第9話:【クナイセン的な重戦車の存在意義】
皆様、こんばんわ~♪
今回は割と文章を纏めるのに苦労した暮灘です(^^;
さてさて今回のエピソードは……
あえて言うなら出立編?(;^_^A
数話ぶりにクナイセン一家が出てきますが、それより何より……
ようやく【チー虎】こと、
PPG版【ティーガー】
の登場です♪
というか、9話までもう一人……いや、"もう一台の主役"が出てこない戦争小説って(汗)
とにもかくにも、"プロイセン皇国"における重戦車の存在意義が出てくるエピソード、お楽しみ頂ければ嬉しいッス☆
『諸君! 我々プロイセン皇国軍の本質は国防である!! 華々しい電撃戦は攻勢防衛の為の手段、敵の侵攻を機動力を生かし側面より砕く積極的防衛である!! しかし、我らの真骨頂は敵の怒涛のような攻勢から愛する祖国を守り抜く、守勢防衛にこそある!! 兵よ! 将よ! 忘れてはならぬ!! 常に我らが背中には、守るべき大切な何かがあるという事を!! ジーク・プロイセン!!』
プロイセン皇国軍OKW(Ober Kommando der Wehrmacht:統合軍最高司令部)長官
エーリヒ・フォン・マンシュタイン元帥
1941年12月26日のプロイセン全軍に向けた演説より抜粋。
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プロイセン皇国、バイエルン駐屯地
クナイセンの近代欧州史概要講釈が終わった後、第2中隊長タイクゼン大尉の短い薫陶が続いて中隊ミーティングは解散。
小隊長は各自の持ち場……小隊ごとに割り当てられた集合場所に戻り、
「戦車ごと移動し、【戦車輸送用貨物列車】に搭載せよ、か」
そう呟きながらキンベル・クナイセン中尉が戻ってくるなり、
「ご主人様、お帰りなさい」
「たいちょお、お帰りなさい♪」
笑顔で迎える第2小隊のチビ(マスコット)二名。
早い話がレニ(レニ・ベルグカッツェ上等兵:砲手)とアレク(アレクサンドル・シュトラッサー二等兵:通信手)だった。
クナイセンは何やらにこやかな笑顔で足を踏みあってる二人の頭を軽く撫で、
「ミック、ゴーリキー。エンジンの調子はどうだ?」
ユニット化されたエンジンをクレーンで丸々吊り下げ交換できるよう大きな開口部が開けられた、車体後部のエンジン・ルームを覗きこんでいた二人……
《ミック》こと運転手のミカエル・ハッキネン一等兵と、無口な装填手のゴーリキー・ボルコフ伍長に声をかける。
「上々でさぁね!」
スオミ訛りのドイツ語で返してくるハッキネンに、
「んだ」
と短く返して頷くボルコフ。
"彼らの愛車"は、例えば初歩的ながら【パワーパックの概念が導入されパッケージングとして設計されたエンジン】のようにIV号戦車から受け継がれた多くの特徴の一つに、【エンジン・ハッチが180度展開してメンテナンス・パネル(整備作業台)になる】という心憎い仕掛けがある。
他にも合理的にメンテナンス・ハッチが配され、あちこち可能な限り多くのメンテナンス・フリー使われている上、カセット・コンポーネント化されエンジンを降ろさずとも車体下から単体ユニットとして取り出せ交換できるトランス・ミッションが採用されるなど、設計段階から極めて高いメンテナンス性が考慮されていた。
おかげで、『巨大な図体と54tなんてバカげた重量のクセに扱い易く整備しやすい』と現場の戦車乗りや整備兵からの評判は上々だった。
☆☆☆
ハッキネンとボルコフはパネルからおり、二人がかりで油圧式の開閉サポートジャッキを内蔵したエンジン・ハッチを閉める。
それを確認したクナイセンは、自分がこの場にいる仲間達と操ることになる"鋼鉄の虎"を見上げ、
「Pkw-VI(VI号戦車)、【ティーガー】か……」
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その重厚なシルエットを持つ"鋼鉄の猛虎"は、現在までプロイセン……いや世界で開発された大抵の戦車を上回る体躯と圧倒的な迫力を放っていた。
Panzer kampf wagen VI【TIGER】
それはプロイセンが国家の威信と命運をかけて開発した【重戦車】である。
高射砲より派生した88ミリ56口径長というこの時代の戦車としては破格の大口径長砲身の主砲を持ち、 "冬戦争"の戦訓から初期設計より装甲は更に強化され、鋳造で作られた砲塔正面装甲は120mmという分厚さと傾斜構造を持つに至った。
これを動かすエンジンは出力690馬力の水冷V型12気筒ディーゼルであり、空虚重量でも53tあるティーガーを思う存分に動かすには少々馬力は物足りないかもしれないが、その分耐久性と信頼性は高い。
それを補うように設計上は空虚60tまで耐えるキャパシティがあるリターダー付オートマチック・トランス・ミッションは前進4速/後進2速で超信地旋回も可能であり、サスペンションはクリスティー式とトーションバーを複合したハイブリッド、これに鋼製大型転輪とワイドな725mm幅の新開発ラバーシュー付ダブルピン・ダブルブロック構造の履帯が組み合わされ、図体と出力の割には軽快な機動力と乱暴に扱ってもちょっとやそっとじゃ壊れない頑強さを保障していた。
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(悪くないな……)
キンベルは冬戦争の結果、標準装着されるようになった転輪を守るスカート・アーマーを撫で、士官学校時代の事を思い出していた。
【機甲防盾】という電撃戦の防御転用とも言うべき機動防御戦術をクナイセンが成績水増しのレポートとして提出した事は何度か述べたと思う。
だが、当たり前だが士官学校は学校である以上、定期的にレポート提出が義務付けられている。
実は席次が下から数えた方が早かった(なんせ得意主要科目が戦史くらいしかない)クナイセンが、座学で落第しなかった理由の一つが、このレポート提出だった。
☆☆☆
クナイセンは在学中にいくつか興味深いレポートを提出していた。
例えば自由題材では、
【ノイマン(モンロー)効果の対装甲戦術兵器への転用とその対抗策】
なんて物を書いていたらしい。
どうやら学生時代からクナイセンは、どこか普通の装甲士官候補生達と別の視点を持っていたようだ。
しかし、今回は彼が入学して程無く出された【プロイセンが将来的に必要とされる重戦車】という固定課題のレポートで、クナイセンが提出したそれに着目してみたい。
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1930年代の重戦車という系譜は、第一次大戦末期の戦車戦術の正統な担い手と考えていい。
つまり、分厚い装甲で敵の機関銃座の銃撃や対戦車砲の砲撃をよせつけず、敵の塹壕線(防御線)に真っ先に殴り込みをかけて突貫し蹂躙、後から駆けつけ塹壕を奪取する歩兵の火力支援を行う事だ。
なのでこの時代は防御力→火力→機動力の優先順序で設計されており、防御力は近距離から撃ち込まれる対戦車砲に耐えられる強度が求められたが、機動力は【歩兵に先んじて防衛戦に突撃できれば良い】とされていた。
そんな背景からこの時代の重戦車は、最高速がカタログ上でも20km/h台なんて代物は珍しくはなかった。
当時のプロイセン陸軍は、機甲総監に就任した《ハインツ・グデーリアン》が提唱した攻勢機甲戦術"電撃戦"に大いに盛り上がっていた時期であり、その為か他の学生達のアイデアは、エンジンやトランス・ミッションを強化し機動力を底上げした、
【電撃戦に随伴できる重戦車】
【歩兵に頼らず単独での高速陣地突入戦が可能な重戦車】
というコンセプトを多くの学生が提出していた。
中には車体を更に大型化して戦車と兵員輸送車を融合した、後の【歩兵戦闘車】に繋がる先進的なコンセプトの提示があったが、クナイセンが提唱したそれは全く別の物だった。
☆☆☆
【プロイセンのドクトリンが国土防衛を主軸とする以上、従来型の重戦車は無用】
と切り捨ててから、
【"電撃戦"は積極的攻勢ではなく、敵対機動侵攻に対し機動力で分断、短時間の集中火力投入により局所的な包囲殲滅/各個撃破を促す《機動攻盾》的な戦術である】
と定義付け、
【であるならば、電撃戦に追従するのが難しい重戦車は、電撃戦部隊が出払い手薄になった味方防衛網を補強する兵力とすべきである】
と結論付けた。
言ってしまえば、クナイセンは敵の猛攻を凌ぎながら撃退する、
【防衛兵力としての重戦車】
を提示したのだ。
レポートはこう続けられる。
『優先要素は火力=防御力→機動力である。その理由は以下に示す』
(1)火力
押し寄せる敵兵力を、【敵の有効射程外から撃破】できる砲力。
これは重戦車を必要とする防衛戦が、殆どの場合において数的優勢な敵対勢力との交戦が想定される為に必須である。
(2)防御力
重戦車を防御に使う以上、優先撃破目標として敵侵攻兵力の集中砲火に曝されるのは必定である。
ならば、その攻撃に可能な限り耐久できる事が重要である。
(3)機動力
防御型重戦車で機動力が必要とされるのは、機動防御段階での砲撃戦と、敵勢力が撤退に移行した段階で起きる追撃戦を効果的に行う為である。
古来より撤退時にどの軍も最大の犠牲を払う。
ならば、その際に効果的な追撃戦が行える程度の機動力は保有すべきである。
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そして、そのレポートは、こう締め括られていた。
『重戦車の最大の敵は、敵の攻撃よりむしろ自らの重さや大きさを起因とする故障、機械的な信頼性の低さだ』
『機械的信頼性を簡単に上げられぬのなら、次善策として整備性を設計段階から向上させ不具合が起きやすい、あるいは消耗/摩耗しやすい部品を洗い出し、可能な限り簡易に交換できるようにすべきである。そして、総合的な意味で稼働率を向上させる』
『防衛戦に使うなら故障すればそこに穴があき、敵が気付けば味方が穴埋めする前にそこに殺到するだろう。また便りにしていた重戦車が故障となれば士気が下落し、局所的な戦線崩壊が起こりかねない』
『だからこそ、重戦車には敵が攻撃を諦めるまで耐久できる稼働率の高さ、継戦能力の高さが要求される』
『また防衛に専念するなら味方陣営からの距離も近い為に、万が一故障した場合の部品供給や後方に下げての修理という場合も有利となり、結果として戦力維持がしやすくなる』
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クナイセンは、重戦車を従来の【破城鎚】ではなく、味方の留守を守る文字通りの【鉄壁の狩人】に仕立てるべきと書いたのだった。
そう、今までの重戦車が倒すべきは敵の塹壕や陣地、歩兵だったが次世代重戦車が倒すべきは押し寄せる"敵戦車"だと……
まあクナイセンに言わせれば、
『味方の重要防御拠点……補給線の守りが手薄じゃ、おちおち消費が激しい電撃戦もしかけらんないでしょうが?』
とのこと。
彼のレポートは、当時の士官学校の教官達から、
『攻撃一辺倒になりがちな若造にしては、耐え忍ぶ防御戦の難しさと重要性を認識してる珍しい奴だ』
と概ね好評だったが、かといってそれ以上の物では無かった。
ただ【機甲防盾】のレポートがグデーリアンの目に止まった時、グデーリアンはそれ以前に書かれた、あるいはこれから書かれるクナイセン・レポートを全て教官の採点後に自分に回すように命じていた。
クナイセンの【防御型重戦車必要論】がどの程度ティーガーに反映されたかは不明(というかクナイセンは、自分のレポートがグデーリアンに届けられてること自体を知らない)だが……
「俺やコイツの初陣を、まさか国外で飾る事になるとは思わなかったな」
(まあ、他の戦車で戦場に出るよりはマシか)
どうやらクナイセン、自分がかつて思い描いた【防衛兵力としての次世代重戦車】……機動防御に特化した"VI号戦車"をかなり気に入ってるらのは確かなようだ。
☆☆☆
「みんな、傾聴してくれ」
クナイセンは、自分の戦車だけでなく、5台のティーガーで編成される第2小隊全員を集め、
「俺達は"スロバキア"に向かう」
そう淡々と告げるのだった。
次回へと続く
皆様、ご愛読ありがとうございましたm(__)m
ようやく出てきた【もう一台の主役】は如何だったでしょうか?(^^;
暮灘は出せてホッとしてますが(笑)
いよいよ次回からはバトル・ステージに移行!……できたら良いなぁ~とか思ってます(;^_^A
それでは皆様、また次回にお会いできる事を祈りつつ(__)




