだ。しかし、今聞いてみると金泉は自分がそうなのではないかと思えるようにとぼけた感じで返答したが、そうなると金泉は天王野が死ぬ以前にそのことについて聞いたのだろうか。そんなことが話題に上がった理由は分からないが。


 いや、昨晩の金泉の相談相手である海鉾の可能性もある。でも、そうだとすれば海鉾も天王野同様に俺にそのことについて問いただしてきても不思議ではない。あ、だからこそ、金泉と海鉾はそのことについて昨晩電話で相談して、俺に話しを聞きに行く係に当たった金泉が俺を呼び出したのか。


 それはそうと、金泉がそのことを天王野から聞いたとしても、海鉾から聞いたとしても、何でそのことが『俺=地曳と天王野を殺した犯人を知っている人間』に繋がるんだ? 確かに俺は二つの殺人事件の現場にいて、もしかすると知らず知らずのうちに関わっている可能性もあるが、だからといってそれ以外に何か有益な情報を持っているわけではないし、ましてや犯人の正体なんて分かるわけがない。


 金泉は何か理由があって考えた結果その結論に至ったのだろうが、あいにく俺はそれらのことを知りはしない。さっさとテキトウに答えて、俺からの質問に答えてもらうことにしよう。


「残念だが、金泉が今考えていることはたぶん外れているぞ。俺は偶然あの二人の死体が見つかる直前に現場にいただけで、犯人の姿なんて見ていないし、金泉が知っていること以外に情報を持っているわけでもない。これで満足か?」

「……本当に、何も知らないのですか?」

「どう言う意味だ?」

「……その言葉通りの意味ですが……私やその他のみなさんが知らなくて、冥加さんしか知りえない情報を持っているのではないですか?」

「俺しか知らない情報……?」


 金泉の言う通り、果たしてそんなことがあるのだろうか。俺が二つの殺人事件の現場にいたことを知っているのならば、それ以外には何も隠すことも話せることもないと思うのだが。一応、少しだけ真剣に考えてみよう。


 俺と金泉は普段通学に利用していない比較的人通りの少ない様々な研究所が立ち並ぶ道を歩きながら、俺は金泉からの質問について考えていた。周囲には地下街に下りるためのエレベーターも見当たらず、車道と歩道が透明な強化ガラスによって分けられているわけでもない。


 俺たちが歩いているのは幅が狭い歩行者専用の道で、左右には様々な研究所が立ち並んでいるだけだった。普段ならばもう少し人通りのある道を通るところだが、金泉が『他の人に聞かれるとまずいので、なるべく人通りの少ない道を歩きましょう』と言ってきたのであえてこの道を選んだ。


 こんな人気のない場所に友だちの女の子と二人きりで歩いているというのは何というラッキーイベントなんだ、とか思いつつ俺は本題についても考えながら歩いていた。そのとき、俺は不意に思い出した『俺が知っていて、実際にあった出来事とは異なること』を金泉に話した。


「そういえば、俺が地曳が殺されていた現場を見たとき――」

「え!? 冥加さんは地曳さんが殺されていた現場を見たのですか!?」

「……? 天王野か相談相手の誰かから聞いたんじゃなかったのか?」

「そ、それもそうですわね。何でもないですわ、気にしないで続けて下さい……」

「そうか? それじゃあ、続けるが」


 もしかして、金泉は『俺が地曳と天王野を殺した犯人を知っているかもしれない』という推測を立てていたにも関わらず『俺が地曳の死体を見た』ということを知らなかったのだろうか。


 天王野から話を聞いていたのなら『俺が地曳の死体を見た』ということは当然知っているはずだろうから、こうなると、昨晩の相談相手の誰かから聞いたということになりそうだが、その相談相手の誰かはそこまでの情報を金泉にあげたわけではなさそうだ。もしくは、そもそもそこまでの情報を知らなかったか。


 どちらにせよ、俺が知っている情報の全てを金泉が把握しているわけではなさそうだな。ここからも、本人にそのことを聞くわけにはいかないから少しずつ探りを入れていくべきだろう。


 というか、金泉としては地曳殺人事件の現場を目撃した俺が警察に通報したりせずに、怯えてその場を去ったことのほうが不自然に思えたのかもしれない。そのときはそのときで、俺もわけが分からなくなっていて警察に通報したり友だちに相談したりしなかったが、本当はそうしたほうがよかったのかもしれない。まあ、どちらにしても結果論には変わりないが。


 俺は少し落ち込んだ雰囲気になってしまった金泉にそのときのことを説明し始めた。


「ふとPICからメールの受信を知らせるアラーム音で目を覚ますと目の前に血まみれになった地曳の死体があったんだ。その場では特に何かを確認できたわけではなかったんだけど――」

「……っ」

「金泉? 聞いているか?」

「……え? ええ、聞いていますわよ」

「それなら続けるぞ。それで、次の日に天王野が言ってただろ? 『地曳の死体は四肢をバラバラにされていた』みたいなことを」

「ええ、確かにそんなことを言っていましたわ」

「でも、暗くてよく確認できていなかったとはいえ、俺が見たときの地曳の死体は全身を刃物で切りつけられていただけで、確かに四肢はあったはずなんだ。だけど、天王野は俺が知っていたこととは違うことを言っていた。天王野がわざわざ嘘をつくとも思えないし、俺としてはこのことが不思議で不思議で仕方がないんだ。俺が教えられるのはこれくらいだが、よかったか?」

「……まあ、どうしてもそれだけしか言えないのなら、仕方がありませんわ」


 金泉は明らかに不満足そうな暗い表情をして再び俯いてしまった。またしても俺の返答が気に入らなかったのか、それとも何か考えごとをしているのか。とくに気の利いた言葉もかけられないまま、俺は次に金泉から話しかけられる時を待った。


 そして、俺たちの間で沈黙が五分程度の時間を支配しながらも、俺たちは黙々と歩き続けた。そのとき、不意に金泉が顔を俯けたまま一度だけ溜め息を吐いた後、小さな声で話しかけてくる。


「……本当はこの質問はしたくなかったのですが、この際仕方がありませんわ。それでは、最後の質問をしますわ」

「お、おう」


 やけに深刻そうな金泉のその台詞の後、数秒間の沈黙が訪れ、俺たち二人以外に誰もおらず何もない一本道で、金泉は俺の顔を見るために顔を上げる。そして、物語の核心に迫るその質問をした。


「あなたが……冥加さんが――」

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