セカイ
その店は、白いトタン屋根が目印だった。
都心から少し離れた小さな駅を降り、最初の道を右に曲がる。
そのまま道なりに歩いていくと、どう見ても喫茶店には見えない建物が現れる。ここが、オレの行きつけの店だ。
「入るよ」
ポカンとした表情で外観を眺める彼女に声をかけ、木製のドアをスライドさせる。同時にふわりと香る、芳しいコーヒーの香り――。
マスターがオレの顔を見て、口元を緩めた。
「二階へどうぞ」
オレは軽く頭を下げると、店の奥にある階段へと向かった。
席に座り、注文を終えたところで彼女がほうっと息を吐いた。
「ここは不思議なお店ですね。時間が停まっているみたい……」
そうして、店内をゆっくりと見回す。
天井から真っ直ぐにぶら下がった裸電球。無音で回り続ける真っ白な送風機。
壁には手作りの本棚が据えられ、そこには鉱物の本や植物の種について書かれた本などが雑然と並んでいる。
「驚くのはまだ早いよ」
水の入ったコップを両手で包み込みながら、天井を見つめていた彼女に話しかける。
「まだ何かあるんですか?」
彼女の質問に、オレは無言で笑みを返した。
互いに好きなものを教え合って、お気に入りが増えて。
別々だった「世界」が溶け合って広がり、やがて、境界が消えてひとつになる――。
それがこんなに幸せなことだったなんて、オレは、ずっと知らなかった。
END
本作品はブログで連載しているシリーズものの中の一つです。
短編「カフェ日和」と同じ人物の視点の話になっています。




