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『追放された鑑定士、実は世界の真実まで見えていました』

第一話 役立たずの鑑定士

「レイン、お前をパーティーから追放する」


冒険者ギルドの酒場に、リーダーである勇者ガルドの声が響いた。


俺は手にしていた木製のカップを置く。


「理由を聞いても?」


「決まっているだろう。お前のスキルは鑑定だけ。戦闘では役立たずだ。俺たちは魔王討伐を目指しているんだぞ」


周囲の冒険者たちが笑う。


俺は勇者パーティーで三年間、仲間の装備を鑑定し、魔物の弱点を調べ、罠を見抜き、報酬の交渉まで担当してきた。


だが、彼らにとって俺は便利な道具でしかなかったらしい。


「わかった。今まで世話になったな」


「おい、待て。お前の装備はパーティーの共有財産だ。置いていけ」


「それは俺が自分で買ったものだが?」


「誰のおかげで買えたと思っている!」


面倒になった俺は、装備を置いて酒場を出た。


そして、街の門をくぐった瞬間。


視界に奇妙な文字が浮かび上がった。


《神眼鑑定が進化しました》


《対象:世界》


《鑑定可能領域:無制限》


……なんだ、これ?


俺のスキルは普通の鑑定ではなかった。


三年間、使い続けたことで進化したらしい。


試しに道端の石を見てみる。


《石ころ》

《本来の名称:創世神の封印石》

《価値:国家予算の約300倍》

《備考:世界の根幹を支える重要物質》


「…………」


俺は石からそっと目を離した。


どうやら、とんでもないことになったらしい。


第二話 世界の真実

街から少し離れた森で、俺は一匹のスライムに出会った。


《名称:スライム》

《脅威度:F》

《隠された能力:全属性魔法吸収》

《進化可能性:神獣級》


「お前、そんなにすごかったのか」


スライムはぷるぷると震えた。


俺は試しに手を伸ばす。


するとスライムは俺の肩に飛び乗った。


「よし、お前の名前はポチだ」


ぷるん。


こうして俺は最初の仲間を手に入れた。


さらに森の奥で、傷ついた女性を見つけた。


銀色の髪に、尖った耳。


どう見てもエルフだ。


「大丈夫か?」


「近づかないで……私はもう助からない」


鑑定してみる。


《名称:エルシア》

《種族:ハイエルフ》

《正体:千年前に封印された精霊女王》

《状態:魔力循環不全》

《治療方法:世界樹の雫》


「治せるぞ」


「……え?」


俺はポチを彼女の傷口に近づけた。


ポチが身体を震わせると、周囲の草木が一斉に光り始める。


《全属性魔力吸収》

《治癒属性へ変換》

《治療完了》


女性の傷が瞬く間に消えた。


「あなたは……何者なの?」


「ただの鑑定士だよ」


彼女はしばらく俺を見つめた後、静かに膝をついた。


「ならば、私はあなたに仕えましょう」


「いや、そういうのはいいから」


第三話 勇者の末路

それから一か月。


俺は小さな村で生活していた。


畑を耕し、魔物を追い払い、村人の壊れた道具を直す。


鑑定スキルのおかげで、どんな問題も原因がすぐにわかった。


錆びた農具は素材の欠陥を見抜いて修理。


枯れかけた畑は土壌の魔力不足を改善。


病気の家畜は原因を特定して治療。


気がつけば村は王都より豊かな場所になっていた。


そんなある日。


村に勇者ガルドたちがやってきた。


「おい、レイン!」


「久しぶりだな」


「お前、こんなところで何をしている?」


ガルドは俺の隣にいるエルシアを見て鼻で笑った。


「そんな女を連れて、村で農業か? 落ちぶれたものだな」


「幸せに暮らしているよ」


「ふざけるな! 俺たちは今、魔王軍との戦いで苦戦している。お前の鑑定能力が必要だ。戻ってこい!」


「断る」


「なに?」


そのとき、エルシアが一歩前に出た。


「無礼者。あなたたちは、この方がどなたなのか理解しているのですか?」


「なんだ、この女!」


俺は慌てて彼女を制した。


しかし、遅かった。


エルシアが少しだけ魔力を解放すると、勇者たちの身体が地面に沈んだ。


「ぐっ……なんだ、この魔力は!」


俺はガルドを鑑定した。


《名称:ガルド》

《職業:勇者》

《勇者適性:偽装》

《能力:他者の能力を一時的に借用》

《現在の勇者の力:レインから奪った鑑定能力の残滓》

《備考:本来の勇者適性なし》


なるほど。


俺を追放した後も、俺の能力を利用していたのか。


「ガルド。お前、俺の鑑定能力を盗んでいたんだな」


「ち、違う! これは俺の力だ!」


「そうか。なら、返してもらおう」


俺は手をかざした。


《神眼鑑定:権限回収》


ガルドの身体から光が抜け落ちた。


その瞬間、彼の勇者としての力は消滅した。


「嘘だ……俺は勇者だぞ……!」


「勇者という肩書きだけでは、誰も救えない」


俺は彼らに背を向けた。


最終話 世界で一番小さな幸せ

数年後。


俺の村は王国でも有数の豊かな街になっていた。


エルシアは村の管理を手伝い、ポチはいつの間にか巨大な神獣へと成長していた。


俺は相変わらず鑑定を続けている。


ある日、村に小さな女の子がやってきた。


「おじさん、これ見て!」


差し出されたのは、拾った小さな花だった。


「鑑定して!」


俺は微笑んで花を見つめた。


《名称:野花》

《価値:銅貨1枚》

《特殊能力:なし》


そして、その下に小さな文字が浮かんだ。


《備考:少女が初めて自分で見つけた花》


俺は少しだけ笑った。


「これはな、とても貴重な花だよ」


「ほんとう?」


「ああ。世界に一つしかない」


少女は嬉しそうに笑った。


その姿を見て、俺は思った。


世界の真実が見えるようになったところで、幸せの価値まで数字で測れるわけではない。


魔王を倒すことも、世界を救うことも、きっと素晴らしいことだろう。


けれど俺は、この小さな村で十分だった。


「おじさん、次は何を鑑定してくれる?」


「そうだな。次は君の未来でも見てみようか」


俺は少女の頭に手を置いた。


《未来予測》


《可能性:無限大》


《備考:この少女は、いつか世界を笑顔にする》


俺は鑑定結果を閉じた。


未来なんて、本人が決めればいい。


空には雲一つない青空が広がっていた。


そして今日も、俺の肩ではポチがぷるぷると揺れている。


――追放された鑑定士の物語は、世界で一番穏やかな場所で続いていく。


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