第六話 再誕
あらすじを若干変えました
「柊君……?」
「橘……?」
なっ何が起きているかよく分からないが、取り敢えず、橘が侍みたいな格好して手に持っている刀でマリスを切ったことは分かったのだが、それ以外がいまいち分からない。
「えっと、何して……」
「! ゴメン柊君。今は待って!」
「はい!?」
次の瞬間、建物の隙間や、空からマリスが降ってきて……て!
「何じゃこりゃ!?」
いつの間にかマリスの群れに囲まれてしまった。
数は十や二十なんてモンじゃない! 百は最低でも越えている!
「まだ、こんなに残って居るなんて……」
橘が刀を構えながら何か呟いていたが、正直今の俺にそれをもう一度聞く余裕は無い。
どうする……いや、落ち着け。一先ず、マリスについて少し整理しよう。
まず、あちらはこちらを触れられるが、逆にこちらはあちらを触れられない。
あれ、ものすごくチートじゃない?
だが、先程の光景は間違い無く橘が持つ、刀はマリスを斬った。
つまり、今マリスに対抗出来るのは橘だけとなる。
「柊君……ちょっとそこでじっとしていて」
「えっ?」
「直ぐに片付けるから……」
言うやいなや、橘は地面を蹴って、一気にマリスの群れに向かって行った。
「たっ橘!?」
マリス達が腕を伸ばし、橘に襲いかかってくるが、橘はそれを難無く躱し、そのまま、マリスを斬りつけた。
「すげえ……」
俺は呆然と橘の剣技を見ていた。
橘は、マリスを縦に切ると、そのまま流れるように後ろに居たマリスを突き刺し、刀を引き抜き、その勢いに載せてしたから思いっきり斬りつけた。
そして、橘の刀に雷が帯び始め、やがて、刀身が雷に包まれると、橘はそのまま、横に薙ぎ払った。
刀身に帯びていた雷は枝分かれ、マリスに襲いかかっていった。
枝分かれした雷は、全てマリス達に突き刺さり、突き刺さったマリス達はそのまま霧散して消えていっ
た。
「うは……」
次々とマリス達を切り捨てていく橘を俺は何とも言えない気分で見ていた。
その気持ちがどういうモノなのかは分からないが。
それに、俺はこの状況に先程に比べると、危機感を覚えていない。
まあ、それでも、もうすぐ終わるだろう。
そう思った矢先、
ゾクリと、俺の背筋に寒気が起き、同時にあることを思い出した。
まて、マリスはどういう状況でいた? 確かそう、
俺や橘を囲むようにして出現した。
そして、橘はどういう風にマリスを蹴散らしていた? 真っ直ぐだ。前方のマリス達を蹴散らしていた。
つまり、
そこまで考えて俺は、ゆっくりと後ろを振り向いた。
後ろのマリスは健在だ。
マリス達は俺を目掛け、襲いかかってきた。
「柊君っ!!」
その光景にいち早く気がついた橘は悲痛そうな表情していた。何だよ、そんな顔するな。俺は君にそんな顔をしてほしくない。
そう思いながらも、やけにスローモーションに襲いかかってくるマリスを俺は冷静に見ていた。
その時、俺はふと思い出した。
あれ、そう言えばこんな状況を回避するための言葉があったな? 確か、そうだ、その言葉は、
「……発動」
その言葉と共に、俺は光に包まれた。
「code03のいる地点に高出力エネルギー反応!」
「エネルギー未だに上昇中!」
司令室は騒然となっていた。
民間人である少年がマリスに襲われそうになった時、突如としてその少年が光に包まれたのだ。
「これは、まさか……」
秋宮は、モニターに映されたエネルギーの波長をみて、戸惑いを隠せなかった。
そのエネルギーの波長は、本来その場ではあり得ないモノだからだ。
「英雄の再誕、かー」
唯一人、橘は光に包まれた少年を見て、唯々、意味深に笑みを深めていった。
「お前、あの少年を知っているのか……?」
「さー?……どうかな?」
はぐらかすように言う橘に秋宮はジロリと睨むが、やがて直ぐに視線を逸らした。
「お前がそうやって、はぐらかす時は必ず後から教えるからな……ちゃんと説明してもうぞ」
「はいはいー……でも、一つだけ確かなことがある。アレは君が考えている力だよー」
「!……英雄武装か……」
秋宮の呟きを橘は最早、聴いていなかった。
(やっぱり、そこにあったかーマコが残した遺産。やっぱり彼が持って居た……。ああ、これからホン
ト、楽しくなりそう)
橘は、唯々笑いながらモニターを見ていた。
「柊君……?」
姫夜はこの光景に戸惑っていた。
クラスメイトの少年が突如として光に包まれたのだ。だが、同時にその光に姫夜は見覚えがあった。
それは自分にとっては身近なモノだが、同時に真司には最も縁が無いモノだと思われるモノなのだ。
やがて、光が収まると、そこには確かに真司はいた。しかし、その服装は大きく変わっていた。
まず、先程まで着ていた真司の普段着は無く、代わりに青を基調とした服装に所々に白銀の鎧を纏って居る。
さらにその右手には、眩い光を放つ黄金の剣が握られていた。
姫夜はポツリと呟いた。
「聖剣……」
それは間違い無く、全属性の中でマリスに最も有利に戦況を運べる光の聖剣だった。
何故、真司がそれを持って居るのかは分からない。けれども、その聖剣はまるで、真司の為にあるようだった。
真司は目を閉じたまま、聖剣を自分の右肩近くまで持ち上げると、左手で聖剣の刀身を撫でながらぽつ
と、誰にも聞こえないぐらい小さい声―それこそ自分でも気づかないぐらい―で無意識に呟いた。
「……お帰り、俺。そして、ただいま」
そして、真司は聖剣を構えると、そのまま一気に周りにいたマリス達に向かって振り払った。
風圧でマリス達は一気に吹っ飛び、空中に上がった。
「はああああああ!」
真司は上方に聖剣を突き刺すように構えると、聖剣の刀身が光に包まれ始め、やがて光の奔流で刀身が見
えなくなってきた。そして、上空に居るマリス達に真司は光に包まれた聖剣を突き刺すように向けた。
すると光は、聖剣から放たれ、一気に砲撃のように伸びていき、マリス達を全て包み込み、そして凍結空
間の壁に直撃し、そのまま突き破った。
「うそ!?」
姫夜はその光景に驚愕するほか無かった。
凍結空間の壁は理論上、核爆発さえも防げるほどの強度を誇っている。その壁は一撃で――一部分の穴だ
けとはいえ――破壊したのだ。驚くなと言われても無理だ。
やがて、光が止むと、光に包まれたマリスはおらず、姫夜の周りに居たのも、いつの間にか消えていた。
真司は腕をだらんとさせ、突っ立っていたが、やがて、ふらりと傾くと、そのまま俯せに倒れ込んだ。
「柊君!?」
姫夜は慌てて、真司の元に駆け寄っていった。
こうして少年は力を手に入れた。
そして、少年は再び向き合うことになる。己の消えた記憶と。