第8話 「黒手の侵攻」
王城を握り潰す巨大な“黒い手”。
その奥から現れたのは――人ならざる存在。
怠惰な最強、ついに王都防衛へ。
王城を覆う巨大な“黒い手”は、まるで影が凝固したような質感だった。
不気味なほど静かに動き、建物を指先で弄ぶように押し潰す。
「……だりぃ。朝からバケモノかよ」
リオンが欠伸しながら呟く。
「リオン、あれ……何なの?」
「知らん。けど――“外側”の気配だな」
「外側?」
リオンは無造作に空を指差す。
「世界の外からくるヤツら。
普通は結界が弾くんだけど……誰かが呼んだっぽいな」
そう言った瞬間、その“黒手”がギギギと向きを変え、リオンたちを見下ろした。
【■■■■■■――】
音にならない咆哮が響く。
鼓膜ではなく、魂を震わせるような異音。
「っ……!」
リズは膝をつきかけた。
だが、すぐにリオンの黒風が彼女を包む。
「大丈夫だ。耳ふさげ」
彼は、ただ一歩前に出た。
たったそれだけで――
黒手の咆哮は一瞬で掻き消え、周囲の空気が爆ぜた。
◆◇◆
黒手が王都に向けて下降し始めた。
ひと薙ぎで、街ひとつが消える距離だ。
「避難! 避難しろおおおおっ!!」
「やばい! あれは……魔力じゃねぇ……!」
兵士たちが逃げ惑う中、リオンだけが微動だにしない。
「リズ」
「……うん」
「半分だけ使うわ」
「は、半分……?」
リズの喉が引きつる。
だって――
第6話で“本気の1%以下”で神殿を揺らした男だ。
それを聞いた黒手が、さらに巨大化しながら迫る。
ドォン――!
地面がひび割れ、影の巨体が覆いかぶさる。
誰もが最悪の結末を覚悟した。
ただ一人、リオンを除いて。
「鬱陶しいんだよ、デカイだけの雑魚が」
リオンは右手だけを軽く上げた。
指先に黒い魔力の粒が集まる。
そして――
《黒王の息吹》
その一言で、世界が裏返った。
刹那。
空が裂け、巨大な黒手は光も音もなく消滅した。
残ったのは、空にぽっかりと開いた“虚無の穴”だけ。
「ひ……っ、消えた……?」
「何をした……何を……?」
兵士たちが恐怖に膝をつく。
理解など追いつくはずがない。
リズでさえ、見開いた目を閉じられないままだった。
「リオン……今の……」
「ただの息抜き。
ってか、これでも昔より弱くなってんだけどな」
淡々と、退屈そうに言う。
だが、その瞬間。
虚無の穴から“何か”がこちらを覗いた。
黒手の本体。
それは、うねる影の塊。
世界の常識を拒絶する形状。
【■■■■■■■■■■――】
鼓膜を破壊する咆哮。
王都の建物が数十棟、音も無く崩れ落ちる。
リズが思わず叫ぶ。
「リオン!!」
しかし――
「……はあ。まだいたんか」
次の瞬間、リオンの背中から“王の紋章”が浮かび上がった。
黒い翼のような魔力が広がり、周囲の影をねじ伏せる。
「だったらまとめて相手してやるよ。
ただし――俺を起こした責任は取れよ?」
黒い王が、完全に目を覚ました。
巨大な“黒手”は前座。
本体が姿を出し、ついにリオンが半覚醒状態に突入しました。
次回は 黒王 VS 外側の怪物 の本格戦闘になります。
次回、第9話「外なる影、虚無の王」
――王都の空が割れ、世界が震える。




